異能者の日常~知人のキャラを添えて~   作:黄昏翠玉

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第12話 曙

晃は大学のロビーで、昼食を食べていた。

誰かと昼食をともに摂るということもない。彼はあまり自分の外見に頓着しないが、周りの学生からすれば非常に見目の整った青年が1人で黙々と弁当を食べている状態である。

 

誰か一緒に食べてくれないかなあと探すふうでもなく。

 

が、まあ、晃の周りには人がいないわけではなく。

黒い髪の2人組が現れた。

 

「晃! チェイ、こいつ先に弁当食ってやがる!」

「よう、晃。てめえ俺たち2コマ目あるんだから待っててくれって言ってるだろ」

「む、すまん」

 

半分以上なくなっている晃の弁当を覗き込みながらチェイ――誠は笑って席に着く。4人掛けのテーブルで晃の隣に座ったもう1人は、無悪雷華という。顔は女のようだが、男である。

 

誠が広げた弁当は晃の弁当と大差なかった。

 

「今日はアキだな?」

「あ、わかったか」

「ひひひひひ。不格好なタコさんウィンナー入ってりゃ気付くわ」

 

雷華は弁当を広げる。サンドイッチだった。

 

「さては寝坊して時間なかったな?」

「御名答。でも寝坊したのは俺じゃありませんじろちゃんです」

「じろちゃんか」

 

弟の愛称を呼んだ雷華はサンドイッチを手に取った。

ほとんどこの男は学校に出てこないが、生存確認だけはいつもしている。あの男は殺そうとして殺される男ではない、とは晃の言であった。

 

さっさと弁当を食べ終えた3人はこれからの授業の予定を確認する。まだ不慣れであるために時間割を何度も確認しているのだ。

 

「俺は次は……3番教室。必修」

「必修ならば俺たちも同じだな」

「先に行っとくか」

 

荷物をさっさとまとめた3人は席を立った。学生ロビーから教室へ向かう。

 

「そういや今日はジャッジメントの仕事入ってるのか?」

「いや、今日は入ってない」

「俺も無し。ま、あとから入ってくるなんてザラだが」

 

 

 

 

「――ああ、分かった。現場へ向かう」

 

晃の声に、小さく息を吐いたのは誠だった。ああほら見ろこの通りじゃないか、こいつやっぱりジャッジメントの仕事受けやがった。

晃の通話が終わったと同時に、飛び蹴りをかましてやる。

 

「む」

「おい避けんなもやし」

「すまん。夕食は先に食べていてくれ」

「そういう問題じゃねーんですわ」

 

晃が簡単に誠の蹴りを避けてしまうので後ろにいた男子生徒が驚いていたが、いつものことなのでそろそろ同級生たちも慣れてきたようである。

 

この大学に在籍している異能者は生徒のおよそ半数であり、その内の大半はそこまで力が強くない。誠や晃のようなものは非常に珍しかった。

 

「お前が仕事受けたら俺たちも一緒に動くんです。班ってのはそういうものなんだが、分かっていらっしゃるかなカルナ氏?」

「……すまん、迂闊だった。チェイは今日バイトだったか?」

「いいえバイトは明日です。ったく、今日のうちに予習しときたかったのに……雷華、書類お前に投げていいか?」

「今度パフェ奢れよ」

「わかった」

 

商談成立、などと簡潔に彼らの間で言葉は交わされ、誠と雷華がてきぱきと支度を始める。

荷物類をぱっと取り出した袋に入るサイズに“小さく”して、袋に詰めて口を縛り、そのまま雷華に持たせる。雷華は電話をして迎えの者を呼び、駐車場へと向かった。

 

3人で連れだって駐車場で待つこと20分、雷華の迎えの車が来て、そこに荷物を預けて3人は再び出発した。

 

「で、現場はどこだよ、晃?」

「西だ」

「街の方か」

「ああ」

 

どうやって移動する、とはいわない。バス停へ走り、時間を確認する。すぐに中央へ向かうバスがやってきて、3人はそれに乗り込んだ。

 

「ジャッジメントも人使いの荒いことだ」

「動ける者が動くしかあるまい」

「お前はお前がホイホイ受けたら俺たちも動くのだということをしっかり覚えて行動してほしいな。新しく導入されたばかりの基準ではあるが、これのおかげで負傷者もぐっと減っているんだから」

