自分の妄想と幻想入り   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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戦闘描写を加筆したつもりなのになんか物足りない。
ああ、今回は二次創作ネタのキャラが出てくるんで、苦手な方は気をつけてください。


第七話〜黒い影〜

 

 黒い気を纏った攻撃により、辺りには惨状が広がっていた。

 だだっ広い広場には大きなすり鉢状の窪みが作られ、周囲の家屋は見るも無残に崩れ、その瓦礫からは鬼をはじめとする妖怪たちの身体が見え隠れしている。

 妖怪であるが故に生きてはいるようだが、とても無事とは思えない。

 広場の周囲から様子を見ていただけの彼らですらそこまでの被害を食らう不意打ちで爆心地に近く、しかも人間の俺なんかは消し飛んでもおかしくなかった。

 だが、どうやら俺は意外と悪運が強いようだ。

「まさに間一髪ですね。張り込んでいて正解でした」

 爆発の後の静寂に淡々とした声が響く。

 その声の主は俺たちとお空の間に割って入り、こちらに背を向けたままお空に対して弓を番えていた。

 全身を黒くて少し野暮ったい服装に身を包み、濃紺に金を散りばめた夜空の星々のような長弓を持つ長身の女性。

 一見すると男性と見紛いそうなこの人物を俺は知っている。

 まだ会ったことはなかったけれど、フラタニアや鈴のように俺が描いていた妄想の一人。

「まったく、ようやく会えたというのに、行くとこ行くとこ問題しか起きませんね」

 悪態を吐くわりにその声は落ち着いており、何処と無く余裕があるように思えた。

「もしかして…好杏なのか……?」

「えぇ、もしかしなくてもマスターの忠実なる下僕。響代好杏がマスターのピンチを嗅ぎつけて馳せ参じましたよ」

 好杏の声に応じたようにふわっと暖かな風が頬を撫で、どうして俺が助かったのか理解した。

 『設定』上、好杏は風魔法のエキスパートであり、その魔法は攻撃から防御、飛行や回復に至るまで何でもござれな性能を誇っている。

 おそらくは、その風の魔法で爆風を相殺でもしたのだろう。

「…あの、そろそろ離していただけないかしら?」

 不意に、自分の胸元から声がしてハッとする。

「ご、ごめん。すっかり忘れてた…」

「いえ、助けようとしてくれて嬉しかったわ」

 爆発の寸前、手が届く範囲に居たさとりの手を引いて庇っていたのだが、あのまま抱き抱えていたら事案発生とか言われてしまうところだった。

「通里さん。あの人は?」

「フラタニアと同じ俺の妄想から産まれた奴。名前は好杏(このあ)だ。魔法と弓術に長けた超絶万能な奴さ」

 所謂、“ぼくのかんがえたさいきょうのキャラクター”が好杏である。

 そうしてさとりと話してる間に霊夢達は散開してお空を取り囲んでいた。

 これならどの方向にも逃げられないだろう。

「……」

 お空は囲まれているにも関わらず微動だもしないで、ただボソボソと何かを呟いていた。

 全員が間合いを取ったまま動かずに様子を見る中、フラタニアが初めに動いた。

 ギュンッ!と言う風を切る音と共に一瞬でお空の懐に入り込み、おおぶりな剣をお空の棒に向かって振り上げる。

 腕に嵌められているためか、お空の腕から棒が外れることはなかったが、棒と一緒に腕も跳ね上がり無防備な姿を晒してしまう。近接戦闘に特化したフラタニアがその隙を逃すはずもなく、剣を振り上げたまま無防備な胴に膝が叩き込まれる。

