「ふんす……!」
「「おおー!」」
明けて一日、ここまで進んだ成果が嬉しくて集合して直ぐに見せつける双誌。
実際やっていることは初歩の初歩過ぎるのだが、ユーノはその進歩の速度に、なのははその場の空気を読んで拍手する。
そんな拍手に期限を良くした双誌は言うのだ。
「第一段階、さっさと終わらせて次に進んでやる!」
「ふんぬー……!」
その結果がこれである。
結局進んだのは魔力の放出のみ、そこからは一歩も前進していない気がする。
魔力を腕に集めるのは良い、そこから放出するのもいい、しかし腕に纏わせるのはどうも出来ないのだ。
集めようとしても制御が効かないというか、抑えこもうとするほどに強く暴れてくる。
しかし制御しなければ第一段階に進むことすら出来ないのだ、双誌は思い切り力を込めて制御を試みる。
無酸素運動が有酸素運動よりも動けるように、息を吸うのも忘れてただ右手の魔力へと神経を研ぎ澄ます。
今までとは大違いな程スムーズにリンカーコアから取り出した魔力は腕へと集まり、そこから少しずつ外へと放出されている。
しかしその一切を制御できていないのだ、ただ腕から魔力が空へと散ってゆくだけ。
光景としては綺麗かもしれないが、その実はただ無駄に流れているだけである。
そして魔力を集めるというのは中々に集中力を使うため……。
「……っだぁ無理!全然固まらないんだけど!」
長い時間行うこともまだ出来ないのだ。
魔力を体外で固められず、また長時間の放出も出来ない。
彼の魔力保有量が如何程かは分からないとはいえ戦闘にだすにはとても実力が足りない。
しかし足りていないのは魔力の実力だけであり、正直戦力としては期待できてしまうのが悩みどころなのだ。
その火力は今でも万全のユーノを凌いでいるだろう、下手をすれば管理局でも通じるかもしれない。
彼女と比べれば評価は下がってしまうが、しかし平均と比べてしまえば上々だ。
ただ彼女が飛び出ているだけなのだ。ユーノは視線を左へ逸らす。
一人魔力球を2つ作り出し、器用にペンを挟んで自由に飛ばしている彼女。
左右どちらかの魔力球から少しでも力が抜ければペンは地へと落ちるものを、彼女は器用に飛ばしている。
しかもただ垂直にではない、時に並行に移動し、時に回りながら上がっている。
並々ならぬ操作力だ。管理局でも中堅に入れるだろう実力がある。
ただ問題としては……、
「なのは、なのは」
「へゃ!?どうしたのユーノ君」
経験が足りていない事だ。
操作に集中し過ぎて周りが見えていない。周りを見れば魔力球の動きが目に見えて悪くなる。
それでも一般的な操作レベルではあるが、ペンを挟んで飛ぶには足りていない。
実力はあれど戦闘経験の足りない彼女と、実力には難ありだが戦闘経験は凄まじい彼。
何とも奇妙な取り合わせだ。どうしたら良いのか分かりやすすぎる。
しかしその危険性は高い、ハイリスクハイリターンにも程がある。
少なくとも、彼がバリアジャケットなり何なりの防御手段を得た後でなければ……。
「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅー!」
……何時出来るかなぁ。
思わず遠い目をしてしまうユーノ、頑張っている本人には悪いが全然変わってない。
どれだけ力もうとも漏れだしているだけ、そこに留まっているような変化一つない。
デバイスがあれば教えやすいものの、レイジングハートはなのはの相手で精一杯。
レイジングハートの性能が良い為に2つ目のデバイスを持つ事もしなかったユーノには予備もない。
外から動きを覚えさせようかと思ったものの、よくは分からないが弾かれてしまうのだから出来やしない。
正直見て覚えてもらうしかないのだ、というかそんなに難しくないし。
これが出来なければ魔法も何もあったものではないのだから。
「―――だぁ、もう無理!」
見事に全ての魔力を拡散し、疲れたのか双誌は床へと倒れる。
二回だからと綺麗に倒れたのは流石だが肩で息をしている辺り体力の消耗は激しいのだろう。
いや、体力だけの問題ではなさそうだ。
「双誌、悪いけどもう一回魔力を腕に集めてもらえるかな?」
「えー、まぁ良いけど……」
渋々と言った感じで上半身を起こし、上に伸ばした腕へと魔力を……。
「―――あれ?」
「……やっぱりだ」
その腕には一切と言ってもいいほど魔力は宿らず、また溢れる事すら起きていない。
不思議そうにしている双誌を見れば自分でも分かっていないのだろう。
それもそうだ。味わうのは初めてで説明したのも一回きり、しかも軽くしか教えてないのだから覚えていなくても仕方ない。
「魔力切れだよ。君の中の魔力が殆ど底をついたんだ」
「はー、そりゃそうだよね。氣と同じで貯めてるんだから無くなるか」
