WWⅡウィッチーズ   作:ロンメルマムート

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題名はハン・ソロ/スターウォーズストーリーからです。

リョーニャの過去回。
餓島さえ可愛く見えるレニングラード、その最初の冬の苛酷で残酷でこの世のものとは思えないほど凄まじい描写があります。

独ソ戦というのはロシア人にとっては歴史上最大の悲劇であり多くの人にとっては決して他人事ではない出来事です。
なぜなら多くの場合父や母や祖父や祖母や曽祖父や曽祖母がこの戦争に従軍したり戦死しているからです。
日本人のとっての太平洋戦争と違うのは日本以上に多くを失った上で辛くも勝利を得たがその犠牲が膨大であったこと。
そのためソ連の戦争映画は多くの場合主人公たちが死ぬことが多い(僕の村は戦場だったがその代表例)。これは勝利のためには犠牲は出てしまうというロシア人の共通概念的なものです。
そしてその犠牲の上で今の平和があることをよく理解しているためこの話題は非常に繊細で他国人が軽々しく口に出して良いことではないんです。
その上でこの話を理解して欲しいです。


第11話:レオニード・イリイチ/スノーウォーズストーリー

下原「あのーリョーニャさん。もう入っていいですよ」

 

リョーニャ「あ、ああ分かった。」

 

 着替えが終わり下原は外で待っていたリョーニャを呼ぶ。

 寒さに震えていたリョーニャも入ろうとすると後ろから何かが走ってきた。

 振り返るとそれはなぜか銃身が曲がった銃を3丁背負ったパットだった。

 パットは走って穴の中に入るとその中に置いていたM2を取り出す。

 

リョーニャ「なにがあったんだ?」

 

パット「クマが出た。」

 

下原「え?熊ですか?」

 

 パットは周辺を探している間にクマと遭遇しそのまま全力で走って逃げてきたのだ。

 本来なら走って逃げるのは極めて危険、特に10月から11月のクマは本来なら冬眠前なので非常に凶暴だがそんなことも知らないパットは全力で走って逃げてきたのだ。

 そしてM2を取り出して殺そうとする。

 

パット「どこだ熊!」

 

下原「どうしましょ…」

 

リョーニャ「とりあえず武器を用意しろ」

 

 リョーニャも急いでShVAKを取り出して構える。

 すると背後から唸り声が聞こえ、振り返る。そこには体高が3メートルはあろう大熊がいた。

 

パット「ギャー!」

 

 咄嗟にパットはM2をクマに乱射、クマは何十発もの50口径弾を喰らい即死した。

 

パット「はあ…はあ…はあ…やったか?」

 

リョーニャ「あ、ああ。ただこれじゃあ食えないぞ。」

 

 パットはクマと至近距離で遭遇すると言う戦場よりもずっと危険なことにパニックになったためそもそも熊狩りには威力過剰な50口径弾を何十発も撃ち込んだせいでクマはミンチよりも酷いことになっていた。

 

リョーニャ「どうする?ここに放置したら狼とか他のクマとか野良犬がくるぞ。」

 

パット「大丈夫だ。近くにいいところを見つけた。そっちに行こう。」

 

リョーニャ「そうか。案内を頼む。」

 

 パットに後を任せるとリョーニャはクマが本当に死んだかを確認しサイズと性別を計測する。

 

リョーニャ「ふむ、体高2.8メートル、推定400キロのメスの大物だ。

      ここまで大きいのはなかなかお目にかかれない。」

 

パット「そんな大きいのだったのかよ」

 

下原「きっとこの森の主だったんでしょうね…」

 

 クマを調べながら下原とパットが感心していると突然目の前を何かの影が動いた。

 

パット「なんだ?野良犬か?」

 

 パットが拳銃を取り出して構えてその影に近づく。

 そして近づくとそれは子グマだった。

 

パット「こ、子グマだ…ど、どうする?殺すか?」

 

リョーニャ「いや待て。」

 

 寒さと恐怖で震える手で拳銃を構えるパットがリョーニャと下原に聞く。

 それにリョーニャはパットを止めると近づいていき、

 

リョーニャ「よーし、良い子だ。こっちおいで。そうだ、クワスはいるか?」

 

 子グマに手招きして持っていた水筒のクワスを差し出す。

 子グマはそのままリョーニャに近づきリョーニャは子グマを抱きかかえた。

 

リョーニャ「よし、これで良いだろ。おそらくそいつが母グマだったんだろうな。

      まだ生まれて一年も経ってない。まあそれでも十分大きいが」

 

