艦隊これくしょん 麒麟の凱旋 作:ひろつかさ(旧・白寅Ⅰ号)
東京練馬区、この奥まった静かな土地に物々しい駐屯地がある。
かつて帝国軍、警察予備隊、保安隊、そして自衛隊を経て国防軍が首都東京を守っていた駐屯地である。
現在は難民キャンプが解体され、国防軍から新たに分派する新設組織『首都圏治安維持隊』、その実働部隊である特別機動部隊『梟』の前線および後方訓練基地となっている。
自衛隊時代に捨てられた施設がそのまま使われているため、梟部隊の隊員は練馬駐屯地を『古巣』と呼んでいる。
練兵場の中に、弾痕の激しい棟があり、練兵場の室内戦用の訓練棟になっている。
〔こちら第四班、配置に着きました〕
〔よし、これより制圧訓練を実施する。相手は二人だが油断してはならない。始め〕
青い腕章を締めた隊長が警戒しながら隊員を前へ回していく、彼らの倒すべき目標は二階にいる、発砲も許可されている。
だが、装甲服の擦れる音が気を散らせる。訓練用突撃銃のセミオート縛りも不快である。
ただ、敵に気取られぬよう進むだけ、
全隊員が漆黒に塗装された装甲を纏い、赤い暗視ゴーグルの光が闇に包まれた建物内を縫うように走っていく、
階段を丁寧に上がりながら隊の先方が2階にたどり着いた。
敵は正面の扉と左手奥の扉、どちらかの部屋にいる。先方が突入の許可を青い腕章の班長に求めると、静かに合図を返した。
二階に足を踏み入れ、綿密な指示を出して突入の態勢に入った。目標は正面扉。
一方、その正面扉の向こう側に、横倒しにしたクローゼットを背に柄付き手りゅう弾のキャップを外した。
〔来るぞ雪風〕
〔ええ〕
雪風は呼吸を整え、タイミングを図り手りゅう弾のピンを抜いた。
その瞬間、三人の先方が部屋に突入。
その頭上に手りゅう弾が凄まじい閃光を放ち、暗視ゴーグルを白色に染め上げた。
三人が思わずうめき声をあげ、顔を伏せた瞬間、クローゼットの影から一人ずつ頭部、胸部、そして膝を撃つ、二人が悶えながら伏した。
一人が根気で引き金を引くが、見えない敵を探すわけでもなくセミオートで部屋の至る場所に撃ち込んでいく、雪風は右こめかみを撃って銃を落とし、頭部、胸、膝を正確に撃ち抜いた。
隊員は壁に背を持たれ、力なく床に倒れた。
この状況に気付いた二人が正面扉の裏側から制圧射撃を加えんとした時、左奥の扉が静かに空き、それに気づき体を捻った瞬間を狙い、ソファー裏に隠れていた天津風が弾幕を張り、手前側の一名、奥にいたもう一人も巻き添えにし、制圧されてしまった。
彼女は、跳弾が収まる瞬間へ滑り込むように、階段へ移動すると一階と二階の間で影から構えている一人に撃ち込んだ。
制圧を確認する間もなく、その隣にいた隊員が天津風に対して弾幕を張る。
しかし、再装填に移った瞬間、閃光手りゅう弾が投げ込まれ視界を喪失、天津風は階段を駆け下り、混乱する隊員の突撃銃を手から撃ち落とし、無防備な部位へ数発撃ち込んだ。
〔これで全員か〕
〔天津風!下から来るわよ!〕
天津風を待っていたように一室の封鎖された扉を破り、青い腕章の班長が突撃銃を構えた。
「そこっ」
二階に空いた突撃抗から、一階に降りて装甲兵の背中を取った。
彼に正面と後方から同時に弾丸が浴びせられ、耐えてはいるが、自立しきれず膝を突いた。
全隊員が生きているものの、その全員が倒れながらうめき声をあげている。彼らを束ねる班長は声一つ上げないものの、体が微動だにしなかった。
状況終了の教官によるアナウンスが響くと、建物内の電灯が一斉に点灯した。
天津風は青い腕章の装甲兵を見下ろしながら、銃からマガジンを外し、薬室から青いゴム弾頭の訓練弾を排出した。
「あと一歩だったな、手を貸そうか」
「大丈夫です。ありがとうございます」
体を震えさせながら立ち上がると、ゴーグルとヘルメットを外し、女性らしい清楚な顔立ちに、細く鋭い目が天津風に向いた。
「全体的に遅い、三人の突入タイミングが予測よりも遅かった。速度と正確さを失った部隊は訓練よりもあっさり潰されるぞ」