 その威力はお空の体がくの字に曲がって吹っ飛んでしまうほどだった。

 更に、計算されていたのか偶然なのかは判らないが、吹っ飛んだ先には、

「大人しくしてることね。『霊符:夢想封印』」

 遠目からでも解るほど邪悪に笑った霊夢がスペカを掲げていた。

 発動したスペルは霊夢の十八番、夢想封印だ。大量の札型弾幕がお空を取り囲み、カラフルな玉型の弾幕が吸い込まれるようにお空にあたっていく。

 その光景を見た俺は、少しだけ「やり過ぎじゃないか」と思った。

 いくら力の影に取り込まれているからって、元はさとりのペットの女の子じゃないか、と。

 でも、それは間違いだった。

 フラタニアにぶっ飛ばされ、霊夢のスペカをモロに喰らい、地に落ちようとしているお空は、何事もなかったかのようにふわりと体勢を立て直した。

 それでもお空は反撃してくる訳でもなく、やはり何かをブツブツと呟いているように見えた。

「お空には悪いけど、そんな危険な物を放置するわけにも行かないんでな。少し大人しくしていてもらうぞ!」

 今度は勇儀が飛びかかり、無表情な彼女の横っ面を思い切り殴り飛ばした。

 抵抗どころか勇儀の事を見すらしていないお空はまるでバトル漫画のように吹き飛んでいく。

 それだけでは終わらずに勇儀は吹っ飛んだお空に追いつくと、その足をひっ掴みグルグルと回して勢いをつけてから上空の萃香に向かってぶん投げる。

「「鬼の一撃、受けてみろ!!」

 投げられた先で萃香は待ってましたとばかりに身体を捻りながら下降し、それに合わせて勇儀が空を蹴って蛇の如く飛び上がった。

 お空の身体を挟むようにして萃香の空中かかと落としと、勇儀の昇竜拳が同時に叩き込まれる。

 パァン!と弾けるような音と一瞬遅れて空気が揺れた。

「なっ!?」

「おいおい、嘘だろ?」

 それでもお空の体は傷一つ無いままふわりと立て直す。

 しかし、今度は何かを呟く様子を見せずに代わりにその腕についた棒、制御棒―核融合の力を使うための道具らしい―を頭上に掲げて黒い玉を打ち出した。

 あの爆発を知っている以上、放っておくことも出来ずに全員で玉を止めにかかる。

 しかし、黒い玉は弾幕を打ち込んでも斬りかかっても射抜いても爆発すらしなかった。

 一番戦力にならない俺は、思考を張り巡らせながら周囲を見る。

 玉は地底の天井まで距離があるとは言え、全員で手当たり次第攻撃を打ち込んでも何も起きやしない。

 このまま天井に当たって爆発、するのか?

 そう訝しんだ俺はお空の方を見る。

「居ない!?」

 先程まで確かに下に居たお空の姿が消えていた。

 焦る気持ちを押さえながら冷静に辺りを見ると、地上へ続く長い縦穴がある方角に飛んで行くのをなんとか捉える。

 それを見た俺は直感的に叫んだ。

「その玉は囮だ!」

 俺の叫びが響き、それを聞いたみんなが俺の指差す方向を見る。

 おかしいと思ったんだ、あれだけ攻撃を叩き込んでもゆらぎすらしない。まるでそこに無いみたいに(・・・・・・・・・・・・)

