自分の妄想と幻想入り   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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簡単なあらすじ。
「狂気に操られたチルノとお空に昴が打ちのめされ、そのあと狂気がフラタニアに移った」


第八話〜移ろう狂気〜

 館の安全が確認され、美鈴と鈴が持ち場へ戻ろうとすると、あれだけ中庭で存在感を放っていた黒い竜巻が跡形も無くなっていた。

 とりあえず嫌な気を感じていた竜巻が館から消えた事に美鈴は安堵の息が出るものの、決して消滅したわけでは無いのが直感的に解り、またそれがため息を生む。

 しかも、門から出てみれば、いつもの霧はどこにもなくどこまでも澄み渡る景色が広がっているではないか。

 もしこれが平時に起きたのなら「珍しいこともあるものだ」くらいで済んだかもしれないが、分身体騒ぎが起こるまでは普通に霧で満ちていたはずだし、黒い影が消えてから続け様にこんな光景を見れば否がおうにも関連を疑ってしまう。

 鈴は幻想郷へ来たばかりだから解っていない様子だが、この霧の湖が晴れ渡るなんて今までに数えるほどしかないのだ。

 ―バッシャーン……バシャ…

 無意識のうちにバシバシ警戒心を高めていた美鈴は、遠くの方で聞こえた水音を聞き逃さなかった。

 この湖にはヌシと呼ばれるデカイ魚が居るが、基本的に魚が住む湖と言うわけではない。

 もし今の音がヌシだとすると小さすぎるし二回も聞こえるのはちょっとおかしい。

 そう、魚にしては大きすぎて、ヌシにしては小さすぎる。丁度、人くらいの大きさだ。

 その事を鈴に伝えると、水音は鈴にも聞こえていたらしく「あたしが見てくる」と言って駆け出していった。

 まさかこんな時に水遊びしてた音ってわけじゃ無いだろう。その証拠に、段々と戦闘音らしき音まで聞こえてきた。

 この時、鈴は空が飛べなくてよかったと、地上にいて良かったと感じた。

 もし飛んで向かっていたら彼女らに発見されていて、湖の違和感も気づけなかっただろう。

 湖の上空では昨日、地底へ向かったばかりの好杏(このあ)と、見覚えの無い黒髪に大きな黒い羽を持つ女の子が戦っていた。

 それだけでは無く、この湖でよく遊んでいる氷精のチルノが変わった格好とスイカバーで真っ赤なドレスの女剣士と打ち合っているのまで見える。

 好杏が言ってたとは言え、本当にフラタニアが実体化していることに少しだけ驚いた。

 しかし、なんでフラタニア(あいつ)が空を飛んでいるんだ。あたしと一緒で飛べないはずじゃないのか?

 飛べないあたしはフラタニアにひと睨み効かせてから、水音の事を思い出して湖を見ると明らかな異物が水面の近くに浮いていた。

 遠目でも解るくらい大きな剣。それがふよふよと浮いているのだ。

 その剣は少しずつ少しずつ岸であるこちらに近づいてきていて、近づいてくるにつれてその実体が見えてくる。

 ふよふよと浮いた剣は柄が水に使っており、よく見ると剣の下に金髪と黒髪の頭が見える。

 更に近づくと、片方はよく見知った顔であることが解った。

「恭―」

 思わず名前を叫ぼうとすると恭也は一瞬だけ剣から手を離して頭の上でバッテンと作った。

 その後、慌てるような溺れている様な感じでバシャバシャと水面を叩いてから、再びこちらに向かって泳ぎ始める。

 どうやら金髪の人は気を失っているように見える。

 ゆっくりではあるが、着実に岸へとたどり着いた恭也は抱えていた金髪の女性—昴だった—をやっとこさな仕草で引き上げるとあたしが隠れている草むらへと昴を抱えてやってきた。