「私の基準が訓練のものでした。実戦部隊との衝突時における不備がようやくわかりました。ご指導ありがとうございます」
すると、廊下の奥から銀髪の訓練教官が鋭い声を棟内に響かせた。
「お前たち!てめぇの足で歩くんだ!いくら深海棲艦と戦ってきたからと言って、簡単に倒されることは分かっているのだろう。今すぐ演習館の外へ集合しろ。1分以内にだ!」
この教官の名は鹿島という艦娘である。
横須賀での実践訓練教官の役職を経て、梟部隊の訓練教官となった。階級は海一曹である。
隊員たちは足を引きずりながら廊下を歩いていく、あまりの痛みで駆けることができないのだ。女性の班長は動けない隊員に肩を貸し、出口へと歩いて行った。
隊員たちの姿が消えると、鹿島は深いため息をついて天津風に向き直った。
「あの調子じゃあ整列に5分かかるぞ、今日は大目に見てやれ」
「あの四班は今日で7回目の室内訓練、前回と前々回の成績は良かったのだけど、実戦のあなた達相手じゃ赤子同然ね。初月は相変わらずのようだ」
「あの黒髪の班長ね」
雪風が部屋を出ながら鹿島へ尋ねた。
「初月二等海曹、舞鶴海兵団出身。呉で艦娘となって、そのまま梟部隊に志願してきた子。
隊員中最優秀で敢為に優れている。ただし、情緒面に若干の不安あり、というところかしらね」
隊員は整列ののち腰を下ろし、身を震わせながら教官の話を聞いている。中には明後日の方向を見て苦を和らげようとしている者さえいる。
だが彼らに構うことなく国防陸軍出身の教官三人が周囲を囲み、余りある怒声を浴びせてくる。
指導をしていることは分かるが体がそちらに向いてくれないのだ。
「貴様らア!話を聞いているのか!」
「たとえ前回の訓練が優秀であっても、現場の状況を加味し新たなフォーメーションで進むべきものを、お前たちは前回と同様の動きだった!」
「いいか!規則性のある動きは正確さを持つ分読まれやすい!今のお前たちは事態に臨機応変する頭が抜けているのだ!そして、単独での行動も目立った!装甲服着用時の基本的戦術要点!お前言ってみろ」
指名された隊員は、何度も口を動かしたが声が出ない。痛みに耐えるだけで精一杯なのだ。
「だらしない奴だ!次、お前が言ってみろ!」
初月に声がかかり、体を抱えながら口を開いた。
「装甲服は前方に対する防御力はあるが、側面・後背の無装甲部への攻撃、および大口径による攻撃には無力である。
また集中射撃による部位損傷も加味しなければならない。必ず二人もしくは三人で死角を補い、火力の増大によって被弾率の低下を促すべきである」
「その通りだ!なぜお前は答えられんのか!いいか!お前たちは一人一人では何もできん!死にたくなければ敵の攻撃に備えろ!」
「暗視装置の弱点を話したな…」
その後も怒声が飛び交う光景を目にしながら三人は肩を並べて座っていた。
「ありがとう。二人のお陰であいつらも一つ死地を乗り越えられる」
「俺たちは秋月の仕事中暇なだけさ、どうせ話を聞く代わりに隊員に指導させるって交換条件でも付けていたんだろう。
だが、一方的過ぎて話にならねぇぞ。こんなんじゃあ深海棲艦どころかニーベルンゲンの連中相手にだって苦労するぞ」
「私たちが組んだマニュアルが甘いのかもしれないわね。今夜は教官たちと遅くまで会議だわ」
「それでも、撃たれる恐怖を教え込むのは有効よ」
新型一八式改自動小銃の訓練用ゴム弾使用タイプが雪風の手にある。弾倉から一発を取り出すと、金属薬莢の内側に円柱状に成型されたゴム弾頭がおもちゃのような青色に塗装されている。
対人用として広く知られている非殺傷弾だが、その威力は実弾と変わらず、装甲越しであってもかなりの衝撃と激痛を伴う。それは義体の兵士たちにとっても例外ではない。
「昔は私も訓練生だったころは、こいつを始めて撃たれた日は知覚神経の異常で一日眠りにつけなかった」
「今は鹿島自身がそれを教える立場だ」
「それはそれで大変なのよ。さて、これからコーヒーの一杯でも飲まない」
「教務はどうするんだ」
「どうせ今日一日、痛みで動けないわ。あの人たちに任せれば大丈夫よ」