「お空を追おう!」

「でも、これはどうするのよ!」

 霊夢の疑問は最もだ。もし爆発でもすれば大惨事は避けられない。でも、俺には確信があった。

「その球体は実体の無いただの影(・・・・)だ。俺たちを釣るための!」

「そ、そうは言われても……」

 さとりも不安そうな声を上げる。

 おそらく俺の心を読んで嘘ではないと解っても、信じ切れないのだろう。信頼とかそういう問題ではなく、地底を預かる者として疑わずにいられないのだろう。

 だから俺もしっかり証拠を見せなくちゃ行けない。

「好杏。光系の魔法で玉を照らしてみてくれないか?」

 俺の直感が正しければ、きっとこれで消えるはずだ。

「解りました。『光輝:知識と光の雨』」

 好杏にお願いすると、一変の疑いもなく即答して魔法の発動を宣言すると、弓を引いて矢を撃ち出す。

 一筋の光の矢が玉を通りすぎて空高くで激しく輝き、その輝きの中心から玉に向かっていくつもの矢が雨のように降り注いだ。

 そしてその光の雨に照らされた玉はその形が揺らぎ、そのままひかりに溶けてしまった。

「き、消えた!?でもどうして!」

 考えが的中して鼻高々な俺はドヤ顔で不思議そうに叫んだ霊夢に言う。

「力の元が吸血鬼なんだし光に弱くてもおかしくないだろ」

「…なるほどね。盲点だったわ」

「納得してないで追ったほうがよろしくないですか?」

 折角の見せ場だったのに思ったよりみんなの反応が薄くてちょっと残念だが、さとりの言うとおりお空を追わなきゃ行けない。

「私は、旧地獄の管理責任がありますのでついていくことは出来ませんが…、その、お空の事をよろしくお願いします!」

 さとりは目一杯頭を下げてお願いしてきた。

 楽観的に見ても旧都の被害は大きく、また事態が収束していない事からしても今ここから離れるわけにはいかないのだろう。

 そうでなくても小さい子がこうして頭を下げてきたんだ。それに答えないなんて、男じゃなくても人が廃るってもんだ。

 どうやら気持ちは皆同じようで、

「勿論よ。異変を解決するのは博麗の巫女の仕事なんだから」と、霊夢。

「妾に任せておくのじゃ。烏も異変もまるっと解決して見せるのじゃ!」と、フラタニア。

「まあ、事情は知りませんが、あの少女には非がないようですし、なんとかしてみます」と、好杏。

 みんな一言ずつ言うと地上へ向かって飛び立った。

 俺も何か気の利いたことを言いたかったのだが、いい言葉が浮かばなかったので、短く「任せとけ」とだけ言った。

「通里さんも、無茶しない程度にがんばってね。…その、戻ってきたらまた膝に座らせてくださいね?」

 まったく、昔から子供にはよく好かれるな。なんて思いながら頷いて霊夢達の後を追った。

 さらっと死亡フラグが建てられた気がしないでもないけれど、意識しないことにしよう。

「本当は子供扱いしないで欲しいのだけど…」

 去り際にさとりがつぶやいていたのだが、すでに距離が離れていた俺の耳には届かなかった。

 霊夢達に追いつくために自分自身を暴風でふっ飛ばして強引に追いつく。

 少し制御を間違えて通り過ぎる所だったのだが、好杏が上手いこと風を操ってくれたおかげで立て直すことが出来た。

 それだけでは無く俺の飛行をアシストまでしてくれる。

 俺が考えておきながら言うなって話だけど、風の力便利過ぎません?

 そうして、行きとは比べ物にならないくらいスムーズに飛ぶことが出来た。

 道中、好杏がどうして旧地獄に居たのかを聞くと、頭痛と共に俺とフラタニアのヴィジョンが見えて、それを確かめるために来たらしい。

 地上の紅魔館でも旧地獄と同じように大量の分身体が現れ、それを倒した後に黒くて実体の無い竜巻が発生したようだ。

 俺の持つ記憶とも一致する。なにより、俺と同じ事が好杏にも起きて居たのは興味深い。

 テレパシーに似ている気がするが、お互いに見たのは他人の記憶ではなく第三者としてのもの。

 そもそもテレパシーの『設定』なんてつける前に痛すぎて消したはずだ。

 俺の記憶や好杏の話を纏めた俺らは、

「だとしたらお空は、紅魔館に向かったのかもしれないわね」

 と言う答えを出して一同は更に急いで紅魔館へ向かった。

 

 ***

 

