Fate/Koha-ace 帝都聖杯奇譚-1920-   作:ひろつかさ(旧・白寅Ⅰ号)

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第四話 不忍

 

 

五月二十三日

 

 外国語科二年の斎藤美琴は、自宅に道場を持つ旧士族の娘である。幼いころから女性としての教養はもちろん、祖父と父から剣を習い。その秀才を認められて高等学校女子科へ通っている。

 父と同じ警官を志したが、叶わぬと知るや欧州に渡ることを決意し、その日まで日夜勉学に励んでいる。

 そんな彼女の家に洸とセイバーがやってきた。

「なんだ、いつもの出稽古だが」

「いや、そのうしろの方は」

「榊原家で居候しております。市谷トキと申します」

「私はこの家の娘で、洸君には何かと世話になっている斎藤美琴です。でも、やっぱり見間違えかな」

「それがどうしたんだ」

「いえ、何でもないわ。さぁ道場に行きましょう」

 明治以前からお上に仕えながら、部下に剣を教えることが常であり、今でも縁のある家から剣術の修練に訪れるものが後を絶えない。

「洸さん、私も稽古に参加させていただけませんか」

「見るだけじゃなかったのかい」

「やはり私も剣を志す身、道場をみると胸の高鳴りが止まりません」

「わかった、というわけだが」

「いいわ、稽古着と防具を出してくるわ」

 着替えを終え、門下生たちと共に並び座ると、美琴の父親が入ってきて稽古が始まった。

 激しい打ち稽古になると、セイバーの前に汗をにじませる男が目の前に立った。

 礼し、抜刀、蹲踞して竹刀を構えると、立ち上がった瞬間に男がセイバーに気合を叩きつけた。だが、それよりも強い気迫で押しつぶし、面を叩き上げた。

そしてセイバーの容赦のない残心が男の闘志を叩き折ってしまった。

 洸と美琴は鍔迫り合いをしながら、脇から来た気迫に驚き、目を合わせた。

「あの市谷って子、どこの流派の娘かしら」

「本人に聞け」

 互いに引き間合いを再び詰め、籠手への一撃が走った瞬間、彼の面が竹の音鳴りを響かせた。

礼をすると、互いに次の相手に向かっていった。

 

 稽古の終わりに師範である美琴の父、斎藤次郎が弟子たちに幾つかの話をし、彼らを帰らせた。道場には洸と美琴、そしてセイバーが残った。

「市谷と言ったかな」

「はい」

「君は天然理心流の出だな」

「その通りです」

「やはり、あの気迫、太刀筋を見て、亡き父の剣を思い出したよ。いや、気合なら父以上だ」

「恐れ入ります」

「どうだろう、一つ型を振って見せてはくれないか、父の剣を少しばかり思い出したい」

「はい、私の腕でよろしければ」

セイバーは手持ちの刀を腰に差し、流派の技の動きを幾つか振って見せた。

決して隙がなく、鈍さのない真っすぐな太刀筋、そして完璧な足さばきに三人はただ、感嘆するほかなかった。

あのシャリアとの激しい近接戦は、あくまで実戦の中で彼女が作り上げた物であり、純粋な剣士としては十の昔に完成の域にあったのである。弱い体であるがゆえに強く、堅く鍛え上げられた精神力。決して死を恐れぬ意思に、それを裏打ちする実力。

彼はセイバーの剣に惚れていた。

 血振ののち、少し鎺と鯉口がかすかに擦れる音がした。いつの間にか解かれた下げ緒が床と水平になった。

「こんなものです」

「ありがとう市谷さん、あなたのような剣士に出会えて私は嬉しいよ」

 

 