 あたしも湖に入って手伝おうとしたのだが、恭也がジェスチャーで「駄目」「伏せろor隠れろ」と指示してきたので仕方なく草むらに隠れて待つ。

「はぁ…はぁ…、よ、良く俺の意図が伝わった…な……」

「まぁ、なんとなくだけどね。なんであたしが手伝っちゃ駄目なのかは解らなかったけどさ」

 あたしが恭也に説明を求めると、恭也は息も絶え絶えに待てと言った。

 鬼ではないのでそれくらいは待つが、正直に言えば恭也の事よりも昴の事が気になっている。

 昴ほどの実力者がなぜ、こんなにボロボロなのだろうか。

「…ふぅ。なんで助けに入っちゃ駄目か、だったな。まぁ引っ張っておいてなんだが、簡単に言えば好杏の能力でステルス状態になっていたんだ。この能力は鈴が来ると能力が解けてしまう可能性があってさ」

 昴に対して人工呼吸をしながら合間に「正確には第三者がくるとね」と、恭也は付け加えた。

 なんでも、好杏が新しくこの世界で手に入れた能力らしい。

 そういえば『設定』の他に、幻想郷で得た能力があるかもって美鈴が言っていた気がする。

 そんな事を話していると恭也の持っていた浮遊する大剣がズシンと言う音を立てて地面に叩きつけられた。

 どうやら今までは何かしらの力で浮かしていたようだ。

「これどうしよう…」

 反応を見るに、恭也の武器ではなく昴の武器だと思ったあたしは、先ほどまで浮いていたのも昴の重力魔法によるものだと推測する。

 頑張って持ち上げようとしている恭也にやめるよう伝えた。

 そんな無理に持ち上げたらギックリ腰になってしまう。

 見るからに重そうな金属のかたまりが人の手で持ち上がるとは思えない。

 そこで、あたしはある事を思い出した。

「昴って確か重力を使った次元の狭間だか隙間だかに武器をしまってたよな?恭也はそれ作れないのか?」

「次元の隙間か、やってみる価値はあるな」

 そう言うと恭也は大剣に手をかざしてムムム~っと唸り始める。

 程なくして不安定ながらも重力の相違で生まれる切れ目を生み出すことに成功して、そのまま重力の切れ目で地面ごと大剣を飲み込んだ。

「いけるもんじゃないか、恭也も随分と強くなったのな」

「んー…。強くなったって言っても、みんなの能力を借りてるだけだし俺が強いわけじゃないだろ」

「じゃあ、あたしら強くなっただろ?」

「……そうかもな」

 元々、無駄にファンタジー要素を入れようとして各自が持たされた戦闘能力だったが、あたしはその力を伸ばしてる。

 きっと好杏や昴もだ。

 まったくもってずるい。恭也(こいつ)は、努力せずともあたしらの力を使えるから強い。

 しかも、恭也は恭也で強くなる事だってできる。

「話したいことは割りとあるんだが、とりあえずまた後だ。俺は昴を医者に連れて行かなきゃならん。あ…いや、待てよ…?」

 恭也はそう言いながら昴の呼吸を確認して頷くと昴の腕を引っ張って背中に担ごうとして、何かに気づいたように下ろした。