 満遍の笑みでリョーニャは抱きかかえたまま下原とパットに話しかけるが二人とも呆然としていた。

 

パット「なあ、そいつどうするんだ?まさか…」

 

リョーニャ「連れて帰るぞ。名前はそうだな…ミーシャだ!」

 

 パットと下原は呆れるがリョーニャはどういうわけか生き生きしていた。

 

パット「下原…俺が頭おかしいのか?それともあのロシア人がおかしいのか?」

 

下原「さ、さあ?ただあの子グマ可愛いですよね?」

 

パット「おい、お前もかよ、なあ」

 

 パットが下原に聞くが下原は子グマの可愛さにうっとりしていた。下原は知られていないがかわいい物好きで抱きつき魔である。

 その性格がモロに出ていた。

 一行はその後パットが見つけたある物まで移動した。

 それは数年前に放置され錆が浮き出たKV‐2重戦車の1940年型だった。

 

ひかり「戦車?」

 

リョーニャ「KV‐2だ。」

 

パット「どうやら戦闘中に路肩から外れてそのままスタックしたみたいだ。」

 

 パットは周りを確認して戦闘による損傷がないことから路肩から外れてスタックしたものと判断する。

 KV2は重戦車、その中でも特にトップヘビーで路外機動性が非常に低かったため史実でも道路(と言い張る多少それ以外と比べたらマシ程度の地面)から外れてそのまま動けなくなり、さらには重すぎたため回収すらされずそのまま放置されドイツ軍に鹵獲される事例が多数存在した。

 そして鹵獲したドイツ軍でも重すぎて運べなかったりしたためそのまま道標になっているものもあった。

 

 5人はそのままKV-2の中に入る。だがそれでも寒さは改善しなかった。

 

ひかり「でも、やっぱり寒いね」

 

下原「あっ、さっき取ってきたやつが」

 

 すると下原がポッケから樹皮を取り出す。

 

下原「白樺の樹皮です。脂を含んでいるから湿っていても燃えやすいんですよ」

 

ひかり「へー!」

 

リョーニャ「それに白樺の樹液は甘くておいしいぞ。」

 

 白樺の樹液は甘くロシアではよく白樺の木にパイプと容器をつけて樹液を採取している。

 下原は白樺の樹皮を使い火種を作る。それを見てパットはポッケからタバコとジッポーを取り出してタバコに火をつける。

 するとそれを見た下原たちがパットを見る。

 

パット「ん?なんだ?タバコ吸うのか?」

 

 それに気がついたパットがタバコの箱を見せる。

 

下原「ライター持ってたんですか?」

 

パット「持ってたけど?」

 

下原「貸してください」

 

パット「マッチでいいなら。ジッポーは最近手に入りにくいんだ」

 

 そう言ってパットは尻のポッケからマッチの箱を取り出して渡す。

 下原はマッチで火種に火をつける。

 するとジョゼのお腹が鳴りジョゼが顔を赤くする。

 

下原「そういえば、昨日から何も食べてませんね」

 

ジョゼ「そうだ!ビスケット持ってたんだ。皆で食べよう!」

 

 ジョゼがポッケからビスケットを3枚取り出す。

 だがここにいるのは5人、明らかに足りなかった。

 

ひかり「あ、どうしましょう…足りませんよね…」

 

パット「大丈夫だよ。まさかこんな時に役に立つとはな」

 

 そう言うとパットはポッケからチョコバーを取り出す。

 

ひかり「チョコですか?」

 

パット「いや、Dレーションだよ。世界一マズイチョコ。

    味は蒸したじゃがいもより多少マシ程度。オススメはしない。

    とりあえず非常食として自由フランス軍の頃から持ち歩いていた。」

 

 出したのは物凄くマズイことで知られるDレーションだった。

 パットはそのマズさを嫌ってはいたがもし不時着した際のサバイバル用に一本ポッケに入れていた。ただ恐ろしくマズイので餓死するよりマシだから食うだけだった。

 

ひかり「でもリョーニャさんは?」

 

リョーニャ「別に大丈夫だよ。水筒にクワス入れてたからな。

      それにこの程度、あの時よりかはずっとマシさ。」

 

 そう言ってリョーニャは水筒に入れたクワスを飲む。

 ふと、下原はある疑問を持ち聞く。

 

下原「ずっと気になっていたんですけど、リョーニャさんって今朝の朝食の時少し罪悪感を感じているみたいな表情していましたけど、なんでなんですか?

