魔法少女リリカルなのは Broken beast 作:やまあざらし
アルフが発動させた転送魔法の行く先は、フェイト達が間借りしている高級マンションの一室だった。
フェイトを腕に抱えて、フローリングの地面に降り立つと、アルフの鼻に微かな鉄の匂いが掠めた。人間では知覚できないほんの僅かな血の匂いは、この場で滴ったのではなく、血の付いたなにかがここを歩いた香りの残滓だ。
アルフは周囲の状況を把握するために、頭から飛び出た三角形の耳をぴくぴくと動かす。するとリビングの扉の向こう、廊下の奥からシャワーの水がタイルを叩きつける音に混じって、噛み殺すような艶のはいったリニスの喘ぎ声が耳朶を打ち、アルフはフェイトに聞こえないぐらいの小さな舌打ちをした。
アゼルとリニスが肉体関係を持っていることはずっと前から知っていた。確かに、術者に忠実で妊娠の必要もない使い魔は、そうした性欲の処理に使われることは多々ある。自身が使い魔であるアルフにとって、そのことは理解も納得もしているが実際に身内にやられるのとでは認識に違いは生まれる。
それに、今はフェイトと居住を共にしているのだ。フェイトとアゼルの生家である時の庭園では、二人の部屋は離れていた。だが、今はこうして決して広くはない部屋で共に背カツをしているというのに、アゼルは自重というものをしない。
アゼルとリニスの関係が、まだ幼いフェイトにとって悪い刺激にしかならないと言うのに、関係を無遠慮に重ね続ける二人に対して、アルフは苛立ちを募らせていた。
今度、一度ガツンと言ってやらないとだめかねぇ……。と、アルフは胸中で溜息をつく。フェイトはまだ、二人の関係に気が付いていないがそれも時間の問題だろう。
ふと、アルフの腕に圧し掛かっていた体重が軽くなる。
フェイトはアルフの腕から立ち上がると、振り返って薄い笑みを浮かべて言った。
「いっぱい汗かいちゃったね。 アルフ、一緒にお風呂に入ろっか?」
その言葉に背筋がビクリと震えた。
やばい……、今フェイトを風呂場に向かわせたら非常にまずい。少なくとも、保健体育の知識を持っていないフェイトにとっては未知の領域を目の当たりにすることになってしまう。アルフは慌てて腕を耳をバタバタと振って声を荒げた。
「イヤッ、フェイト! 風呂は今、多分アゼルが入ってるよ! ほら、シャワーの音が聞こえるだろ!?」
水の音にかき消されたアルフの喘ぎ声は人間の耳には届かない。とりあえず、今はフェイトに風呂場は使用中だということを伝える必要があった。
アルフの言葉に、フェイトは意識を廊下の先に向ける。そして、初めて水の音に気付き、「ホントだ」と小さく零すと、傍らに遭ったソファに座った。
真っ白なソファのスプリングがギシリと軋む音を微かに響かせ、フェイトは膝を抱えて体育座りをとる。
腰まである尻尾のような金色のツインテールを垂らし、どこか浮かない表情でいるフェイトに、アルフは心配そうな声色で声をかけた。
「フェイト……、途中で邪魔がはいっちまったけど、あのガキんちょと話せて満足できたのかい?」
「え……? あ、うん……」
アルフの言うガキんちょというのは一葉のことだ。アルフの言葉にフェイトは咄嗟に言葉に詰まり、歯切れの悪い返事をしながらまつ毛を伏せた。
そんなフェイトを見て、アルフは困ったように肩をすかした。フェイトが視線を伏せるのは、嘘をついている時の癖だ。確かに、一葉との別れはフェイトにとって納得できるのもではなかったのだろう。
「ねぇ、アルフ……。 一葉のこと……、どう思った?」
顔を俯かせ、膝の上で指を弄びながら尋ねるフェイトにアルフは溜息をつく。フェイト自身気が付いていないのだろうが、これではどう見ても恋する乙女にしか見えない。
子孫を残す機能がないゆえに、恋愛感情を持たない使い魔であるアルフから見ても、フェイトの表情はあからさま過ぎる。
とりあえず、アルフはフェイトの感情に合わせることにした。