一方、練馬駐屯地本館二階にある接客室で秋月が書類をまとめ、目の前の相手へ手渡した。
「これが、『鉄の人』が田形に頼んでいた情報のリストです」
「どの勢力にも顧客を持っていた田形という男、いずれ私たちに殺されていたかもしれないな」
この首都圏治安維持隊・梟部隊の最高指揮官は隊長である金剛と定まっているが、辞令が月を経なければ下りないため、隊長代理兼副長に武蔵が就任している。
肌は色黒であり、銀髪がより目立っている。
眼鏡に整った部隊の制服が、より際立っている。その姿は威圧的だが、口調は穏やかなものであった。
「本当なら私の上官に雪風が来るはずだったのが、隊長のプロポーズが空振りに終わって昇進が確定してしまった。
姉よりも先に大尉になってしまい、そして今頃は新兵たちが雪風と天津風に追い回されているだろうな」
「皮肉ですね。私も顔も知らぬ敵を追いかけて、こうしてあなたと話をする羽目になったのですから、それが良きにしても、悪しきにしても」
「まったくだ。それで、私の話は参考になったかな、あなたからの情報は相手の動向を量る良いものだ」
「もちろんです。まさか諜報部時代の情報もくださるとは、思いもよりませんでしたよ」
「私は元来、武闘派の士官として名を通してきた。
しかし、それとは裏腹に別の道を歩んできた。そうでなければ金剛隊長の意見文を拝読する機会など訪れなかっただろうがな、古巣とはいえ、そこで得たものを使うのはそこにいた者の特権だ。
副長とはいえ、金剛隊長の裏をなす存在、金剛隊長はあなたにはどう感じえる。私には、ただ深く頼れる背中であることしか知らない」
「さぁ、どうなのでしょう。私は大尉とは半年ほどの付き合いです。あなたがそうおっしゃられるならば、それが金剛大尉の姿なのでしょう」
武蔵は不敵な表情を浮かべて、話を切り替えた。
「ところで、もう一つお礼をしたいのだが」
「それは本当に、お礼ですか?」
何かを察した秋月が自然と身構えた。
「これは独り言、聞くも聞かぬも勝手だ」
秋月の静かな怒りが、武蔵の調子を引き立てた。
「同意とみていいかな」
「お任せします」
武蔵は諜報部時代に調査していたある案件について話し始めた。
3年前、アンダマン沖海戦の後、諜報部に転属した武蔵はある情報電文を手に入れる。
9月2日、午後1時20分に旧国防軍の国際技術研究所の、詳細な位置を確かめる資料を手に入れたとの、暗号文が諜報受信を担当していた武蔵の耳に入った。
研究所は軍縮が進む最中、当時の日本国防軍が普及しつつあった義体の軍事転用と技術開発を行うため、軍を保持していた国家が共同出資し、日本、アメリカ、イギリスを主として、日本に国際軍事体〈N,D,W〉国際軍事技術研究所が設立された。
研究所は最高機密に扱われ、世界を空襲・支配した『文明喪失』以降、その存在は完全に消えていた。
この研究所の幾人かの研究者が生存していたことが判明し、彼らを招き深海棲艦撃滅を掲げた海軍兵器技術研究所、通称『海技研』を設立した。
だが、国際軍事技術研究所は個人による研究が根強く、また所属していた研究者が研究や施設の場所について固く口を閉ざしたため、海軍諜報部は極秘にその存在を追っていた。
その研究所に眠る最重要物品が、海軍の勝利に結びつくとされている。
「最重要物品とは」
「それがあれば、この長い異形の生物との戦争を終えられるかもしれないもの」
「それがこの列島にあると」
「あの日以来暗号文は途絶え、諜報員からは資料だけが届けられた。諜報員の行方は知れず、その存在を隠したい者によって消されたか、それとも諜報部への警告か」
「だから、何なのです。その物品というのは」
「最初に確認された深海棲艦は、人と魚の両方の特徴を持ちながら、それらとは異なっていた。
もし、最初期の進化途上にある深海棲艦が手に入れば、未知の武器を生成し、海を制限なく駆けることができる無限機関の謎を解くことができるかもしれない。
最重要物品、それは深海棲艦を採取した最初のサンプル体のことだ」
「最初のサンプル体」
