魔法の球が空を舞う。
異形の獣はそれを避け、そして刃のついた尾から衝撃を飛ばす。
彼女はそれを器用に避け、そして再び魔力球を作り出す。
彼女は一人空を飛ぶ、大事な友を守るため。
彼女は独り空を飛ぶ、自分の思いを守るため。
彼女はただ独り、この寂しい空で身を削る。
「レイジングハート!」
『Divine Shooter』
「凄い、もう誘導型の射撃魔法を5つも……」
魔法に触れて2日目、まだ2日だ。
その間にマルチタスクを覚え、自ら制御する魔法を自分用にアレンジ、そして今では5発動時に操っている。
2日といっても大半は生活、魔法に触れている時間など些細な程度だ。
ましてや制御を訓練したのは脳内シュミレートぐらいだろう、現実と大差無いとはいえ重力や風、周りの木々等予想していないことは多いだろう。
そんな中で5発の誘導魔法、天才と言って過言はない。
しかしそれでも足りないのだ、どれほどの天才であっても経験が無ければ対処できないことが多い。
そしてそれは魔法に触れて2日目の高町なのはには存在しないもの。
「……双誌、お願いだからじっとしていて。そうしたら僕も彼女のサポートに……」
「だったら俺も行く!だからさっさとこれ開けてってば!」
ゴン、と音を鳴らしサークルプロテクションを叩く双誌。
その力は小学生からすれば高いものだが、しかし今のユーノでも簡単に防げてしまう。
精々大人の1,5倍程度だろう、しかし彼の息は乱れ、拳には赤い痕が付いている。
彼にはこれが精一杯なのだ、少なくとも今は。
「……双誌話を聞いて。今のなのはじゃ一人で任せるにはまだ危ない。だから僕は助けに行きたいんだ」
「だから……僕も行くって、言ってる……じゃん!」
ゴン、さっきよりも弱くなっている。
この程度の力ではジュエルシードに影響を与えることは出来ないだろう。
ただ彼を危険に晒すだけ、そんな事は許されない。
あの力が使えるのならば良かった。初日で暴走体を吹き飛ばす程の力。
あの一撃が出来るのならば、ユーノ自身が防御に徹すれば何とかなっただろう。
いや、寧ろ今よりも条件は良い。
だが、今の彼はそれが使えない、扱うことが出来ていない。
出来ていればプロテクションが割れるなり、制御が出来なくなるなりなっているはずだ。
それが出来ていないと言うことは、彼は今あの力を使うことが出来ない。
ならば彼を出す訳にはいかない、二人を巻き込んだユーノの情けなくも確固たる意思。
だから今直ぐにでも終わらせて二人へ魔力のコントロールを覚えてもらう、その為にも。
「双誌、今の君じゃ駄目なんだ……!」
「そんなの、やってみなけりゃ分からないよ!」
「分かるんだよ……!今の君は魔力を十分に扱えていない、魔法を使うことが出来ていない!」
だから僕の守りも壊せない、その言葉に自然と拳を強く握る双誌。
言われなくても分かっているのだ、今の自分の力が弱い事くらい自分で分かる。
どれだけ魔力の鼓動を意識したところで最初の時のような力は出ない、今は焦っているから余計に出ていないのも分かっている。
「くそっ、集中しろ……!」
深呼吸を一つ、心を鎮めて魔力の鼓動をより強く意識する。
先ほどまでの呼吸と同じように早々と跳ねている鼓動に感覚を合わせる。
そして軽く生きを吸って拳を引き絞る。
「―――ハァッ!」
気迫の籠もった一撃、それはやはり小学生としては大したもの。
でもその域を抜け出る事が出来ない。
何故、何で、どうして。そんな言葉が頭を占める。
例え知ったのが昨日だったとしても、自分の体の使い方は自分が一番分かるはずだ。
それなのに……。
「―――あっ!?」
自然と耳に入ってきた悲鳴。
聞き慣れた声でさっきまで話していた少女の声。
その声に上を向けば魔物に接戦を仕掛けられていたのか、前のように丸い盾を作り出して爪を防いでいる。
その盾は爪と火花を散らしており、前にもまして凶悪なのが分かる。
「なのは!」
「大丈夫、一人で出来るよ……!」
「無理だ、押し負けてる!」
ギシリと一段大きな音を鳴らしてななのはの腕が少し下る。
それに合わせるようになのはの体も少し下がる。
一体どうやったのか、気づけば魔物の背には2対の翼が生えておりなのはの周りを自由に飛び回っている。
その動きの速度がそのまま力になり、それはなのはを周るように動くために連撃となる。
『Circle Protection』
後ろからの攻撃へ咄嗟にレイジングハートが全方位を覆うサークルプロテクションへと魔法を変える。
それに対応するかのように、敵の動きも変わってゆく。
「……ありがとう、レイジングハート」
『Don't worry』
サークルプロテクションは全方位防ぐことが出来るが、しかしその為部分部分で見れば脆くなってしまう。