帰り支度を終え、斎藤宅を出ようとするとき、美琴はセイバーを引き留めた。

「今日はありがとうございました」

「いいえ、こちらこそ、久しぶりに腕の立つ人と相手ができて嬉しかったわ」

 そして、持っていた包みをセイバーに手渡した。

「祖父が持っていたものです。あなたに差し上げます」

 セイバーは油紙に挟まれた写真を見て黙り込んだ。

「ありがとうございます。美琴さん」

「それじゃあ、また」

「さようなら」

 写真を懐にしまい、洸の後をついていった。

 市電に乗り込み、ゴトゴトと揺られながら洸は耐えかねて彼女に問いかけた。

〔何を受け取ったんだ〕

〔昔、撮ってもらった写真です〕

〔まさか〕

〔そうです。ここに来る前の写真です〕

「そうか」

上野公園を降りると、セイバーがあまりにも弱弱しく見えてしまった。池のほとりで立ち止まると、弁天堂に向けていた目をセイバーに返した。

「一度聞きたかったんだが、サーヴァントつまり使い魔は、それぞれ大きな召喚に答えうる理由を持っている。君は何か聖杯に望みをもって召喚に答えたんじゃないのか」

「何をおっしゃっているのですか、サーヴァントは召喚されればマスターの従属、しいては隷属です。それ以外に何があるのですか」

「俺は望みを既に叶えているも同然、後は聖杯戦争を生き延びたいだけだ。だからこそ、君の願いを叶えてあげられるかもしれない」

「どうもおかしい」

 彼女の目から覇気と呼べるものが削がれ、すがるような瞳が洸を見つめている。

「私に戦えと、あなたは命じてくだされば結構なのです!なのにあなたは私に霊体化をさせず、あまつや余計な人間関係を築いてしまった。私は一体のサーヴァントです。今さら私に何を求めろと言うのですか、この時代に呼んでまで」

 あまりにあっけなく感情をさらけ出した。

 彼女に会って二日と経っていない。そのあまりに深い過去の記憶が、彼女のか弱く、気高い肉体を強くむしばんでいる。洸は彼女に何も言えなかった。

(魔術反応)

 顔を挙げたその目の前に、暗く銀色に染まる退廃した上野の廃墟街が広がっている。木々は枯れ果て、池は空の色を反射して黒と銀のグラデーションを作り上げている。

(固有結界か、違う、ここは上野一帯の鏡面世界だ。存在するはずのない、朽ちた上野の世界だ)

事態に気付き、セイバーは浅葱色の羽織を着て、転移させていた脇差に刀袋から大刀を取り出し、腰に差した。

「マスター、これは」

「鏡面世界だ。魔術をやっている者でなければ、入ることのできない空間だ」

「では、敵が罠を張ったと」

「これだけ大規模になると、あのキャスターかもしれない」

「マスター」

「洸でいいと言っただろう、水臭いぞ、セイバー」

「では洸さん、情報をより多く収集すべきです」

「そうだな、こうやってわざわざ俺たちを隔離したんだ。一対一なら俺たちにも分がある。まずは起点となる術式を探そう」

「はい」

 

 弁天堂を抜け、向かいへと真っすぐ伸びる観月橋の前に立った。ほとんどが崩れ落ち、基礎となっている木材が露わになっている。

 セイバーは正面の気配に気が付き、鞘を水平にした。

 向かいには、白銀の甲冑に身を包む騎士が立ち、その後ろから琥珀が姿を現した。

「洸さん、稽古の帰りに作戦会議とは、あまりよろしくないですね」

「琥珀、まさか」

「そうです。私は令呪の契約によってサーヴァント・バーサーカーを従えるマスターです」

 前に出ようとする洸をセイバーが静止した。

「セイバー」

「場をわきまえてください」

洸は叫んだ。

「琥珀、なぜこんな事を」

「サーヴァントを戦わせて、雌雄を決するためですよ。そしてあなたを、この聖杯戦争から引きずり下ろします」

「これは、聖杯戦争なんだぞ」

「洸さん、どうか私の好意をふいにしないでください。私には血筋の宿命があります。でも、あなたには大事な家族がいる。私は、私だけでいいのです」

「ふざけるな」

 洸の真っすぐな瞳が琥珀に向けられた。

「俺は父さんも、美穂も大事だ。だが、俺はおまえのことがもっと大事だ。お前ひとりを置いてくほどに俺は落ちぶれてはいない」

「駄目なのです」

「でも、それが俺の望みだ」 

セイバーはちらりと洸に視線を向けた。

「あるではありませんか、とてもあなたらしい望みが」

「セイバー、勝ってくれ」

「勝ってどのように」

「意地悪だな」

「もちろん、勝ちますよ」

セイバーは橋に歩みを進めながら鯉口を切り、やや下がり気味の霞の構えとなった。

騎士もそれに応じ、数歩歩んで、霧の中から二尺にもなる片刃刀を取り出した。刀身にはルーン文字と思しき刻印が押されている。騎士は兜によって、感情や気配と呼べるものを完全に遮断していた。

