魔法少女リリカルなのは Broken beast   作:やまあざらし

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 「ベヌウさん、本当にこっちでいいの!?」

 

 「ええ。 このまま直進してください」

 

 なのはは息を切らして走っていた。夜の森は漆黒に呑みこまれていて、手にしている懐中電灯が照らす丸い光の先には枝葉が茂るだけの同じような景色が広がっている。

 肩に佇むベヌウがいなければ、十分もたたずに遭難してしまっていただろう。

 

 「なんで勝手な行動をとるんだ。 これじゃあ、疑って下さいって言ってるようなものじゃないか」

 

 「耳が痛いですね。 一葉には後ほど私から言っておきましょう」

 

 地面を走るユーノは、責めるような口調でベヌウに言う。なのはも言いたいことは山ほどあった。だが、今はそれどころではない。

 なのはが、一葉が旅館を抜け出して敵の使い魔についていったことを知らされたのはついさっきの出来事だ。

 卓球大会も終わり、すずかもいつの間にか床に入ってしまっていたので、なのはもアリサと明日に備えて眠ろうとした時に、ベヌウから念話で事の経緯を教えられたのだ。

 なのはにとっては寝耳に水だった。一葉はてっきり温泉に入っているか、先に寝ているものだとばかり思っていたからだ。

 

 既に状況は始まってしまっている。そして、状況の中身はまた一葉がなのはを置き去りにしたまま、一人でなにかをしようとしていることだ。

 

 自分は魔法という力を手に入れた。特別な力を手に入れたというのに、一葉にとってはまだ足りず、隣に立つことさえも許してくれない。そして、このまま遠くに行ってしまうのではないかという恐怖が黒い蛇となって喉元に絡みつき、食いついてくる。そして、その痛みと衝撃に頭と心臓が熱くなった。

 

 急かす足は止まらせることはない。伸ばした手でさえ怪しい漆黒に呑みこまれていく、そんな暗闇の中では懐中電灯の明かりも気休めにしかならない。視界の外から飛び出てくる木の枝にピシャリと頬を叩かれたり、地面から突き出た木の根に足をひっかけたりと、手足にも顔にもいくつもの切り傷ができて、そこだけに熱がこもる。

 

 突然、空を焼く閃光が広がった。夜の空を呑みこむ青白い光りを、なのはは知っていた。

 

 「あれって!?」

 

 「ジュエルシードの魔力だ! 近くで発動してる!」

 

 「この方角の先は……、一葉が居る場所ですね」

 

 押し出すようなユーノの叫びに、ベヌウが冷静に言うと、なのはは焼けた矢で胸を貫かれたような気がした。

 この先に一葉が居る。もしかしたらジュエルシードを探しに来たあの少年と、戦っているかもしれない。

 一葉の怪我の具合をなのはは知らないが、それでも聞く限りでは安静にしていなければならないものだ。なによりも、一葉は封印術式を持っていない。その事実に、冷たい感触がなのはの背中を吹き抜けた。

 

 なのはは行く手を遮る草木を素手でむりやり掻き分け、身を寄せ合うようにして立ち並ぶ木々の隙間から差し込む光の向こうを目指して足を速度を速めた。

 

 細くて鋭い枝葉に切りつけられるたび、掌が熱い痛みを帯びる。こめかみが破れそうなほどに歯を食いしばり、鋭い痛みに耐えながら前に進むと身体全体に纏わりついていたガサガサとした抵抗感から、ふと解放され視界が広くなった。むせ返るほど鬱葱とした森の中とは違い、その場所は青白い月明かりと、生温かな雨が降り注いでいた。

 

 なのはは頬に打った滴に手を当て、見る。

 

 「なに……、これ……?」

 

 掠れた声が、口から漏れた。

 掌にはべっとりとした血糊が付いていた。月明かりとともに降り注ぐ雨。これが全部地だとでもいうのだろうか。

 背筋が恐怖で震え、眩暈がした。一体、どんな凄惨な出来事がここで起こってしまったのだろう。そして、なによりもなのはが探している少年の姿が見えない。その現実が、なのはの思考を考えたくもない方向へと導いた。