   その、もしかしてさっき言ったあの時と関係あるんですか?」

 

 その質問にリョーニャは水筒を下ろし隣で眠るミーシャを撫でながら呟く。

 

リョーニャ「ああ、関係あるよ。俺は地獄にいたからな。」

 

ひかり「地獄?」

 

 リョーニャの呟きにひかりが興味を持つ。そしてリョーニャはその恐ろしい戦争を語り始めた。

 

リョーニャ「俺の戦争は1941年6月22日日曜日、その正午に始まった。

      あの日は綺麗に晴れた週末で俺も休みを取って図書館で本を借りた後昼食を取っていた。

      その時モスクワ放送の特徴的なオルゴールがなってこう放送した。

      Внимание, говорит Москва.

       (こちらモスクワ。)

      Передаем важное правительственное сообщение.

       (ソヴィエト政府による発表です。)

      Граждане и гражданки Советского Союза!

       (市民の皆様は傾聴願います。)

      Сегодня в 4 часа утра без всякого объявления войны германские вооруженные силы атаковали границы Советского Союза.

       (本朝午前4時、いかなる布告もなしにドイツ軍がソ連国境を攻撃しました。)

      Началась Великая Отечественная война советского народа против немецко-фашистских захватчиков.

       (ナチ侵略者に対するソ連人民の大祖国戦争、正義は我々にあります。)

      Наше дело правое, враг будет разбит.

       (敵は粉砕されるでありましょう。)

      Победа будет за нами!

      (勝利は我らのものとなります!)

      ってな。

      戦前俺たちはもし明日戦争が起きたらって歌っていた、だが連中は今日来た。」

 

 独ソ戦の開戦はソ連にとってはまさに奇襲であった。

 当時ソ連軍上層部で戦争が近いと予期していたのは海軍人民委員長だったニコライ・ゲラシモヴィチ・クズネツォフ大将(当時)だけだった。

 そのため海軍では開戦直前に虎の子の巡洋艦モロトフを急いで就役させるなどして戦争に備え、開戦直後も陸軍・空軍と所属組織が違う(海軍は人民委員部で陸軍・空軍は国防人民委員部)ため即座に行動し一機の飛行機も、一機の船も失わなかった。

 それに対して陸軍・空軍は文字通りの奇襲となり、特に空軍はこの時期に丁度旧式機の装備転換が進んでいた時期だったため大損害を食らってしまった。

 

リョーニャ「その勢いはすさまじいものでたった10日でミンスクが落ちた。

      気が付けばレニングラードの目と鼻の先、ナルヴァまで連中は来やがった。

      その頃にはレニングラード市内は大混乱だった。

      市民だけでなく難民まで来て無茶苦茶だった。

      俺がいた病院も患者を早急にレニングラードから避難させた。

      そして空いた病床に負傷兵を入れた、だがそれでも足りなかった。」

 

 北方軍集団の僅か2個軍は3週間でレニングラードまで僅か110キロの地点まで到達、周辺部隊が遅れてたため一時的に進撃を停止したがそれでも驚くべき速さだった。

 そしてレニングラードでは市民だけでなく難民まで流入し大混乱を極め、市民の疎開は遅々として進まなかった。

 それが悲劇となった。レニングラード市内には戦前、319万人の人口を誇っていた、そしてその市民の大部分が避難する前に包囲されたのだ。

 

リョーニャ「そして9月の上旬にレニングラードは包囲された。

      それから11月までは…地獄だった。

      すぐに食料は無くなり、飢餓と疫病が蔓延、革を食べたり人肉を売っていた店もあったぐらいだ。

      病院でも弱っていたものや老人、子供から順に亡くなっていった。

      辛かったのはもはや手の打ちようのない子供が聞いてくるんだよ、「先生、良くなるの?」って。

      もはや医者の分どころか患者の分さえ食料も医薬品もないのに聞いてくるんだ。

      それにどう答えたらよかったのかいまだにわからない…

      真実を言えばよかったのか、嘘を言えばよかったのか。

      あの時はただ、その子の頭を撫でるしかできなかったよ…」

 

 リョーニャは思い出したのか珍しく泣きながら語っていた。

 レニングラードは9月上旬に包囲された。

 そして市内は飢餓と疫病が蔓延する地獄と化した。

 例として9月12日に試算された市内にあった食料の量は

穀類・小麦粉:35日分

えん麦・粉物:30日分

肉類・家畜:33日分

油脂:45日分

砂糖・菓子類:60日分

 これだけである。たって一ヶ月分の食料しかなかったのである。

 それに周りの空気も重くなる。

 