考えてなかったなぁ、と軽く笑っている双誌。
しかしユーノはそこから見つけた一つの事実に顔を苦めていた。
考えてみればそうだ。ここは管理外世界、魔法の存在しない世界なのだ。
そんな場所に膨大な魔力を持つ人は早々いない、いれば管理外にしておく理由がない。
殆どの人が魔力を持たず、故に魔法を知らない世界。だから管理外世界なのだろう。
でなければコレほど似た世界、放置しておく筈がないのだから。
なのはの保有量はレイジングハートで分かる、ミッドチルダでも中々いない逸材だ。
そんななのはの魔力の量で驚いていた為か、それとも彼の強さの為か。
彼の魔力も多少なりとも一般を越えていると思っていた、そう思い込んでいた。
しかし、今の魔力放出量と時間から考えればおかしいのだ。
その量はまさに少なく、恐らくユーノ以下、いやそれ所か……、
……魔力ランクはC以下かもしれない。
Bランクは上々、Cランクは普通、Dランクは少ない。
間に+が入ったりするためランク間の差は激しい。
そんな双誌のランクはC、もしくはその付近だろう。
それはユーノの2分の1にも満たず、なのはの3分の1にも入らないほど小さい。
管理局で過半数を占めるランクではあるかもしれないが、基本そのランクではロストロギアに対等する事はない。
ロストロギアは魔力の結晶であったり、不明な機械だったりと様々だが、総じて膨大な魔力を持っているものが多い。
相手をするのにCランクでは厳しいのだ、少なくともカートリッジシステムを持っていなければ。
しかし双誌はそのロストロギアであるジュエルシードを難なく倒してしまっている……。
それがユーノに待ったをかけているのだ。
Cランクだとすればおかしいのだ、Bランクであるユーノが倒せなかったような敵をあっさりと、一瞬で倒しているのはおかしい。
「………………」
やはり彼は何かがおかしい。
レアスキルだろうか、だとすれば一体どんな……。
「あ、そうだ双誌くん。明日お父さんのサッカーチームが試合をするんだけど、良かったら一緒に見にいかない?」
「サッカーチーム?」
お父さんが監督をやってるの、アリサちゃんとすずかちゃんも一緒にいくんだよ。
ペンの操作に疲れたのか、なのはも手を止め世間話。
「場所はすぐそこのグラウンドで、朝からやるんだけどどうかな?」
「んー、サッカーかー……」
体を動かすのは好きだ、もちろんサッカーだって嫌いじゃない。
寧ろ好きなスポーツだ、相手を抜いたりボールを止めたりと楽しいと思う。
しかし見ているのは何というか、歯痒い気持ちになるのだ。
手を出したいような、自分も動きたいような……。
と、そこで携帯がメールを知らせるように黒電話特有の音を三度鳴らす。
クラスの間では音楽とかボイスとか色々流行っているが、双誌としては気に入っている音。
何かと思って取り出してみれば、丁度話に上がった『月村すずか』から一件のメール。
『木山くんも明日来るんだね。マドレーヌとか食べられるかな? 良かったら作っていこうと思っています』
……まだ行くって言ってないのに。
ジト目でなのはを見れば、本人は分かっていない様子で首をかしげている。
これは行くことが彼女のなかで確定しているのだろうか、それともすずかが勘違いしたのだろうか。
そんな事を考えていれば再び鳴り出す黒電話、もしやと開けばやはり差出人には『アリサ・バニングス』と。
『明日来なさい。来ないと罰ゲーム』
…………高町ぃ。
なんとも分かりやすい脅迫である。
何故二人に教えてしまったのか、そんな意味込めて恨まし気に彼女を睨む。
当の本人には悪いことをしたという考えは少しもなく、何故睨まれているのかを本気で考えていた。
しかし、こうしてみればすずかの勘違いなのがよく分かる、しっかりしていると思っていたが意外に抜けているようだ。
しかし月村は料理も出来るなんて凄いなぁ……俺なんか素麺茹でるくらいしか出来ないのに。
思わぬ家庭的な一面を見た双誌だった。
「結果、スコーンも作ってきちゃったのかぁ……」
「あはは……ちょっと材料が余っちゃったから」
「すずかちゃん、バスケット半分は余ったって言わないの」
「す、すこー……取り敢えずこれ美味しい、もう一個貰っていい?」
快晴の天気の中、砂埃舞い散るグラウンドから少し離れた位置に彼女たちは居た。
沢山あるから大丈夫、と笑うすずかを呆れたように見つめるアリサ・バニングス。
バスケットの半分を埋めるスコーンに何とも言いがたい顔をしている高町なのは。
初めて食べたスコーンを気に入った木山双誌、お菓子を作ってきた月村すずか。
そして一人のメイドがいた。
「すずかお嬢様、ジャムのことは言わなくても?」
「あ、そうだった。スコーンはジャムを付けて食べると美味しいんだよ。紅茶の間に挟むことで味わいを出すんだって」
