ビスマルクとの関係についてどうやらアークロイヤルが悩み事を抱えているようです。
夜勤があるメンバーを除けば今日の業務は一通り終了、と言う時間になって、鎮守府の食堂では夕食を終えた艦娘達が数人で集まって雑談していた。どうやら今のテーマは音響機器に関するもののようだ。
「まあ、機種にもよるだろうし、印象論になってしまうんだが……元々あそこは今も業務用製品に力を入れている訳だろう? そういう製品はスタジオで収録とかにも使うんだし、むしろ特徴の無い音じゃないと録った音のミックスをやったりする際に使いづらいからな。一般向けの製品でも他のメーカーのような強い個性を持った物は開発側の気質的にやりたがらないんじゃないかな」
別のメーカーの製品に乗り換えてみたところ、どうもその製品の音が無難すぎて拍子抜けしたのだがそういうものなのだろうか、と言った艦娘がいたため、それに対してアークロイヤルが示したのが先ほどの見解だ。
「ああ、あの中間ボリュームには賛否があるみたいだな。私も必要かどうかと言われれば疑問は感じている方だから、大抵は最大音量に設定しているよ。ただ、プレーヤー側の音量を大きめにして中間ボリュームで絞るってことをやると音質が向上するって言う知人はいたな。私自身はやってみても今一つピンとこなかったけど」
今度はアークロイヤルが使っているイヤホンの話。その製品はコードの途中にボリュームが付いていてここで音量が調整出来るのが特徴なのだが、プレーヤー側にボリュームがあるのにここにもボリュームがあったら余計な回路を通る事で音質が劣化すると考える者と、むしろプレーヤー側のボリュームを固定したい場合の使い勝手は良いし逆に使い方次第では音質の向上が狙えると考える者もいて、利用者の間では意見が分かれていた。アークロイヤルが最大音量にしているのはボリュームの回路の影響を受ける事なく信号をそのまま通過させる事を狙っている為だろう。
「あはは、まあ本当かどうかは分からんが確かにゼンハイザーはヒット商品が出るとそれの偽物も出回るという話は聞くなあ。幸か不幸か私はそういうのを引いたことは無いが……」
そう言った後、アークロイヤルがふざけた口調で「もし偽物を摑まされていたら今ここで試聴報告が出来たのに」と言うと一斉に笑いが起こった。
会話に参加しているのは何も日本艦だけではない、この鎮守府には様々な国から艦娘が派遣されており、アークロイヤルの所属するイギリスはもちろんのこと、かつて日本と同盟を結んでいたドイツやイタリア、さらにはアメリカやロシア、フランスの艦娘も参加していた。
(ここの鎮守府も設立時は日本艦だけだったらしいと聞いていたが、それが本当なら国際色豊かになったんだな)
などと思いながらアークロイヤルが艦娘達の会話に耳を傾けていると、急に背後から声がかかった。
「何だか随分と楽しそうじゃない?」
振り返るとそこにいたのはビスマルクであった。
「アーク、今は何の話してるの?」
自然とビスマルクとアークロイヤルに周囲の視線が集中する。それは別にいいのだが、明るい声とは裏腹にビスマルクの自分を見る目が全く笑っていないのでそれが怖い。
「うん? ああ、今話題になってるのはみんなが普段使ってるイヤホンとかヘッドホンの音とか、その辺りだな」
と答えると、
「ふうん……」
ビスマルクはそれだけ言って、いきなりアークロイヤルの隣に並んだと思ったら、自分の肩に手を回してきた。
(お、おい……)
アークロイヤルは焦ってしまう。無関係な多くの他人の目があるというこの状況下、幾ら何でも自分たちの関係が露骨に分かってしまうような行動を取ってしまうというのはいかがなものだろうか。
「取りあえずお話には一区切りついているのよね、アーク? 明日の演習の打ち合わせしておきたいの。ちょっと来て」
有無を言わさないといった感じでビスマルクはアークロイヤルを連れて行ってしまう。後に残されたのは一体何が起こったのかさっぱり分からないといった表情をしている他の艦娘達であった。