 教師と言うのはやっていると案外楽しいもので、教えれば教えるだけ知識を吸い込んでいく子供達に自然と笑みが溢れる職業だ。

 もちろん、子供はヤンチャな物だから喧嘩があったり、おふざけが過ぎたりする事はある。

 それでも子供と言うのは可愛らしいものだと思う。

 今は寺子屋にいるのだが、今日は寺子屋も休みで授業があったわけではない。

 昨日から受け持つことになった妖怪や妖精だけの特別教室のために朝から慧音と二人で準備をしているだけ。

「すまないな。折角の休みなのに」

「別に構わないよ。どうせ阿求の家でごろごろさせてもらおうと思ってただけだし」

 慧音は私を新クラスの担任に抜擢してくれて、更に準備まで手伝ってもらってる。

 里の人に私を受け入れさせたのも一重に慧音の人望あってこそだ。

 ほんとこの世界で慧音に会わなかったらどうなってたことやら。

 この幻想郷に来てから慧音と妹紅に世話になりっぱなしの私は少しだけ出会わなかった場合を想像して、思いつかずに苦笑する。

 使うための教材をあらかたまとめ終えた頃、慧音が「そういえば」と話を切り出してきた。

「昨日、一発目の授業はどうだった?なかなか個性的な奴が多くてびっくりしただろう」

「そうだね。……強いて言えば、あのチルノって氷妖精は扱いが難しいかな。上手く抑えてあげないと授業が進まなそうだ」

 昨日は軽い挨拶とオリエンテーションくらいしかしてないのだが、そのチルノは終始慌ただしくしており、普段からずっとあの調子だとすると少し厄介かもしれない。

「チルノも悪い子では無いんだけどね」

 そう言った慧音も苦笑気味だったのを見て私は何かを察して話を聞く。

 どうやらルーミア、ミスティア、リグル、そしてチルノを含めた四人はバカルテットと呼ばれる問題児の集まりらしい。

 中でもチルノが筆頭で授業中に吹雪を起こしたり、氷を飛ばして遊んだりと自由な行動が目立つそうだ。

 咎めたいところではあるが、一応は妖精であり、更にチルノはその中でも別格に強いため人の教師だと負けてしまうらしい。

「それで、私か…」

「人柱みたいにして悪いな。と言っても適当に選んだわけじゃないぞ。妹紅との特訓を見ていて昴なら大丈夫だと思ったから推薦したんだ」

「大丈夫。誰も人柱とは思ってないよ」

 慧音はそういうことををする人じゃないとわかっている。

 ま、流石に満月の日の慧音を見た時はびっくりしたけどさ。

 この慧音と言う人物は上白沢(ワーハクタク)の血が混ざっている半人半妖で、満月の夜になると妖怪の血が騒ぎ、姿や人格が一時的に妖怪のソレになる。

 特に性格は非常に好戦的で私が相手をさせられた。

 妹紅も側にいたのだが「大丈夫だと思うけど、危なそうだったら助けるから好きにやってみるんだな」とか笑って私に押し付けてきた。

 そのうち、試合と称して仕返ししてやろうと考えている。

 お陰で新たな力と武器を得たけどさ。

 まだ使いこなせてないとはいえ、あんな無茶苦茶な物を頼んだ通りに作るなんて河童の技術ってのはすごいな。

 何やら内部機構はあの霖之助って男が作ったらしいけど、この辺に関してはこと現代よりよっぽど凄い技術あるんじゃないだろうか。

「よし、こんなものじゃないかな。どうだ慧音」

「…うん、いい感じだ。やはり昴は良いセンスをしてると思うよ」

 クラスの掴みに使うための自作のプリントを見せる。まあ、授業を兼ねてオリエンテーションの続きかな。

 少し、これなら授業しながら少しアクティブに動けるし、チルノも少しはなんとかなるはずだ。

 流石に吹雪とか起こされたら無理だが……。

「んー!なんとか昼前に終わったね。これなら昼過ぎからはのんびり出来そう!」

 グーッと胸を張るように体を伸ばす。

 そんな私を慧音が見つめてきた。正確には私の胸をだが、

「…なに?」

「なにって、相変わらず良い体付きだなぁと思ってな」

「まー、否定はしない。でも慧音には言われたくないぞ。身長と胸の比を考えれば慧音の方がボインちゃんだろ?」

 慧音は私より頭一つ小さいが、胸の大きさは私と大差無い。にしたって何食ったらそんなに大きくなるのやら。

 私は、ほら(あるじ)の『設定』で出来た体だからモデル体型だろうがなんだろうが、この姿で生まれたからさ。

「さぁな。だが人は無いもの強請りしてしまうものだろう?ところで、昴はお昼ごはん何にしたい?」

「それなら、最近評判になってる太陽の畑にある定食屋に行かないか?私はまだ太陽の畑も行ったこと無いしちょっと気になってるんだよね」

「私も聞いたことあるな。凶暴と言われる四季のフラワーマスターがウエイトレスをしているらしいな」

 四季のフラワーマスターって確か、太陽の畑に住むって言う妖怪のことだったかな。

 凶暴なのか。今度、阿求に詳しいことでも聞いてみようかね。

 慧音の方も明日の準備が終わったらしく、プリントをトントンと均してから机に仕舞いこむ。そういえば、今まで普通に使ってたけど、旧型とは言えコピー機があるんだな。紙はコピー用紙じゃないにしても和紙ってわけじゃないし。これも河童が作ったのかね?

