魔法少女リリカルなのは Broken beast   作:やまあざらし

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 一葉は温泉に三十分ほど浸かって、ここ数日の特訓で凝った筋肉をゆっくりほぐした。足の痛みも、腕の痛みもほとんど取れている。これならば、もう戦闘にも支障が出ないだろう。

 温泉から上がると、着替えの浴衣に袖を通してから今日着てきたTシャツと下着はそのままゴミ箱に捨てた。その為にわざわざ着古したボロイものを着てきたのだ。

 一葉は浴衣の帯を締めると、その上に紺色の羽織を腕に通した。

 

 「それじゃ、士郎さん。 先に行ってますよ」

 

 「は~い~よ~」

 

 一葉は脱衣所を出るときに、まだ中に居る士郎に声をかけると、士郎は百円を入れたら動くマッサージチェアの振動に身を任せ、間の延びた声で答えるのを聞いてから廊下に出た。

 そのまま、一度部屋へ戻ると戻るつもりだったが、二階へ続く階段の踊り場の小窓から見える景色がふと気になった。温泉浴場のある中二階の踊り場の階段を下りて、庭園へと繋がる縁側を目指して歩き出す。

 この宿は百年続く老舗なだけあって、庭園の造りも純和風で立派なものだった。枝ぶりのいい松や、年季の入った石灯篭、斜め上を見上げれば簾で隠された向こう側からは温泉の白い湯気がもくもくと空に向かって揺らいでいる。

 

 一葉は縁側に腰を下ろすと、気持ちのいい風が吹いてきた。この時期の風は、まだ少し冷たかったが、それでも火照った身体には丁度いい。のぼせた頭の熱が、スーと冷えていくと、縁側の廊下が軋る音がして、一葉は振り向いた。

 

 「はっぁ~い、少年。 はじめまして」

 

 見覚えのない女性が、そこには居た。腰まである燃えるような赤をした髪と、額に深緑色の宝石をつけている女性は口調こそは気さくなものだったが、視線にはあからさまな敵意が混じっている。

 声をかけてきたものの、一定の距離を保ったまま近づいてこようとはしなかった。

 

 「君かね。 最近、ウチの子をあれしちゃってくれたのは……」

 

 「失礼ですけどどちら様? そんなに動物の匂いをぷんぷんさせた知り合いなんて一人しかいないんですけど、そちらのお仲間?」

 

 カマをかけてみた。一葉の言った知り合いとは、アゼルと一緒に居た灰色の髪の猫耳女性だ。知り合いというほどではないが、今はそんな些細なことを気にしている必要はない。

 目の前に居る赤毛の女性からも、温泉や石鹸の匂いに混じって、同じ匂いがしていた。

 一葉の誘導はどうやら当たりだったらしく、女性は目を見開き僅かにおののく表情をした。

 

 「なるほどね……。 どうやら、ただのガキんちょってわけじゃなさそうだ」

 

 「お姉さんの方こそ、人間じゃないでしょ。 やっぱり、ジュエルシード絡み?」

 

 一葉がゆっくりと腰を上げると、女性は一葉と視線をぶつけたまま一歩下がった。温泉に入る時に、服は身軽な方がいいと鍼は部屋に置いてきてしまっているが、アルデバランは首にぶら下げている。ここで事を起こすつもりはないが、万が一の時の為にいつでもセットアップできるように警戒していた。

 

 「そうだよ。 私はね、警告しに来たんだ。 これ以上調子に乗るようだったら、ガブリといっちまうよってね!!」

 

 「はぁ……、さいですか……」

 

 「さいですか、じゃないよ! 私たちの手にかかれば、アンタなんかイチコロさ!」

 

 一葉の態度にカチンと来たのか、女性は憎々しげに声を荒げた。この女性は、きっと使い魔なのだろうと確信にも似たものが一葉には在った。

 だが、森の中で見た女性と比べると感情も豊かで、振舞いも人間のそれと変わらない。使い魔にも色々な種類がいるのだなと思いつつも、言うべきことは言っておくことにした。

 

