自分の妄想と幻想入り   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

16 / 18
大変おまたせしました。


裏1章~記憶が形取る者~
第1話~その日、何が起きたか~


 目が覚めると、俺は辛気臭い河原に佇んでいた。

 河原にしては人も多く一見すればお祭りでも有ったのかと思うほどだ。だが祭りにしては華やかさの欠片もなく、そこらに見える人影もほとんどが子供のもの。

 しかも皆、一様に暗い顔で石を積んでいる。

「―っ!」

 ふと隣を横切ったその影に俺は戦慄(せんりつ)した。

 その肌は赤く、体躯は2(メートル)を有に超え、なによりその頭には角が日本生えていた。

 鬼。

 そうとしか思えなかった。

 フルスロットルで脳内が回転していく。日本人なら少なからず知っている。

 賽の河原。親より先に死んだ子が地蔵菩薩(じぞうぼさつ)に助けられるまで延々と石を詰む。辺獄、地獄の端っこ、三途の川の畔だったか。

「…ってことは俺も死んだのか?」

 そう思ったが、そこらをうろつく鬼達は誰一人として俺を見向きもせずに子供達の詰む石を気怠そうに蹴飛ばしていた。

 鬼に話しかけるのは怖いので石を積む子供にそれとなく話しかけてみるも、反応がない。あまりにも無視されるので子供の肩を揺らそうと腕を伸ばすと、その腕は子供をすり抜けた。

「な…!?」

 絶句。

 理解のできない光景に俺は数秒の間固まった後に腕を引き戻し何度か手を握ったり広げたりする。

 そして確認するようにもう一度腕を伸ばす。だがやはり腕は子供の肩をすり抜けてしまった。

「なんで…!?」

 理解不能からくる(いきどお)りをぶつけるように子供の積んでいる石の山に向かって思い切り蹴りを放つ。

 その蹴りもまるで暖簾に腕押しをしたようにすり抜け、俺は自らの蹴りの勢いを殺せずに後ろに向かって倒れた。

 思い切り後ろから倒れ頭を打ったにも関わらず痛みはなく、代わりに一瞬だけここではないどこかの景色が見えた。

 鬱蒼(うっそう)とした森、暗くジメっとした雰囲気の景色が。

「くそっ!」

 イライラが治まらない俺は自分の頬を思い切り叩く。

 ―パァン!

 と小気味いい音が響いた。

 やっぱり、痛みは無い。音に反応する者も居ない。

「ああああああああああああああ!!!!」

 天に向かって吠える。

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…ぁぁ…ぁ………」

 息が持たなくなるまで声を張り上げ。全ての息を吐ききってから両手で頬を張り、なけなしの気力で冷静さを持ち直した俺は、先程見えた森を目指してみることにした。

 何もわからないのなら、何もわからないからこそ、せめての情報を頼りに。

 俺の知識が間違っていないのなら賽の河原と言うのは現界(うつつ)から三途の川を渡った対岸だったはずだ。

 合っているか不安だが、もしこちらの河原が現界側だとしたらどこかしらに奪衣婆(だつえば)や、亡者が居ないとおかしい。だからこちらがあの世(死後の世界)で良いはず。

 誰に問いかけるわけでもなくそう言いながら俺は畔を歩き、水面を見ながら橋渡しを探した。

 程なくして接岸している船を見つけ、俺は飛び乗った。船頭さんは女性で死神の持っているような大きな鎌を持っていた。

 彼女もまた俺に気づくことなく、しばらく待つと船を出した。

 これは非常にどうでもいいことなのだが、彼女の胸はとても豊満で胸元のあいた着物が更に強調させていて川を渡っている間は船も揺れるし胸も揺れるしで心が落ち着かなかった。

 そんなこんなで川を超えた先には、俺の予想した通り亡者らしき人の列と、賽の河原で見た鬼よりも大きな婆さんと爺さんの姿があり、考えが合っていたことに安堵の息が漏れた。