メイド、メイドだ。
昔ながらのメイド服を来て隣に立っている一人のメイド。
月村家二人の従者の一人、ノエル。白昼堂々とメイド服ですずかの後ろに立っていた。
サッカーの試合をしているグランドの少し離れた場所、つまりはただの町中だ。
そんな町中の小さな休憩スペース、椅子と机が軽く置かれているような場所にメイドが一人立っていた。
異質である、彼女のメイド服がオーダーメイドで本格的なものであるのが余計に異質である。
しかしそれを異質だと思う人はこの街にはもう一人もいない、ただの日常なのだ。
見ようと思えばスーパーの安売りで品定めしているメイドも見れる。
メイド執事なんでもござれ、よくも悪くも耐性の付いてきている住人たちであった。
まぁ、そんなことはさておきサッカーだ。
「今ボール蹴ってる彼、うちの学校のエースだったわね」
「うん、授業の時も簡単にボールを取られちゃうよね」
「いやそれはなのはが運動音痴なだけ…というか、そこの馬鹿は彼といい勝負してるじゃない」
「……んー?」
「……あんた一体何しに来たのよ。サッカー見なさいよサッカー」
「あーうん、いやでもさ」
気だるげにグラウンドへと視線を送る双誌。
ボールを奪い器用にドリブルしている彼は双誌もよく知っている。
というかよく学校で遊んでいる。学年気にせず遊べる良い人だ。
体を動かすのが得意な双誌に一人で勝つ実力を持つサッカー少年、確か賀川弘大と言ったか。
まぁそんな彼がいれば双誌としては結果は分かる事で、他の選手もとりわけ足を引っ張る程の人は見当たらないので問題ない、寧ろ上手な人ばかりだ。
敵も上手ではあるが、エースとも呼べる人はいない様子。
これだけ見ればどちらが勝つかなんて見えている。
何より見ているだけというのはやはり退屈なのだ、下手をすると欠伸が出るくらいに。
「……どっちが勝つか大体見えてるから良いじゃん」
「……まぁ、結果が目に見えて分かるのは応援し甲斐が無いって事は認めるけど」
アリサからしても結果が見えているような戦いはつまらないらしい、やはり戦いというのはヒヤヒヤしながら見ているのが楽しいのだろう。
今の点差は5点勝ち、時間はまだまだあるが選手に元気がない。
残り時間が多いというのは、つまり初めてから時間があまり経っていないという事。
それなのに5点差も付けられれば自然と選手のやる気も下がってしまうというもの。
双誌には何よりそれがつまらなかった。
負けると決めつけて動かない敵に、作りの悪いB級映画を見せられているような白けた気分になるのだ。
負けると思ったのなら負けない戦いをすればいい、負けると分かったのなら練習すればいい。
なのに彼らはやる気を無くし、ボールを追いかける足も遅い。
諦めてしまえばそこで終了なのだ、そんな物を長々と見ていたいとは思わない。
彼女たちもそれが分かっているからか、先からこの勝負には一切触れていない。
応援する言葉も無い、というのが本当だろう。
まだ眺めている分双誌よりもマシなのだが、良くも悪くも三人娘は人気者なのだ。
そんな三人娘が見に来ているとなれば、しかも勝負を見ているとなれば、皆やる気は上がってくる。
今回はそれが悪く働き、両者の差を激しくしてしまっているのだが……。
「……なんか、暗いね」
「うん、ちょっと残念かな……」
なのはもすずかもやはり同じようで、頑張ってる皆には悪いけど、と感想を口にしていた。
ただまぁ、そんな事を良しとしない少女が一人この場にいた。
「ちょっと敵チーム!何諦めてんのよ、頑張りなさいよ!」
「アリサちゃん、敵のチーム応援するのも……」
「でも負けた気になって勝負諦めちゃ駄目でしょ!第一私達がつまらないわよ!」
敵チームだろうが味方チームだろうが、こういう試合が一番キライなのだ。
諦めた人の試合程見ていてつまらない試合はない、どれだけ技術が悪くても諦めないチームの方が見ていて楽しいのだから。
しかし相手は諦めかけている、エースとなれる人物がいない。
実力派悪くないのだ、モチベーションとエースとなれるような人が一人でもいれば……。
「……双誌、あんた向こうのチーム行って来なさいよ」
「どーやって……マドレーヌの柔らかいのも良いけど、さっくりしたスコーンもいいね」
「そう、じゃあ今度はフィナンシェとかにしてこようかな」
「ふぃ、ふぃな……?」
「フィナンシェ、マドレーヌをカリッとするように焼き上げたものかな」
「へー、それも美味しそう」
「何イチャコラしてんのよ……!」
「あ、アリサちゃん落ち着いて」
「うがー!」
向こうは暗くてこっちはほのぼの、空気が違いすぎて絶叫ものである。
ほのぼのとした空間が嫌いなわけではないが隣を見ろ、あの暗い雰囲気を見ろ。
なんでそれの応援に来てるのにこんなにのんびりしてるのよ……!