 

 __まさか……、この血って……

 

 「す……、すごい……」

 

 なのはの脳裏に嫌な想像が過り始めた瞬間、頭上から聞き慣れない少女の声が降りてきた。なのはは咄嗟に頭を上げる。

 そこには、赤い雨と月明かりのカーテンが降り注ぐ中、虚空に足を置く二人の姿があった。一人は始めてみる金髪の少女、もう一人は一葉だった。

 

 「あの子は!?」

 

 「ユーノくん、知り合いなの?」

 

 まるで通り魔にでも出くわしたかのような声を上げるユーノに、なのはは状況が呑みこめないまま尋ねた。

 

 「あの森にいたアゼルって奴の仲間だよ! なんで一葉と一緒に居るんだ!?」

 

 「……え?」

 

 ユーノの言葉に、なのはの口の中は一瞬で乾いた。心がぐらぐらと揺れ、いろんな感情が頭の中を駆け巡る。

 

 __アゼルって、あの怖い人のことだよね?

 

 __私を殺そうとした人のことだよね?

 

 __なんでそんな人の仲間と一緒に居るの?

 

 __なんで、私じゃなくてそんな子と一緒に居るの?

 

 冷たい夜気が皮膚を撫で、身体から体温が急速に失われていく。心臓がばくばくと荒れ狂い、知らずの内に握りしめていた拳には冷たい汗が滲んでいた。

 

 「おーい、あったよー」

 

 不意に遠くから聞こえてきた声の方向に、なのはは視線を移した。そこには薄緑色をした、なにかの大きな塊の上に乗った赤毛の女の人が、見せつけるようにジュエルシードをかざしていた。

 

 「ほら、早く封印しなよ」

 

 「あ……、うん」

 

 一葉はなのはが来たことなど眼にも入らず、隣に居る少女に封印を促す。その瞬間、なのはの頭は沸騰したかのように熱くなった。

 これは怒りか?

 違う。だけど限りなく近いものだ。熱を持った沼が心臓に沸きだしたかのような不快感がなのはの胸を支配していく。

 それは一葉が自分に秘密でここに来たことじゃない。本来のジュエルシードの持主であるユーノを蔑にして、あの少女に渡そうとしていることに対してなんかでは決してない。

 

 あの言葉だ。あの言葉は、今まで一葉が自分だけに投げかけていてくれた言葉だ。

 

あの視線だ。一葉が少女に向ける、直ぐ近くからの同じ目線。あれは自分だけに向けていてくれたものだ。

 

 あの場所だ。あの少女が居る、一葉の隣は……、あそこは自分が居るべき場所じゃないのか?

 

 「やっぱり、一葉とあいつらは繋がってたんだよ!」

 

 ユーノが足元で叫ぶ。だが、その言葉はなのはの耳には届いていなかった。

 今のなのはにとって重要なことはジュエルシードのことじゃない。まして、一葉がどちらの味方かどうかでもない。

 

 あの少女は、自分の居場所を奪った……、泥棒だ。

ただ一葉の隣に居る少女に対して、嵐のような怒りが喉元まで込み上げてきた。

 

 「なのは!?」

 

 「ちょっ……、高町嬢!?」

 

 なのはは胸を突き上げる感情に任せて、レイジングハートをセットアップしベヌウとユーノを振り切って空を駆けて行った。

 

 

 ◆◇◆

 

 

 一瞬の出来事だった。

 フェイトが一葉の言葉を返す間もない内に、一葉はフェイトの意識からきて、次に視界に捉えた時にはジュエルシードを取り込んだ暴走体の眼前で槍を下段に構えていた姿だった。

 

 __Upper Soul.

 

 凛然と響くデバイスの機械音。そして、風を抉るような音が辺りに響いた。

 実際に一葉の槍が抉ったのは風ではなく、肉と骨だ。スッポンと呼んでいた暴走体の首が付け根から細か肉片土地の飛沫となって大気に赤い虹を咲かせた。

 