「まあ、私はあんまり直接話しはしなかったけど、割と良い奴なんじゃないか? 初っ端はあれだったけど、フェイトには優しかったしね」
「だよね!? だよね!?」
俯かせていた顔を上げて、心の底から嬉しそうな声を上げるフェイト。アルフとしてはフェイトの気持ちに沿う返答をしなければならないということを含んでいても一応、それが偽りのない正直な感想だった。
初めてあの少年と対峙した時、あの少年がぶつけてきた威嚇は、生物としての本能が警鐘を鳴らした。
フェイトと同い年の小さな少年が涼やかな表情で出す、鉛のように重厚で濃厚な悪意の渦。蛇が静かに獲物を締め上げるかのような畏怖が、アルフの心臓に絡みついた。
あの時に感じた恐怖は、疑いようのないほどに圧倒的なものだった。しかし、その後のあの森で、静かに水を湛える泉の畔で会った時には、そんな恐怖など微塵も感じ取ることができなかった。
最初の方こそ、地球の重力を全て押し付けられたかのような畏怖を中てられたが、それだけだ。フェイトと話しを始めてしまえば、フェイトの身を案じるような素振りさえ見せていた。
だが、それでも決して信用したわけではない。
あの少年にとって、ジュエルシードの収集は目的じゃない。暴走体から取り出したジュエルシードを容易く譲渡してくれたことから、それは明白だ。だが、ジュエルシードをこれからも追いかける口ぶりをしていた。
いったい何のために?
もし……、もしもの話しだが、ジュエルシードを集めることが目的でなく、ジュエルシードを探している誰かが目的だとしたら……、ジュエルシードをなにかを為すための手段を考えているのなら、その手段の先に居るのは一体誰なのか。
アルフの脳裏に、三人の顔が過った。
一人は当然、フェイト。そして、アゼル。最後の一人は二人の母親だ。そして、その三人の中から、消去法で考えると、一人しか残らない。そして、一葉がその一人を追いかけているというのならば、フェイトにも危害が及ぶかもしれないという危惧は拭いきれないのだ。
「ねぇ、フェイト。 フェイトはあのガキんちょのこと、どう想ってるんだい?」
「え……? どう、って?」
アルフは思いきって聞いてみた。
フェイトが一葉に惹かれ始めていることなど、言われなくてもわかる。
母親からは愛されず、兄からは無関心を決め込まれ、社会性が希薄な時の庭園の中では他にフェイトに手を差し伸べる大人などもいない。
フェイトが触れた、一葉のほんの少しの優しさも、フェイトにとってはかけがえのない初めての出来事だったはずだ。
アルフはそんなフェイトが、いったいどれほど自分の感情に気付いているのか確かめてみたくなったのだ。
「好きなのかどどうか、ってことだよ」
アルフの言葉に、フェイトは二、三回瞬きをして固まった。
壁に掛けられた時計の秒針が、チクタクと時を刻む音がやたらと大きく響く。三十秒ほど、アルフと視線を固定していたフェイトは突然、ボッと白い肌が赤く茹であがった。
「や……、え……? あれ……? え……?」
あ、藪蛇だった。アルフはそう思った。
頬に掌を中ててうろたえるフェイトの様子を見て、なんとも言えない微妙な気持ちになった。
自分の主の初恋は歓迎すべきことなのだが、同時に相手があの少年であるということに鉛のように重たいものが胃に圧し掛かる。
あの少年はフェイト側の人間じゃない。いや、あの野生染みた殺意はそもそも人間であるかも怪しい。
旅館の縁側で垣間見た黒い雄牛の影は、決して見間違いなどではない。あの影には、むせ返るほどの獣の匂いがあった。
フェイトが一葉と一緒に居ることを望めば、いずれあの屈強な角はフェイトの喉を突きさすのではないかという不安がアルフの胸中を占めていた。
「で……、でも……。 私、一葉と友達でもないし……、それに敵同士だし……」
まるで自分自身に言い訳をするかのように、頬を赤らめながら言葉を重ねるフェイトを見て、アルフは腰に手を中てて困った笑みを浮かべた。
