自分の妄想と幻想入り   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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筆が乗らなかった。
その事を否定はしない。でもおかげで構想はどんどん練ることが出来ました。
後は形にするしか無い!!


第十一話~異変の終わり、その後~

 みんなが去っていくのを確認してから僕も行動を開始した。フラタニアの事も気になるが今は恭也(マスター)に任せ、昴の様子を見にいくことにして永遠亭へと向かう。

 あの時、樹木が弾けた時に聞こえた銃声は昴の物だと思う。なぜそう思うかというと、取材と通してこの世界の情報も集めたが銃火器の類はまだこの世界には持ち込まれていなかった。更に言えば音の聞こえた方向も迷いの竹林がある方向であり、怪我をした昴が運び込まれるとしたら永遠亭である可能性が高い。

 永遠亭のある迷いの竹林は龍脈の影響を受けた特殊な地域であり、更に結界も貼ってあるため目的地にたどり着くのは難しくなっている。まあ、僕は解呪の魔法を頼りに竹林を真っ直ぐに突き抜けて永遠亭へたどり着く事ができるのだけどね。

 門戸を叩きしばらく待つと、中から兎の耳をつけたブレザー姿の少女が顔を出した。この永遠亭に住む鈴仙・優曇華院・イナバだ。

 うどんげに事情を話すと永遠亭の奥へと連れて行かれた。とても長い廊下の先には古風な木造建築には似つかわしくない重厚な鉄の扉が待ち受けていた。閂に錠前まで付いた鉄扉が開かれると、中は窓が1つだけある無菌室の様な場所が広がっている。部屋の真ん中にはベッドが1つ置いてあり、

「やぁ、好杏じゃないか。会いにきたって事は黒い気は祓えたのかな?」

 やたらと元気な昴が横たわっていた。

「はい。とりあえず目下の問題は無くなったかと。事後調査はこれからです」

「それに関しては悪いけど好杏達に任せるよ。私はほら、見ての通りだから」

「……そうですね」

 僕は目をそらしながら答える。別に昴の姿が見るに堪えない言うわけではない。ただ、笑いを堪えようとした結果、目をそらさざるを得なかったのだ。

 と、言うのも、

「…んふっ。あ、あの、昴さん」

「ん?どうしたかな。好杏君」

「どうして、そんな仮面ライダーめいた姿に、っくふ…なって、あはは。いや、無理です!おかしくって我慢できません!あはははは」

 昴の身体は両手両足と胴に鉄の輪のようなものでベッドに固定されており、首だけが動かせるようになっていた。

「おい、好杏…。私はこれでも怪我人だぞ。笑うなんて酷いんじゃないか?」

「そ、そうは言われても。ふふっ。こんなのアニメでしか見た事ないですよ」

「仕方ないだろー。無理して動いたら永琳の逆鱗に触れちゃったんだからさ」

 そう言われて思い出す。確かにマスターが助けに入った時に昴は大きな傷を負っていた。しかし、強い精霊をその身に宿す昴からしたら死なない限り大抵の怪我は治せるはずだ。それなのに目の前でベッドに縛られている昴は身体の各所に包帯を巻き、痛々しい姿となっている。

「もしかして、思うように治癒出来ないんですか?」

「んー。まあそんな感じ。なんか精霊が上手く答えてくれないんだよねー」

「仕方ないですね」

 僕は窓を大きく明けてから風を操り、外から暖かな風を部屋に入れ込んだ。日差しと魔力を受けた暖かい風は身体の活性を促すことで傷を内側から治していく。遅効性な上に日中しか使えないので戦闘中だと役に立たないが、身体にかかる負担も少ないため長期的な傷の治癒には向いている。

「とても優しい、いい風だ。……それで、好杏は何を話に来たんだ?」

 流石、同じマスターから産まれたもの。話が早くて助かる。

「早く治してくださいね。今回のことで解りました。僕達は一刻も早くこの世界に魂を定着させなければなりません。そうしなければ僕も昴さんもフラタニアの二の舞は避けられない」