「なあ、ビスマルク。演習の打ち合わせならもうやっただろ? 何か内容に抜けでもあったか?」
「別に無いわよ? 打ち合わせなんて嘘だし」
「ええっ!?」
思い切り驚いてしまったアークロイヤルは思わずビスマルクを見つめる。本来のビスマルクは何の理由もなく平然と嘘を吐くと言うタイプではないはずだ。
「お前、一体どういうつもりなんだ?」
アークロイヤルがそう言うのは当然だが、ビスマルクはそんな彼女に言った。
「それはこっちが聞きたいわね」
ビスマルクの視線が鋭い。思わずゾッとしてしまうものの、相手の意図が分からないアークロイヤルはひたすらその視線を見つめ返しつつビスマルクの次の言葉を待つしかない。
「随分と楽しそうに話してたじゃない? あの子達と」
問い詰めてくるビスマルクの声は恐ろしく冷たい。
「そりゃ、他の連中と比べればよく話す奴らだからな。話が盛り上がったりもするし、それ自体は別にまずい事でもないと思うが」
そう言うアークロイヤルをビスマルクは黙って見つめていたが、しばらくして、
「……そう」
とだけ言ってその場を立ち去ってしまった。
(本当、何なんだ……)
その場に取り残されたアークロイヤルはもはや困惑するしかない。
長年の願いが叶ってビスマルクと恋人同士になる事が出来たアークロイヤルであったが、最近はその関係がこじれ始めていた。
その理由はアークロイヤルには分からない。とにかく、先ほどのようにビスマルクがいきなり不機嫌になる事が多く、何故だと聞いてもまともに答えてくれる訳でもない。その都度、アークロイヤルは自分がビスマルクを不快がらせるような行動を取ってしまっていたかどうか振り返ってみるのだが、心当たりは無い。当然、ソードフィッシュを使って追いかけるというのは論外なので、今となっては全くやっていない。そもそも、以前ならともかく、今のビスマルクは作戦行動で別々になる場合を除けば大抵そばに居てくれているからその必要性も無いのだ。
だから尚更戸惑うばかりなのである。何とかビスマルクに振り返ってもらおうと追いかけていた時期もそれはそれで大変だったが、仲が深まっているはずなのにビスマルクの事が分からなくなっていっている気がしてしまう今もまたアークロイヤルの悩みは深いのである。
「うーん、今の話を聞く限りだと理由は分かりませんねえ……」
リットリオはそう言う。
アークロイヤルは悩みに悩んだ末、自力での解決は不可能と判断。ティータイムの時間を利用して第三者に助言を求める事にした。相手は自分とビスマルクの間を取り持ってくれたリットリオと、同郷の友人でもあるウォースパイトだ。天気が良かったという事もあって場所は鎮守府の広場を選んだ。普段なら他にも何人かの艦娘がこのお茶会に参加しているはずなのだが、相談の内容が内容だけにあまり大人数に話す気になれず、今日ばかりは参加者をこの二人に絞った上で相談に乗って貰っているのである。
「私も分からないわね。ビスマルクだってそうコロコロ気分が変わるタイプにも見えないのだけど……」
ウォースパイトも首を傾げている。二人ともこの鎮守府への着任はアークロイヤルより早い。だから元々ビスマルクの性格にしてもよく知っているはずなのだが、この件に関してはどうにも判断が出来ないようだ。
「やっぱり私が知らないうちに何かやってしまっているのかな……」
アークロイヤルは気だるげに空中に視線を向ける。
「いえ、それは無いと思いますけど」
リットリオは即座に否定する。
「そうね。そうじゃなければ一緒に居てあげたりはしないでしょうし」
ウォースパイトもリットリオと見解は同じである。
「じゃあ、どうして……」
「何故、ビスマルクがいきなり怒ったりするのか、よね。アーク、あなたはちゃんとやってると思うし、それはあの子も分かってると思うの。今はビスマルクの食事だってあなたが作ってあげてるでしょう?」
ウォースパイトの発言にリットリオが反応する。
「え? ビスマルクにご飯作ってあげてるんですか?」