 剥ぎ取った服を木に掛けている辺りあの婆さんが奪衣婆なのだろうが、あまりにも大きい姿にしばし開いた口が塞がらないまま立ちすくむ。

 後に知ったが、一緒に居る爺さんは懸衣翁(けんえおう)と言って、奪衣婆が亡者から剥いだ服を衣領樹(えりょうじゅ)と呼ばれる木にかけて亡者が生前に溜めた(ごう)を測るのだそう。

 その業に合わせてあの世での待遇が変わるのだとか。

 そして、もし亡者が服を着ていなかった場合。奪衣婆は亡者の皮を剥ぐのである。

 そんな事は全く知らなかった俺は目の前で亡者が皮を剥がされ、肉が露出する様を見てしまった。

「うぷっ…!」

 見た瞬間に猛烈な吐き気、恐怖、嫌悪などが入り混じった感情、感覚に苛まれ河原で思い切り嗚咽を繰り返す。しかし、腹のものが出ることはなかった。

 その後は虚ろな気分のままフラフラと、そこから離れるように歩いて気付いた時には縁日のような屋台村の真ん中に立っていた。

 先程までの鬱々しい空間とは打って変わって華やかな空間が広がり、辺りにはソースの焦げるいい匂いで満たされている。

 ―ぐぅ~…

 気分が悪いことなどお構いなしに腹が鳴った。

 お好み焼き、たこ焼き、イカ焼き。どれもとても香ばしい香りが鼻をくすぐってくる。

 だが、ホルモン焼きらしきものや串焼きを見た瞬間にまた先程の光景がフラッシュバックして嗚咽を呼び起こした。

 一瞬で食欲は消え失せた。…そもそも意思疎通ができないから買えないんだけど。金もないし。

 認識されないならつまみ食いでもできそうだと思うかもしれない。でも屋台も人も身体をすり抜けるのだから無理な話だ。

 多分、実体がないんだろう。ならなぜ腹が鳴るのかって?そんなのは知らん。

 とにかくここに居ても腹が減るばかりなので、とりあえず目の前に見えてる山、死出の山?かどうかは知らないけどそこへ向かうことにした。

 そして縁日の端っこまでたどり着いた辺りで、

「そこのお兄さん」

 と話しかけられた。

 声のした方を見ると、ただでさえ暗い縁日の端の更に暗がりに机を起きローブで身体も顔も隠した怪しいやつが居た。声的にかなりお年を召していそうだ。

 話しかけられた気がしたのだが、俺は誰にも見えないはずだし俺ではないかもしれないと思い周りに他の人が居ないか見渡してみるが、縁日の端ということもあり人影はまばらで声の方向からしてもやはり俺へ向けられた声な気がする。