胸に秘めた不安も、フェイトのそんな表情を見ていると割とどうでもよくなってきたのだ。勿論一葉は確かに危ないが、正直ここまできたらなるようになるしかないという投げやりな気持ちもある。
「今はまだ、だろ? 確かに今は敵同士かもしれないけど、ジュエルシードのことが終わればもう一回会いに行ってみればいいじゃないか。 そんときゃ、多分歓迎してくれるよ」
「そ……、そうかな?」
フェイトは不安そうに上目遣いで、アルフに尋ねる。不安を溜めこむのは自分だけで十分だ。とりあえず今は、フェイトの気持ちを優先して言葉を続けた。
「そうさ。 そもそもね、フェイト。 友達ってのはなろうと思ってなるもんじゃなくて、気が付いたらなってるもんさ。 もしかしたら、向こうはもうフェイトのことを友達って思ってるんじゃないかね?」
「……そうかな?」
「なんだったら、次に会った時にでも聞いてみたらどうだい。 今日は白い奴とイタチの使い魔が来たからああいう別れ方になっちまったけど、そもそもフェイトのことを本気で敵として見てるんだったら、あんなに気に掛けたりしないだろう?」
アルフが言うと、フェイトの表情にサッと黒い影が差した。
「でも……、私たちが帰る時に……、一葉が私たちを見た目はすごく冷たかった……。 そんな目で一葉に見られて、私は一瞬、怖いって思った……」
視線を落として、フェイトは別れ際の一葉の目を回顧した。闇を閉じ込めた氷のように冷たい目。そして、その目をしたときの一葉は、今までそこに居たのに手を触れることができない幽霊のように存在が希薄になっていた。
まるで一葉の姿をした別のなにかがそこに居るかのような気味の悪さをフェイトは感じていた。
そして、フェイトはその気味の悪さを知っている。それはアゼルが……、自分の兄がつねに纏っている雰囲気そのものだからだ。
「一瞬でも……、ほんの少しでもそんなことを想った私に……。 一葉と友達になれる資格なんて、あるのかな……?」
「フェイト……」
思い詰めた表情で言葉を重ねるフェイトに、アルフの表情にも影が差した。
こうして、なんでもかんでも悪い方向に考えてしまうのはフェイトの悪い癖だ。他人の信じ方どころか、自分を信じる術さえも知らないこんな性格になってしまったのは、家庭環境によるところが大きい。
先ほどまで朱色に火照っていた頬もいつもの白色に戻っていて、心の在り処を探すように胸に手を当てていた。
そんなフェイトが可哀想で、それを言葉にできなくて、アルフはギュッとフェイトを抱き寄せた。
「わっぷ! アルフ!?」
アルフの突飛な行動に、フェイトは驚いた声を上げるが抵抗らしい抵抗はしていない。腕の中で、キョトンとした表情でアルフを見上げていた。
「どうしたの? 急に」
「んー? なんでもないよ。 急にこうしたくなっただけさ」
華奢な肩、薄い胸、細い四肢。少しだけ力を込めてしまえばぽきりと折れてしまいそうな小さな身体の中には、外見からは想像もできないほどの強さが在る。
生来の膨大な魔力とは違う。耐え抜いた過酷な戦闘訓練でもない。
フェイトは今、迷っているのだ。自分がなにを信じればいいのか、本当は自分がなにを求めているのか、知らず知らずの内に葛藤という名の迷路に迷い込んでしまっている。
迷うことで人が強くなるというのなら、今の脆い心を支える強さも手に入れることができる。迷って、傷ついて、自分の進む道を見つけた時にフェイトはきっともっと強くなれる。
ならば、自分の道は迷うことのない一本道だ。フェイトが答えを見つけるその日まで、フェイトを守ろう。
フェイトの母親が……、あのクソババアがジュエルシードを集める理由など、どうせ碌なものじゃないはずだ。そして、アゼルだってそうだ。
「アゼルを信用するな」一葉が言ったあの言葉が、アルフの耳の奥に響いて残っている。