「セイバー、貴殿に提案がある」

 籠った女性の声がしたが、セイバーは沈黙で答えた。

「お互いのマスターを西向かいの林に向かわせるのはどうだ、我々の戦いは我々だけでしたい」

「いいでしょう」

「何を言っているんだ、セイバー」

 二人のマスターはほぼ同時に、自身のサーヴァントに抗した。

「バーサーカー、私はマスターよ。サポートし、貴方を監視しなければならない」

「戯言を、あなたはサーヴァント同士の戦いを囮として、あの優男から令呪を引き剥がすことが目的だった。だが、奴とて聖杯に選ばれたマスターだ。マスターの性格を鑑みても、一筋縄でいかないことは分かっている。それに」

 セイバーははっきりと言い放った。

「夫婦喧嘩はよそでしてください、戦いの邪魔です」

「俺にだって、この片手の力がある」

「琥珀さんに向かって撃つ気ですか」

「それは、できない。俺はあいつと話がしたいだけだ」

「なら、お互いの顔がもっと見える場所まで」

「分かった、バーサーカーの相手を任せる」

そして、琥珀とバーサーカーの会話にも、決着が着こうとしていた。

「いいか、マスター。あの優男に文句の一つも垂れ流してからでも十分じゃないか、過ちを犯す前に止めてやれるのは伴侶だけだ」

「いいのね」

「無論、マスターの意思とあらば」

 

 

洸と琥珀が離れていくのを確認すると、バーサーカーは切っ先を立て、剣礼をした。そして片手で右上段に剣を構え、左手をやや遊ばせながら柄を意識させている。

 昨日の朝に放っていたあの殺気をセイバーから感じられない。

 そして顔の見えぬバーサーカーからも、その名に値する狂気が一抹も感じられない。

あるのは、頑なな強情さを感じさせる剣士の風格だけ、構えた剣は主人の心そのもの、互いの剣が濃い灰色の中に溶け込んでいる。

踏み込んだつかの間、バーサーカーの一振りがセイバーの眼前を通り抜けた。

すかさず返された刃が再び空振りに終わったころには、清光の刃が足の防具の隙間に走る。だが、吹きすさぶ風によって動きが鈍り、上段の返しから逃れるために数歩退く、しかし、風を纏った騎士は疾風のごとく背側面に回ってきた。峰で一撃をいなし、懐に飛び込んでバーサーカーを前に押し出し、再び霞の構えとなった。

バーサーカーはその勢いのまま水面に着水し、上段に構えなおして間合いを押し図った。 

「池に結界を張っているのか」

「ええ、バーサーカーが戦いやすいように改変を加えました。それよりも洸さん、いい加減にしていただけませんか」

「俺はこの戦いを降りるわけにはいかない」

「だから、だからこそ、私の言い分を聞いてください」

 橋の欄干を飛び越え、突っ込むと見せかけ右に回り込んだが即座に鍔迫り合いとなった。だが、バーサーカーの強情な押し込みに清光の大刀が怪しい音を立てて、刃こぼれを起こした。

 それに業を煮やし、セイバーの首を押し切りにかかった。右手の力を振り絞り、左手で籠手と刀を押し出し、その勢いのまま柄頭で兜を殴りつけた。そのまま間合いを遠く離した瞬間、セイバーは悪寒を感じ取った。