「ええ。この子料理は苦手なのに、『どうしてもビスマルクに作ってあげたい』って言ってきたから、私が教えてたのよ。元々は私もそれほど得意ではないし、レパートリーは少なかったから、こっちに来てから教えてもらった物の受け売りが多いのだけど」
ウォースパイトは笑いながらリットリオに言う。
「あー、その辺りは結構恥ずかしいからあまり言わないでくれるか?」
照れ臭そうに言うアークロイヤル。
「愛ですねー」
と言ってリットリオがからかうので、アークロイヤルは、
「だからやめてくれって……」
と言いながら恥ずかしさのあまりとうとう下を向いてしまった。そんな彼女を微笑ましげに見ながらフフ、と笑うウォースパイト。
「それで、ビスマルクの反応はどう?」
「それなんだが……最初は結構喜んでくれてたんだよ。世辞なんだろうが、『美味しい』って言ってくれてたしな。けど近頃は何というか、食べていても無反応というか……、嫌々食べてると言うか……」
照れた表情から一転、アークロイヤルは再び困惑した表情に戻ってしまっていた。
「それも不思議ですねえ。ご飯を作ってあげるようになったのって実は結構前だったりします?」
「いや、最近だ」
うーん、と言ってリットリオは考え込んでしまう。以前から作っていたというのであればアークロイヤルの手料理の味に飽きてしまったという可能性も無くは無いだろうが、どうもそういう訳でもないらしい。おそらく、料理そのものが直接の原因という訳では無さそうだが、ビスマルクの態度の変化について何かしらのヒントは隠れているような印象を受ける。
リットリオがそんなことを考えていると、ウォースパイトがアークロイヤルに対して、
「話は変わっちゃうけど、あなたって私が教えてる最中も手を切ってたりしてたでしょう? 今は大丈夫なんでしょうね?」
と聞いた。
「ほんの少しミスをして軽いケガをした事はあるが、大した事はない」
「ちょっと、見せなさい」
そう言ってウォースパイトはアークロイヤルの手を取り、確かめ始める。とても日常的に兵器を扱っているとは思えない色白の綺麗な手だ。
「……確かに問題は無さそうね。ここだけ、やけどの痕らしいのがあるのは気になるけれど」
「ああ、それはこのあいだ冷め切ってない鍋にうっかり触ってしまったやつだ」
ウォースパイトとアークロイヤルがそんなやりとりをしているのをぼんやりと眺めていたリットリオは次の瞬間、別の誰かの視線を感じたような気がしたのでふとそちらを向き、そして思わずギクリとしてしまった。その視界が捉えたのは少し離れた場所から自分達を睨んでいたビスマルクの姿だったからだ。いや、正確にはリットリオを見ている訳ではない。ビスマルクが焦点を合わせているのはリットリオの隣にいる二人である。ほんの少ししてリットリオが自分を見ている事にビスマルクも気付いたようだ。すぐに苦虫を噛み潰したような表情でその場を立ち去ってしまった。
おそらくはたまたま通りがかっただけなのだろうが、普通ならばそれだけでああなったりはしないだろう。
あの子、ものすごく機嫌悪かったわね、と思いつつ、完全に本来の話題から脱線してしまっているアークロイヤル達に向き直ってリットリオは言った。
「えーと、私、分かったかもしれません」
「え? 何がだ?」
と聞いてくるアークロイヤルに対して呆れたような顔をしてリットリオはこう言う。
「……ビスマルクが怒っちゃう理由ですよ」
どうにも殺伐とした気分になってしまって仕方がないビスマルクの背後から自分を呼び止める声が聞こえる。振り向けばそこに居たのはやはりアークロイヤルであった。
「……何?」
冷え切った声でビスマルクが聞く。
「少し話したい事があってな。ここじゃ何だから、場所を移動させてくれ」
「私は話したい事なんて無いんだけど?」
「こっちはあるんだよ。だから来い」
食い下がるように言うアークロイヤル。自分の気持ちはひとまず置いておいて、ビスマルクはアークロイヤルについて行く事にした。
「で? あなたが話したい事って?」
片手で乱暴に髪をかきあげながら高圧的に話すビスマルク。明らかに苛立っている。アークロイヤルはそれに臆する事無く、