 フェイトは、目の前でなにが起きたのか一瞬理解が追い付かなかった。弾き飛ばされた、砕かれた骨と肉が地面にぶつかる音が耳に届き、そこで初めて意識を引っ張られハッとした。

 

 スッポンの血によって、あんなに綺麗だった湖は血の穢れに染まる。ただの肉塊となり果てたスッポンの上で槍を手携え佇む少年の表情は暗がりで見えないが、月を背負って血を浴びるその姿は、さながら編みあげられた物語に登場する騎士に見えた。

 

 「す……、すごい……」

 

 フェイトの唇から、呆けた声が零れ落ちた。身体が小刻みに震え、無意識の内に寒さに耐えるように両腕を抱えていた。

 この震えは畏怖からくるものではない。胃の底から込み上げてくるような震えの正体は憧憬と興奮だ。

 喉元まで込み上げてくる熱は血を通して身体中を駆け巡り、炎のように燻ぶり始める。

 

 一葉の動きが追えなかった。一度目を瞬く間になにもかもが終わっており、目の前で起こっている現実に混乱しながらも、自らの実力の差を目の当たりさせられたのだ。

 圧倒的な力。視界に入ることすら許さない速度。高速戦闘を主とするフェイトにとって一葉は完成型であり、その光景を見て興奮するなという方が難しかった。

 

 「えーっと……、アルフだっけー? 悪いけどさー、ジュエルシード回収しに行ってくんなーい?」

 

 「へ? あ……、あぁ……」

 

 夜の空から声を間延びにさせて声を張る一葉はアルフに声をかけた。呆けていたのはフェイトだけではなくアルフもそうだった。アルフは一度、視線だけでフェイトに了承を取ると、一葉の足元で横たわる、首を失くしたスッポンの死骸の元へと飛んでいく。

 

 フェイトも、アルフも飛び立ってから一拍置いて、空の上から中々移動しようとしない一葉の隣へ行こうと足を地面から浮かせた。

 

 地面を離れて空が近くなると、月の光が質量を持っているのではないかと思うほど明るかった。穏やかな光の中で、フェイトは一葉の隣に近づくと、ドキリとした。長めの、黒い前髪から覗く打つ茶色の双眸が、深い憂いと哀しみを湛えていたからだ。

 それは、戦いに臨み圧倒的な勝利を収めたばかり者がする目ではなかった。

 

 「おーい。 あったよー」

 

 フェイトが一葉の横顔に眼を奪われていると、下からアルフの声が響いた。声の方を見ると、アルフは見せびらかすようにジュエルシードを掲げフェイトに手を振っていた。

 

 「ほら、早く封印しなよ」

 

 「あ……うん」

 

 一葉の声に促されて、フェイトは慌ててバルディッシュを構えなおし、封印式を展開しようとして、腕を力強く引っ張られた。

 

 「ふぇ?」

 

 フェイトの口から間の抜けた声が零れる。同時に、硝子同士がぶつかり合うような乾いた音が耳をつんざいた。

 フェイトはなにが起きたのかわからなかったが、数瞬遅れて事態を把握することができた。

 誰かから、魔法攻撃を受けたのだ。

 

 「ビビった。 なんだ今の?」

 

 パラパラと桃色の粒子が舞い月明かりに反射する中、一葉の声が、吐息がかかるほどの耳元から聞こえてきて、フェイトは心臓が弾け飛ぶかと思った。

 

 __近い!近い!顔が近い!!

 

 咄嗟の行動だったのか、一葉は抱き寄せる格好でフェイトを左腕でくるみ、胸に押しつけていた。一葉の息が頬に当たるほどに顔が近くて、フェイトは気恥ずかしさと緊張がぐるぐると意識をかき乱して、顔が燃えるように熱くなった。

 

 「……なのは?」

 