「…センセーイ!…センセーイ!」

 片付けも終わり、軽い話をしながら寺子屋を後にしようとすると、空から私達を呼ぶ声が聞こえて振り向くと青いワンピース姿で羽の生えた少女が飛んできた。

 青いワンピースでチルノを思い浮かべたが、髪が緑だから大妖精かな。…そういえば彼女の名前はなんだろうか。

「先生!た、大変なんです。チルノちゃんが!チルノちゃんがぁ!!」

 慌てて降り立った大妖精は慧音の腕を掴むと錯乱(さくらん)した様子で引っ張りだす。

「落ち着いて、いいから落ち着くんだ。…何があった?」

 慧音が冷静に(たしな)めると、大妖精はぐずりながらもゆっくりと話してくれた。

 いつもどおりに霧の湖で遊んでいたら、紅魔館の方から黒い煙のようなものが見えて、何事かと近くに寄ったらその煙がチルノを飲み込み、チルノが突然暴れだした。

 ここまではなんとか聞けたのだが、大妖精は酷く混乱しているのか順序もまちまちで詳しいことがあまりわからなかった。

「…ランチはお預けだな。私は先に霧の湖に向かうから、慧音は大妖精を落ち着かせたら来てくれ」

「解った。無茶だけはしないでくれよ」

 頷いて返事をしてから、自身に掛かる重力を操作して地面を蹴る。

 私に元から『設定』されているお得意の重力魔法で自身を進みたい方向に向けて重力変化させ、自在に空を舞う。

 何年か前に空に落ちるなんてゲームが有ったが、それに似たようなものだと思ってくれていい。

 ようは飛んでるように見えるだけで、実際は空に落ちているってわけだ。

 別に重力魔法しか使えないわけじゃないんだけど、恭也はどうしても一本の能力を極端に強化する関係で他の属性はサブというか補助になりやすい。

 好杏の風魔法にしたって、もはや風魔法である意味を留めない物も多いし。

 そうして霧の湖に向かって落ちていき、その近くまでやってきた。

 様子がおかしい。霧の湖が見えたはじめの感想はそれだ。

 霧の湖は日中限定で酷い濃霧が発生する。

 前に紅魔館へ来た際も濃い霧の性で1メートル先が見えなかったほどだ。

 それが、今日に限って霧が一切なかった。

 湖の手前で一度止まり、様子を見ていると真下から赤い剣を構えて飛び上がってくるチルノを捉え、慌てて身体をひねり回避する。

 気づくのが後少し遅れたら当たっていたかもしれない。

 そのまま距離を開け、重力相違空間—次元の隙間—から最も使い慣れた太刀『死神の童子切(シニガミノドウジギリ)』を取り出す。

「……」

 相対しているチルノは、いつもの青いワンピース姿の上から体の右半分しかない黒いコートのような物を着用していた。

 チルノは意志の感じない真っ赤な瞳で剣を構えたかと思うと、スッと身体の輪郭がブレ、次の瞬間には私の目の前に立ち袈裟懸けに剣を振り下ろしてきていた。

 少し驚きはしたものの刀を使っていなし、そのまま剣を横に向かって蹴り飛ばす。

 いなしただけだというのに手がビリビリと痺れるほど重みのある一撃だった。

 だが、問題は大振りな事ではない。

 その剣は見るからにスイカバーなのだ。巨大なスイカバーで襲いかかられるなんて、なんか非常に屈辱的である。

「……!」

 しかし、チルノはそんなことお構いなしに赤い目を光らせて切りかかってくる。

 いくらふざけた見た目の剣とはいえ、その威力は馬鹿にならないほど強い。

 少し考えながら、何度か打ち合いをするがやはり無理があると判断を下す。

 このまま打ち合えば、刀が折れるかもしれないし、もし折れなくても落としてしまうかもしれない。

 再び重力の切り目を作って、死神の童子切を放り込み、代わりに私の新武器である大剣を取り出す。

 全長220cmほど、刃渡りは170cmほどもある。龍殺し顔負けのデカブツである。重さは300kg近くあり、重力操作抜きじゃ持ち上げることも出来ないような化け物のような武器。