─────────“神栄なるペンドラゴンの血統に従うもの也”────────

 その文句を聞いた直後、黄金の二匹の竜がセイバーの肩をかすめ、彼女を観月橋に叩きつけた。

────────“受け継がれし紋章の剣”────────スクラマ・サクス

セイバーは吐血し、大刀は刃渡り一尺三分で折れていた。だが、血に染まった目ははっきりとバーサーカーを見つめていた。

「ほう、守護竜の双撃をかわすとは、大したものだ」

 大刀を投げ捨て、無事であった長脇差を抜きはらった。そして、袖口で血を拭うと、ゆっくりとバーサーカーとの間合いを詰め始めた。

「セイバー…!」

「宝具を使わないと、あのセイバーは次の一撃で死にますよ」

「なら、最初の一撃で死んでいただろうに、あいつは魔術を知らない!ましてや扱うことも!なのになぜ見えたんだ?」

 驚きを隠せない洸を見て、琥珀は何かを見誤った感覚がした。

「まさか」

 

 バーサーカーは鎧を魔術で生成し、身体能力を魔力放出で補っている。速さで勝れば、宝具を出していないセイバーを即座に仕留められるはずだった。

 だが、セイバーは絶対必殺の宝具を紙一重で避けた。

 口では感心して見せたが、宝具を二度も使うことにバーサーカーは当惑していた。

(しかも、速さで負けている)

 再び宝具を放つべく魔力を刀に加える。

 だが、無形のセイバーは悠然と歩き続けている。何かがおかしい。

 やや早く放とうとした瞬間、手からスクラマ・サクスが弾き飛ばされた。

「残像」

 掴みかかったセイバーの姿が忽然と消え、セイバーは背を取って首に纏わりついて、切っ先を何度も首と兜に突き立てた。

「首を出せっ」

「っざけるな」

 腕を掴み、前へと投げ飛ばすが、セイバーは慣れた足取りで着水し、やや左中段の、正眼の構えとなった。

喉元の固定具から、左背首まで切り裂かれ、バーサーカーはため息をつきながら、兜を脱ぎ捨てた。

そこには透き通ったエメラルドのような瞳、金色の髪をまとめる赤い髪留め、気品さを感じさせる美しい顔立ちの女性が立っていた。

「見事、だが次はどうかな」

 セイバーは脇差を鞘に納め、清光の鞘を捨てると、いつの間にかその手には白雪の拵えに包まれた刃渡り二尺四寸ほどの大刀が握られていた。腰に差し、柄紐を結ぶとゆっくりと鯉口を切った。

「福岡一文字の刀か」

 だが、福岡一文字には似合わぬ細身づくりの刀身、しかし淡く煮立った肌が、刀の頑強さを洸に伝えていた。

「私とてサーヴァント、刀が二振りのみということはない」

「なるほど、気が変わった」

 霧の中から取り出された白銀の長剣が、切っ先を天に向けたと同時に、彼女を禍々しい紅い炎が包み込み魔力放出の風によって、より荒々しく、より仰々しく燃え上がる。

 セイバーもそれに呼応するように、霞の構えへと移った。

 

 

────────“我が麗しき父への反逆” ────クラレント・ブラット・アーサー

────────“無明剣三段突き” ────────────────────────

 

 

「令呪をもって命ず、盟約に従い双方、その剣を納めよ————!」

 

 

その声に二人の剣がピタリと動きを止めた。

そして、互いに数歩引いて剣を下ろした。

 洸と琥珀はその光景に唖然としつつ、二人のサーヴァントの前に降り立った人影を凝視した。

「聖杯戦争らしく、サーヴァント同士で決着をつけるのも良いでしょう。しかし、私としてはここで正規のサーヴァントを二人も失うというのは、あまり好ましくない事態になりますから」