「焦るのは解るが。でも、そればっかりは急ぐわけにも行かないだろ。世界に認められるには堅実に過ごすしか無いんじゃないか?」

「それは…そうですが…。今の僕達はようやく存在が確立してきたばかりで外部からの影響を色濃く受けてしまう。だから―」

「―そうだな。だからこそ焦らずに行こうじゃないか、無理に魂に刺激を加えたら、それこそフラタニアのように『設定』を逸脱するような事態も起こるかもしれない」

 昴の言うことはもっともであり、そこに反論の余地は無かった。確かに危険を侵す必要はない。

「フラタニアは」

「ん?」

 それでも強硬に出たいのには理由がある。

「今回の異変により存在を確立し、この世界に認められました。今まで実体化すらしていなかったフラタニアがこの短期間で存在を確立した理由。それはおそらく異変によってこの世界に認知されたからだと踏んでいます」

「……だからって異変を起こそうっていうのか?」

「必要ならば、それも有りかと考えてました」

 昴は長い溜息をつくと首を動かしてそっぽを向いた。

 少し間を開けた後に、明らかに落胆した声で、

「私達の都合でこの世界に迷惑をかけるのは却下だ。今回のことで私の生徒であるチルノが巻き込まれてる。慧音から任されてる私の生徒をこれ以上巻き込みたくない。それに主はそんな方法で私達が世界に認められても喜ばないよ」

 そう言った。

 そんな事は僕だって解っている。

「早とちりしないでください。僕はただ今回の異変によって何故フラタニアの存在が確立したのか、それを調べようとしているだけです」

 争いは好まない。だが、争いは必ず起こるだろう。これは僕の勘でしか無いが、異変に人為的な作為を感じたのだ。

 第一、タイミングが良すぎる。存在が希薄な僕達が現れた途端に、大人しくなっていたはずの狂気が依代を求めて暴れだすなんて出来すぎている。もし誰かが作為的に異変を起こして居るのだとしたら深入りしないように気をつけながら調べるべきだ。偶然か否かはさておきフラタニアの存在を定着させた何かがあるのだから。

「では、また魔法をかけに来ますので、それまでしっかりと療養してくださいね」

「はいよ。なにか解ったら教えてね」

「はい」

 本来の昴であれば宿した精霊の力を行使し自らの肉体を治癒することなど容易い。だが今の彼女はそれができていない。これは僕達の存在が不完全な状態だからだと思われる。『設定』とてどこまで反映されているのか解ったものではないんだ。実際、人であるはずのフラタニアは存在を半人半妖へと変えられてしまった。

「はぁ……」

 ようやく肉体を得たのに問題ごとは山積み、しかも他の世界に迷惑をかけてしまっている。昴に言ったことも半分は本当だ。このまま不完全なままでいるくらいならフラタニアの様に異変を利用し『設定』を書き足しても良いのではと思っている。だがそんなことをしたら博麗の巫女、そして恭也(マスター)が黙っちゃいないだろう。それは僕達として避けたい自体だ。

「お疲れのようですね」

「わかりますか……」

「瞳の色、呼吸、決定的なのは顔色ですけどね。休息が足りてないのではないですか?」

 事実、うどんげの言う通りここしばらくの僕は休まずに動き続けている。

 天狗の新聞コンテストが近いとかでネタ探しに次ぐネタ探し、それに加えて僕は自分の時間を鈴や昴と過ごしてフラタニアに関する情報を集めていたりもした。そして昨日の一件でマスターが地底にある旧地獄に直感を得てからの張り込み。正直なところ回復魔法による強引な肉体行使にも無理が出てきている。

「私としては、今の状態の好杏さんを帰す事には賛成出来ませんよ?」

 うどんげは赤い目を光らせながら僕を見る。きっと彼女の目には僕の乱れた波長が見えているのだろう。

「なに、少し寝れば元気になりますよ」

 それでも僕はなお強気な凛とした態度で返す。

 休めるのなら休むが今日は帰ったら(あや)とネタのすり合わせをして明日からは新聞を作り始めなければならない。つまるところ、まだしばらくは僕も文も仮眠すら取れないと言うわけだ。

