今更ながらロシア語では同志(Товарищ、タヴァーリシチ)にはそのままの意味と同時に同僚とかの意味もあります。
ニコライ「同志ベルザーリン、記念日の予定はできてるか?」
ベルザーリン「ええ、同志ヴァトゥーチン。予定通りコンサートと閲兵式を行う予定です。」
11月初頭、ヴァトゥーチンは珍しいことにペテルブルクに来ていた。
それは簡単だった、ソ連軍時代、毎年祝っていた十月革命記念日が近いからだ。
彼らはこの世界では派手に祝えないもののそれでもできる限りの事として軍楽隊、オラーシャ内務省歌と踊りのアンサンブルを招いてコンサートを行い恒例の閲兵式を行う予定だった。
ヘプナー「まあ単調な日常を変えるにはコンサートはいいが、正直その理由が気に食わんね。」
フーべ「ええ。共産主義には一定距離を置きたいものですから。」
トレスコウ「ナチスは嫌いですが共産主義が好きというわけではないのですよ。」
それに非共産系のヘプナー、フーべ、トレスコウは批判的だった。
人間三人寄れば派閥を作ると言うようにここでも主に共産系と非共産系の派閥が存在していたが協力していた。
それはロマーニャとヘルウェティアの右翼系勢力への対抗だった。彼ら全体の派閥は共産系、リベラル系、自由主義系、右翼系に分かれ、右翼系と共産系、そしてリベラル系は派手に対立していた。なにせ右翼系の大半はナチスかファシストが主流だったからだ。
そしてその共産系は同時にオラーシャにてオラーシャ内部の左翼勢力を結集しオラーシャ共産党を組織していた。ただこの勢力は今の所は暴力的手段に出ることなくオラーシャ立憲民主党(カデット)などとの緩やかな協力体制を取っていたため問題にはされていなかった。
このような政治的に複雑な関係である彼らだったが政治的な話をするには目の前のネウロイを倒さなければならないことぐらいは承知していた。
そのため彼らは一致団結、協力体制を築いていた。
ヘプナー「ところで天気はどうなんだ?折角のコンサートだ。天気がいいと良いが。」
するとヘプナーが天気に話題を変える。
それに参謀長のトレスコウがすぐ答える。
トレスコウ「それがどうやら北から低気圧が接近しているようで暫くは荒れるようです。
吹雪の可能性もあるかと。」
ニコライ「本当か?
衣替えはとっくに済んで前線部隊に冬期カモフラージュを用意させているから大丈夫だと思うが病院には凍傷患者に対応する準備をさせておいておけ。」
気象データというのは軍事情報の中でも非常に重要度の高いデータである。
作戦や部隊運用には天候が絡むため気象は非常に重要だった。
例えば戦前第四艦隊事件で日本海軍は大損害を被るが同時に台風内部の広い地域で同時に多数の船舶が内部の気象を観測することに成功、この時集められたデータは台風のメカニズムを分析するのに役立っただけでなくこの情報を独占することにより台風などの発生時の艦隊行動などで有利となった。
この情報を知らなかった米海軍は大戦中コブラ台風などで知られる数々の台風で大損害を被ってしまった。
このように気象データは非常に重要なものである。
そして彼らもネウロイが接近してもなおできる限りの気象データを集めていた。だが広い地域で観測ができないためそのデータは歯抜けが多く的中率にも難があった。それでもこれが最良のデータだった。
トレスコウ「ええ、分かってます。一応全部隊に数日はラドガ湖の北を中心に荒れると気象通報を送ってます。」
ヘプナー「まあ、ただここ最近は的中率低いから当たらないかもな。」
トレスコウ「気象班も善処しているとはいえここ数週間の混乱は痛いですから…」
ただいくら最良のデータを集めても的中率は芳しくなかった。
そしてそれはそのデータへの信頼性の欠如につながり現場で無視することがしばしばあった。
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バーティ「なあ、そっちに面白いニュースあるか?」
ポー「ん?いや全く。せいぜいリベリオン海軍のスポークスマンが間違った損害報道して真に受けた投資家のせいでニューヨーク株式市場の株価が暴落した件で担当のスポークスマンがクビになったことぐらいだな。
それともうすぐ大統領選挙だ。まあ俺は民主党支持だからルーズベルトに入れるが。
あと、明後日コンサートだっけ?オラーシャ内務省歌と踊りのアンサンブルの。」
ある朝、バーティとポーは食堂で紅茶とコーヒーを飲みながらそれぞれウォールストリートジャーナルとタイムズを読んでくつろいでいた。
ポーの関心はこの数日前にリベリオン海軍のスポークスマンが誤った損害報道を行い一時株価が暴落した件でそれを報道したスポークスマンがクビになったニュースと明日に迫った1944年リベリオン大統領選挙だった。