「お前が最近おかしい理由について考えていたんだが……」
と切り出した。
「はあ? 私はおかしくなんか無いわよ?」
と言うビスマルクに対して、
「ああ、こっちが勝手にそう思ってるだけかもな。だけど話させてくれ」
と、アークロイヤルは多少強引に自分のペースに持ち込む。
最近、ビスマルクの自分に対する態度について感じている事をアークロイヤルは話していく。
他の艦娘と会話をしている途中で強引に割り込んできたり、なぜか突然不機嫌になったりといった諸々が最近の変化である。
ビスマルクは黙って聞いていたが、時々顔面がひくついていた。
「それで、最近は私の料理も気に入らなそうに食べてるからな。不味いのならそうと言って欲しいんだが」
「別に不味い訳じゃ無いんだけどね」
「そうか。じゃあ、食事の時のあの態度はどういった理由だ? 私と食べるのはそんなに不満か?」
「不満……そんな物は無いわ」
「嘘を吐け。だったらああはならないと思うが」
「あのさあ、何が言いたいのよ?」
いよいよビスマルクが喧嘩腰になり始めた。アークロイヤルは言う。
「私がウォースパイトに料理を教わってるのが気になったりはしてないか?」
「……っ!」
表情を引きつらせてそのまま硬直してしまうビスマルク。図星のようだ。それを確認したアークロイヤルは緊張したかのような、それでいて少しホッとしたかのような表情で、続ける。
「どうやらリットリオの指摘通りみたいだな。少し気に入らないが、やっぱりあいつの目は確かだ。さっき私とリットリオとウォースパイトが話している所も見てたらしいな? で、ものすごく機嫌が悪そうだったってリットリオは言ってたよ」
「…………」
「何でそんな事で機嫌が悪くなるのかって事も説明してくれた。私にしてみれば思いつきもしない事だったけどな」
「だから、何が言いたいのかさっさと言いなさいよっ!!」
とうとうビスマルクが叫ぶように言ったかと思えば、間髪入れずにアークロイヤルがこう切り返す。
「お前、ウォースパイトに嫉妬してたんだろ?」
この瞬間、ビスマルクは目を大きく見開いてアークロイヤルの顔を見つめた。その状態がほんの少しばかり続いた後、苦しそうな表情と共に俯いてしまった。
「正解、か……」
しばしの沈黙。
「私とヤツはそういうのでは全く無いんだが」
アークロイヤルがそう言ってから、また少し間が空く。
「……本当は、そうなんでしょうね。でも、私、信じきれなくて……」
と、俯いたまま言葉を絞り出すビスマルク。
「一度、見た事があるのよ。あなたがウォースパイトに料理教わってるとこ。本当、仲が良さそうで、まるで姉妹とか夫婦みたいで、間に入れそうな気が、全然しなくて……」
辛そうに一つ一つ言葉を吐き出している。食事の件については、あるタイミングから態度が急変したのだが、それがきっかけだった事はあり得る。
「さっきだって、ウォースパイトがあなたの手を取って眺めたりしてて……それ、私の役目でしょって……」
それを聞いてアークロイヤルは自分が逆の立場だったらどうだったかを一瞬想像してみた。自分以外の艦娘がビスマルクの手を取って怪我が無いかと細かくチェックしてあげているシーンを思い浮かべて、
(うわ、これは結構来るな……)
と、内心苦笑してしまう。
「あなた達、ずっと一緒だったものね。仲が良くても不思議じゃないのに……」
理解しようとしても、気持ちは全くついて来ようともしてくれない。そんな苦しさがビスマルクから感じ取れた。
「とすると、他もそうか。私がお前以外と話してる時不機嫌になったりしただろ?」
「……ええ、あなたが他の子と楽しそうにしてるの見てたら、つい……ごめんなさい」
つまり、自分とアークロイヤルの間を邪魔されているかのように感じてしまったという事のようだ。
(そういう事だったのか……)
結局、この件は極めて単純で、ビスマルクが嫉妬していただけなのである。
とは言えアークロイヤルは自分の迂闊さを後悔していた。
「いや、こっちこそ無神経だったな。嫉妬なんててっきり自分だけがしてるもんなんだとばっかり……」