「その少しすら休めてないのがバレバレですよ」

「ですか」

「です」

「しかし困りました。僕はまだ休めないのです」

「……はぁ」

 うどんげは諦めたのか、深い溜め息をついてから数本の小瓶を差し出してきた。

「波長は見ていたので渡すか悩んだのですが、一応は師匠から頼まれてたので渡しますね」

「これは?」

「魔力増強剤です。魔力神経を活性化させることで一時的に体力と魔力を高める薬です。飲むのは一日につき一本までにしてください。後、今の様な状態で使った場合は数日後に反動が来る可能性も念頭に入れてくださいね」

 僕は一切の躊躇なくいくつか渡されたうちの一本を飲み干す。優先すべきことは文と作り上げる新聞であって、マスターと会い繋がりを得た今となっては残りの体力を全て注ぐくらいの所存だ。そんな様子を見てうどんげは更なるため息をついていたが、僕からしたら思わぬアイテムに感謝しかない。お礼を伝えてから文々。新聞の事務所へと帰った。

 まずは新聞を書き上げて、そして終わったら異変の調査と乗り出そう。そう決めた僕は湧き上がる魔力に笑みを浮かべながら文々。新聞の事務所へと急いだ。

 当然、数日後に僕は気怠さと疲労で動けなくなったのだが、それは別の話。

 

 

 ***

 

 俺は危なげの無くなった飛行で地底への道を進んでいた。

 服はすっかりとボロボロで大きく斬られた腿の部分には血が滲んでおり、傷の大きさを物語っていた。もっとも、傷はすでに塞がり痛くも痒くもないのだが。

 あれからしばらくして俺の姿に起きた変化は戻り、今は元々着ていた作務衣に外套を羽織った状態になっている。フランの言ってたような人の枠を超えたような動きももう出来ない。結局の所、自分の能力に関しても確証はなく、コントロールもまだ出来ない。ひとまず能力については暫定的に“リンク状態”と仮称することにした。

 リンク状態についてわかっているのは、身体能力の向上とリンク相手(仮定)の能力を通常よりも多く引き出す事ができる事の二つだけ。身体能力の向上については、人の身体では耐えられないようなハイG(高遠心力)に対して負荷をほとんど感じないほど頑強になったり、普段は眼鏡無しじゃ私生活すらまともに送れない視力が眼鏡なしでも対岸の紅魔館がはっきりと目視出来るほどの超視力になったりした。これは推測だがフラタニアも同じ程度みえるらしいので、身体能力もリンク相手と同じ程度になるのかもしれない。

 ところで、なぜ地底に向かっているかというと、

「うにゅ?そういえばお兄さん達は誰だっけ?」

「さとりの知り合いだよ。その質問、三回目くらいだぞ」

 今回の異変で黒い影に取り憑かれていたさとりのペット、霊烏路空(れいうじ うつほ)ことお(くう)を地霊殿へ送り届け、ひとまず異変は解決した事を伝えるためだ。

 このお空は八咫烏の妖怪らしいが、文字通りの鳥頭で非常に話しづらい。こんなのが核融合を操る程度の能力を持っているなんて隣を飛んでいて不安でならない。

「それにしても、主様は急に飛ぶのが上手くなったのう」

「ああ、今まではなんとなくで能力が使えてたんだけど、なんか感覚がつかめるようになったのか制御しやすくなったんだよね」

 これもリンク状態になってから起きた変化だ。そもそも魔法という人智を超えた力を使っている訳だが、正直に言ってどうやって使っているのかはよくわかっていなかった。その上、形のない風というものに乗って飛ぼうとしていたから昨日はフラフラと頼りない飛び方になっていたのだが、リンク現象後は風が見えるようになったのでどうやって乗れば落ちないのかが解るようになった。