 担ぐ間も下ろす時も矢継ぎ早に何かをつぶやき、下ろしたかと思えば喉に手を当てて考えるようにしてブツブツとつぶやき始めた。

「風はすべての始まりにて、癒やしの象徴でもある―」

 そのうち、昴に手をかざしながら呪文のようなものを紡ぎ始める。あたしの知識が間違っていなければ、恭也が呟いているのは好杏が使う回復魔法の口上だったはずだ。

 そう、口上。詠唱ではなく口上。

「―全てを暖かく包み込み、優しく微笑む風の精霊よ、彼の者に生命(いのち)の息吹を吹き込みたまえ。母の抱擁(ホリックシルフィード)!」

 別に意味のない口上から、呪文を唱えるとふわっとした風があたし達の間を吹き抜けた。

 それだけでずぶ濡れだった恭也や昴の服は乾き、あたしも体が軽くなったように感じた。なにより、

「がふっ!げほっ!」

 昴が激しく咳き込みながら目を覚ましたのだ。

「あ…れ……?(あるじ)なん…で…?」

「お(くう)って八咫烏(やたがらす)の妖怪を追っかけてたら、昴が湖に落ちていく所を見たんだ。とにかく魔法のによる応急処置とは言え、意識が戻ってよかった…!」

 普通に考えれば感動のシーンなんだけど、あたしは何故かこんなことを思っていた。

「(人工呼吸じゃなくて、最初からそれを使えば良かったんじゃないかねぇ?)」と。

 実際、恭也にやましい気持ちなんて無いとは思う。

 凄い真剣な表情だったし、手法を思い出しながらやってる感が物凄く強かったし、でもなんとなくそう思わざるをえないのだ。つまるところ、

 —ゴスッ

「ってぇ!?なにすんだよ!

「いや、なんかムカついた」

「はぁ!?」

 恭也は訳がわからないと言いたげな表情で昴を担ぐと、今度こそ永遠亭に向けて飛び去った。

 あたしとしては、くだらない茶番に付き合わされた気分がしてなんだか非常に不愉快だ。

 しかも、結局なんで昴が湖に落ちたのかが解らないままじゃないか。

 傷だらけだったから上空の奴らにやられたであろう事は推測出来たが、下から見ている限り好杏達が苦戦しているようにも見えない。

 強いて言うなら、チルノらしき剣士と烏の翼を持つ少女共にやたらとタフに見える。

 ま、飛べないあたしには関係ない話かもしれないけどな。

 それに黒い影は吸血鬼の力そのものって話だし、いくら冬でも霞すらない快晴の下じゃ時期に弱まるのが目に見えてる。

 案の定、好杏の光魔法に照らされて影が二人の身体から剥がれかけてる。

 巫女服がそれを見逃さずに影を引き剥がした。

 これで後は自然に消えるだろう。

 影が消えればフランも力を取り戻せるはずだし、万々歳。

 満場一致ハッピーエンド大団円。

 そう思って、紅魔館へ帰ろうと背を向けた時、世界が割れそうなほど甲高(かんだか)く、耳をつんざくような絶叫が響いた。

 驚いて反射的に振り向いたあたしの目に飛び込んできたのは黒い十字架に身体を貫かれたフラタニアの姿だった。

  ***

 

 ―ギィィィキガギャアアアァァァァアアァァァ!!!