片手を額に当てて言う。相手が嫉妬しない保証などどこにも無いのだ。にもかかわらずそう思ってしまったのは惚れた弱みとでも言うのだろうか、元々はアークロイヤルの気持ちを受け止めてくれればそれで良かったはずの相手がまさか自分をそこまで気にかけてくれたりはしないだろうというある種の気弱な思い込みがあった為だ。
「自分でもびっくりしてるわ。独占欲って怖いわね……」
と、俯いたままそう言うビスマルク。
「あなたの事、どんどん好きになってるの。でも、何だか最近、あなたが遠くに行ってしまうんじゃないかって、そんなことばっかり考えるようになっちゃってて、怖くて……」
震えながら自らの両肩を抱きしめつつそう言うビスマルクからは先程の威圧するような雰囲気はすっかり消え去ってしまっていた。
「ふぅん……」
そんなビスマルクの周りをくるりと一周回ったアークロイヤルが更にビスマルクの顔を覗き込んできた。なぜか嬉しそうだ。
「な、何よ?」
「うん、お前が嫉妬してくれたのがなんだか嬉しくてな」
「え……? 変なこと言わないでよ」
「だってさ、嫉妬したのは私の事を好きでいてくれたからだろう?」
ビスマルクの顔がさっと赤くなり、その目は泳いでいる。
「それは、その、そうなんだけど……」
そんなビスマルクを見つめていたアークロイヤルであったが、その後すぐに吹き出してしまった。
「ぷっ、ははははっ! お前も大概だな!」
「もう、笑わないでよ! 結構後悔してるんだから!」
顔をいよいよ真っ赤にしてしまったビスマルクが言う。アークロイヤルを独り占めにしたいばかりに衝動的に色々と大胆な行動を取って来てしまっているのである。
「あー、なんかもう恥ずかしい。まるで私がバカみたいじゃない……」
ビスマルクは両手で顔を覆ってしまった。
「そんな事はないだろ? むしろホッとしたよ。お前が私をどう思ってるのかがちゃんと分かったんだからな」
確かにお互いの気持ちが改めて確認出来たという意味では今回の件はむしろ収穫と言っても良さそうだ。だが、その次の瞬間、アークロイヤルは鋭い目付きでビスマルクを直視しつつ、
「ただなあ、一つだけ気に入らない事があるんだ」
と言った。
「え、と。それは何?」
今までに見た事の無いアークロイヤルの態度に内心慌てつつビスマルクは聞き返す。
アークロイヤルが妙な威圧感を発しながら自分に接近して来る。
そして、アークロイヤルは片手を腰に当て、もう片方の手の人差し指でビスマルクの胸元をトントンと叩きながらこう言う。
「お前に再会するまで、私がどれだけお前の事を想い続けて来たかわかってるのか?」
「…………」
「今でも気持ちは変わってない。むしろお前の事がますます好きになってるんだ。はっきり言って私にはお前以外考えられない。その辺りがまだ理解して貰えて無いようだからな。……そこが気に入らない」
こう言われてしまったから気まずそうにビスマルクは目をそらしてしまう。
ビスマルクの嫉妬は自分への好意の裏返しであり、それだけ自分の事を好きでいてくれているというのが分かった事は素直に嬉しい。その一方で、安易に他人に流されるタイプでは無いと自負しているし、自分のビスマルクへの気持ちを曲げる事など決してしないという自信があるにもかかわらず、彼女にそれを信じて貰えていなかったという側面があるのもまた事実であって、その点では複雑な気持ちにさせられてしまうのはやむを得ないと言えた。
その点は悪かったなと思うし、どう答えればいいんだろうとビスマルクが内心そう思っていると、先にアークロイヤルが口を開いた。
「まあ、私だってお前の事は言えないんだけどな」
アークロイヤルはそう言う。
「お前が他の奴らといるときは今だにモヤモヤしてるよ」
柔らかい表情に戻っていたが、そこに混ざっているのはほんの少しの困惑。惚れた相手が他人といれば嫉妬してしまうのは自分も経験済みだから共感は出来る。ただ、本来ならばそんな事で相手を困らせたくはないのだが、その手の感覚は今だに自分の中に居座り続けていて手を焼いているというのが実情だ。しかもこれはある程度時間をかけたくらいで是正出来るような類のものでもなさそうである。