 「まぁ、その辺の話しは置いておいてさ。 ちょっと、そちらのご主人様に伝えておいてほしいことがあるんだけど」

 

 「……」

 

 女性は警戒に顔を険しくするが、対照的に一葉は朗らかな笑みを浮かべて唇を動かした。

 

 「そっちこそ、あんまり調子に乗ってるようなら、喰うぞ……ってさ」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 『あ~、あ~、こちらアルフ。 フェイト、聞こえる?』

 

 『聞こえるよ。 そっちはどう?』

 

 『あー……、うん。 フェイトが言ってた“いちよー”ってガキに会ったよ……』

 

 『え?』

 

 『そんで、少し話したんだけど……』

 

 『そっ……、それで!?』

 

 食いつくように尋ねてくる自分の主に、アルフは暗澹な気持になった。今までフェイトは、他人に固執したことがない。それは生まれ育った環境が否応なしにそうさせたものだが、そんなフェイトが初めて言葉を交わした同世代の少年に特別な思い入れを持つことに、アルフはなんとなくだが納得はしていた。

 フェイトと繋がる精神パスからは、不安と期待が入り混じった感情が流れてくる。だが、そんなフェイトに、アルフは突き離すような気持ちで言葉を続けた。

 

 『フェイト……、アイツにはなるべく近づかない方がいい。 あれは危険すぎるよ』

 

 『え……?』

 

 期待を裏切られた子供のような、呆然としたフェイトの声がアルフの頭に届く。自分の言葉が主を傷つけることだとアルフはわかっている。それでも、あの少年は駄目だ。

 あれは、住む世界が違いすぎる。

 

 “喰うぞ”あの時、酷薄な笑みを浮かべて言った少年に対して感じた感情は、恐怖だった。

 それは本能にも似た、獣という野生の根源に眠っている畏れを力任せに引きずり出されたかのような恐怖だ。

 アルフは狼が素体となった使い魔だ。そして、その本能が一葉に対して警鐘を鳴らしていた。

 獣が戦う理由はいつだって生きる為だ。自らの生を生き抜き、遺伝子を子へ繋げる為に、子を守り続ける為に生きることに固執する。

 緋山一葉は、獣の成り立ちの根幹の正反対に居る存在だ。人間というよりも、自分のような獣に近い匂いがした。だが、違う。生物として、圧倒的に隔絶された場所を歩き続けているように思えた。

 その小さな一身に、死の全てを背負って引きずりながら……。

 

 『アゼルの言うとおりにした方がいい。 アイツはフェイトとは違う。 アゼルに任せよう』

 

 『……』

 

 気持ちがみるみる降下して、哀しみの沼にはまった枯れ葉のような気持ちがフェイトから伝わってくる。そんな感情にアルフも心を痛めたが、聞くところによれば、フェイトと一葉はまだ二回しか会ったことがなく、それも一日の中での出来事だ。

 薄い友情だ。今なら、まだ傷は浅くて済む。今日は偶然、一葉を見かけて軽く威嚇をしようとしただけなのだが、さらなる威嚇で返されたのはもしかしたら幸運だったのかもしれない。少なくとも、自分達だけでは太刀打ちすらできないことはわかった。

 例え今、海のような深い哀しみに溺れようとも、人間は哀しみを忘れることができる。このまま、一葉の記憶は時間とともに風化して貰った方がフェイトの為になる。それが、アルフなりの忠誠だった。

 

 『……。 ねぇ、アルフ』

 

 『ん? なんだい?』

 

 フェイトは、少し言葉を躊躇いながらも、意を決したように言葉を続けた。

 

 『一葉と……、話しがしたいんだ。 連れてきてくれないかな?』

 

 

 ◇◆◇

 

 

 夜の一族。

 それは文字通り、深淵の闇に紛れて生きることを宿命づけられた、異能の力を持った哀れな一族。

 その起源を探るには、どこまで歴史を遡ればいいのかわからないが、一つ確実に言えることは、夜の一族は人間の身体を持ちながら、人ではない進化を遂げたということだ。

 人と同じ姿をし、人と同じ言葉を操り、人と同じように振舞える、人とは違う者。それを人は化け物と呼ぶ。

 