 それに今はこの力が自分の身の丈に合っているとさえ感じている。

「主様は人じゃ。その事を忘れるでないぞ?」

「わかってるよ」

 魔法が当たり前になってはいけない。これは人の枠を超えた力だ。それは俺もわかっている。

 そうこう話しているうちに旧都を抜け、俺達は地霊殿へと戻った。飛んでいる間も見ていたが旧都は所々に建物の損壊が見え、全体的に被害が大きいように思えた。

「ただいまー!さとり様ー!」

 地霊殿へ入るやいなやお空は駆け出して奥の方へと消えていった。

 どうしたもんかとしばらく玄関で待っていると、さとりがお空に背中から抱きつかれながらやってきた。そんな状態でもサードアイを俺達に向け、ズリズリと抱きついているお空の足を引きずりながらゆっくりと近づいてくる。

「どうやら色々あったようですね。ひとまず異変の解決、ありがとうございます。それに加えてわざわざお空まで送ってもらいまして感謝のしようがございません」

 ようやく目の前まで来たさとりは仰々しく頭を下げながらそう言った。堅苦しい態度に俺とフラタニアが怪訝そうな顔をすると、さとりは少しため息を付きながら、

「ささやかながら、食事の用意がございます。またこの地底には温泉がありますので通里さん方がよろしければ疲れを流していってください」

 とのことらしい。

 要するに礼がしたいらしい。むしろ俺はお空に助けられた立場だからお礼をするならばこちらだと思うのだが、それを言おうとしたらさとりは口の前に指を立てて薄く微笑んだ。流石に野暮だったか。

 まあ、温泉は好きだし可愛い女の子がお礼をしたいと言っているのだから断る理由もないな。

「主様……?」

「らしいぞ。フラタニアも温泉好きだろ?」

「そうじゃけど……」

 フラタニアはどことなく不服そうだったが、やがて諦めたようにため息を付いて「わかった」と呟いた。

「じゃあお世話になろうかな」

「やったー!さとり様とお風呂だー!」

 お空が元気に叫んでさとりを強く抱きしめる。ちょっと苦しそうではあるが、自分で解こうとは思わないらしく、お燐が来て引き剥がすまでそのままされるがままだった。

 後でお燐から聞いたのだが、さとりはペットに対して甘すぎて大抵の事を許してしまうそうだ。それにしても重くないんですかね。お空とかさとりより頭3つ分より背が高いと思うんだけど。

「これでも妖怪ですから」

「ああ、そういえばそうか」

 人間と変わらないように見えるから、つい人間の物差しで測ってしまうな。

「……通里さんくらいなら片手でも支えられるのよ?」

 俺はさとりより頭二つは高いし、そもそも男であるためさとりと比べればかなり重いはずだ。もし俺より頭二つ高い大男を持ち上げられるかと問われればそれは無理な話だ。鍛えればどうこうできるなんて次元を超えている。

 いや、待て。

「今、さとりは『支えられる』って言わなかったか?」

「そうだったかしら?」

 雑にはぐらかされてしまった。確かに女の子で力持ちなのをアピールするのはそんなにいい気はしないのかもしれない。まあ、この体格差を支えられるだけでも結構な力があると思うけれどね。

 そんなこんなで妖怪の力について話しながらお燐の先導で地霊温泉と呼ばれる施設までやってきた。日本の古き良き旧家のような外観で庭園までついた立派な建物で、思わず感嘆の声が漏れる。これは素晴らしいという他ないだろう。

 ウキウキとした俺の心でも読んだのかさとりがくすくすと笑いながら「中へ」と誘導した。内装も正しく古民家そのもので、時代を感じる見た目ながらにどこか懐かしさと安心感を醸し出す空間が広がっていた。

「まだ温泉にも入っていないのに、こんなに楽しんでもらえるなんて鬼の皆さんも喜ぶと思うわ」

「じゃあここを作ったのは鬼なのか……。へぇー……」

「旧都は建造物の損壊もよくあるのだけれど、その度に直しているのも鬼よ」

 この地底では鬼が大工仕事をするようだ。

「報酬もお酒を用意するだけだからとても助かるわ」

「なんか黒いな」

「そんな事ないわ。そんなことより脱衣場はこっちよ」

 またしてもはぐらかされた気はするが、わざわざ藪を突くのも馬鹿らしいので素直に暖簾(のれん)をくぐると、棚と籠の並んだ銭湯の脱衣場のような部屋に繋がっていた。

「貸し切りなんで、好きな籠を使ってください!」

 っておりんは言うけど、俺は男だぞ。お空が服を脱ごうとしてるってことは、ここって女湯じゃないのか?

