魔法少女リリカルなのは Broken beast   作:やまあざらし

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7!

 

 カーテンから差し込む光の筋に誘われて、一葉は黒いカーテンを開いて窓を開け放った。

 その日は突き抜けるような快晴で、空の高い所に斑に浮かぶ鰯雲が流れている。柔らかな風に乗って庭に植えられているキンモクセイの新芽の香りが鼻をくすぐった。

 

 だが、これ以上ないというほどに気持ちの朝だというのに、一葉の表情は梅雨の朝のように浮かないものだった。

 

 一葉は部屋の空気を入れ替えると、寝巻として使っているTシャツとジャージを脱ぎ棄てて、制服のブレザーと短パンに着替える。そして鞄を持つと机の上のティッシュ箱の中で眠っているベヌウを起こすことにした。

 

 「おい、朝だぞ」

 

 近いうちに、こんな即席ではないまともな寝床を用意しないといけないな、と思いつつ一葉がベヌウの頭を軽く小突くと、眠気眼のままベヌウの嘴で大きく欠伸をしてから一葉に挨拶をした。

 

 「む……、おはようございます」

 

 「お前、機械なのによく寝るなぁ……」

 

 「機械にも休息は必要なのですよ。 スリープ状態に入らず長時間活動をしているとオーバーヒートを起こしてしまいます」

 

 「喋って動くパソコンみたいなもんなわけね。 まあペットとして飼うんだったらこっちの方が自然でいいか。 ベヌウ、ついてきて」

 

 一葉が腕を出すと、ベヌウは翼を動かして腕に飛び乗る。

 

 「なんでしょうか?」

 

 「母と父にお前を我が家に置く旨を言わにゃならん。 二人とも動物好きだから大丈夫だとは思うけどね」

 

 ちなみに一葉は自分の両親のことを父、母と呼ぶ。特に深い意味はないが、何となく呼びやすいのだ。

 

 「ああ、そうですね。 昨夜はあのまま寝てしまいましたから」

 

 昨日、一度目の帰宅のときはまだ両親は帰ってきておらず、二度目のときには既に新寝室に入っていた為、まだベヌウを拾ったことを両親に告げてはいなかった。こういう話しはなるべく早い方がいいと思った一葉は朝食時に頼みこもうと昨夜から決めていた。

 父はもう会社に行っていていないだろうが、緋山家の最高権力者である母、亜希子はまだいるはずだ。

 腕を伝って肩に移動したベヌウを乗せて、一葉はスクールバッグを持って部屋を出た。

 

 

 ◆◇◆

 

 

 結論だけ言ってしまうと驚くほど簡単にベヌウを飼う許可が下りた。

 一葉がベヌウを肩にとまらせリビングに入ると、タバコを咥えながらフライパンを振っていた亜希子は目を丸くしていたが、一葉が鳥を飼いたいと伝えたところ、自分で面倒を見るんだったらいいと言われたのだ。

 朝のニュースをBGMに、近いうちに日食が起こるという話題を耳の片隅に捉えながら、亜希子が作った朝食を胃に収めてから登校をしたのだが、その日はバスでなのは達と会うことはなく、その日になのはと最初に会ったのは教室だった。

 

 ちなみにベヌウも一緒に学校に連れてきており、スクールバスでは鞄の中に押し込み、今は屋上で待機して貰っている。

 

 ベヌウと念話で話しながら歩いたせいで、一葉が教室に着いた時間は朝のホームルームが始まるギリギリの時間だった。廊下や教室には子供特有の甲高い声が響き朝の喧騒に包まれている。

 一葉は鞄を自分の机の上に置くと、アリサとすずかと話していたなのはが近づいてきて、身を小さくして小声で話し始めた。

 

 「一葉くん、おはよう。 鳥さんは?」

 

 「今、屋上にいる。 ユーノは?」

 

 「お家。 ねぇ、念話ってわかる?」

 

 「教えてもらった。 授業中にでも隙を見て話そう」

 

 「……なにやってんのよ、アンタたち?」

 

 なのはの頷きに被せるように、後ろから怪訝なアリサの声が聞こえてきた。

 二人が振り返ると、アリサとすずかが眉根を寄せて訝しそうな視線を突き刺していた。

 

 「ちょっと、フェレットの引き取り手の話しを……」

 

 一葉がそう言うと、二人はとたんに表情を暗くした。

 