 そう、月村すずかは化け物だ。

 夜の一族の大抵は、人より高い運動能力を持ち、秀でた頭脳を持ち、美しい容姿を持つ。人の渇望する大抵を手にした対価は安寧だった。

 夜の一族は、人の血を吸わずにはいられない。吸血症、好血症に非常によく似ているが、それは違う。精神的依存、性的嗜好、肉体的ではなく心に帰結するものであるということまでは同じだ。ただ問題は、それが遺伝してしまうということだ。

 

 もしかしたら夜の一族は、その血を糧に異端の力を手にしたのかもしれない。

 そして、人の血を啜ることで、人間を超えてしまった者たちを、人は決して許容などしなかった。容赦のない迫害と、魔女狩りとも呼べる一方的な虐殺という悲劇が一族に降り注いた。数の暴力に蹂躙され続け、長い歴史の変遷でその数を減らし続けてきた。

 

 人に畏怖され敬遠される存在。人のように振舞うことはできても、人にはなれない醜い存在。だから、一族の人間として生まれ落ちてしまった限り、自分の領分を生涯わきまえなければならない。

 すずかは、今は亡き父にそう教わり育った。忍はその考えを良しとしなかったが、まだ幼いながらも、すずかは心の内でそれが正しく正しいのだと納得していた。

 人が人の領分で生きるのならば、化け物は化け物領分で生きていくべきだ。夜の一族の名の通りに、夜のように深淵の闇の中に、鴉のようにひっそりと同化して、鉄のように冷たい心臓を抱いて生き続けるべきなのだ、と。

 

 そんな、深海に心を囚われたような、閉塞された気持ちを解放してくれたのは、一人の少年と二人の少女だった

 きっかけはいつも頭につけている白いカチューシャ。写真も、思い出も、なにもすずかに残すことはなかった、すずかの母の形見。この世に残った、唯一の母の生きた証だ。

 

 すずかの母は、すずかが物心つく前に他界した。だが、例え思い出を残していたとしても、多分すずかは実の母を愛せなかっただろう。いや、すずかが好きになれないのは、夜の一族の生き様そのものだ。

 心の深きでは納得はしているものの、最初から定められた運命、人の目を気にし怯えながら、誰とも交わることのない生涯を送らなければならない孤独を、納得せざるをえなけれならないという苦痛があった。すずかの両親は、近くもなく遠くもない近親婚だったそうだ。それは、一族の秘匿を不必要に世間に広まることを防ぐと同時に、血の希少性を守る為に作られた掟だ。すずかも例外ではなく、既に生まれた時から将来の相手が決まっている。

 

 ただ生き永らえる為に、黴の生えるような歴史を持つ一族を永らえさせるためだけに、掟という鎖で窮屈に縛られた生涯を、喜んで受け入れることなどできようもない。見えない檻に囲われて、閉塞された小さな世界で生き続けなければならない苦痛を、どうしたら恨まずにはいられるのだろうか。

 そして、そんな生き方に抗いもせずに、父親と結婚をした母親をどうしたら好きになれようか。

 

 そんな母親と同じように、すずかもまた血という鎖と、運命という濁流に抵抗する術もなく、夢を描くこともできない今日という殻に閉じこもりながら、生き続けることしかできなかった。

 

 すずかは、居るかもわからない神様を憎んだ。

 なぜ貴方は、一つしかないこの世界に二種類の人間を産み落とすのか。持つ者と、持たざる者とを。

 この残酷な世界で飛び立つことも叶わず、空の深さを見上げるだけの井の中の蛙のように生き続けなければならなにのか、と。

 だが、それは違った。すずかは知らなかっただけで、夢を描くことのできる明日を最初から持っていたのだ。

 それを気付かせてくれたのは、あの三人だった。

 すずかの囲う小さな世界の殻を粉々に破壊して、空の広さも、海の青さも教えてくれた。自分は孤独などではなく、ただ一歩を踏み出す勇気を持たない臆病者だったということを。

