魔法少女リリカルなのは Broken beast 作:やまあざらし
一人の少女が海を見つめていた。
月のような金髪と、絹のように強い肌。宝石のように赤い瞳。少女の名前はフェイト・テスタロッサ。
この街に落ちたジュエルシードを求めてやってきた、魔導師だ。
フェイトは波打ち際まで進んでは、不意に諦めて戻る波を見続けていた。
雲一つない空に浮かぶ太陽の鬣は風に凪ぐ海を照らし海を輝かせているというのに、フェイトを包んでいるのはあたたかな闇だ。
世界で一番大好きな人が与える、笑いたくなるほどに悪意に満ちた辛辣な言葉の刃は身体ではなく心を抉る。その傷は言えることなく膿み、鈍い痛みとともにフェイトの心を黒いもので満たしていた。
フェイトは母の命令でこの地に来た。願いをかなえるロストロギア、それに母がいったいなにを願うのかはわからないし、知りたいとは思うがきっとそれは聞いてはいけないものだとフェイトは思っていた。
ただ、ここに居るのは母の為に。大好きな母に自分を好きになって貰う為に、ほんの少しでも認めて貰う為にフェイトはここに居る。
幸いにも、この世界は魔法文化のない世界だ。他に魔道師はいないし、万が一戦闘になったとしてもジュエルシードを取り込んでしまった暴走体程度だと思っていた。それならば、時空管理局が感づく前に全てを終わらせてしまえばいいだけの話しだ。
だが、事態はフェイトの斜め上を行っていた。
「私の他にも、ジュエルシードの探索者がいる……」
洞窟のように感情の抜け落ちた声が、フェイトの唇から零れ落ちた。
フェイトが地球に来たのは先週のことだ。そして初めに見た光景は森に押しつぶされ壊れた街並み。その惨状はジュエルシードが引き起こしたものであることは容易に想像がついが、その場にジュエルシードはなかった。
ジュエルシードは一度暴走を始めると魔道師が封印処理を行うまで止まることはないと母に聞かされていた。
つまり、この街にはフェイトの他にもジュエルシードを封印できる魔道師がいるということになる。
思ったよりも厄介なことになるかもしれない、という思いとは裏腹にフェイトはどうとでもなるような気持でもあった。
その魔導師がジュエルシードを持っているのならば力づくで奪えばいい。
自分の前に立ちはだかるというのなら、薙ぎ払えばいい。
それが犯罪であることは知っている。それでも、フェイトは自らの罪悪感を薄れさせるほどの未来があると信じていた。
フェイトはジュエルシードを母の元へと持って帰るという揺るぎない決意を再確認すると海から視線を外して探索に戻ることにした。
本来ならば、こんなところで時間を浪費している暇などないのだ。
それでも、フェイトはまだ幼かった頃の思い出、優しかった母に連れられて行った海を思いだしてつい懐古してしまったのだ。
これが終わればきっと、あの日に戻れる。私は母さんと幸せになれる。
フェイトは暗い闇に落ちる希望の光を信じて歩き出す。が、ここであることに気がついた。
「お財布が……ない……?」
何気なしに触ったデニムのスカートのポケットに在るはずの感触がなかった。
それは赤い折りたたみ式の財布で、中には地球で使える通貨とカード、それと偽造した身分証などが入っており、地球での生活で必要な全てが収められていた。
つまり、それがないとこの世界で生活ができない。
どうしよう……!
どうしよう……!