 およそ人の喉から出てるとは思えないほどの、耳障りな叫びをただ呆然と聞いていた。

 耳を塞ぐことも忘れ、目の前の光景に目を奪われる。

 黒い影に貫かれたのにも関わらず、フラタニアの体からは一滴も血が流れることはなく、十字架はじわりじわりとフラタニアの体にめり込んでいった。

 見れば、十字架の先は貫通せずにめり込んでいる。

 フラタニアはただひたすら苦悶の表情で叫び腕を天に向けて仰いでいた。

 そんな停止した空間のなかで、霊夢が最初に動いた。

 霊夢は素早くフラタニアに近づくと影の十字架を抜くために手を伸ばし、その手で空を切る。

 どうやらまたしても実体がないらしい。

 今度は何かの札をフラタニアの体に貼り付けていくが、次々へと札が裂けて紙くずへと変わっていく。

 僕も慌てて浄化の魔法や光の魔法を使うが、十字架が消える事はない。

 止めることは出来なかった。

 やがて、十字架が全てフラタニアの体に入ると元々緑眼だったフラタニアの目が赤黒く変化し、吸い込まれそうなほど妖しげな鈍い光を放つ。

「血ガ足リナイノジャ。頂戴。ミンナノ血ヲ!」

 ギンッ!と睨みを聞かせると、フラタニアは腕を振るった。

 その腕からは植物の根のようなものが伸びて僕の腕を掠める。

 威圧的な瞳に一瞬だけ身体が固まり、避けられなかった。

 フラタニアは僕を傷つけた根に付着した血をペロリと舐めて、恍惚の表情を見せ浮かべた。

「アハッ☆好杏ノ血。美味シイ♪ネェ、モット、頂戴」

 背筋がゾクッとした。狂気に魅入られてしまった者の笑顔と言うのは、笑顔を見るものすらも狂気に誘うような怖さがあるのだと思った。

「まるで昔のフランみたい……!」

 霊夢が分身体の本体だと言う吸血鬼の少女の名前を呟く。

 話を聞いた所、この力は元々フランと言う吸血鬼の狂気である可能性があるらしい。

 狂気と言うだけはある。

 イかれてるね。尋常ではないほどに。単純で簡素な感想だが、それが的を射ていると思う。

「オヒサマハイイノ、ポッカポカデキモチイイ。デモノドガカワイチャウノ」

 もはや先ほどまで弱点だった光すら、弱点になり得ないようだ。

 フラタニアに十字架を刺して乗っ取った事を考えると、吸血鬼の弱点は効き目がないかもしれない。

 フラタニアは徐々に降下して、湖に足をつけた。

 その瞬間に湖は真っ赤に染まり、フラタニアの足はまるでマングローブの根のように湖の隅々に広がってゆく。何故か紅魔館周辺だけは避けて。

「好杏、好杏。主様ハドコヘイッタノカノウ?」

「…教えたらどうするんですか?」

「ソンナノキマッテルノジャ。主様ノ血ヲ吸イニ行クノ、キットウマイゾオイシイゾー♪」

 鼻歌を歌いながらニタニタと気持ち悪く笑う。

「なら、教えるわけには行きませんね。少なくとも狂気に支配された貴女にはね」

「差別ダ!妾ハ普通ジャ!フラタニアニ変ワリハナイノジャ!主様ナラ解ッテクレルハズ、ソシテ血モクレルノジャー♪」

 話にならなかった。

「あーもう!好杏、話し合いで解決するの?しないの?見るからにしなさそうだから私はさっさと攻撃したいんだけど!?」

 一見すると普通に対話出来ているような気がするのに、まるでこちらを見ていない。

 瞳もこっちを向いてるようで、常に何かを探すようにキョロキョロしている。

 もはや霊夢なんてイライラしっぱなしで今にも弾幕を打ちたそうな顔をしていた。

 わざわざ待ってくれているのは僕が話をしているからなのか、フラタニアのためなのか。

「…はぁ。最後に一応聞いておきますが、フラタニアの体から出て行くつもりは?」

「出テ行クモナニモ、元々妾の体ナンダガノ?サッキカラ、一体何ヲ聞キタイノダ?……オ前、煩イナ。美味シク血ヲ頂イテヤルカラ、死ネヨ」

 カクカクとした動きで首を回してこちらを見ると、目を見開いて両手を振り上げる。

 するとみるみるうちにその姿が赤みがかった幹に赤い花を咲かせた木へと变化した。

 その太い幹からにょきにょきとフラタニアの体が出てくる。

「黒いの!避けろ!」

 —ズッ!

「…っが!?」

 不意に現れた青い人の声に釣られて視線を逸らしてしまった僕の体をフラタニアから伸びる根が背中から貫いた。

「アハハ、油断大敵ダネ☆」

「そうでもないですけどね」

 僕は傷一つ無い体で水辺から空中で体を貫かれた僕を見ながらボソリ呟く。

 あの刺された僕はただの蜃気楼(しんきろう)

