興味深い試みを提案されたのでさっそく実行に移すことにする。
このカルデアに滞留している数多のサーヴァントたち。彼らをクラス名で呼んだなら、いったい誰が私のもとへ一番に来てくれるのか、というちょっとした戯れである。
サーヴァントたちを試すような感じになってしまうけれど、まあ、どうか勘弁してほしい。
だって、ほら、気になるしね?
「んっ、んんっ……」
喉の調子を整えて、では、さっそく一クラス目である。
「セイバー!」
はてさて、いったい誰が来てくれるのやら。
ていうか、いくらサーヴァントとはいえ、ただ呼んだだけで来てくれるものだろうか。
*
「余だよっ!」
「わっ!?」
セイバー、と呼び立ててから数分もしないうちに姿を現したのは、白い拘束具のようなブライドドレスを身にまとった薔薇の皇帝であった。
マイルームの扉を開け放ったと思ったら開口一番叫ぶものだから、思わず飛び上がってしまう。
「む。マスター、先ほど呼び立てがあったような気がしたが、余の気のせいか?」
本当に誰か来てくれるとは、なんてしばらく唖然としたまま彼女を見つめていたせいか、ネロは訝しげに首を傾げた。
「あ、ううん、呼んだ。呼んだよ」
咄嗟に笑顔を作って、扉の前で佇んだままのネロへ手招きをする。
椅子もないし、ベッドへ並んで座ってほしいのだ。
「うむ、では邪魔するぞ、マスター」
歓迎されるとなると破顔して、とててっと駆け寄ってくるネロ。かわいい。
そのまま私の隣に腰掛けると、それで、とネロは前置きをした。
「いったい、なんの用だったのだ?」
その問いに、私は正直に事のあらましを説明した。
すると、ネロはうむうむと大仰に頷いてみせて、そのあと、次のように言ったんだ。
「では、数多いる英霊たちの中でも、余が! 余こそが、マスターの一のセイバーということだな!」
「まあ、うん、そうなる? かな……?」
語弊を招きそうな言い回しだったけれど、そうとも言えるかもしれない。
いの一番に駆けつけてくれたという事実が、あるわけだし。
「さて、当然の事実が改めて確かめられたところで、だ。マスターよ、余は今、思ったことがある」
「ん、なにかな?」
「いやな、近頃はカルデアにもサーヴァントが増えてきて、ずいぶんと賑やかになったであろう?」
「うん。人理を修復してからもいろいろあって、戦力はどれだけあっても困らないし」
「そんな調子でポンポンと召喚するものだから、いよいよもって、貴様はそれぞれのサーヴァントに気を配るのに首が回らなくなっているだろう?」
その言葉が、少しだけ心に突き刺さった。
わかってはいるのだ。
私の魔術師としての技量はそう高いものじゃない。だから、今までの旅でもそうであったように、私は彼の英霊たちと言葉を交わすことでしか通じ合えない。
だのに、やるべきことが多すぎて、そうできていないのが現状だ。
「そう、だね。みんなのマスターだっていうのに、ちょっと情けないと思ってる」
私の反省の言葉に、ネロはしかし、首を振ってくれた。
「いや、悔やむことはない。貴様はただの人間なのだ。それは皆もわかっておろう」
「……ん、ありがと」
ネロの慰めに、なんとなく人肌恋しくなって、半身を隣の彼女に預ける。
「ん、よいよい。時には主も従者に寄りかかることもあろう」
彼女は私の腰に手を回して、しっかりと抱き寄せてくれた。
普段はちょっと犬っぽくてかわいらしいのに、こういうときはそこらの男より二枚目なのだから、手に負えない。
「それで、な、マスター」
先ほどよりも一段低くなった声が、触れ合っている肌を通して伝わってくる。
こういう肌を合わせながら、言葉を交わす過ごし方を私は気に入っている。
「先ほどの続きなのだが、多忙極めるマスターのちょっとした暇に、一時の花、癒しを施してやろうと思ってな」
「ん、どういうこと?」
「貴様は、余とか、他のサーヴァントでも、こうして誰かと触れ合うことで強さを得ているだろう?」
「まあ、そうかも。いつもみんなには元気をもらってる」
「そう、だからな。そういうときは、ただ、誰かを呼べばいいのだ」
「誰かを……?」
「うむ。余でも、エリザベートでも、キャス狐でもよい」
――――呼べば、それこそ今の余のように、誰かがマスター、貴様のもとへ馳せ参ずるであろう。
それだけ言うとネロは満足したのか、私の体に回した手を持ち上げて、今度は口を開くでもなくただ私の頭を撫でるに止まった。
参った。ああ、本当に。
こういうのには、どうも、勝てそうにないや。