一度母さんのところまで戻るか……。いや、それはできない。こんなことで母さんの手を煩わせるようなことをしたら失望されてしまう。自分の力でどうにかしなければ。
しかし、フェイトの焼けつくような気持ちとは裏腹に、財布といつどこで落としたのか見当もつかなかった。
家から歩いてきた道中か、立ち寄ったコンビニか、それとも空を飛んでいた時か。
空を飛んでいた時ならば見つけるのは絶望的だ。捜索範囲が広すぎる。
自分はなんて間抜けなのだろう……。
フェイトは自分が情けなくて目頭が熱くなってきた。
「あのー……」
フェイトがどうすることもできなくて立ち竦んでいると、不意に後ろから声をかけられた。
一瞬戸惑った。声をかけられるまで接近されていたことに気がつきもしなかった。だが、フェイトは声に振り返ると感情の振り幅は一瞬にして真逆なものになった。
立っていたのはフェイトと同い年ぐらいの少年だ。強い癖の入った黒い髪をうなじで一つに束ねていて、肩には黒い鳥を止まらせている。
普段ならば、あまりの特徴的な鳥の方に視線を奪われるだろうが、フェイトの目は少年の手に釘づけにされた。
「それ……!」
少年の手には、フェイトが落とした財布が握られていた。
フェイトは歓喜と、そして感謝の言葉を少年に伝えようとして、ドキリとした。
少年がフェイトを見る目、それは驚愕に染まっていてまるで幽霊を見ているかのような表情をしていたからだ。
「アンラ……マンユ……?」
少年はフェイトを見ながら、震える声でそう絞り出した。
◇◆◇
一葉は息を切らせて走っていた。原因は定期的に振動する携帯電話のせいだ。
「二分で来い」
最初に言われた時よりも百八秒の猶予を与えて貰ったが、本当に二分おきに電話が振動するからたちが悪い。
一葉の家からすずかの家まで少なく見積もっても一時間はかかる。もう開き直ってゆっくり行ってもいいのだが、一葉の心臓はアリサに対する恐怖で支配されていた。
今は電話の振動は無視しているが、最初の方に応答した時のアリサの声は氷のように冷たく鋭い声で、冷ややかなものが一葉の背筋を駆け抜けていった。それはアリサが本気で怒っている時の声だ。
電話の向こう側では携帯のディスプレイを割らんばかりの握力を込めて話している姿が想像できた。
ちなみに、怒りのゲージがマックスになった時のアリサの逸話として、こんな話しがある。
それは一葉が聖祥に入学して一年と少しが過ぎた頃、一葉はなのは達と交流を持つようになるまでいわゆる苛めというものに遭っていた。名門の私立小学校といえど、いやむしろ名門だからと言うべきなのかもしれない。選民意識の強い私立、それも心根が根付くまでの不安定な幼少期において群れかたがわからないものに行われる、群れることに成功した者たちの洗礼を受けていたのだ。
一葉はそもそも群れるつもりも無かった。
この世界で、全てが馬鹿らしく思えた。社会に守られて、大人に守られてのうのうと暮らしている少年少女が厭わしく思えた。
埋もれた歴史を知りもしないで、ただ与えられる平和を貪り続ける社会が疎ましく思えた。足元に積み重ねられた屍を、自分達は仮に世界だと呼んでいるだけなのに、それに気付きもしない者たちを軽蔑した。
無知とは罪だ。そして無知の塊である子供たちに、一葉が合わせて群れることなど有り得なかった。
一葉は誰よりも孤立していたくせに、成績や身体能力は高かった。そんな一葉が苛めの槍玉に挙げられるのは自然の流れだったのかもしれない。
最初は無視から始まった。まるで透明人間のように、そこに居るのに居ないよな扱いは瞬く間にクラス中に伝播していき、一番後ろの席などプリントがわざと配られないこともあった。
そして時間が経つにつれて、それは少しずつ陰湿なものへと変貌していき上履きや鞄がなくなることや、ノートや鉛筆がゴミ箱に突っ込まれていることなどが日常的に行われていった。