 何回か打ち合っていると、武器が重いためか手が痺れる事もなく打ち合える。

 一見すると猪突猛進にも思えるチルノの攻撃は常にわたしの急所を狙っており、そのため受け止めるのは容易だった。

 次第に目が慣れ始め、脚の腱を狙った赤い剣線を打ち返すように大剣を振り上げる。

 するとお互いの剣がぶつかった瞬間にチルノの持つ剣がバラバラに弾けちった。

 これはチャンスだと思いすぐさま二撃目を入れようと、振り上げた勢いを乗せるように半身を捻って横薙ぎに振り抜く。

 例え殺してしまっても自然の象徴である妖精はすぐに復活する。

 荒治療かもしれないが黒い影とやらを引っ張り出すにはもってこいだろう。

 だが、私の剣は空を切った。

 目でしっかりと捉えていたにも関わらずチルノが忽然(こつぜん)と姿を消したのだ。

 そして次の瞬間、左肩に痛みが走った。

 よく見ると、先ほど弾けた剣が私を囲むように浮いていて、チルノが剣を持ち替えながら次々に切りかかってきていた。

 なんとか身構えて急所だけは守るが、今度は剣が大きすぎてガードが間に合わない。

 それだけではなく、今度は急所以外にも全身を隈なく狙って来ている。

 一撃ではなく手数で攻めるつもりなんだろう。

 じわじわと体のあちこちを切られてゆく。このまま無理に剣を持っていてはなぶり殺しだと思った私は大剣を手放し、湖に落とす。

 手ぶらな方が身軽な分、避けることができるはずだ。

 実際、攻撃を避けることは出来るようになったのだが、取り囲まれてる上に超高速で動かれては抜け出せたものではない。

 一応私は無手の戦いも心得てはいるが、所詮それは武器がない時のためのもので、鈴のように射程の違う武器と戦うためのものではない。

 何度か抜け出すチャンスはあったものの、チルノの攻撃は常に武器を持ち変えるため、間合いが掴みにくく更に六つに分裂し、空に浮いたチルノの剣はその配置で結界を作り出しているために、一筋縄ではいかない。

 それどころか、手こずってる間に黒い気を(まと)い、目を赤く輝かせた黒髪で大きな(からす)の翼を持っている少女が寄ってきていた。

 見るからにチルノと同じような変化が起きた妖怪辺りだろうが、チルノ一人にすら手を焼いてるこの状況で相手しろなんて無理だ。

 烏少女はその腕に付いた大きな棒の先を私に向け、その棒先におぞましい妖気が集めていく。

 考えるまでもなく不味い状況に置かれているのが判っているのに、チルノの動きがまた変わり、円を描くように私の周りを飛び回り、超高速の斬撃を放ってくる。

 高速すぎるためか、攻撃に正確性がなくガードさえ固めていれば致命傷は防げるのだが、おかげで完全に動きを封じられてしまった。

 ひたすらどうするか考えたが、助かる可能性がある策は二つだけで、新たな策は思いつかなかった。

 一つはこの周囲のエリアを高重量で潰すこと。

 これは囲まれた時から考えていたが、地形を変えてしまうほどの力を引き出すので魔力を練るだけの隙が必要。

 今ならガードしてるだけなので練れないこともないが、おそらく間に合わない。

 こうして考えている間にも腕に棒のついた少女は妖気を溜めている。

 出来るのはもう一つの重力爆発だけだが、これには問題がある。

 重力爆発はドーム状の結界を作り、その中に重力の相違断層を創り出すことで電磁嵐を起こす空間魔法だが、このまま発動すれば自身も巻き込んでしまう。

 そのため、同時に一時的に自分の身体を夢幻体にする必要がある。

 この夢幻魔法中はあらゆるモノからの干渉を切ることができる反面、魔力消費が凄まじく、使えば急激な魔力の枯渇で気を失ってしまう。

 折角、この状況を抜けたとしても意識を失ってしまったら意味がない。だから躊躇っていたのだが、もはや選択肢は無くなってしまった。

 少女の巨大な妖気の凝縮弾が発射されてしまったのだから。

 私は自らの魔力を全て解き放ち道理を無視して術を知ら発動させる。

 願わくば、(あるじ)が助けてくれると信じて、その意識をそっとてばなした。

 

 

To be continued




次回『移ろう狂気』


—おまけラ—

『響代 昴』について
歳は23歳
身長は170ちょっと
モデル体型で、慧音が言っていたように胸も大きめ、髪は黄金色で肩の辺りまで伸びています。
また、一番の特徴として昴には狐の耳があり、代わりに人の耳がありません。
これは、昴の『設定』として、身体に神体を宿していることから起こる変化としていて、もし神体が抜け出た場合は人の耳が戻ります。
他に、真っ赤で丈の短めなジャケットを愛用しているため、里の子供から「赤いきつね」と呼ばれてます。(裏設定)
緑のたぬきはマミゾウです。
使用武器は主に刀剣や大鎌ですが、一応武器種に縛られないで戦えます。
ただし、その反面、武器ごとを極めているわけではないので武器を極めている者には相性が悪かったりします。
能力としては魔力を基準とした重力魔法と霊力を基準とした結界術などの霊術を得意とし、空間を支配する力を持っています。
また、紫のスキマのように重力を操ることで空間に断層を創り出し、物をしまったりすることが出来ます。
決して弱くはない(『設定』上は好杏より若干弱い程度)のですが、この作品では割と不憫な扱い受けてるかも。
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