「ここは混浴なのか?」

「違いますが、貸し切りですから気にしないでください」

「……男湯はどっち?」

「別に私達は気にしませんよ?」

「俺が気にするわ!」

 美少女に囲まれて混浴とか頭がどうかしてしまう。現にお空なんか早速服を脱ぎ散らかして、その豊満な胸を一切隠そうとすることもなくさとり達が脱ぎ終わるのを待っているのが視界の端に見える。見ないように意識はしているが無理な話だ。意思に関係なく目が追ってしまう。

「じゃあ、男湯(向こう)で私と一緒に入ろうよ」

「ああ、そうするか()()()

 なるべくお空の方を見ないようにしながら、そそくさと逃げるようにして女湯の脱衣場を抜け出して、廊下の先に見える青い暖簾のかかった部屋に入る。

 女湯の脱衣場と同じような間取りで、同じようにロッカーと籠が並んでいた。違うとすれば女湯の脱衣場には洗面台の前に化粧品らしきものが複数あったが、こちらにはちり紙とドライヤーのようなものがあるだけ。って、これじゃ女湯の観察をしてたみたいじゃないか。まぁ否定はしないけど。

 背も女性としては高めで足もすらっと長く胸まで大きい。性格こそ子供のようではあるが、外見だけならお空はモデルのような体型だ。お燐もお燐でキリッとした猫目なのに、どこかあどけなさが残る顔立ちで可愛らしく、さとりも初めは中学生くらいの女の子のようにしか思わなかったが、今はお姉さんのような安心感がある。

 心を読まれているはずなのに嫌な感じもしない。むしろ、気の使い方が上手く心地よさまであるほどだ。紅魔館の美鈴も気遣いが上手だが、それとも違う良さがある。本人は読心が相手にとってあまり良く思われない能力だと思ってるみたいだけど、少なくとも俺は好きだな。なんと言っても言わずに伝わるのは楽だ。まだ知り合ってから二日しか経ってないけどな。

 ところでなんだが、お空にしろ、お燐にしろ、さとりにしろ肌が凄く綺麗な気がするのだが、温泉の力だろうか?

 中でもお燐は断トツで綺麗だと思う。恐らく手入れをしているのだろうが、綺麗過ぎて羨ましさすら覚えるね。さとりも()()()の様にもちすべ肌っぽいし。

「お兄ちゃんっ!手が止まってるよ!」

「ああ、すまん」

 そういえばさとりが膝に乗ってた時、ここの備置きシャンプーと同じ匂いがしたな。

 ……いかん。このまま考えていると危ない事まで考えてしまいそうだ。それもこれも、外見と中身のギャップがあるせいだ。あんなに一緒にいて安心できるなんてずるい。俺はロリコンじゃないってのに。

「お兄ちゃん!!」

「……」

 あれ?

「もう!手を止めないでって言ってるでしょ!」

 俺は何をしてるんだ?なんで、こいしの髪を洗ってるんだ…?