 乾いた声が一葉の口から聞こえてきて、フェイトは冷や水をかけられたかのように一瞬にして冷静に戻った。

 一葉がこぼした、なのはという名前にフェイトは聞き覚えがあった。先ほどの一葉との会話の中で出てきた、一週間前に森の中で気を失っていた少女の名前だ。

 フェイトは一葉の腕の中に収まりながら目線だけを動かすと、その先には鬼火のように白いバリアジャケットを身に纏った少女がいた。

 こちらを見据える大粒の双眸には、熱い怒りと冷たい狂気が揺らめいていて、奥まで突き通る光がそこにはあった。

 

 「どうして?」

 

 鷹揚のない、冷ややかな声。

 

 「どうして、そんな子と一緒に居るの?」

 

 

 ◆◇◆

 

 

 一葉に抱かれている金髪の少女を見て、なのはは粘り気を持った黒い感情が胸の内に広がっていくのを感じた。

 

 知っている。この感情は嫉妬だ。

 叫び出したいほどに胃の中で暴れまわる感情の渦を抑え付けながら、あくまで冷静になのはは一葉と少女を見た。

 

 一葉の右手には、普段腰に巻かれている白い布があった。あの布には経絡呪文と呼ばれる術式が編まれており、言語の代わりに予め編みこんだ文字で魔法を発動させる代物だ。一葉はあれに強力な防御魔法の術式を編みこんでいた。

 それをあの少女を守るために使用した。その現実に、なのはは頭の芯を矢に貫かれたかのような痛みを覚えた。

 

 一週間前のあの森で、自分が腰を抜かして動けなかったときはそんなことしてくれなかったのに。一直線にアゼルに向かっていって、一人ぼっちにしてたくせに、なんでその子は身を呈してまで守ろうとするの?

 

 痺れるように熱くなっていく頭で、今日や、今まで一葉と過ごしてきた過去が陽炎のように揺らめき、鮮烈な痛みを胸に刻んでいく。

 

 今まで自分が居たはずの場所。今日まで自分が立ちたいと渇望していた場所。そこに、あの少女は居る。

 もしかしたらこのまま奪われてしまうのではないかという不安に心臓を掴まれ、ギリギリと引き絞られるような激痛と、暗い闇に投げ出されたかのような恐怖が荒れ狂う波のようになってなのはに襲ってきた。

 

 「ねえ、どうして? 一葉くん」

 

 なのはの問いかけに一葉は有り得ないものを見るような視線でなのはを見るだけで、言葉を発することはない。

 言い訳も、弁明もしない一葉に対してなのはは胸の内に更なる苛立ちがささくれた。

 

 レイジングハートに魔力を再装填する。桃色の魔法陣がなのはの足元に浮かび上がり、発狂するかのような煩悶を抑え付けながら少女を睨む。

 この少女がいけない。この少女さえいなければ……。

 消却されない苦しみにも似た感情は一葉ではなく、一葉の腕の中にいる少女に向けられていた。

 

 「……で、そのままどうすんの?」

 

 険を含んだ声が風に乗って、なのはの耳朶を打った。一葉は、獲物を見据えた猛禽類のような鋭い視線でなのはを射抜いていて、なのはは動揺した。

 今まで一葉に、これほどまでに厳しい眼で見られたことがなかったからだ。

 

 「今装填した魔力を、オレにぶつければそれで満足?」

 

 「それは……」

 

 冷ややかな一葉の口調に、足が震えて胸が凍りついた。少なくとも、なのはは一葉の言葉を実行するつもりはなかった。

 自分の攻撃の対象はあの少女。敵のくせに一葉を誑かし、自分の居場所を奪おうとしている少女を少し痛めつけてやるつもりだったのに、それなのに一葉は金髪の少女を庇いながら突き刺す視線をなのはに向けている。

 その視線に迫られて、なにか喋らなければという断崖に追い詰められたように切迫した感情が喉元まで込み上げてくるが、言葉が絡まってうまく喋ることができなかった。

 