 青い髪に、無数のタトゥーの彫られた腕、その手にある背丈ほどもある長大な宝具が、ルーラーというサーヴァントの威容を誇っていた。

「ルーラー、邪魔をしてくれたな」

「この状況で勝つ自信があったと?」

「当たり前だ」

「では、その喉元の傷は」

 その言葉を不思議に思いのど元を触ると、痛みを感じない僅かな傷口から血が流れ出ていた。

 勝負は引き分けであったことに気が付いた。

「相討ちが限界までと思ったまでです」

 切っ先の血を懐紙で拭くと、何事もなかったように大刀を収めた。

「ちっ、仕方ない」

 クラレントは霧の中へと消え、その鎧も霧となって外された。

「それで、マスターであるあなたたち二人はどうするのですか、まさかこのまま私との約束をないがしろにされるおつもりですか」

駆けつけてきた二人は顔を見合わせた。

「待ってくれ、琥珀もルーラーを知っているのか」

「それは、こちらの台詞です」

「心外ね。あなた達二人とも私と同盟を組んだのですよ。とにかくここを出てからお話ししましょうか」

 

 

 

 

 二人はサーヴァント同士の戦いに意識を持っていかれたものの、やはり本心は互いへの不満にいきり立っていた。自宅に戻ると間もなくちゃぶ台で向かい合っていた。

「あなたは聖杯に何を願うのですか」

「今の俺に願いはない。俺はただ叶えられた望みを守るために聖杯戦争に参戦する決意をした!始まりがたとえ偶然であったとしてもだ」

「叶った。あなたは何を叶えたというのです!そんなもの持ち合わせているなんて、始めて聞きましたよ」

「当たり前だ、たとえ俺のように世界を悲観しても、家族、友、そして何よりお前を守りたいという意思があるからだ。俺はお前を一人で行かせはしない!」

「違う、私は血筋ゆえに生きてきた。でも今はそれ以上に大切な存在ができた。だから、だからこそ貴方が家族を失ってはいけないのです」

「お前も俺の家族だ!」

「だから、どうしてなんですか、私がいなくなったって、貴方には先があるのに」

「何度も、何度も言わせないでくれよ、琥珀」

 二人の口論をよそにセイバーとバーサーカーは落ち着いた身なりで縁側に腰かけていた。

「俺はな、母さんが死んだ時の記憶もなくし、家族も、友も一度失ってしまったんだ。たとえ君にどんな理由があって、どんなに正しいことでも、君の意には沿えない。お前が死ぬなら、俺も一緒だ」

(純情だねぇ)

 バーサーカーがぼそりと呟くと、まったくと笑い交じりにセイバーが言葉を返した。

「琥珀、君は聖杯に何を願うんだ。望みのない俺がせめてお前の助けになるなら、そうなろう!聞かせてくれ」

「そんなことを言われても」

「はい、そこまで」

 急に静かになり、セイバーが不思議に振り返ると、眠る二人の前に平然とするルーラーが座っていた。

「何をしたのですか」

「少し眠らしただけよ、これは琥珀さんとの盟約を守ったまでです」

すると、彼女らの体をすり抜けるような感覚が走った。

 驚いたセイバーは即座に立ち上がって周辺を警戒した。

「落ち着けよ、大したことはないぜ」

「何が起きたのですか」

「ルーラーの今したことを拡大した魔術さ、細かいことを言えば普通の人間が一定量の魔力を吸い取られることで、体の防衛反応によってぐっすりと眠るのさ」

「でも、サーヴァントの私たちには悪寒が走るだけですけどね」

 しばらくして出かけていた美穂が飛んで戻ってきた。

「兄さま、姉さま、市谷さん大丈夫?それに誰……」

 これがどういう事態であるのかを美穂は知っているようだったが、居間を見回して絶句した。

「はじめましてだな、俺はそこのおねぇさんのサーヴァントであるバーサーカーだ。そしてこの隣の奴は市谷ではなくてセイバーだ。誰がマスターか分かるだろう?それにルーラーだ」

「ごめんなさい、嘘をついてました」

「え?ええ?」

「それで、何が起きたんだ」

「え、あ、ここに拠点を移した英魔術協会の支部が、防衛用の結界を張ったら誤作動で」

「それでこの街の住民が突然静かになったんだな、ま、近所に夫婦喧嘩を聞かれないだけ良しとしようか」

「え、あ、ええ、どういうことですか」

 セイバーは笑った。大いに笑った。

 

 

 

 

 

 


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