「ん!」

 こいしが頭を差し出してくるので、慌てて手を動かす。さほど長くないにしろ、量のある髪は泡でモコモコになっており、ずっしりとした重さもある。

「なぁ、こいし」

「なーに?」

「いつから一緒に居たんだ?」

「いつって最初から居たよ。背中流しっこしたでしょ」

 全く記憶にございません。意識の外、無意識の中に居たのだろうか。

「……髪を流し終えたらさとりの居る女湯へ戻ってくれ。いいな?」

「えー」

 えー、じゃないんだよ。えー、じゃ。一緒に入っていい見た目じゃないんだよ。と言うかタオル巻けよ。髪を洗ってるのに迂闊に視界に入れられないだろ。

「いいから戻れ」

「はーい」

 思ったよりすんなり帰ってもらえるようで良かった。あまり長く居るのは俺の精神上よろしくない。

 しかし…、ふむ、こいしもあどけない顔や背丈で子供のような印象があったが、それなりに成熟した身体ではあるようだ。実際、見た目より生きているのだろうし。

 妖怪ね。人間(俺達)とそう変わらない様に見えるんだけどなぁ。

「よし、泡流すぞ。目を瞑って耳をたたみな」

「はーい」

 頭を突き出しながら耳に手を当てたこいしの上から、桶に入れた湯をゆっくりとかけていく。当然、熱くない事は確認済みだ。

 何度かお湯をかけて、しっかりと髪の内側の泡を洗い流してから頭を上げても良いと伝える。するとこいしは犬のように頭を振り回して水を飛ばした。当然、真後ろに居た俺はその水を全身に受けた。こいつめ…。

「さっぱりしたー!お兄ちゃん髪洗うの上手だね」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、水飛ばさないで…。眼鏡がなかったら目に入ってたかもしれないだろ…」

「えー」

 えー、じゃない。

「もういいや…。とにかく女湯に戻ってくれ…」

 そう言ったものの、こいしは出ていこうとせず、なんとか説得するのにかなり苦労してしまった。ほんと、頼むから羞恥を持ってくれ。妖怪だからとか、女性の実力者ばかりだから男が気にならないとか、そういう問題じゃない。温泉で身体を癒そうと思ったのに、かえって精神をすり減らすとか勘弁してほしいんだよ。

 眼福でしたけど!

「酒飲も…」

 実は、貸し切りの温泉に入るにあたってさとりにお願いしたことがある。それはお盆に乗せたお酒だ。日本人の大人なら温泉に浮かべて温泉と酒を同時に楽しむ事を一度は夢見たことがあるだろう。

 本当は温泉によって血行促進された状態でお酒を飲むのは身体によくないらしいが、それでもやってみたかった。

「しっかし、露天風呂まであるんだな。いや、露天でいいのか?洞窟風呂か?」

 非常に広くヒカリゴケによる明かりもあるため解りにくいが、ここは地の底だ。当然ながら天井だってある。が、気分的に露天ならそれでいいか。うん、露天風呂だな。

 柵に囲まれているため景色なんかは見えないが、温泉とお酒があるだけで最高だ。

 最高なのだが、

「いかん、これは回る」

 思った以上に酔いが回るのが早い。元から弱いってのもありそうだが、温泉に浸かりながらだとここまで早くなるなんて知らなかった。

「大丈夫?」

 不意に、もたれていた柵の向こうから声が飛んでくる。

「さとりか?」

「ええ、露天風呂の方へ出てきたのは気づいたから柵の裏に居たのよ。お酒を飲んでいるんでしょう。心配だったし」

「まさかと思うが、柵越しに俺の心を読んでるなんてこと無いよな?」

「流石に無理だから安心して」

 とは言ってるが、ちょっと信用ならないよな。

 そのまま会話が途切れ、しばらくの間は温泉が流れるちょろちょろという音だけが響いた。やがてその静寂を切るように柵の向こうから、

「通里さんには感謝してるの」

 と聞こえた。

「藪から棒にどうした」

 さとりは問いかけに答えること無く、少しの無言の後に、

「……ねえ、通里さん。通里さんは読心についてどう思うかしら」

 そんな事を聞いてきた。まったく、本当に藪から棒だな。

 読心、文字通り相手の心を読む能力。悟りの妖が元より持つ固有能力だ。心を読まれるなんて、普通は嫌悪を覚えるのだろう。そして思ってしまったら最後、どんなに表面を取り繕おうが心を読めるさとりは一瞬でそれを理解してしまう。

 試されてるのかな。

「俺は別になんとも思わないな。強いて言えば羨ましいよ。俺は人に合わせるのが苦手だし、相手の考えて居ることもあまり察せれないからな」

「嫌じゃないの?」

「そんな常日頃から読まれて困るような事を考えてないよ」

「そういう問題じゃないと思うんだけど……」

 さとりの返答は歯切れが悪く、俺が求められてる答えを返せていないのだろうと思った。とは言え、他になにもないんだけど。本当に心を読まれることに関しては格段何も思わない。問題ごとは多そうだが、それを補って余りある能力ではあると思うし。