 「二人とも……、昨夜の話し聞いてないの?」

 

 「ふぇ? 昨夜って?」

 

 沈んだ声を出すすずかに、なのはは首を傾げた。すると、今度はアリサが言葉を重ねてきた。

 

 「昨日の病院で、車かなんかの事故があったらしいのよ。 それで……、昨日のフェレット大丈夫かな、って」

 

 心当たりがありすぎて言葉に窮するなのはと一葉だった。

 

 沈痛な表情を作り俯いてしまったアリサとすずかは本当にフェレットのことが心配なのだろうが、事故と処理されたあの惨状のきっかけはユーノであったという事実を知る一葉となのはは曖昧な表情を浮かべるしかなかった。

 

 結局、フェレットは事故の起こる前に脱走を図っていて、それをたまたまなのはと一葉が発見して、今はなのはの家で保護しているという作り話をでっちあげてフェレットは無事だという事実だけをアリサとすずかに伝えることにした。

 

 真顔で嘘八百をスラスラと並べる一葉に、なのはは不格好に引き攣った笑みを作っていたが、アリサとすずかはあからさまにホッとした表情を浮かべると、そのまま雑談の流れに入っっていった。

 話題の中に、一葉も鳥を飼い始めたことを上げると週末に月村家で催されるお茶会にユーノと共に連れてくることになったりと、昨日の騒動が嘘だったかのようにいつも通りの朝の日常だった。

 

 

 ◆◇◆

 

 

 『ジュエルシードは僕たちの世界の古代遺産なんだ』

 

 国語の授業中に、不意にユーノの声が頭に響いてきた。ビスケットか何か、固いものを頬張っているらしく、ボリボリと乾いた音がノイズとして混ざっている。

 一葉は自分の斜め後ろに座っているなのはにこっそりと視線を送ると、なのはにもこの声は届いているらしく目線がぶつかり頷いていた。

 

 『本来は手にしたものの願いを叶える魔法の石なんだけど、力の発現が不安定で昨夜みたいに単体で暴走して使用者を求めることがあるんだ。 たまたまジュエルシードを見つけてしまった人が何も知らずに使用して、それを取り込んで暴走することもある』

 

 話しを聞く限り、そのジュエルシードとやらは危険極まりない代物らしい。そんなものが自分の生活圏内に落ちていることに、一葉は危惧を感じた。

 

 『そんな危ないものが、なんでこんなところに?』

 

 なのはの尤もな質問に、ユーノは声を沈めて苦しそうに言葉を続ける。

 

 『僕のせいなんだ……。 僕は故郷で遺跡の発掘を仕事にしてるんだけど、ある日僕が監督していた古い遺跡の中であれを見つけて、調査団に依頼して保管して貰ったんだけど……、その途中で事故か、人為的災害にあってこの世界に二十一個のジュエルシードが落ちたんだ』

 

 『それって、ユーノ関係なくない?』

 

 『でも……あれを見つけたのは僕だから……。 全部見つけて、本来あるべき場所に返さないといけないから……』

 

 今まで黙って聞いていた一葉が口を挟むが、ユーノは声を震わせていた。確かに現場監督は現場の責任を負うことも仕事ではあるが、調査団にジュエルシードを譲渡した時点で責任も調査団に移るはずだ。

 つまり、ユーノは責任を問われる立場ではなく自らを責める必要はないのだ。

 それでも、ユーノの、壊れた笛から絞り出したかのような声は自らに十字架を背負わせているかのように自虐的なものだった。

 

 『貴方は真面目なのですね』

 

 不意にベヌウの声が割り込んでくる。

 

 『だからこそ必要のない責任まで背負おうとする。 そして、その結果関係のないものまで巻きこむことになった』

 

 ベヌウの言葉は、刃のようにユーノに突き刺さった。

 

 『すいません……。 だけど一週間……、いいえ、五日あれば魔力が戻ります。 それまで休ませてもらえば……』

 

 『その五日の間に再びジュエルシードが暴走したらどうするのですか? 再び高町嬢に頼るのですか? それとも、一葉を戦場に立たせるのですか?』

 

 『それは……』

 