 

バスの中でそんなことを小声で話す。バレたところで特に何の問題もない公表された情報である。

3人は腕に腕章をつけ、目的のバス停で降りた。

 

「で、ここからは?」

「位置が変わった。あちらか」

 

晃がスマホを弄っている手を止めて建物の屋上を舐めるように見渡した。

目を見開く。

 

「視認した」

「あー、アレか」

「ちょっと、どこ」

「あの高いビルの手前」

「ああ、見えた」

 

誠も視認できたらしい。とか言っても常人の視力である彼女にあれを追うのは難しかろう、と、雷華がぽいとサングラスを放る。

 

「お」

「それで追って来い。――じゃ、『曙』班、出るぞ!」

「『カルナ』」

「『グランド』」

 

晃と誠が名乗りを上げる。通信機の感度は良好。

 

「戦闘開始。『カルナ』は『グランド』の方へ相手を追い込め! 俺の方でも構わない! 街への被害は最低限度に抑えろ、まだ下校中の学生さんがいっぱいいるからな!」

「承知した」

「よっしゃァ来いやァ!」

 

通信機での会話のみに切り替わると同時に、晃が姿を消した。

建物の上へと飛翔したのである。

 

「――!?」

「目標と対峙した」

 

飛べるのだから追いつくのは容易い。逃げ出そうとする男はいわゆるチンピラの類であろう。多少周りの人間よりも高い能力を持っているがためにジャッジメントの手にかかる羽目になった哀れな者である。

 

『――逃亡開始、か。追ってるぜ』

「ああ。追い込む。仲間連中はどうだ」

『いたぞ。今2人捕まえた。あと2人! そいつは恐らく囮だったんだろうな!』

「流石『グランド』、もう2人捕えらのか。俺も負けてはいられないな」

「!?」

 

男は耳がいいらしい。呟いた程度の言葉だったのだが、晃の言葉を拾って驚いて振り返った。

 

「なっ、」

 

ジャッジメントの腕章に気付いたらしい。

ついでに、腕章についている星のバッジの色にも。

 

「金星!? 何で金星がこんなとこに出てくんだよ、畜生!」

「――」

 

晃は細い槍を虚空から出現させた。

彼の異能はある意味、ありふれた能力である。詳細だけを解析していると意味が分からない能力であるが。

 

「飛翔以外もあんのかよ! 畜生!! ふざけんな!!」

 

男が足回りに風を集中させた。晃は槍を投擲してそれを打ち抜いた。槍はそのまま路地裏のアスファルトを打ち砕く。

 

「ッ!」

「悪く思え」

 

梵天よ(ブラフマーストラ)――

 

一瞬浮かんだ言葉を口には出さず、晃は槍を手許に引き寄せた。風を打ち砕かれた男は路地裏に墜落する。

 

『こちらグランド。捕縛対象の捕捉、回収完了』

『よし、グランドに合流した。カルナ、戻ってこい』

「こちらカルナ、了解した」

 

あまり動き回るのが得意でない誠はどうやらある程度の距離だけ空けて雷華と共にいたことが分かった。

 

「相変わらずアスファルト粉砕してんな、下水管とか無事かアレ?」

「威力の調整はできるようになった」

「それでもガキの頃よりは確実に威力上がってんぞ。ま、その辺はカルナに頼む方が悪い。こうなるのが分かってんのに頼んできていると判断していいからな」

 

金はもぎ取るさ。

力強く言い切った雷華にほっとした晃だった。

 

「ほれ、能力封印用瓶」

「詰めるぞー」

「おう」

 

異能を使えないように、異能の一切が効かない素材であるアダマンタイトと名付けられた新しく発見された素材で作られた瓶に異能者を詰めるのが通例となっている。

 

「さて、俺は本部に行く。お前らはこのまま上がっていいぞ」

「ありがとな、隊長」

「感謝する、雷華」

「チェイ、お前今日の晩飯は少し多めにな」

「はいはーい」

 

雷華は瓶を受け取って誠と晃を送り出し、2人とは逆の方向へ歩き出した。

 

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