 

 すずかは最初、この感激を誰に感謝すればいいのかわからなかった。

 一度は憎んだ神様か、濁流に呑みこもうとした運命か、だがそのどちらでもなく、もっと単純な話しで、三人の、大切な友達に感謝を捧げればよかったのだ。

 

 アリサ・バニングス、高町なのは、そして緋山一葉。この三人の出会いがなければ、すずかは未だに壁に囲われた狭い世界で空を見上げ、神様を憎み、運命を嘆くことしかできなかっただろう。

 

 だが、この想いを三人が知ることはない。なぜなら、すずかはその根本たる理由である夜の一族のことを三人に隠しているからだ。

 それは秘匿の掟に従っているということもある。だが、それ以上に怖かった。

 夜の一族であること、自分が化け物であるということを知られるのが。あの親愛の目が、友愛の情が、蔑如と畏怖のものに変わることに心臓を抉られる程の恐怖を覚えていた。

 

 このまま一緒に居続ければ、隠し通せるものでもない。もしかしたら、遠くない未来に秘密を打ち明けることになるかもしれない。それでも今は……、今だけはこの魔法のように楽しい時間を大切にしたかった。

 それなのに、変化は前触れもなく、あまりに突然にやってきてしまったのだ。

 

 最初の違和感はなのはの態度だ。表面上には見せない、微かな異変は一葉に対しての立ち振る舞いに現れた。アリサはその微細な変化に気が付かなかったが、すずかは直ぐに気が付いた。

 あれは他人を恐れて顔色を窺う視線。かつての、三人と出会う前のすずかと同じ臆病者の目だった。

 その時には既に、すずかたちの関係に亀裂が入り始めていた。決定的になったのは、一葉があからさまにすずかたちと距離をとり始めてからだ。

 その出来事に、すずかは戸惑いと恐怖が入り混じった闇が降りてきて目の前が真っ暗になった。

 一葉はすずかたちのグループで中心の人物だ。その一葉がいなくなってしまうことは、グループの終わりを、楽しくてしょうがない魔法の時間の終わりを意味している。

 

 そんなのは嫌だ。

手に入れた安寧を、自分を優しく包んでくれた温もりを失うことになるなんて、嫌だ。思いがけず手に入れた魔法の時間を手放すなんて、絶対に嫌だった。

 例えなにがあろうと、一葉の気持ちを自分達から離れさせるわけにはいかないのだ。

 

 幸いと言うべきか、今年のゴールデンウィークは三家族合同での慰安旅行の予定が入っている。一葉がなぜ、余所余所しい態度をとり始めたのか、腹を割って聞くいい機会ではないか。

 蜘蛛の糸を辿るような、僅かな希望にすずかは縋った。

 

 そして旅行当日。前夜になり亜希子と悶着があったらしいが、それでも一葉がちゃんと来たことにすずかは胸を撫で下ろした。車の中では機嫌が悪そうに耳にイヤホンをあてて会話にはいることを拒んでいたが、二泊三日の旅行だ。機会はまだ、いくらでもある。

 アリサが脱衣所の前で一葉を女風呂に引き込もうとしたときだって、言葉にはしなかったものの心の中ではアリサを支持していた。

 結局、それが叶うことはなかったが温泉に入るのは今だけではない。夕食の後や寝る前だってあるのだ。

 すずかは、ベヌウを抱えて先に言ったアリサ達について脱衣所に入ると、そこには先客がいた。

 日本ではまず見かけないような、燃えるような赤い髪をした女性だった。温泉から出たばかりなのか、豊満な身体を浴衣で隠している最中だった。

 女性はすずかたちを一瞥すると、さほど興味も持たずに手早く着替えを済ませて出ていく時だった。

 

 __え?

 