 淡々とした口調には強さがあった。ユーノはそんな声になにも言えなくなり押し黙り置く場を噛みしめる音だけが念話を通して頭に響く。それは自分の無力さに対する苛立ちか、それとも不甲斐ない自分に対する怒りなのかわからないが、それでもベヌウの言うことはなにもかもが正論で、ユーノはなに一つとして言い返すことができなかった。

 

 責任を取らないと自分の口から言っているにもかかわらず、身勝手に巻きこみ命の危険にまで晒してしまった人に対して自分の寝床と用意し欲しいと言っているのだ。

 それはなんという不誠実さと、甘え。

 ベヌウに言われて、ユーノは顔から火が出るのではないかと思うほどに自分が恥ずかしくなった。

 

 『少しだけ……、少しだけだけど、私はユーノくんの気持ちわかるな』

 

 穏やかな口調でなのはは言う。

 一葉は、意識は念話に向けながらも黒板に書かれた文字の羅列を写し取っていたノートから顔を上げて振り返ると、なのはは柔らかな微笑みを浮かべていた。

 

 『ね、ユーノくん。 そのジュエルシードを集めるのって私たちもお手伝いできないかな?』

 

 『ちょっと待て。 “たち”ってなんだ、“たち”って』

 

 『だって、一葉くんも手伝ってくれるんでしょ?』

 

 なのはは一葉の言葉に、なに当り前のこと言ってんの?と言わんばかりに首を傾げた。

 

 『それに、一葉くんには鳥さんのこととか聞きたいことがいっぱいあるし……。 ふふ、まさか私に隠し事をしてたなんて……』

 

 ふふ、と柔らかな笑みを語尾に付けるなのはに、一葉はもの凄く嫌なものを感じた。例えるならば首筋に刃を突きつけられたかのようにひやりとしたもの。

 なのはは笑っていた。いつもと変わらぬスミレのような笑みの中に黒い瘴気を渦巻かせ、敵意や殺意といった負の感情はないがひどく無邪気で静かな怒りをたぎらせた瞳は一葉を貫いていた。

 それは過去に一度だけ見たことがある、逆鱗に触れた時の桃子さんの微笑みに似ていた。

 

 『あ……、あの?』

 

 会話が途切れたことにユーノは状況がわからず戸惑った声を唸らせるが、一葉としてはそれどころではない。

 なのはが本気で怖かった。

 気がつけば授業中の教室はいつも以上にシンと静まりかえっており、唯一響いているはずの教師すらも言葉を詰まらせて、誰もがなのはを見ていた。

 

 「えーと……、高町さん。 なにかありましたか?」

 

 「いいえ、なんでもありません」

 

 頬に汗を伝わらせ引き攣った笑みを作りながら教師がなのはに尋ねると、なのはは微笑みを崩さないままさらりと答えた。

 その様子に、触らぬ神にはなんとやらと判断したのか、教師は片手に持った教科書に視線を戻して、そうですかの一言で済ませ授業を再開し始めた。

 再び響く黒板を叩くチョークの音がやけに大きく聞こえる。

 

 『ユーノくん。 今、ジュエルシードっていくつあるの?』

 

 『えっと、二個だけど』

 

 『あと十九個か……。 頑張らないとね!』

 

 一葉を完全に置いてけぼりにしてやる気に満ちた声を出すなのはと、戸惑いの色を覆いきれていないユーノの声が念話で響く。

 

 『本当に手伝ってもらってもいいの?』

 

 『うん。 だって、ご近所にそんなものが落ちてたら危ないでしょ? ちなみに一葉くんに拒否権はないから』

 

 有無を言わさぬ。まさにそれを体現したなのはに、一葉は頭を抱えて突っ伏した。

 

 この日は土曜日の為、授業は午前中で終わる。チャイムと共に多くの生徒が鞄を持ちだして教室を出ていく中でなのはだけが真っすぐに一葉の席にと足を向けてにっこりとほほ笑んだ。

 

 「一葉くん。 お話ししよ?」

 

 

 ◆◇◆

 

 

 「昨日木の中から生まれてきた」

 

 「それ絶対嘘でしょ!」

 

 放課後、一葉はなのはの部屋にいた。

 柔らかな桜色のカーテンやベッドシーツで統一された、いかにも女の子らしい部屋には窓際に可愛らしいぬいぐるみや小物が置いてある。

 一葉はなのはの部屋に来るのは初めてというわけではないが、いつもはアリサとすずかもいる。

 二人きり、というわけではないがなんとなく腰が浮いて落ち着かなかった。

 

