くれない色の恋慕   作:清水一二

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第4話

 数日の間、マフラーのことが頭から離れずに悶々としていた。

 

 

 昼食どきに味噌ラーメンの麺を口に運びながら、清光の顔を思い浮かべた。清光にはやっぱり黒と紅の両方の色が入っているものがいい。あいつに一番似合う色だし、きっと気に入ってくれる。

 

 

 それに、清光は主の生まれたこの時代に興味を持ってた。せっかくだから、買いもののついでにこの時代を見てみようか。本丸に帰ったら、土産話をたくさん聞かせてやろう。この部屋にあるものを説明するだけでもびっくりするだろうな。あいつの反応を想像するだけで楽しくなってきた。思わず、ふっと声が漏れる。

 

 

 支度をして、部屋を出た。

 

 大通りに出て、駅のほうへ向かう。どんな用事があるのか、大勢のひとたちが駅の構内に出入りしていた。僕は自らの意思で、その中に呑み込まれていった。

 

 

 見よう見まねで切符を購入し、適当なところで電車を降りた。

 

 

 駅を出て、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。自然に囲まれた本丸よりも濁った味がして、意識的に咳き込んだ。体にはよくないものに空気が侵されているんじゃないか。注意深く、見えない敵の気配を探る。

 

 

 行き過ぎる人々が、立ち止まったきりの僕をじろりと眺めていく。好奇と邪険な目に、僕は串刺しにされる。ああ、邪魔なのか。とりあえず左に進路を決めた。

 

 

 僕の横を石造りの建物がずらりと立ち並ぶ。ほとんどが灰色で、道路を挟んだ向かい側も同じようなものだ。色のないこの街に、人々の衣服が少しだけ色彩を加える。とはいえ寒色系が多く、索漠とした雰囲気はぬぐえない。

 

 

 マフラーに専門店はあるのか。けど、スーパーであれだけいろんな種類のものが売られてるんだ。もしかすると呉服屋に置いてあるかもしれないな。

 

 

 道に迷わないように、駅に沿った大通りをまっすぐに進む。店らしきものは見かけるけど、明らかに呉服屋ではない。頻繁に、香ばしい匂いが漂ってくるし、店先の棚に書物が並んでいる。

 

 

 と、道路の反対側から紙袋を提げた少年少女がこちらに吐き出されてくる。いつもヒノスーパーでもらう見慣れたビニール袋とは違う洒落たものだった。もしかして、店があるのかも。

 

 

 僕は馬車の役割をすると睨んでいる乗り物の隙をついて、道路に飛び出した。四角い物体の前方を走り抜け、今度は後方を横切った。

 

 

 本当は等間隔に塗られた白線の上を渡らなくてはならないんだとわかっていた。それがこの世界のルールだと容易に理解できる。

 

 

 だけど、逸る気持ちを抑えられなくて、そんなことに構っていられなくなった。清光の喜ぶ顔が、唐突に僕の脳髄を満たして、衝動が溢れ出したのだから。

 

 

 吐き出される少年少女とは入れ違いに、僕は通りに入っていく。大通りは様々な年代が往来していたけど、この通りは若者たちの領域だった。色やデザインなど、微かに異なる制服がずいぶん多く目立つ。

 

 

 僕は彼らの縄張りを歩いた。だけど、決して支配的な雰囲気が漂っているわけじゃなく、冷気を吹き飛ばすほどの快活な声音が飛び交っている。

 

 

 両脇に立ち並ぶ文房具に小物屋、食事処に目を滑らせ、僕は、彼らを見透かすようにして呉服屋を探す。マフラーはどこだ。

 

 

 唐突に、楽しげな音楽が集中力を破壊して、僕はふっと首を横に向けた。鮮やかな赤が目に飛び込んでくる。いまの気分には不似合いな外観だけど、なぜか心が魅かれた。ここではなにを売ってるんだろう。

 

 

 店に足を踏み入れてすぐに意識を一点に釘づけにされた。入口のほど近く、巨大な透明の箱の内側に、清光の人形がたくさん詰め込んであるのだ。

 

 

「どうして!?」

 

 

 僕はガラスに手のひらをピタリと張り付けた。僕たちはこうして人形にされているのか? 容姿や衣服がまったく同じなのはどうしてだ?

 そ、そんなことより……この人形、ほしい!

 人形でも清光がそばにいてくれたら、ひとりでもがんばれる気がする。僕たちはいつも一緒だったんだ。それが突然いなくなると、こんなにも堪えるものなんだな。うすうす感じてはいたけど、正直これほどまでとは想像できなかった。

 

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