 背後から狙われていたのは下から見えげている僕には丸見えで、それに合わせて演技したと言うだけ。

 冷静に見れば血も流れないし、そろそろ魔法の効力が切れて、

「ナンダトッ!?」

 ゆらぁっと形が歪み、僕の姿が映った蜃気楼が掻き消える。

 蜃気楼が出来ると気づいたのはただの偶然だが、ほとんど揺れない水面と陽の光に当てられて居るのを見て、空気を固定して蜃気楼を産みやすい環境を整えてやった。

 すでに能力を使ってフラタニアからは気配に気づかれないようにしているため、霊夢に魔法矢の矢文を使って伝言を飛ばす。

 そこには『時間を稼げ』とだけ書いてある。

 こっそりとフラタニアの木に細工を試みるが、やはり小細工は通用しなさそうだ。

 おそらくだが、今浮いているフラタニアも木から生まれた分身体だろうし、先ほどの八咫烏と氷精のように黒いオーラも纏っていることから、物理干渉も効かなさそうだ。

 それに、フラタニアは樹木子(じゅぼっこ)と呼ばれる架空の吸血鬼の血が混ざったと言っていた。

 そしてフラタニアの体を(むしば)んでいるのは吸血鬼の狂気。

 上手い事噛み合った結果がアレなのかもしれない。

「どうやら好杏は休憩らしいわ。これで私を止めるものはいなくなった事だし、覚悟しなさい」

 どうやら矢文を読んでくれたらしい霊夢がわざとらしく大きな声と動作で御幣(ごへい)をフラタニアに差し向ける。

 なるべく派手にしてもらったほうが暗躍しやすくて助かる。

「…さて、鈴さん。紅魔館へ案内してください」

 僕が話しかけると草むらに隠れた鈴がビクッと肩を跳ねさせた。

「あーはいはい、いつから居たのかは解らないけど好杏の姿が消えた時から薄々こうなるとは思ってたわよ」

 振り向いた鈴は動じてませんと言いたげに、ため息を一つついてやれやれと肩をすくます。

 あの怯えていた少女を利用するのは気が引けるが、あの狂気が彼女の物である以上は、彼女の協力が必要だ。

 樹木子はあくまで架空の吸血鬼。

 “本物”それも狂気が産まれた元の器には敵わないはずだ。

 そう思いながら赤く染まった湖に佇む巨木を見つめる。

 まだいくらか話が出来ていたということは、フラタニアは完全に狂気に飲まれているわけでは無いはず。

 ……頼むからマスターを泣かせるような結末だけは避けてくれ。

 そんな一抹の不安を抱えながら鈴の手をとって紅魔館へと飛んだ。

 

 ***

 

……

……………

 

「妾はどうしてしまったのじゃ…?」

 何も無い真っ黒な空間に声だけが響く。

 そこは、立っているような気がするし、寝ているような気もする。座っているかもしれないし、浮いているかもしれない。

 そんなよくわからない空間にぽつんと妾だけが居た。

『オ主ハ妾トいっしょニナッタノジャ』

「一緒と言うなら、一方的に主導権を握らずに妾にも渡して欲しいものじゃがな?」

 どこからとも無く聞こえる声は、耳から聞こえているのか、直接頭に響いているのかも解らない。

 でも、その声の主はなんとなく解る。

 あの時、十字架が妾を貫いた時に黒く醜い感情が体に流れ込んできた。血を欲し、人を襲いたくなるような狂気とも呼べる感情が妾を支配したのだ。

『言ッタジャロ。一緒ニナッタトナ。モハヤコノ体ハ妾ノモノジャ、古イ人格ナゾオ呼ビデハナイトイウコトヨ』

「っち…。もしやとは思うが、半妖になったのもお主の性じゃな?」

(あか)ハ血ノ象徴。赤イ影ト噂サレ始メ、存在ガアヤフヤダッタオ主ガ吸血鬼ノ血ニ染マッタノハ確カニ妾ノ影響モアルジャロウガ、ソモソモ妾達妖怪ト言ウノハ人ニ畏怖サレナイト(ちから)ガ弱マルノジャヨ。アノ子ハ狂気ニ慣レスギテ、狂ワナクナリ大人シクナッテシマッタ』