 部屋の中央の置かれたミニテーブルの上には、なのはの部屋に来る途中に立ち寄った翠屋謹製のシュークリームと紅茶が並々注がれたティーカップが置かれていて、ティーっカップは二つだが、シュークリームは四つ、一葉、なのは、ユーノ、ベヌウのそれぞれの前に配膳されている。

 なのはの家に遊びに来る時には、翠屋でおやつを貰うのが常なのだが大抵シュークリームは一人一つ。だが、今日は一葉となのはが二人できたのは見た桃子さんが頬に手を当てて上機嫌な笑みを浮かべ一つずつおまけをしてくれたのだ。

 

 「事実です。 樹木の成長に巻き込まれて動けなくなっていた私を一葉が助けてくれました」

 

 シュークリームに頭を突っこんだままベヌウが言う。よほど気に入ったのか先ほどから最低限の捕捉しかせずひたすらシュークリームを貪っていた。

 

 「あの……、昨夜デバイスって言ったのは……?」

 

 おどおどした声でユーノが尋ねる。その声色は疑念と戸惑いが入り混じっていた。

 

 「それも事実です。 ベルカという国を知っているのであれば護国四聖獣のことも耳にしたことがあるのでは?」

 

 「……ッ! やっぱり、貴方はベルカのユニゾンデバイスの……、月の踊り子……」

 

 驚愕に目を剥くユーノに、ベヌウは半分以上形を崩したシュークリームを食べながら翼だけを軽く動かして応えた。

 

 「ねぇ、ユーノくん。 “ユニゾンデバイス”ってなに?」

 

 なのはが首を傾げて尋ねると、ベヌウに視線を釘付けにしていたユーノがハッと我に帰り、なのはに説明を始める。

 

 「“デバイス”っていうのは魔道師が魔法を使う時の補助輪みたいなものなんだ。 術者のリンカーコアから生み出される魔力を効率よく魔法に換える変換機の役割も果たしてる。 なのはに渡したレイジングハートもそうだよ」

 

 「え? でも、レイジングハートとベヌウさんってだいぶ違うよね?」

 

 「デバイスにも色々な種類があるんだ。 レイジングハートは人工知能が搭載されたインテリジェントデバイスって呼ばれてて、これはデバイス単体でも魔法を発動することができる。 今、一番メジャーなのがストレージデバイスっていうもので、これは人工知能が備わってないぶんインテリジェントデバイスに比べて処理速度が格段に早くなってるものがあるんだけど……」

 

 ユーノはそこまで言うと、一呼吸おいてさらに言葉を重ねる。

 

 「他にも、昔に滅んだ“ベルカ式”っていう魔法があるんだ。 僕たちが使うのは“ミッドチルダ式”っていう魔法なんだけど、“ベルカ式”は“ミッドチルダ式”とは違う魔法形態をしていてデバイスも独自のものが開発されてたんだ。 その内の一つがユニゾンデバイス。 これはもう製造自体が禁止されてて、手に入れるには目が飛び出るほどの金額で取引するか、遺跡を発掘したりして探し当てるしかないんだ」

 

 「ほぇ~。 じゃあ、ベヌウさんってとっても珍しいんだね」

 

 なのはの感心した声に、ユーノは首を横に振った。

 

 「珍しいなんてものじゃない。 本来、ユニゾンデバイスは人の形をしてるものなんだ」

 

 「え? でも、ベヌウさんは鳥型じゃないの?」

 

 「そう、だからなんだよ。 護国四聖獣はずっと昔にいたベルカの王様……、聖王って呼ばれる人を守るために存在した王族特務っていう騎士たちが使っていたものなんだ。 その騎士たちが使用する為だけに開発された、たった四機だけの獣型のユニゾンデバイス。 “影を駆る者” “常夜の護り手” “深淵の奏演者” そして、“月の踊り子”。 今、現存しているのは教会に保管されている“影を駆る者”だけだと思われてたんだけど……、文化的な価値は計り知れないよ」

 

 「日本で言う重要文化財ってところか。 とんでもないもん拾っちまったなぁ……」

 

 誰よりも早くシュークリームを食べ終えていた一葉が、口の中に広がる甘味を紅茶で喉に流しながら言うと、ベヌウがシュークリームを全部胃の中に収めて一葉に視線を流した。

 