周るように飛び続けている魔物は徐々に速度が上がり、それに従い爪の力も上がってゆく。
魔法を使ってまだ2日のなのはは疲労も大きく、それは必然だったのだろう。
「―――ぁ」
「なのは!」
深く入った爪の一線、制御も効かずパリンと音を鳴らしサークルプロテクションが割れる。
それは大きな隙で、魔物はもう弧を描き速度を落としきることなく折り返している。
「なのは避けて!」
咄嗟になのはと魔物の間にプロテクションを一つ展開するユーノだったが、しかし咄嗟故に強度はなく止めていられたのは一瞬。
もう一枚、と魔法を構成しようとするが残り魔力は薄皮一枚分も残っていない。
避けて、そう叫ぶことしか出来ない事にユーノは歯を食いしばる。
目の前で彼女に爪が伸びている、この世界で助けてくれた少女に、自身が持ち込んでしまった災厄が。
もうダメだ、認めたくなくとも思ってしまった。あの一撃は避けられないと。
あの一撃は痛いだろう、血が出るだろう、もしかしたら傷が残ってしまうかもしれない。
罪悪感、絶望感、悲壮感、色々な感情。しかし総じて負の感情が心を占め―――
―――パリン。
目の前で彼女がやられる。
自分が弱いから、自分が魔法を使えないから一人で戦い、だからやられる。
―――それは嫌だ。
「――――――」
腕を引き、拳を構え、呼吸を止める。
下手に考えるのはもうやめだ。
魔力でも気でももうどっちでもいい。
鼓動が弱いのならば。
「無理やり動かせばいい」
鼓動に乗るのではない、鼓動を作りだす。
しかしこれでも足りない、体中が強化されても意味が無い。
鼓動として溢れる魔力を右手へと流す。
「―――ああ、これだ」
腕に、拳に篭もる力が分かる。
さっきまでの力とは全く違う、圧倒的な力。
「……これなら、いける」
さっきよりも俄然いい動きをする拳が真っ直ぐにシールドに辺り、一瞬で抜いた。
紙程度の柔らかさしか感じなかった事に驚きを感じ、さっきとの違いをはっきりと理解した。
そして紙程度の障害しか感じなかった拳は未だ力を強く篭めている。
だから跳んだ。
少しばかり足に力を回し、砕けたシールドが舞い散る中なのはへと向かう魔物目掛けて体を跳ばす。
爪はもう少し、後何センチもすれば彼女に届く。だからその腕を、―――蹴り砕いた。
そしてそのまま首もとへと右手を打ち込む。
獣の形というのは恐怖を実感させやすいが、しかしその弱点も分かりやすい。
脳と体を繋ぐ首、そこを砕けば幾ら魔物とは言え……。
「……gyaaaa!」
「―――うわっ!?」
首を折られているのに奇妙に曲げてこちらを見てくる魔物に驚いて、咄嗟にもう一発脳天に叩き込んだ。
二度目のほうが力が強かった気がするのは勘違いではないだろう。
見事頭部を破砕された魔物は体を壊し、頭部があった場所にジュエルシードを一つ残し消え去った。
そして、ここまでして思った。
「……これどうやって着地しよう」
「……え、双誌君!?」
考えずに動くというのも大変だ。
反動でグルグルと回転して落ちながら双誌は思うのだった。
それでも彼に後悔はない。
「いやー、冷静に考えれば着地しても怪我しないよね」
だって魔力で強化してるんだから。
「もう……落ちた時はビックリしたの」
「いやだって空飛べないし……」
じゃあ何で跳んできたの……、そんな言葉に返す言葉もない。
そんな双誌に呆れた顔を見せるなのは。さっきまでのギスギスした雰囲気はもう残っていない。
大した効果はないかもしれないけど、とユーノがなのはへと回復魔法をかけている。
双誌を囲う為に使っていた分のマルチタスクを使ってなんとやら、双誌には理解できない事をひたすら言っていた。
双誌にもわかったのはユーノの魔力がそこを尽きたらしいと言う事だけ、しばらくすれば回復するらしいがそれまでは防御魔法も使うことが出来ないとか。
そして漸く魔法の盾がプロテクションという防御魔法だということを知った。
「……よし、僕が今できるのはこれが精一杯。なのは、体に異常は?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとうユーノ君」
腕や額、体各箇所に付けられた細かな傷の数々は今や見る影もなく消えていた。
それまでおよそ15秒、魔法というのはつくづく便利である。
そんななのはの笑みにユーノは瞳を揺らし、悲しそうに言う。
「……ごめんなのは、君が一人で頑張ってくれたっていうのに双誌を止められなかった。それに、双誌が居なくても僕があの攻撃を何度防げたか……」
自分は弱い、はっきりと突きつけられた現実は自分でもあっさりと認めてしまう程に明らか。
別の世界、魔法に触れることの無い、自分たちの世界よりも遅れている世界。