リョーニャ「一番つらかったのがあるキルギス人の少女で、下原みたいな綺麗な赤い目が特徴的な子だったよ。

      その子はレニングラードの看護学校の生徒で人手不足で空軍病院に送られたんだ。」

 

 リョーニャが下原を見ながら言う。

 ロシア、ひいてはソ連は超多民族国家である。

 その民族の多さは西はドイツ人、東は朝鮮人や中国人までいるというほどだ。

 その中には扶桑人の下原にそっくりなモンゴル系の人間も多かった。

 

 サンクトペテルブルクは帝政ロシアの頃から脈々と続くロシア最大の文化都市である。

 そのため多くの歴史ある学校があり多くの学生が存在していた。

 

リョーニャ「その子は包囲される前に脱出できたのに残って手伝ってくれた。

      昼も夜も真面目に患者の面倒を見てくれて有り難かったがそれが仇になって過労から倒れた。

      すぐに休ませたがそれからは悪くなる一方で碌な食べ物もなく栄養を得られず、医薬品さえ欠乏して何もできなかった。

      辛いのがそこにいるのが自分たちがよく知っている人物で普通なら簡単に救えるのにここでは何もできず弱って行くのを見てることしかできないのが辛かった。

      そして11月のある日、もうその頃には彼女は長くは持たないと分かってた。

      その日の日付が変わる少し前、彼女は彼女が好きだったスムグリャンカを歌ってくれるよう頼んで来た。

      俺はその子にスムグリャンカを歌ってあげたよ。

      そして、歌い終わった頃には亡くなってた。その翌日、凍ったラドガ湖を通って救援物資が到着した。

      もしあの一晩生きていれば彼女は助かったかもしれない、もし包囲される前に避難させてれば助かったかもしれない、そう考えたら辛かった。」

 

 その話に全員の顔が暗くなる。リョーニャの話はショッキングすぎた。

 リョーニャも泣きながら語っていた。

 

リョーニャ「それで俺は春になる前にレニングラードを去って戦闘機乗りになった。

      幸い戦前から飛行機を趣味で飛ばしていたからすぐに慣れたよ。

      そして色々あって今に至るわけさ。」

 

 最後に自嘲気味にリョーニャは語った。

 戦前ソ連ではグライダースポーツが盛んで多くの少年少女がパイロットを夢見てグライダーを飛ばしたりしていた。

 そしてその層は大戦中ソ連軍の膨大な数のパイロットを支えた。

 一般的に大戦時のソ連空軍は物量押しでパイロットの質は劣悪と言われているがそれはあくまで43年以前の話であり43年以降は品質や性能が大幅に改善された軍用機と長く効率的になった訓練、そして何よりある程度高い質を持ったパイロットを多数訓練できるシステムによって東部戦線の空は大きく変わったのである。

 それは燃料不足と制空権の喪失から日に日に練度が低下していくドイツ軍とは対照的だった。

 

下原「すみませんでした…そんなこと、軽々しく聞いて…」

 

リョーニャ「下原…気にするな。いつかは話さないとダメだと思ってたからな。」

 

 下原はリョーニャに軽々しく聞いたことを謝る。

 だがリョーニャはそれを許す。そして彼女の頭を撫でる。

 

リョーニャ「下原、君はあの子に似て綺麗だ。そしてあの子のように芯があって真面目だ。

      君みたいな子を側における男は幸運だろうな。」

 

下原「え…リョーニャさん?」

 

 リョーニャの言葉に下原が顔を真っ赤にする。

 

リョーニャ「ん?おっとと、一体俺は何を言ってるんだか。今のは忘れてくれ、な?」

 

 それに気がついたリョーニャが下原に忘れるように頼むが本人は顔を真っ赤にして俯いていた。

 

下原(え?え?え?リョーニャさん、もしかして私に気があるんですか?!え、どうしたらいいんでしょうか?!)

 

 




こうして今一度独ソ戦を考え直して見るとこの戦争の膨大な犠牲者、狂気に満ちたこの戦争が如何にロシア人、そしてロシアという国家に影響したかが分かると思う。
あの戦争を戦ったものは全て英雄であり尊敬されるべき対象として扱われています。


「第二次世界大戦中、ロシアの兵士はどんな天候だろうと昼も夜も戦った。
 人々はそこで暮らし、そこで死んだ。それはとても恐ろしい状況だ」
  −−ウラディーミル・プーチン(2017年、記憶と哀悼の日の無名戦士の墓での式典における発言)



リョーニャのヒロインはモハジョゼです。モハさんもジョゼも好きです。
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