「さとりも言ってたじゃないか『心を読んで嫌がらせをするなんてしない』って」

「あっ…」

「それどころか心を読むことで細かく気配り出来てるみたいだし、それは悪い使い方じゃないよ。だから嫌って事はないかな」

「……」

 俺の答えが正解かは判らない。でも、間違いなく俺はそう思っている。

 第一、読まれるのを強く嫌がるって事は自分から後ろ暗い事を隠してますって言ってるようなものだ。そりゃあ、俺だって秘密の一つや二つあるけれどさとりなら読んだとしても滅多な事はしないだろう。

 さとりは家族思いのとても優しい少女である。これは昨日の会話や、今日の会話などで確かに感じた事だ。

「まぁ、なんだ。そんな卑下になるなよ」

「……ふふっ」

「お、おい。笑わないでくれよ」

「通里さんは変わり者ですね」

「否定はしない。でも他人を気にしすぎるさとりも十分変わり者だよ」

「そうかもしれないわね」

「お、素直だな」

「誰かさんを見習ってみようかと思いまして」

 話の流れ的に“誰かさん”って俺のことだと思うんだけど、俺ってそんなに素直か?それとも霊夢のことでも指してるのだろうか。

「……解ってると思うのだけど、誰かって貴方の事よ?」

「大丈夫だ。俺はラノベの主人公みたいな鈍感さは持ってない。っていうか壁越しじゃ心は読めないんじゃなかったのか?」

「読めなくてもそれくらいは解るわよ。何年覚り妖怪やっていると思ってるのかしら」

 なるほど、人の心の動きをずっと見てきたから、たとえ読まずとも予測が出来るのか。幻想郷の中には念話と呼ばれる術を使う者も居るみたいだし、式を使う者だっている心を読む相手がその場に居るとは限らない。となれば後は経験が頼りって訳だ。

「強いな。さとりは」

「これでも旧地獄を統べる地霊殿の主ですから。見た目で判断されたら困るわ」

 そうだな。さとりは見た目通りじゃない。本当に痛感させられるな。

 俺は口角が少し上がるのを隠すように猪口(ちょこ)を口元に当てて一気に煽る。丁度、その時だった。

「――!」

 ヒヤッとした白いものが俺の鼻先に触れたのだ。

「雪…か……?あれ、でもここって」

 地底だよな?

 そんな疑問に対してさとりは、

「雪くらい降るわよ。冬なんだから」

 そう言った。

 そう言われれば、そら冬なら……とはならんだろ。地底洞窟だぞ。あ、いや、でもここまで広いと雲も出来るのか?地底は灼熱地獄の熱がなければ寒いみたいだし雪も降るのか…?

「なんとなく考えてることが解るのだけど、地底にも四季はあるわよ。流石に旧都から離れた所は夏でも雪が降る場所はあるけれどね」

 一体どういうことなんだ。

「これは、守谷の巫女が言っていたことなのだけど、幻想郷では『常識に囚われてはいけない』のだそうよ」

 それは何となく分かるかもしれない。魔法にしろ妖怪にしろ常識の外にあるものだ。今は折角の雪だ風流だなくらいに思っておけばいいだろう。

「さて、私はそろそろ上がるわ。通里さんを待ってて随分と長風呂してしまったし」

「それは悪かったな。俺はもう少し浸かってくよ」

「お酒も飲んでいるのだから早めに上がってね。嫌よ。昨日の今日で貴方をお燐に運ばせるなんて」

「気をつけるよ」

 異変は解決した。しかし、俺にとってはこれからが大きな問題だ。

 昴と鈴はすでに会っていた。そして今回の異変を通じて好杏とフラタニアにも出会えた。俺が妄想で描いていた創作物(キャラクター)達。

 僕は彼女達を向き合わなければいけないだろう。俺が幻想郷に来た意味。きっとそれにも通ずることだから。

 あーいかん。酔いが回っているのかどうにも思考が偏る。……仕方ない。上がるか。

 一抹の不安を乗せてそっと付かれたため息は温泉の湯気に混じって消えた。

 

 

 

……To Be Continued

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