元々、アルフはアゼルに絶対の信用を置いていたわけではない。だが、あの言葉が本当だとするならば、もしジュエルシードがすべてそろった時に、フェイトはどうなってしまうのか。
先の見えない不安がアルフの胸を苦しくさせた。
「あれぇ、お帰り……、なにしてんのさ?」
アルフがフェイトを抱きしめていると、不意に後ろからアゼルの声が聞こえてきた。首だけ振り返ると、そこにはバスタオルを肩に掛けた上下黒のスウェット姿のアゼルがポカンとした表情でアルフとフェイトを見ていた。
髪はまだしっとりと濡れていて、アゼルが部屋に入った途端に石鹸の芳香な香りが鼻につく。
「別に、あんたにゃ関係ないだろ」
アルフは突き放すような口調で答えながら、フェイトの身体に絡めていた腕を解き、アゼルの前に立った。
アルフの身長はアゼルよりも頭一つ分ほど高いため、自然とアゼルを見下ろす形になる。
「ふぅん……。 ま、いっか。 それよりも、温泉のお土産は? 饅頭買ってきてくれた?」
朗らかな笑顔を浮かべながら手を差し出すアゼルに、アルフはムッときた。ジュエルシードを回収できたなんて微塵も思っていないその態度を不快に感じたのはフェイトも同じで、憮然な表情をしながら待機状態のバルディッシュからジュエルシードを取り出すと、乱暴にアゼルに投げつける。
「っと、危ないなぁ……。 あれ……、ジュエルシードじゃん、これ。 回収できたんだ」
顔面めがけて一置いよく投げつけられたジェルシードを眉一つ動かさず掴みとったアゼルは、自分の掌に収まった菱形の青い石を見て目を丸くした。
「……一つだけだけど」
「一つでも充分だよ。 正直、手ぶらで帰って来るもんだと思ってたからさ。 これだったらきっと、母さんも喜ぶ」
「……兄さんの方は?」
指先でジュエルシードを器用に弄りながら、嬉しそうな声を出すアゼルとは対象的に、フェイトは低い声で尋ねた。
「僕? 僕の方はね……、これだけかな」
アゼルは左手首に巻かれた青いブレスレッドを光らせると、アゼルを囲うようにいくつかのジュエルシードが宙に浮き出た。
「ひー、ふー、みー……、全部で五つか。 これで、僕らが持ってるジュエルシードは八つ。 一葉達がいくつ持ってるのかは知らないけど、ゴールは見えてきたんじゃない?」
何気なしに言うアゼルは宙に浮くジュエルシードを指先でつつきながら薄い笑みを浮かべていた。
ジュエルシードが手元に集まるのは問題じゃないし、むしろ喜ばしいことだ。だが、アルフもフェイトも内心穏やかではいられなかった。
たったの一日、行動を別にしただけでアゼルはフェイトの五倍ものジュエルシードを集めてきたのだ。一体どんな手品を使ったのか……、悔しさが胸の中に滲むように染み込んでいく。
そんな二人の表情を見て、アゼルは肩を竦めながら口を開く。
「まあ、今回は運に助けられたってのが大きかったけどね。 それに僕だけの力じゃない。 リニスにもだいぶ助けられたし」
アゼルは視線を落としながら言うと、アルフは微かな存在感を足元に感じた。視線を下ろすと、そこには素体の山猫の姿になったリニスがアゼルの足元に居た。
「それよりも、シャワー空いたよ。 悪いね、気を使わせちゃって」
「……?」
アゼルの言葉に、フェイトはキョトンとした表情をしたが、アルフはないぞの表面を撫でられたかのような苛立ちを覚えた。
フェイトの前でわざわざ言うセリフではない。アルフはアゼルを睨みつけると、アゼルはわざとらしく肩を竦めた。
「フェイト……、悪いけど先に風呂に行っててくれないかい?」
「いいけど……、どうしたの?」
「ちょいとね、アゼルに聞きたいことがあってさ」
視線をアゼルに固定したまま、硬い口調でアルフは言うと、フェイトはなにかを言いたそうな顔をしていたが、結局なにも聞かずに首を縦に振ってくれた。
アルフとアゼルのわきを通って、風呂場に続く廊下に出るフェイトの背中を見送ると、アルフは静かに口を開いた。
「あんた……、一体なにを斬ってきたんだい?」