そんな思いを込めたアリサの叫びは誰もに伝わらない、ストッパーのなのはにも分からない。
ピーッ、と笛がなり気づけば6点差、そんなに長く目を離していたつもりはないのだが。
一点、五点差の中での一点が大きいかどうかは分からないが、しかし選手のテンションはより大きく下がっていた。
不機嫌そうな顔をしたり、苛立っていたり、泣きそうな顔をしたり。
考えは違えど全員がやる気を失っていた。
競技というのは危険だ、相手の足に引っかかれば転ぶし、体をぶつければ倒れてしまう。
ボールがぶつかれば痛いし、下手をすれば怪我になる。
そんな状況でやる気を無くしてしまえば当然……。
「……あ、あの子足怪我しちゃったみたい」
「痛そう……大丈夫かな?」
ドリブルしているボールを奪おうとして足を伸ばし、無理やり過ぎて転んでしまった少年が一人。
上手く避けてくれたのか、怪我は軽いようだが今日はもう無理だろう。
これでおしまいなら、と双誌はスコーンを口に入れる。
忘れていたが今回はサッカーの応援に来ているのだ、サッカーが終わればこのお茶会も終わりかもしれない。
だったら出来る限り美味しいものは食べておこうという考えである。意地汚いともいう。
両チームのコーチが集まりどういう話をしたのか、なのはの父である士郎がチームへ指示を飛ばしこちらへ歩いてきた。
「やあ皆、楽しんでもらえたかな」
「え、ええ……」
「うん……」
「はい……」
士郎には悪いと言いつつも根は正直な三人、一様に答えに戸惑ってしまう。
しかも一人は取り敢えずとお菓子を食べているだけ。頷いただけマシなのだろう。
そもそも言うことが無かったという場合が高いが。
士郎も苦笑を隠せない、彼女たちの考えと同じなのだから。
自分の教えたチームが勝つのはいいが、こんな試合でも拍子抜けなのだ。
頑張ってきた皆の苦労が報われた、といえば聞こえはいいが要は楽過ぎる。
「交代の子が用事で遅れているみたいでね、皆も疲れてきてるから10分間の休憩を挟むことにしたんだ」
終わっちゃえばいいのに、残念な考えだが4人の意見は同じだった。
寧ろ何故ここで終わらせないのかと聞きたくなってくる。
いやしかしその言葉も相手に失礼で……。
三者三様、なんとも言えない気持ちだった。
「……なぁ、双誌だよな?」
「……へ?」
今までで一番タイトルがつけにくかったです、いや結構適当でしたけど。
今までで一番長く書けてるんじゃないかな。珍しく。
一気に書いたというか、書いてあったのを投稿するのを忘れてて続けていたといった感じですね。
この主人公、簡単に魔法は使えまい。
というか普通急に魔力って言われてもわからないと思うの、体を動かすことを主としている人は特に。
というか、今更ながら前回誤解を与える表現をしていました。
主人公のリンカーコアは丹田にあったりしません、場所は皆と同じです。
多分アニメ的に胸元中央です。
主人公の考えとしては。
氣は一応習った→氣と同じように扱えば魔力扱えるじゃん?→でもなんか足りないんだよ→氣
作る場所があるなら魔力を作る場所もあるよね→じゃあ探してみよう、取り敢えず魔力の鼓動の奥嵯峨してみよう→リンカーコア発見→鼓動血流じゃん←いまここ
長いように見えて凄く遠回りしてるんです。
主人公ユーノ君の説明の時寝てたので、色々と知識ありません。
今後そういう話題を出そうと思っていたのですが、自分で読み直してみても間違えるので失礼ながら後書きにて
結論としては氣と同じなら何処かから出てるよね。
水道とか見てたら思いつきました。