こんな言い方をするのは失礼だろうが、自分はそんな世界の二人よりも弱い。
魔法を使って幾年も経ち、ロストロギアの発掘にも微力ながら力になってきた。
スクライアの民の中では大人に混じっても遜色なく魔法を扱って、探査魔法や防御魔法には特に自信があった。
けれど、二人を前にすればそんな自信も吹き飛んでしまう。
なのはの魔法の才能は凄まじいの一言に限り、攻撃に関しては自分を軽く飛び越えている。
双誌は魔法の才で言えばユーノよりも低いだろうが時々凄まじい力を見せ、戦いの才能はこの中で一番だろう。
この二人は強い、それは魔法の点だけでなく精神面でも言えること。
才能がなくても意思を貫き、一人であっても戦いぬく。
不屈の心、折れない心、優しい心。
まるで自分とは違う、その考えがユーノをさらに落ち込ませる。
「ユーノ君……」
「……ユーノ、魔法を教えてよ」
え、と顔をあげるユーノに双誌は笑う。
さっきまでの事など忘れたかのように、屈託なく双誌は笑いかける。
「爺ちゃんに言われたんだ、俺は『戦う人』なんだって。戦って、大事なものを守って、戦えない誰かの代わりに戦いぬく。これが俺の魂なんだって」
難しい話はよく分からなかったけど、これでいいんだと思う。
守られるのは好きじゃないし、何かの為に戦うことは嫌いじゃない。
「別に戦うのが好きって訳じゃないけど拒否感はないし、大事なものを守るのに命をかけるのにも変だと思ってない」
小学生としてはズレた価値観。いや、今の世の中では一般と大きく掛け離れた考え。
しかしそれが双誌なのだ。なのはのように皆のためにではなく、ユーノのように皆を守るためでもなく、大事なもののために。
その些細な違いはしかし、時に大きな違いを示す。
それが例えどんな物でも、双誌にとってそれだけの価値があれば命をかける。
ジュエルシードがあろうと無かろうと、魔法が使えようと使えまいと変わらない。
DNAにまで刻み込まれている確固たる意思、変わることのない思い。
時代にズレている事は理解しても変えられない魂の叫び。
「だからさ……俺は戦うんだよ、どっちにしろ。ジュエルシードが危険なものなら余計に戦う。バリアジャケットとかが出来なくても倒すことが出来るんだったら、俺は戦うんだとおもう」
だから悩まなくてもいいよ、双誌はそこまで言って自分の言っていることが繋がっていないような気がする。
そういえば何の話だったっけ……?
取り敢えずユーノを励まそうとして、何で戦うのかを言おうとして、頑張って考えて…………。
「……取り敢えず魔力の使い方はなんとなく分かったんだけどさ。やっぱり魔法使えなくと、ね?」
「……うん、そうだね!私ももっと勉強しないとね!」
照れ隠しのように笑う双誌、それにつられるようになのはも笑う、。
本当なら戦闘に加わった事を怒ろうと思っていたのだが、助けに来てくれたのが嬉しくなかったといえば嘘になってしまう。
彼の言っている事はよく分からなかったけど、彼が引かないという事だけは分かった。
それに今は喧嘩したい気分でもないし、そんな考えで吹っ切れたように彼女は笑う。
「盾は出来るようにならないと駄目だよね、きっと。あれ便利そうだし」
「盾……プロテクション?それとも全方位のサークルプロテクション?もしかしてユーノくんの使っていた……」
「プ、プロ…サーク……?そんなに沢山あるの……?」
「……双誌くんは1から勉強しないと駄目なの」
「うへぇ……」
二人は笑う。
何処までも前向きに、何処までも楽しそうに、こちらを励ますかのように。
……ああ、やっぱりだ。
二人は先にいる、自分よりももっともっと先。
今のユーノには遠く、そして高い場所。
だから、
「じゃあ僕が教えてあげる。沢山の魔法も、バリアジャケットも、魔力の使い方も」
君たちに合った魔法だって作ってみせる、そう言ってユーノは笑う。
自分に戦う力はない、全回復したところでジュエルシード一つ倒すことは出来ないかもしれない。
でも守ることなら出来る。腕は二本あるのだ、二人くらい守ってみせる。
スケジュールを作ろう。沢山眠って魔力を回復させて、起きている時間に魔法の構成を考えよう。
もっと硬い守りを、もっと応用の利く盾を作ろう。
後二人に教えることも考えないと、どうやったら覚えやすいかも考えて分かりやすく。
後魔法の知識も、それに……。
ユーノは考える、今自分にできる精一杯の努力を。
ユーノは考える、自分が二人のためにしてあげられる精一杯の事を。
ユーノは考える、これからの戦いに向けて必要なことを。
それはきっと厳しい道程で危険も多い。
もしかしたら、という可能性だって無いわけじゃない。
でも、
「……あははっ」
今位は楽しく笑っていよう。
双誌、類似語
脳筋
武士
馬鹿
こんな感じの未来を予想しています