「俺がわかるのか?」

 我ながら厨ニめいた台詞だと思うがそういう他しかなかった。

「…すまないが、なにか言ってることは判るのじゃが、とても気配が希薄で何を言ってるか全然わからんわい。もっと近くへ来ておくれ」

 なんと返事が帰ってきた。

 俺は言われたとおりに、近づいてもう一度話しかけてみるとようやく「ああ、なんとか聞き取れるわ」と返事が帰ってきた。

「なんとも妙ちくりんなやつじゃの…。よくもまあ思念だけで存在していられるもんじゃ」

「はい?」

「気付いておらんのか」

 全身ローブの奴に妙ちくりんって言われるのも甚だ心外だが、そんなことより気になったのは思念という言葉。

 俺はてっきり霊体みたいなものかと思っていたが、思念と来たか。

「お前さん、折角だから少し占わせい」

「なんだ。あんたは占い師か。残念だけど金は持ってないよ」

「ふぉっふぉっふぉ。金は取らぬわい。そもそもここは亡者どもがごろごろしておるんじゃぞ。金なんざ持ってても六文銭じゃ。そんな端た金いらんわい」

「そう言われてもなぁ…」

 俺、占いとか信じてないし。

「お前さん、自分の身体を探しているってところじゃろ?探してやろうか」

「…まあ、金取らないって言うなら」

「よし来た。お主の名前は?」

通里恭也(とおりきょうや)だ」

「ふむ、変わった名じゃの」

「名前のことは俺じゃなくて親に言え、親に」

 占い師が水晶に手を当て、ブツブツと呪文のようなものを唱え始めると水晶がぽーっと暗がりを照らすように光りだした。

 水晶で占いとか定番すぎるなぁ。

「なんともまぁ、妙ちくりんじゃと思って居ったが、これまた妙ちくりんな運命しとるのう…」

「さっきから失礼すぎるぞ」

「お主の運命が妙ちくりんなのが悪いわい。まずじゃがの、お主は子供とかおるかの?」

「居るわけねぇだろ。まだ二十歳だっつの」

「…二十歳ならいる人は要ると思うがの」

 ほっとけ。

「まあええわ。どのみち大きな子供が要る歳ではなさそうじゃしの。4人ほど見えよったわ。天使に精霊に仙人に妖魔じゃぞ。お主何者じゃ?」

「何言ってんだ」

「お主の運命じゃよ。お主の子がこの幻想郷の禍根(かこん)となりて、災い(きた)る。そんなものが見えたもんでな。まあ精々巫女には気をつけるんじゃな」

「だから何言ってんだ。俺は言っちゃ何だが童貞だぞ。子供なんか居ないし、天使だの妖魔だの訳のわからんことを言いよってからに」

「…本当に心当たりは無いのか?お主の子と出ておるのじゃがな」

「無い」

 やはり占いなんぞ当てにならん。…俺の子といえばオリキャラは居るけど天使でも精霊でも仙人でも妖魔でもないし。

 確かに4人だけど、確かに“俺の子”って言うこともあるけどさぁ。

「ふむ…。まあそのうち分かるじゃろ。折角だからお主のこれからも占ってやろう。わしは元々水晶よりタロットのほうが本業なんじゃ」

 なら始めからタロット使えよ。そう思ったがもうなんか面倒くさいので好きにしてって感じだった。

 気力もごそっと持っていかれて、こっから山に行きたくないなぁなんて考えていた。

「…見えん」

「あっそう。じゃ、俺行くから」

「待て待て待て、何も何も見えなかったとは言っておらんじゃろう」

「わかったから早く話してくれ」

「完全に興味を失っておるのう…」

 元々占い師に興味ないんだよ。そう思ったがこれも言わないでおいた。

「簡潔に言うと、お主の過去については見えなかったのう。未来についてじゃが、お主は森へ向かっておったんじゃな」

「まあ」

「おそらく目的は達せられないとは思うが行ってみる価値はあるじゃろうな。もし達せられればそのまま、もしダメじゃったら人里で緑の剣士を探すとよいじゃろう。お主にとっての良縁があるはずじゃ」

 さらっと森に向かうことを言い当てたのは驚いたが、きっと占い師特有の思わせなんだろう。

「そうかい。まあ聞いてようが聞いてなかろうが森には行くつもりだから」

「ちなみにお主が行こうとしてる森へ行くためにはこの道を真っすぐ行って、山の(ふもと)で二手に分かれてる道を山と反対方向に進めば左手側に見えてくるぞい」

「解ったよ。あんがとさん」

「もし、また占ってほしくなったら人里でわしの名前を出すとよいじゃろう。今更じゃがわしは“センケ”と言うものじゃ」

「はいはい。じゃあなセンケさん」

 占いを信じるかはさておき、俺は歩き出した。

 暫く進むとセンケの言っていたように山へ向かう道と反対に伸びる道の二手に分かれたところにぶつかり、ひとまず山と逆へ進んだ。

 すると確かに左手側に森が近づいてきた。そしてその道の正面には人里らしきものも。

 もしダメなら人里で緑の剣士だったか?なんていうか胡散臭いな。

 なんて思いつつ俺は道から外れ、森の方へ歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued




裏1章いかがでしょうか?
今回、ピクシブでは3章にしてた話を先に持ってくることにしました。
というのも、恭也に関しての謎や私にとっての幻想郷観というものを表すには、こっちの裏に触れざるを得ないと思っているので。
なので、こちらでは表で恭也が動いてる間に、裏で何が起きていたのか、異変はなぜ起こっていたのか、そういったものをかけたらなと思ってます。

ではまた次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。