子供は無邪気なゆえに悪意を知らない。周囲に流されることが善であると思い込んでいるクラスメイト達は徐々にその数を増やしていったのだが、それはある日を境にパタリと止んだ。
一葉がアリサ達と出会った日だ。
なのはは当時、クラスでは孤立していたしすずかも自分の殻を作り上げ閉じこもっていた。アリサはアリサで、苛めなどという陰湿なものに加わる心根は持ち合わせてはいなかったが、クラスで苛めが起きていることは察していた。
だが、それが一葉だとは思いもよらなかったらしく、一葉が苛めの標的にされている気がついてから直ぐに一葉に、それは事実かと問い詰めにきた。
一葉は、その時は興味な下げに事実だけを簡潔に伝えた。
時間が経てば苛めている側も飽きるだろうし、正直一葉自身苛めに遭っているということ自体が興味なかったのだ。
自分が可哀想だとは思わなかったし、今の現状をどうにかしようなどとも思っていなかった。
だが、一葉の話しを聞いたアリサは、口角を吊り上げて背筋が凍るほどの笑みを浮かべた。
単色の感情に塗りつぶされた瞳は一葉ではないどこかを映し、その笑みを見た一葉の直感が、この少女を敵に回してはいけないという警鐘の音は忘れることができないままだでいる。
そして、その直感が実に正しかったことを一葉は翌週に知ることになった。
週が開けての月曜日、一葉がいつも通りに教室に行くとその日は席に空きが目立った。その時は気にも留めなかったが、ホームルームの時間に担任の教諭が席に居ない人間は急な転校が決まったということが伝えられた。
同じクラスの人間が、まるで照らし合わせたかのように時期外れの転校。そんな偶然があるはずがない。
そして何気なく彷徨わせた視線の先に、一葉は腹の底から沸き上がる歓喜を噛み殺しているかのような笑みを浮かべるアリサが目に入ったのだ。そこで一葉は初めて姿を消した生徒たちが、自分を苛めていた主犯格の人間ばかりだという共通点に気がついた。
ホームルームが終わると同時に、アリサは真っすぐと一葉の席の前に来てこう言ったのだ。
「これで……、アンタを苛める人間はいなくなったわよ」
チェシャ猫のように無邪気に歪むアリサの顔はいつも通りに可憐な美貌を持ち合わせているのに、触れれば溶けてしまいそうな危うさも内包していた。
普段は友達思いで正義感が強く、常に他人のことを気にかけている善人を絵に描いたような人柄をしているのに、家族や友達、自分を大切に想う者に危害を加える者にはそのベクトルは見事に反転する。
一葉はしばらく後になって知ったのだが、アリサの家は人の人生など簡単に操作できるほどの資産家らしい。
ちなみに転校していった少年たちの行方を知る者は誰もいない。
ともあれ、今回はおそらくすずかに関してのことでアリサの逆鱗に触れたのだろう。この年頃の子どもは親しい間柄の人間と情報の共有を渇望する傾向があるし、アリサ自身も黒色の鷹を見ることをかなり楽しみにしている様子だった。それが、いざ当日になると一葉の寝坊というのは、憤慨されても文句のつけようがない。
つまり、時間が経てば経つほどに事態の収拾が面倒臭くなるのである。
一葉は一秒でも早く月村邸へと辿りつく為に、普段使っている商店街のルートではなく海鳴公園を横断するルートを選んだ。
この時間帯ならば、公園を抜けた先にある大通りのバスが丁度いいはずだ。
額と首筋に玉のような汗を浮かばせながら、長く続いた冬の凍土を溶かそうと降り注ぐ太陽の光の下を走り続ける。流れるような景色で、視線の先に赤い小さなものが落ちているのが視界に入った。
それは自然との調和をコンセプトに作られている海浜公園で明らかに浮く、人工の赤色をした女ものの財布だった。
一葉は速度を落として、財布を拾い上げる。すると掌にずっしりとした重量を感じた。明らかに一カ月分の給料がそのまま入っていそうな重みである。
「うわー……、どうすんべー……」
一葉はどうしたらいいものかと呼吸を整えながら思案した。一度拾ってしまったからにはそのまま見て見ぬ振りもできないし、落とし主も困っているはずだ。