戦地にいるため投票こそできないが有権者として関心を持っていた。
すると美味しそうな匂いが漂い始めた。
ポー「ん?飯か?」
パット「誰が作ってるんだ?」
さらにその後ろからフィガロ紙を持ったパットが入ってきて隣のキッチンに向かった。
そこには料理中の下原となぜか食べてるジョゼがいた。
パット「ボンジュール、下原、ジョゼ。」
ジョゼ「ボンジュール、パットさん」(ガリア語)
下原「おはようございますパットさん。
ジョゼ、今日のつまみ食いそれで五杯目だよ?」
パットがフランス語で挨拶するとガリア語が母語のジョゼもガリア語で返す。
フランス人と言う人種は海外でもやたらフランス語を使おうとする生き物でありその上やたら発音にうるさいのである。
そのため久し振りにネイティブのガリア語で話せてそしてネイティブのガリア語を聞ける存在のパットはジョゼにとっては重要だった。
下原もそれに続いて挨拶する。そしてジョゼに注意する。
ジョゼ「違うよ定ちゃん。これはつまみ食いじゃなくて味見」
下原「はいはい」
パット「まあ育ち盛りだからな…あ、コーヒー貰えるか?」
ジョゼがそれに言い訳し下原も慣れたように流す。
それにパットは微笑ましく見ながらコーヒーを貰うと朝から乗馬をして汗をかいていたマントイフェルがクルピンスキーとともに入れ違いでキッチンに入ってき、クルピンスキーの手がジョゼの肩に触れる。
クルピンスキー「ジョゼちゃん。僕にも君を味見させてほしいな?」
マントイフェル「トゥルト…」
下原「どうぞ。しっかり味見してください」
ジョゼを口説き始めるクルピンスキーにマントイフェルは複雑な表情を浮かべ下原は小皿を渡して味見させる。
クルピンスキー「そりゃないよ~下原ちゃん」
マントイフェル「水貰えるか?」
クルピンスキーは相変わらずの態度で小皿を受け取り味見する。
その横でマントイフェルは水を貰いシャワーを浴びに出て行こうとすると
リョーニャ「Наливалися знамёна~♪Кумачом последних ран~♪
おはよう、同志ジョゼ、同志下原。」
朝からやたら過激な歌詞、戦いの傷で旗は赤く染められたという歌詞の歌を口ずさんでいたリョーニャが入ってきた。
この曲は谷を越え丘を越え、ソ連の内戦期の軍歌だった。
そして彼はこの曲を好んでいた。なぜなら彼の父親はこの曲で歌われているスパスク強襲やヴァラチャイェフカの戦い、そして歌われてはいないがソ連軍の歴史において重要な役割を持っているツァーリツィンの戦いに参加していたのだ。そのため好んでいた。
さらに、
ひかり「おはようございまーす!」
ひかりが元気な声であいさつする。
クルピンスキー「おはようひかりちゃん」
下原「おはようございます」
リョーニャ「おはよう。朝から元気だな」
それに三者三葉に返す。
ジョゼ「あの、私ちょっと用事が…」
ひかり「えっ、ジョゼさん…」
ひかりとリョーニャの姿を見た途端ジョゼはキッチンから出て行った。
ひかり「私、嫌われてるのかな…?」
下原「違うんです!ジョゼは…」
クルピンスキー「とっても照れ屋さんなのさ。この僕の思いにも答えてくれないもんねー」
リョーニャ「当たり前だろ。そんな反革命的嗜好を好む輩などいるか?」
クルピンスキーの答えにリョーニャはきつい言葉で返す。
ロシア人という伝統的に同性愛を嫌い、その上同性愛は反革命的嗜好として「犯罪」扱いされていたのでリョーニャも同性愛は非常に嫌っていた。それどころかもしNKVDがあるなら突き出してやることさえ厭わなかった。
リョーニャ「まあ、雁淵だけでなく俺も嫌われてる気がするんだがな。
あ、紅茶貰っていくぞ。」
リョーニャは紅茶を貰うとキッチンから出て行った。
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そして朝食の時間、ジョゼは先に一人で済ませていた。
それにひかりはがっかりする。
二パ「このカーシャ美味しい」
菅野「スープもうめえ!」
それを後目に二パと菅野は朝食のカーシャとシチーに舌鼓をうっていた。
サーシャ「オラーシャではシチーって言うのよ。
シチーとカーシャ、日々の糧。オラーシャの代表的な家庭料理です」
それにサーシャが説明を加える。
ひかり「下原さんって、オラーシャ料理も上手なんですね!」
下原「喜んでもらえてうれしいです」
クルピンスキー「下原ちゃんの料理の腕前は最高だよ」
ロスマン「オラーシャ料理もいいけど、扶桑料理も繊細よね」
ひかりやクルピンスキー、ロスマンも下原の料理の腕を褒める。
ポー「美味いな。テキサスはおろか西海岸にはロシア料理出す店なんてほとんどなかったからな」
パット「朝からこんな絶品の品を堪能できるとは戦争さえ忘れるよ。」
その腕をポーとパットが褒める。
リョーニャ「美味いが、なぁ…」