しばし両者は顔を合わせ、沈黙が室内を包み込んだ。
「それを手に入れていただきたい」
「手に入れて、どうするのです」
秋月は禁忌に触れたことを確信した。だが、聞いた以上踏み込むしかない。
「あなた方の判断にお任せする」
「判断、ね」
「私はそれを直接扱い、管理できる立場にない。
それどころか、この梟部隊を消しかねない。適度な判断が下せるのは第二遊撃部隊、いや特務第四課しかいない。そう判断したのだ」
「私からそれを通す理由は」
「あなたが、それがどういうものかを判断できる人間だと思ったからだ」
「…………」
「必要があれば支援を出すこともできる」
「それは、首都圏治安維持隊部長、軍令部が許すと」
「私はその部長の言葉を代弁している。だが、軍令部の言葉でもなければ、ましてや隊長の言葉でもない」
「部長の言葉なんて代弁できない、闇夜に潜む梟はあなたなのかもしれない」
「残念ながら、梟部隊に本物の梟はいませんよ、まがい物ならばいるやもしれませんが」
「そうですか、今の話、他言無用で構いませんね」
「勿論、その言葉はそっくりあなたに返しましょう」
武蔵はゆっくりと、白いファイルを秋月へ差し出した。極秘の封印がなされた諜報部の資料であった。
首都圏治安維持隊『梟』部隊。
義体兵、艦娘を中心とした強襲揚陸のために設立された挺進部隊というのが本質である。
統合作戦本部作戦課が一年前から計画していた『RW作戦』の元となる『B7作戦計画』概略が完成、その格子に沿う形で、部隊の新設が決定した。
作戦の戦術レベルでの綿密な構成と変更が連合艦隊によって行われるが、挺身部隊の新設に変更は加えられなかったため、軍令部主導で新設への作業が進んだ。
この時期から、数年にも及ぶ厳戒令と情報統制によって不満を抱く人々が出てくる。そして『一月の闘争』と冠された大規模なデモをきっかけに、反政府運動がにわかに盛り上がりを見せた。
最初こそデモや直接要求によって政府や軍を動かそうとしたが、自治警察によって鎮圧、彼らの指導者が逮捕され獄中での自殺が撲殺と報道されると、過激武装運動組織『鳳翼』の増幅を招き、さらには民族的再起による日本復興を唱える『源志“ニーベルンゲン”』が武力闘争に入った。
この二つの組織は激しく対立し、市街地での戦闘が度々行われ、左派政治団体『紅星』を『鳳翼』が襲撃した事件では、当時事務所にいた全員がリンチの末殺害、自治警機動隊と衝突し、十七名の重軽傷者を出し、五名が死亡した。
この一件で左派穏健派であった『紅星』の指導者、松本恵一の殺害が引き金となり、左派も準武装組織『鉄の人』を結成、報復に次ぐ報復が繰り返され、ついにマンデラの生まれ変わりと呼ばれた中立派の巨頭『幸田俊介』を自治警が射殺したことで、もはや軟着陸を望めない事態となった。
日本は四流六派の入り乱れる混沌した社会情勢に変貌した。
戦争省、統合作戦本部と軍令部は軍事産業への被害を無視できなくなり、政府の要請を受けて、首都圏の治安維持を限定とした『首都圏治安維持隊』の設置を決定。
その実行部隊に陸・海軍の陸戦部隊から選抜された挺身部隊『梟』部隊が、作戦時の任務と治安維持を兼任で行う部隊に変更される。
そして以前より、陸海軍内で武闘派として名を知られ、軍による治安介入の必要性を説いてきた艦娘・金剛大尉を隊長に指名した。
『首都圏治安維持隊』の公安部部長に第二遊撃部隊兼特務四課の木下中佐が最初指名されたが、突然話が変わり、第一遊撃部隊の吹雪少佐に指名がかかった。
これは以前から捜査行動の目立つ吹雪を、一蓮托生してしまおうという軍令部の腹であった。
吹雪は一度、推薦を断ったが誰に説得されたのか、遊撃部隊の統合に動き出している。軍令部は推薦を受けたと受け取り、組織は完成した。
だが、吹雪と金剛の意見には大きな相違が存在し、組織として協調を持てるかは疑問であった。