「……質問が抽象的すぎてわかんないんだけど」
表情は薄い笑みを張り付けたまま、とぼけた口調でアゼルは言うが、二人の間に流れる空気は一瞬にして不穏なものになった。
「この部屋に付いた血の匂い。 野生の生き物の血の匂いじゃない。 これは……」
アルフが核心に迫る言葉を発する寸前、首筋に冷たいものが触れた。
それは、アゼルのデバイスの刃だ。
アルフは目を丸くすると、直ぐに再びアゼルを睨みつけた。
「そっから先は、口にしない方がいいよ」
ゾクリとするほど、平坦な声だった。先ほどまでの薄ら笑いもなりを潜めている。硬質で能面のような表情。それにもかかわらず、目だけはナイフのように冷たく鋭い。
「……どういう意味だい?」
アルフは微かに震える手で、首筋に当てられた刃をどかしながら尋ねた。これがただの脅しであるということは理解している。しかし、突然刃物を突きつけられれば動揺するなという方が無茶な話しである。
アルフは背筋に感じた冷たいものを、アゼルに悟られないように努めて冷淡な姿勢を崩さないようにした。
「言葉の通りだよ。アルフ。 君はなにも気付かなかった、なにも知らなかった。 だから、今言おうとした言葉も当然口にすることはできない。 それが、フェイトの為だ」
「……」
恨めしげに睨むアルフに、アゼルの表情は変わらず感情を読み取ることはできない。普段、人を食った性格をしているだけに、見慣れないその表情はかなり不気味だ。
「使い魔であるアルフが知ってるってことは、これから先なにかあった時に、主であるフェイトにもあらぬ疑いがかけられるかもしれないだろ? だから、アルフは知らない振りをするべきなんだよ。 今も、そしてこれからもずっと、ね」
「……それは、本当にフェイトの為なのかい?」
アルフは、アゼルの言葉の真意が読めなかった。アゼルは基本的に、フェイトに関心を持たなかった。それは時の庭園で長い時を共に過ごしてきたアルフがよく知っている。それなのに、そのアゼルがフェイトの身を案じる振舞いをするということに気持ちの悪さを覚えたからだ。
「もちろん、半分はね」
「もう半分は?」
「自分の為に決まってるじゃん。 僕が影でなにをコソコソやってようが、アルフが気付かなかったんだ。 だから、なにが起きても君たちの責任にはならない。 泥は全部、僕が被るよ。 その代わり……ね?」
能面の表情を崩して、ニパッと笑うアゼルを見て、アルフは深い溜息をついた。
早い話しが、共犯になれということだ。手柄は折半にしてやるし、なにかあったら全部責任を取ってやる。だから自分達のやることにはすべて目を瞑れ。こういうことだろう。
「わかったよ、ったく。 あんたらしいっちゃ、あんたらしけど、その話しは本当なんだろうね?」
「もちろん。 アルフが口を噤み続けてくれる限りはね」
少なくとも利害は一致しているし、アゼルの実力はフェイトやアルフと比べても群を抜いている。もしかしたら、好きにやらせた方が効率がいいかもしれない。
それに、次元世界にも警察組織がないわけではない。自分達がやっていることは犯罪だと理解しているし、そろそろ動きだして居る頃合いだろう。
万が一に、捕まったとしても責任は全て被ってくれると言っているのだ。うますぎる話しだ。裏がないとは言い切れないが、フェイトのことを考えると断る理由もない。
「私はあんたがどうなろうと別に構いやしないがね、フェイトを悲しませるようなことだけはするんじゃないよ」
「当然。 その点に関しては信用してもいいよ」
「……私はあんたのことなんか、これっぽちも信用してないよ」
アルフはそう言うと、足を乱暴に進ませた。アゼルのわきを通る時、下からリニスの視線がうなじに刺さって嫌な感じがしたが、あえて気が付かない振りをして主人の待つ風呂場へと向かった。
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