 ―ダカラ狂気ヲ表ス為ノ新シイ器ガ必要ニナッタノジャ。

 それで、妾が標的になったと言うわけか、まだ存在がはっきりしていないあやふやな魂に別の色をこっそり混ぜるのは難しくないだろう。

 特に妾は元より姿が赤い。そこに血の象徴たる紅が混ざったところで気づけはしない。

 おかしいとは思っていた。

 『設定』が完成せずに思念だけの魂だったと言うのに、数日で赤い影の噂はあっと言う間に広がった。

 確かに里の周辺を歩きまわってはいたが、それはただの思念でしかない。

 存在しない物に影が出来るはずがないのに。

 それに、噂は事実と逆で妾が里の者に見られて噂が立ったのではなく、噂が立ってから妾が見られたりした。

『吸血鬼トシテノ(ちから)ヲ『設定』ニ書キ加エルコトデ、オ主ノ存在ニ影ガ産マレタ』

 つまり始めの紅い影は狂気(こいつ)だったんだろう。

 どこで知ったのか、妾の事を嗅ぎつけて人の畏怖を利用して妾の『設定』を書き換えた訳か。

『狂気ハ楽シイゾ?オ主モ狂気ニ身ヲ任セテコッチニ来ルノ良イイノジャ』

「…はぁ。お主は勘違いをしておる」

『ナンジャト…?』

「妾は、主様が望むべくして産まれたのじゃ。その『設定』に狂気は無い。なにより、主様は狂気は嫌いなのじゃ」

 ―だから狂気に染まってメンヘラになるのはごめんじゃ。

 チンケな誘いだと狂気だけの存在を笑い飛ばす。

 確かに妾は、狂戦士に近い設定を含んで描かれた。

 もしかしたらそう言った事も飲まれた原因の一つかもしれない。

 それでも今の妾に狂気性が皆無なのは主様が嫌ったから。

『マア、ホザイテイルガ良イノジャ。ドウセ時期ニ魂サエモ狂気ニ染マッテユクノジャカラ』

 主様の望まない結末にはならない。

 なってたまるか、と強く想う。

 おそらくその気持ちは好杏達も同じなはずだ。

 もし主様が助けに現れてくれたら、妾は嬉しい。

 だって、妾はお姫様として生まれた。姫を救うのはいつだって王子様の役目、だろ?

 だから待ってる。妾を産みだしたマスターならば、必ず妾の能力を利用してくれると。

 それまでは、この何もない黒い世界で狂気に染まらないように我慢してやる。

 ―だから早く来て……。妾を助けて。

 

 

…To be continued




次回「妄想主の『設定』」



〜おまけん〜

東方キャラについての補足②

—古明地 さとり—

 旧地獄を取りまとめている地霊殿の主人で(さとり)の妖怪。
 原作とは違い、客人に優しく人間相手でも邪険にはしません。
 非常に思慮深く、相手から読み取った言葉をそのままの意味で受け取らず、相手の意図まで考えます。
 また能力についても、同時に多数人から読める。相手の発言に被せられるほど読み取ってから行動に移すまでの思考速度や察しが良かったりします。
 読心に対して一切、悪い感情を持たずこいしが懐いていた恭也を気にかけています。
 おそらくは妄想録の中で一番原作と違うのが彼女かもしれません。


—アドベントチルノについて—

 今後出てくることはないので知らない方はggってください。

—上白沢 慧音—

 人里に2つある寺子屋のうち妖怪や妖精が多く通う方を受け持つ半妖の教師。
 自分の家を持ってはいるが、藤原妹紅の家に住みついているため自宅は使われてない。
 人里の中でウロウロしていた昴に職質(声をかけて)藤原邸に連れて行き、昴に仕事と住処を与えた人。
 妹紅のことを信頼していて、非常に仲が良い。



次話のおまけは紅魔館編にします。
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