外はこんなに良いお天気なのに何故か母上様は天井から私を見下ろしているだけです。
こんな日が今日で何日目かしら
日に日に黒くなっていく母上様を見ながら私は今日も父上様に抱かれております。
春にはきっと綺麗な柘榴が成るのでしょう。
増していく吐き気を抑えながら大きくなったお腹をさすり
小さく消えるようなか細い声で歌う唄は
この子もきっと気にいるでしょう。
いつからか父上様も母上様の隣で天井からただただ私を見下ろすだけになりました。
床には汚らしい汁がこびり付き
なんとも言えない臭いが鼻を突くのです。
なんだか蛆も湧いてきたので
酸っぱいものが欲しくなります。
自らの手で壊しましょう。
終わりを告げる夕日のように。
ユラユラ揺れるブランコから
この世に別れを告げました。
生まれてくるこの子には
明るい未来が待っているわ
そう信じながら眠ります。
しつこいほどの吐き気で目覚めたものですから
執拗に喉を掻き毟ってしまいました。
ポロポロと剥がれ落ちる皮膚を見ながら
落ちる涙が止まりません。
きっとあの日もそうだったのでしょう。
母上様から溢れた眼球には蠅が集って溶けて無くなりました。
父上様の眼球には蛆が集り
これもまたいつの日か溶けているだけです。
今日もこの窓から夕陽が差し込む時間になりました。
台所で夕飯の用意をしましょう。
焦げた皮膚から垂れる体液は透明でネバネバとしていて
それを見ているだけで私は
剃刀でまた一つ小さな傷を作りました。
暗く暗い私の心
誰も愛してなどくれないわ
弄ばれて嬲られて
誰からも愛などもらえないわ
愛して欲しい
愛して欲しい
ただ一つ心から愛して欲しいだけ
天井には母上様と父上様が
私もそろそろそちらに逝くわ
生まれてくるこの子はきっと
父上様にそっくりね
愛しています
母上様と父上様を見上げながら
溢した涙はいつ消える?
さようなら
さようなら
雪の花のように
白い私の手首に咲いた
紅い花弁が零れ落ちていく
かごめかごめ
籠の中の鳥はいつ出るかしら
終わりにしましょう
私はひとり
私はひとりでこの場所で
貴方をいつまでも思っています。
そして来年の今頃に
爛れた果実を持って伺うわ
2人で美味しく食べましょう
残さず全て食べましょう
残った種は私に埋めて
毎年毎年楽しみましょう
きっと貴方も気にいるわ
涎を垂らして喜びますから
貴方が私を愛してください
きっと
きっと
愛してください
それまでお元気で
さようなら
愛しの貴方へ
愛せなかった私より
昭和9年4月11日
追伸
今朝、2つの熟れた果実が実りました