だが、交番は遠いい。
『一葉、あちらで挙動不審な少女がいるのですが、もしかしたらそれの落とし主かもしれませんよ』
一葉はベヌウに視線で促された方向を見ると、雑木林の向こう側、木々の隙間から確かになにかを探しているような仕草をしている少女がいた。
「お前、目ぇいいなぁ……」
一葉も視力にはそれなりの自信があるが、それでもベヌウが指した人物はほとんど点でシルエットで辛うじて性別がわかる程度でしか捉える事ができなかった。
『私の素体は猛禽類ですよ? 人間よりも視野が広く深いのは当たり前です。 その気になれば夜の海に投げ捨てられた針だって見つけ出すことができます』
北海道の大鷲は雪原に同化した雪兎も的確に補足して捕えるという。同じ猛禽を素体につくられているのであれば、デバイスという兵器として造られたベヌウはその索敵能力は野生の遥か上をいくのだろう。
一葉はとりあえず軽い駆け足で少女の方へと向かいことにした。距離が近づくにつれてその輪郭がはっきりとしていく。後ろ姿しか見えないが、この辺りでは目にすることはあまりない外国人だった。
くすみのない艶やかな金髪。アリサの金色が太陽の色だとすると、その少女は月の光のようだ。それを二つに纏めている。
一葉が近づいていることに気がついていないらしく、ずっと下を剥いたままうろうろとしていた。
とりあえず、この少女に財布の持主であるかどうかを聞こう。それがそうであれば万事解決。違ければ、申し訳ないがこの事は無かったことにしよう。
「あのー……」
一葉が声をかけると、少女は振り返る。
そして、一瞬一葉の時間が止まった。
太陽の光に反射する、絹のような美しい髪。
鬼火のような白い肌。
見ているだけで吸い込まれてしまいそうになる、燃え上がる煉獄から生み出されたガーネットのように赤い双眸。
名工が作り上げたビスクドールのように、作り物を思わせるほどの美しさを持った少女を、一葉は知っていた。
「アンラ……マンユ……」
かつての一葉が手を下した、自らを世界と名乗った少女がそこには居た。
◇◆◇
困惑した二人の間に海から運ばれる湿った風が吹き抜ける。
生臭い潮の香りを孕んだ風は、一葉の鼻孔に粘りつくように入り込み冬の鉄のように硬く、冷たくなった思考を緩やかなものにさせた。
目の前いる少女は驚くほどアンラ・マンユと容姿が似ているとはいえ、冷静になって注視すれば少女の雰囲気、第一印象とも言うべきかもしれない。それがまるで違う。
アンラが冷静と孤高を内包し、決して揺るがない北極星だとしたら、少女は夜とともに姿を変える儚い月のような印象だ。
少なくとも、アンラはこんなところに居るはずはない。一葉はサッと引いた血が心臓から指先まで戻っていくのを感じると、同時に絞ったように苦しくなっていた喉が緩んだ。
「あー……、ゴメン。 知り合いにすごく似てたから驚いてた。 それより、これって君の?」
「あっ! そっ、そうです!」
一葉は手にしていた財布を差し出すと、少女は白魚のように細く華奢な指先で財布を受け取り、大事そうに胸元で抱えると、ホッと安堵のため息をつく。そして、二つに纏めた金髪を無造作に空中に躍らせながら大げさに頭を下げた。
「あの……! ありがとうございました……!!」
「別に気にしなくていいよ。 拾ったもんそのまま渡しただけだし。 でも、これからはそんなに中身入れない方がいいよ」
「はい……」
一葉が軽く注意すると、少女は雨に打たれた花のようにシュンと萎れてしまった。そんな姿を見て、一葉は軽く息を吐くと自分の財布を取り出し、ホルダーに付けていたキーチェーンを取り外し、少女に差し出した。
「はい、これ」
「え? これって……?」
一葉の掌に乗っているのはなんの装飾もされていない、無骨なデザインの鎖だ。少女は半ば反射的に受け取ると、どういう用途で使用するものなのかわからないらしく、一葉とチェーンを見比べた。
「それ、キーチェーンだよ。 財布を落とさないように、両端の金具で財布とズボンを繋げんの。 それ、あげる」