だからアークロイヤルも正直な事を言う。
「分かっているとは思うが私は嫉妬深い。自分だけが空回りしてるんじゃないかって思う事は今だによくあるんだ」
「……空回りはしてないと思うわよ?」
「そうみたいだな」
アークロイヤルは両手をそっとビスマルクの頰にそえる。
「嫉妬してしまうっていうのは、恐らく今の私達ではすぐにどうこう出来るとかそういう物ではないと思うんだ」
「うん……」
「だから嫌な気分になったのならせめてそこだけはすぐにでも言って欲しい。一人で困ったまま距離が出来ているなんて絶対に嫌だからな」
「そうね、伝えるわ。でも、それはあなたもしてくれないと嫌よ?」
「当然だ、これでもかっていう位伝えきってみせるよ」
ふふ、と笑ってビスマルクはアークロイヤルの額に自らの額をくっつける。
「私、あなたに甘えてばっかりね」
「今までは私がお前に甘えてばかりだったじゃないか。少しくらいは甘えてくれ」
「じゃあ、約束」
アークロイヤルの唇にビスマルクの唇がそっと重なった。
「この私を捕まえたのはあなたなんだからね? 離さないわよ?」
そう言われたアークロイヤルはクスリと笑ってビスマルクを抱き返した。
それから数日後。ビスマルクが他の艦娘達と話していた。
彼女の周りには少なくない人が集まっていて、かなり明るい雰囲気で会話も盛り上がっているようだ。しばらくして散会となり、誰も居なくなったのを見計らってアークロイヤルはビスマルクに話しかけた。
「……相変わらずの人気みたいだな」
流石にあからさまな嫉妬はしなくなっていたが会話の内容はやはり気になったのでとりあえず聞いてみる。
「で、何の話をしてたんだ?」
それに対してビスマルクはあっさりと答える。
「ええ、今度のオフにあなたとデートするじゃない? その辺りを色々とね」
「…………はい?」
アークロイヤルは目を大きく見開いたままフリーズしてしまう。
「あなたも最近は色んな子と話をしてるでしょう? そういう子達は私の知らないあなたの事もよく知ってるでしょうし、デートでヒントになりそうな情報が得られそうだから今私が考えているプランを具体的に話してみて内容を整理してたのよ」
「おい、そういうのみんなにも全部オープンにしてるのか!?」
「ええ、そうよ?」
アークロイヤルは自分達のプライベートがビスマルクを通じて垂れ流しになっているらしいと分かって思いきり慌ててしまう。
「でもな? そういうのはあんまり大っぴらにするような物でもないと思うぞ?」
「そうかしら? こうやって予め言っておけばあなたを狙う子も出て来なくなると思うし、一石二鳥だと思うんだけど」
どうもビスマルクは変な方向に吹っ切れてしまったらしい。
「いや、もしかしたらそれはそうかもしれないけどな!?」
先日お前以外は考えられないと伝えたばかりだろうが、と言いたいところなのだが、それを聞き入れてくれるような状態でもなさそうだ。
薄々と感づいてはいたものの、どうやらこのビスマルクという艦娘はアークロイヤルが当初思っていたよりもはるかに情熱的な女の子であったようだ。
「さあ、これで情報は一通り集まったわ。早速あなたの意見を聞かせて欲しいのだけど」
目を輝かせながら言うビスマルクを見て、アークロイヤルは、
(……仕方が無いなあ)
と思い、苦笑いしつつ、ビスマルクの質問に答え始めた。
これからはビスマルクに振り回されるようになるのかなと感じつつ、それはそれで悪くないのかもしれないなと、アークロイヤルはそんな風にも思うのであった。
なお、この打ち合わせの際に今度のデートでお揃いのアクセサリーを買おうと提案されてしまい、流石に気恥ずかしさから難色を示してはみたものの、ビスマルクが猛プッシュを仕掛けてきたために防戦一方でタジタジになってしまったアークロイヤルが他の艦娘によって目撃された事も蛇足ながら追記しておかねばなるまい。