部長には金剛と吹雪から一致して、陸軍から海軍そして、統合作戦本部に転属していた森下勝弘中将にすべきと声がかけられ、森下はこれを快諾した。連合艦隊は実戦部隊に付属すべきでない任務だと批判したが、海軍内でも政府・首都警の能力不足、捜査の過激化を問題視し、治安維持隊の創設に半ば黙認の姿勢をとった。
現在進行形で批判をしているのは、機動部隊司令長官である瑞鶴中将といったごく少数である。
それらは秋月もはっきりと分かっていた。だが、それは自分が関われる範疇を遥かに超えたものであることも、よく理解できていた。封印書類を鞄にしまい、冷めたコーヒーを一口飲むと静かにカップを置いた。
「武蔵さん、最後に一つ、質問してもよろしいですか」
「何なりと」
「最近、こんな噂を耳にしたのですが、梟部隊は隊の性質上、内部に密偵や内通者が存在している可能性がある。
そして公安部のように諜報又は監察ができない。今の軍内外には隊の存在を快く思わない者も少なからず存在する。
それらの害を払い、隊の規律を守る秘匿部隊が存在すると、その部隊はヴェア・マハトというそうですが」
「新設されたばかりの部隊、この部隊は各個小隊が内外を統制する役目を持っています。
そのような部隊があれば私が即刻解体しているでしょう。あと、私は不必要な隊員を野放しにしておくほどお人よしではありませんので」
「そうですか、無粋な質問でしたね。どうぞ来月の合同訓練の折はよろしくお願いします」
「こちらも、今度は手加減の無いよう努力いたしましょう」
夕方、自室へ戻る初月の前を一人の下士官が通り過ぎていく、部屋に入ると急いで卓上をあさり、教科書にさりげなく挟まれた無記名の封筒を見つけ出した。
即座に封を切ると、一枚の書面と二枚の名刺版写真が出てきた。それらに目を通し、彼女は壁を見つめる。
音がして窓下に目を向けると、寮の用務員が荷車を引いて歩く姿のみ、肩の力を抜き、引き出しに書類を入れると、疲れを感じたのかベッドへ横になった。しばらく呆然と天井を見上げる。
「初月、入るぞ」
急ぎ立ち上がり、踵を揃えると教官の鹿島が扉の前に立っていた。
「特別教官の雪風と天津風が待っている。来なさい」
「諒解」
鹿島は部屋を出て、後に続く初月を振り向きながら確かめると、微笑みながら口を開いた。
「本来なら、第四班の全員で指導をもらう予定だったが、まともに動けるのがお前だけという結果だ。仕方ないので次期指揮官クラスの懇親会ということになった」
「懇親会?」
「あなたも次期攻勢計画の中核として戦うこととなる。互いの顔を知っておくにはいい機会だ。それに腹も減っているでしょう」
「はい」
何一つ迷いなく、しかし小さく返事した。
「実を言えば私も近々、第一中隊突撃小隊に配属される。もしかしたらあなたと同じ方面で戦うことになるかもしれないわね」
「そうですか」
その前を顔に痣を作った艦娘が、ぶっきらぼうに西寮と東寮を繋ぐ通路を抜けていく、鹿島は思わず声を掛けた。
「秋津洲、ケガは大丈夫か」
秋津洲、と呼ばれた隊員は不器用さをそのまま形にしたように、鹿島の顔を見て口を開いた。
「はい、問題ありません」
初月の顔をチラリと覗くと、すぐに目を逸らした。
「お前、今のままだとずっと教練課程にくすぶることになるぞ、前から一つ聞いてみたかったんだが、なぜ梟部隊に仕官した」
「わかりません。何となく来てしまったのです」
「そう、もういいわ、明日も共同訓練だからそのように」
「失礼いたします」
秋津洲は尾を返して寮へと入っていった。それに合わせて二人も東寮棟の階段を上がり始めた。
「初月、秋津洲と話は」
「時々、聞いてやる程度には」
「あいつのこと、どう思う」
初月はやや躊躇いながら答えた。
「死にますよ、彼女優しすぎるのです」
「優しすぎる、か」
「前の部隊で何があったか知りませんが、人一倍気の優しい性格で孤立したようです。
彼女を重用していた指揮官が戦死したことで、隊に居場所がなくなり、ふらりとこの部隊に来たそうです。大方、同類の匂いでもかぎつけてきたのでしょう。そこに居場所がある保証は無いのに、です」
「そう、だったわね」
話をしているうちに、東寮棟二階奥にある食堂室に着いた。