「え!? そんな、悪いよ!」
「いーよ。 同じようなの他に持ってるし」
ワタワタと両手を振る少女に、一葉が早く財布に着けるように促す。鎖を持ったまま手を振るものだから、鎖がビュンビュンと空気を切り裂く音を上げて危ない。
少女は俯きながら申し訳なさそうな声でありがとう、と言うとおぼつかない手つきで財布のホルダーに金具をつけ始めた。
「あの……、なにかお礼を……」
金具と金具をぶつけ合う音がカチャカチャと響く。少女は上目遣いで窺ってくるが、一葉は面倒臭そうに手をヒラヒラと振って答えた。
「いいよ。 そういうのめんどくさいでしょ?」
「だめ!!」
少女が口調を強めると同時に、カシャンと鎖が型にはまる音がやけに大きく響いた気がした。今までの抑え気味な態度とは打って変わって、押し気味な口調に一葉は一歩身を引いてしまう。
少女の方も、無意識のうちに声を荒げてしまったことに羞恥で顔を赤く染めていた。
「あ……、あの……! 恩を受けたらきっちり返せって、母さんが言ってて……!」
「ああ……、そうなんだ……」
取り繕うように言葉を紡ぐ少女に、一葉は戸惑いながらも相槌を打つ。
「ありがたいんだけど、今はちょっと急いでてさ……」
「でも……、ここまでして貰ってなにもお礼ができないんじゃ……私が納得できない……」
呟く少女の瞳には真摯な光が宿っていた。見たところ一葉と同い年ぐらいだろうか、真っすぐと心根の優しい少女に、一葉は気持ちが朗らかになっていくのを感じた。
二度目の人生、そして二度目の九歳は家族にも友人にも恵まれなに不自由なく過ごすことができているが、かつての人生では人生の転機とも呼べる出来事があった。
それは生涯の主君と出会ったこと。思えばあれが全ての下り坂だったのかもしれない。
千年続いた戦国の世、流された血と積み重ねられてきた業。哀しみの鎖で繋がれた負の連鎖を共に断ち切ろうと言った主。
それは決して歴史の表舞台には現れない、人と人との争いではなく、人と人を超えた者の争いへの誘いだった。
異能の力を持って生れた自分。身に流れる異端の血は己の為でなく、ただ主の為に忠義を尽くす一本槍であろうと心に誓った。
だが駆け抜けた戦場が百を超す頃に誓いは破れ、誇りは砕け、忠義は絶望と呼ぶ名の風と雨に晒され朽ちていった。
そうなるように仕向けたのはアンラだったが、あの無の世界でアンラに会った時、一葉は不思議とアンラを憎むことができなかった。
それは肉体が滅んだために記憶が記録になったせいか、もしかしたらそもそも憎しみと言う感情自体を持っていなかったのかもしれない。
一度目の人生、あの時の一葉は壊れていた。気が触れてしまったわけでも、狂ってしまったわけでもない。自分が壊れていると自覚できる壊れ方をしていたのだ。
そして、それはアンラにも同じことが言えただろう。
自分を殺すという禁忌を躊躇うことなく臨んだ少女はきっと一番壊れてはいけないところが壊れてしまっていたのだろう。
そして、そんなアンラと同じ容姿をした少女が目の前に居るということがなんとなく奇妙な感覚がした。
「じゃぁ、貸し一つってことでどう?」
「貸し一つ?」
一葉の妥協案に少女はキョトンとした表情で首を傾げた。
「つまり、今度オレが困ってた時に助けてってこと。 それでチャラってことでどうよ?」
「え……、でもまた会えるかわからないし……」
「わからないってことは、また会えるかもしれないってことでもあるでしょ。 日本ではそういうのを“縁”っていうんだよ」
「“えにし”……?」
「そ。 次に会った時、お互いに名無しじゃなんだから自己紹介しとこう。 オレは緋山一葉。 緋山がファミリーネームで一葉がファーストネーム」
「私は……、フェイト。 フェイト・テスタロッサです……」
フェイトはどこか気恥ずかしそうに、はにかみながら言う。
運命の名を持つ少女との出会いは、まさしく一葉を運命の渦へと導く始まりだった。
◇◆◇