 「私からしたら一葉もとんでもないものを持っている気がしてならないのですが。 そろそろ昨日のことを話していただけませんか?」

 

 ベヌウの言葉を切り口になのはとユーノの視線が一葉に集まる。一葉はカップを置くとなんでもないように口を開く。

 

 「ありゃ、手品みたいなもんだよ。 種も仕掛けもあるものを物凄いものみたいに見せただけさ」

 

 「手品?」

 

 一葉の言葉に三人が首を傾げる。気がつけばそれぞれに配られたシュークリームはすべてなくなっており、なのははともかくユーノやベヌウは明らかに体積以上のものを身体に収めたということの方がよっぽど手品だと思う。

 

 一葉は部屋の隅に置いた自分の鞄を座ったまま身体と腕だけを伸ばして引きずるように手元に手繰りよせる。そして留め金を外して開くと中から紺色の麻袋を取り出し、組紐を解いた。

 中に収められているのは細かな鍼の束だ。

 一葉はそれを一本だけ取ると、みんなに見えやすいようにテーブルの中央に置いた。

 

 「三年前に死んだウチの爺さんが鍼医師やっててね。 形見分けで貰ったんだ。 これが昨日の剣の正体」

 

 「え?」

 

 なのはとユーノの声が重なる。表情も同じように目を丸くしていた。

 

 「この“鍼”っていう存在を“剣”っていう存在に変えたんだ。 まあ、別の場所にある剣をオレが持ってた鍼と交換しただけだよ」

 

 「それって、どういうこと?」

 

 なのはは頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。だが、ユーノは一葉の説明に驚愕の表情を作りベヌウは正面から刃で斬り付けられたかのような衝撃を受けた。

 一葉は今、間違いなく“存在を変えた”と、そして“剣と鍼を交換した”と言った。

 ユーノとベヌウの驚倒の理由は全く別の理由だった。

 ユーノは一葉の能力を魔法の類だと思った。鍼を起点として別の場所に保管されている剣を召還する転移魔法が、魔法文化のないこの世界で独自に編みあげられていたのだと、そう思ったのだ。

 だが、ベヌウは違った。

 一葉の能力にベヌウは心当たりがあった。だが、その能力は有り得るはずがない、この世に有り得てはならない能力だ。

それでも、疑念は嵐のように渦巻き、バラバラだったパズルのピースが組み合わさっていくように確信へと変わっていく。そして、出来上がったパズルをベヌウは自分で否定することができなかった。

 

 『お前には後で詳しく説明するよ』

 

 ベヌウが思考の海へ沈みかけているのを引っ張り上げるかのように一葉はベヌウにだけに念話で言った。

 

 「えっと……、よくわかんないんだけど……」

 

 なのはは一葉の説明が理解できず両手でカップを持ったまま、上目遣いで困った表情をしている。

 

 「わかんなきゃそれでいいよ。 そんな重要なことじゃないし。 ただオレがこういった手札を持ってるってだけ」

 

 「う~……、うん……。 わかった」

 

 納得できない表情をしながらもなのははとりあえず頷く。瞬間、部屋にいる全員が空を切り取られたかのような違和感に身を震わせた。

 

 「これは……!!」

 

 「昨日と魔力の波長が似ています。 おそらく、ジュエルシードでしょうね。 ここからそう遠くない」

 

 一葉となのははユーノとベヌウの言葉に立ちあがって窓を開いた。外を眺める景色には、普段通りの景観にたった一つだけ異物が混じっていた。

 ジュエルシードが発動したと思われる山岳部。そこが灰色のドームに覆われていたのだ。

 

 「あれが結界か……。 魔力がない人には見えないってのがちょっと信じらんないぐらい目立ってんな」

 

 「八束神社の方向だね。 急ごう!」

 

 なのははテーブルをひっくり返しそうな勢いで踵を返すと、ユーノが慌ててなのはの肩に飛び乗り転がるようにして部屋を出て行った。

 主のいない部屋に取り残された一葉とベヌウは呆れた表情を浮かべる。

 

 「これってオレも行った方がいいよね?」

 

 「でしょうね。 忘れ物を届けに行かないと」

 

 二人の視線はテーブルの上に向く。そこには置いてけぼりにされたレイジングハートが寂しそうにチカチカと光っていた。

 

 

 ◆◇◆

 

 

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