下原「どうかしましたか?」
リョーニャ「いや、何でもない。」
何故かリョーニャが複雑な表情をしてそれに気が付いた下原が聞くがリョーニャは誤魔化した。
ロスマン「ひかりさんはなにか得意な料理とかあるの?」
ひかり「お姉ちゃんの作る海軍カレーが好きです!」
菅野「そんなこと聞いてんじゃねーよ!」
ふとロスマンがひかりに質問するとひかりは的外れな事を言い菅野に突っ込まれる。
ポー「雁淵には姉がいるのか。その姉の料理とやらも食べてみたいものですな。」
パット「ああ。雁淵が好きだというのならどこぞの島国のような料理は出ないだろな」
クルピンスキー「ところでポーたちは何か作れるの?」
するとクルピンスキーが聞いてきた。
ポー「まあ作れるぞ。テキサスの牛肉があれば絶品のステーキを作ってやるぜ、伯爵様」
パット「いや全く。まあアマダイのシャンパン煮は好きだが。」
マントイフェル「子供のころから料理人がいたから学校の授業以外で作ったことないな」
リョーニャ「子供向けの病院食か流動食なら一応作り方知ってるぞ」
クルピンスキーの質問にポーとリョーニャ以外は全く作れず、リョーニャもほぼ病院食を知識として知っている程度だった。
バーティは相変わらず黙々と食べていた。
ロスマン「バーティさん、貴方も何か言ったら?」
バーティ「ん?そうだな。食事中に喋るのマナー違反だ。」
ロスマンが黙っているバーティに聞くがその答えはマナー違反というメシマズ大国のメシマズルールだった。
パット「先生、そこのメシマズはほっといた方がいいですよ。
イングランドの連中は食事中に喋らせたら食事まで不味くなる。」
それにパットが毒を吐く。フランス人とイギリス人はドイツを殴る以外の時は伝統的に仲が悪いのである。
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ロスマン「現在、ネウロイの侵攻はラドガ湖の北方で止まっていますが、湖の凍結が始まると一気に南下。
つまり、こっちに進出して来ると予想されます。」
昼前、ウィッチたちはブリーフィングルームに集められロスマンが戦況を説明していた。
ラドガ湖の凍結はネウロイの侵攻だけでなくラドガ湖の水運が完全に使用不能となるほかラドガ湖のラドガ小艦隊も行動不能になった。
クルピンスキー「凍結って12月の頭だっけ?」
サーシャ「あと一ヶ月足らずですね」
ロスマン「ですので、次の補給を待って新たな防衛網を構築する必要があります。」
クルピンスキーとサーシャの話にロスマンは計画を報告する。
するとリョーニャが質問した。
リョーニャ「冬季装備の備蓄は?」
ロスマン「被服に関しては既に備蓄しています。」
リョーニャ「食料・医薬品もか?」
ラル「ああ。一冬十分越せる量はある。」
リョーニャは“あの”1941年の冬、レニングラードにいた。
そのため物資不足が何を起こすかをいやというほど知っていた。
そして彼は時として冬が41年のように例年よりも早く来ることがあることを知っていた。
だからこそ心配していた。
ロスマン「今日の定時偵察、当番は誰ですか?」
リョーニャの質問が終わるとロスマンが偵察担当を聞き下原とジョゼが手を上げる。
ロスマン「下原さんとジョゼさんね。それにパットさんとひかりさんも行ってもらうわ。
遠乗りの訓練にいい機会だわ。」
ひかり「はい!」
ロスマンはさらに固有魔法の関係で非常に偵察向きなパットとひかりもジョゼたちに組ませた。
ロスマン「偵察範囲をラドガ湖北東、ペトロザヴォーツク周辺まで広げます。
気づいたことがあったらすべて報告してください」
リョーニャ「ペトロザヴォーツク?あのあたりなら戦前1年ほど勤務していた。土地勘がある。」
ロスマン「そうね、いいわよ。リョーニャさんも行ってもらえるかしら。
指揮はリョーニャさんがお願い。」
リョーニャ「分かりました同志ロスマン。」
するとリョーニャがこの偵察に志願する。
というのも彼は冬戦争後期から41年の初めまでペトロザヴォーツクの軍病院に勤務していた。
なのでこの地域はそれなりに土地勘があった。
ひかり「よろしくお願いします!」
下原「こちらこそ」
ジョゼ「よ、よろしく…」
ひかりは下原とジョゼに話しかけるがどうもジョゼはぎこちなかった。
リョーニャ「どうした?」
ジョゼ「な、んでもないです…」
リョーニャはジョゼに話しかけるがその返答も同じようにどこか暗かった。
そして4人は格納庫に向かい離陸した。
よく考えたら44年の11月初頭って大統領選挙と十月革命記念日があるんですよね…前者は11月7日、後者は11月9日ですし。
音楽隊ウィッチーズにアレクサンドル・ヴァシリーエヴィチ・アレクサンドロフモデルウィッチを出しなさい。
なんだったらヴァシリー・アガプキンモデルの人も!