 すれ違いの瞬間、すずかの鼻に動物の匂いが掠めた。

 夜の一族には、人狼族という種族もいる。狼男のモデルともなった、獣の因子を持った人間だ。今の女性からはそれに限りなく近い匂いがした。だけど、人狼族よりも、もっと獣じみた匂いだ。

 人間に獣が混じったというよりも、獣が人のふりをしている、そんな違和感がすずかの胸に落ちた。

 匂いがしたのはすれ違いの一瞬だけで、確かな確証は持てなかったが、もしもこの時に忍がいたのなら確実な対応をしていたのだろう。

 もっとも、女性の方はすずかを見てもなにも反応を示さなかったのだから一族とは無関係に違いないのだろうが、すずかの胸にはもやもやとしたものが広がっていた。

 

 すずかは、一旦は温泉に入りながらも結局胸のつっかえがとれずに、なのはと入れ違いで女性を探しに行くことにした。

 その際、他の面々には洗顔石鹸を忘れたと嘘をついて、身体を拭くのもそこそこに急いで浴衣に袖を通して脱衣所を飛び出た。

 まずは中庭から、と考えていたのだが、その予想は的中にあまりにも呆気なくすずかは女性を見つけることができた。

 中庭へと続く縁側。その女性はあまりにも予想外な人物と一緒に居た。

 

 一葉だ。

 すずかの位置からは、一葉は後ろ姿しか見えなかったが、二人の間には不穏な雰囲気が漂っていた。

 だが、どこか様子がおかしい。女性の表情にははっきりとした怯えが浮かび上がっていた。それに対して、一葉の後姿はいつもと変わらずに飄々としている気がする。

 見ず知らずの人に絡まれているのならば、立場的には常識的に考えて逆になるのではないだろうか。

 すずかは廊下の曲がり角に身を隠して、二人の様子を覗うことにした。二人の会話を聞く為に聴力を高める。五感の強化は夜の一族の持つ特技の一つで、その気になれば数百メートル先で落ちた一円玉の音だって聞き取ることができる。

 

 だが、二人の会話は要領の得ないもので、話しはほとんど終わっていたらしく漠然としたものだったが、一葉が紡いだ最期の言葉に、すずかは身を震わせた。

 

 “喰うぞ”

 

 まるで背骨に氷柱が突き刺さったかのような悪寒が、すずかの背中を無遠慮に駆け巡った。

 

 __あれは、本当に一葉くんなの?

 

 すずかの瞳に映し出す少年の背中は、いつも一緒に居る少年のものではなかった。

 

 あれは違う。夜の一族とか、そんなものじゃない。もっと恐ろしく、おぞましい存在。夜の一族が人と袂を別ったよりも以前に、別の道を選んだ、そんな存在にしか見えなかった。

 すずかは一葉の影に、黒く巨大な雄牛を見た。強靭な四肢に無数の楔を打ちつけられ、鎖で縛られてなお強大な角を閃きかせる狂牛だ。

 女性は一葉から逃げるように、直ぐにその場から立ち去って行ったがすずかはしばらくの間、立ち尽くすことしかできなかった。

 

 この旅行で、一葉の話しを聞こうと思っていた。少しでも、わかり合えると信じていた。

 だけど、だめだ。あれは違う。自分の知っている一葉ではない。

 それこそ人の形をして、人の言葉を操って、人のように振舞う化け物ではないか。そして、あれが一葉の中で目覚めてしまったから、一葉は自分達と距離を置くことにしたのだとすずかは理解できてしまった。

 そして、自分達を置いて、さらにその先へと進もうとしていることも。

 

 __どうして?

 その先は寂しいのに

 その道は寒いのに

 その果てには孤独と辛さしかないのに

 魔法のような楽しい時間なんて、ないのに

 誰かと一緒に居歩くことなんてできない、狭い、狭い道なのに

 一人が寂しいことなんて、人でない私でさえ知っているのに……

 それなのに……、なのに……

 

 「どうして……?」

 

 呆然と立ち尽くすすずかの頬に、熱い滴が流れ落ちた。

 

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