 そして、二人の姿を見ている内になのはは気が付いてしまった。今この場所にいるのは決して三人ではない。

 二人と、一人だ。

 一葉にとって自分は思いがけず現れてしまった邪魔ものであって、一葉が自分を庇護することなど決してない。

 疎外感と澱が腹の底に溜まり、なのはは目尻が熱くなっていくの感じた。

 不意に、風が唸りを上げた。

 

 「え?」

 

 漏れた声は誰のものだったのかはわからない。一葉かもしれないし、もしかしたら自分だったかもしれない。

 ただ、しっかりと確認できたことは金髪の少女が一葉の腕から飛び出し、凶刃をなのはに振りおろしたということだけだった。

 

 

 ◆◇◆

 

 

 __Protection.

 

 なのはの前に展開された薄桃色の壁に、バルディッシュの刃が喰いこんだ。

 インテリジェントデバイスのAIに阻まれ、フェイトは小さく舌打ちをした。

 

 しくじった。そう思ったからだ。

 

 状況に身体の動きが追い付かないのか、なのはは目を丸くしたまま固まっている。ならば、勝機は今だ。

 フェイトは、今度はなのはではなく、防御魔法を破壊する為にバルディッシュを振るった。

 一撃、二撃。思っていたよりも硬い。空気を引き千切る音を上げて、ようやく三撃目で防御魔法に亀裂が入り砕けた。

 

 フェイトは、なのはと呼ばれるこの少女が嫌いだった。そうであろうと、心の中で決めていた。

 その理由は一つしかない。なのはが一葉の友達だからだ。

 自分が欲しくて、欲しくてたまらないものを当り前のように持っているなのはが妬ましかった。

 まるで、玩具を買ってもらえずに癇癪を起している子供だ。頭の中に僅かに残った冷静な部分がそう言っているが、フェイトはあえて燃える炎のような激情に身を任せることにした。

 

 背中から一葉が制止する声が聞こえる。だが、フェイトはその声を振り切るかのように、防御魔法が砕かれた衝撃で地面に落下していくなのはに追撃をかけようとする。しかし、それは若草色の魔法群に阻まれた。

 

 バインドだ。魔法を覚えるときに初めて習う基礎魔法だが、高い汎用性とバリエーションに富んだ拘束魔法。

 縄状となった八本の魔力の集合体は、狡猾な蛇のような動きでフェイトに襲いかかる。フェイトはそれらを身を捻じり躱しながら、バルディッシュの刃で破壊していく。そして、四本目を叩き落とした瞬間、若草色のバインドに混じって桃色の砲撃が風を壊す音を立てながらフェイトに迫ってきた。

 

 「……っく!」

 

 フェイトは攻撃の手を止め、咄嗟に防御魔法を自分の前に展開した。

 

 フェイトは防御魔法を自動設定にも、バルディッシュにも発動権限を委譲していない。自動防御設定は実用性が高い反面容量が重く、大抵の場合は魔法初心者か、もしくは固定砲台と呼ばれる砲撃魔道師が好んで使うのだが、高速戦闘を主とするフェイトはそのどちらでもなかった。

 術式を位置から構築するには、どんなに訓練を積み慣れていても僅かに隙が生まれてしまう。

 そして、今回はその隙をつかれた形となってしまった。

 

 二発。なのはが撃った砲撃がぶつかっただけで、フェイトの張った六角形の金色の壁に蜘蛛の巣のような亀裂が走っていた。

 そして、その向こう側。なにもかもがズレて見える景色の向こう側に、間を置かずに次弾を装填し終え、壊れかけた結界に杖頭をコツリと当てているなのはを見て、フェイトは背筋が凍った。

 いつ距離を詰められたのかわからなかった。ただ、今わかるのは自分が絶望的な状況に追いこまれていることだけだ。

 

 「……あんたなんか、いなくなっちゃえ」

 

 ゾクリとするほど、冷酷な声が届いた。虫けらを見るような冷徹な視線がぶつかる。

 

 逃げられない。フェイトは身体を強張らせて、固く瞼を閉じた。

 

 

 ◆◇◆

 

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