異能者の日常~知人のキャラを添えて~   作:黄昏翠玉

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第14話 魔石交換

晴れた日の放課後の教室棟は人がいない。運動部はグラウンドで、吹奏楽部や演劇部は特別教室棟で練習を行っているため人に話を聞かれることもない。

それでも細心の注意を払って、角部屋に陣取ってみた紅陽である。

 

「で、結局魔石ってなんだ?」

 

唯一は疑問を口にした。

イチが答える。

 

「魔石というのは、魔法系統と呼ばれている異能者が作る石のことです。魔力を編んだものですよ」

「ふーん……でも交換とかいるのか?」

「魔力で編んでいると言ったでしょう? 魔力がなくなれば消滅します」

「なんだ、リアクターじゃないのか……」

「……たまに思いますけど唯一さんって不思議知識出してきますよね、中二病も大概にしてくださいね?」

「いや、前世の知識ですから!」

「それですべてが解決できるとでも思ってるんですかね、もっと現実的な物言いましょうよ」

「イチが今までになく辛辣だ!?」

 

唯一はイチの言葉にツッコミを入れた。

唯一自身かなり優からの言葉を忘れていたので改めて優の言葉を思い出しつつその辺りを聞き直していく。

 

「こんな小さなリアクターがあったらエネルギー問題解決しますよ。できるわけないでしょう、今の技術力じゃどう足掻いたって無理です。ゲームのしすぎじゃないんですかね!」

「そんなんじゃないってば! ほんとにあったんだって!」

「人間の体重がそれで動かせるもんか!」

 

今の機械工学の状況見て言え、とイチが言う。イチは基本的に非現実的な力を行使するため、何の脈絡もなく何かを起こす状況を“非現実的”として、話に出てくる程度ではけして認めない。

 

唯一のいた世界――正しくは、いたことのある世界――では、機械工学が著しく発展し、小型のリアクターもあった。宇宙にコロニーが建設され、そこで生活する人間たちがいたこともある。

 

それを、現実的ではないとイチがバッサリ切るのである。見たままを言っているのに信じてもらえないのは辛いが、アキが目を煌かせているので話してしまうのであった。

 

「何でイチは信じてくれないんだ……!」

「まー、現実問題こんな小型のリアクターあったらホムンクルスとかクローンみたいな非効率的な事やらねえわな」

 

育てなくちゃいけない上に何も残らない有機物の塊です、と淡々と事実だけを並べられると、ロマンが足りないよう、と最後に折れるのはいつも唯一の方だ。

 

紅陽はアキが作った青い魔石を見て、ほう、と感嘆の息を漏らした。

 

「また綺麗なの作ったな、アキ」

「えへへ。細かい作業は得意なんだ」

 

優がゆっくりと手を伸ばした。アキが紅陽から魔石を取り、優の手に乗せる。

 

「わあ、すごい。こんなに透明度が高い魔石はそうないよ」

「でしょ? 頑張ったんだよ」

 

いつ唯一君が魔石交換するっていうのかなって思って。

 

アキの言葉に唯一は息を吐いた。

ホムンクルスの動力が魔石だなんてアキたちから直接は聞いたことがなかった。4年も共にいたのに、全くだ!

 

緋炉騎の方を見れば、緋炉騎も驚いた顔をしていた。

 

「……教えていなかったのか?」

「ホムンクルスって脆いっすからね。無悪さんが止めたんじゃないっすか?」

「むぅ……確かに。アイツなら止めるな……」

 

緋炉騎は小さく舌打ちしてスマートフォンを取り出した。

 

「『曙』班、ちょっと来い。高校にだ。聞きたいことがある。――ああ、ああ。半には来い。以上。異論は認めん」

 

ほぼ一方的に通話を切った緋炉騎に唯一はうすら寒いものを感じた。なんだか怒っている。

 

「射天唯一」

「はいっ!?」

 

どすの利いた声で名を呼ばれ驚いて唯一の声がひっくり返った。

 

「いいか、この世界に永久機関などというものは存在していない。自分にできることを見極めて行動せよと言ったが、そもそもできることがないのではないか、ならばできることを探すことから始めよう、と言ってやるべきだったな。俺は今後悔している、お前に心構えの一つも理解させてやれなかったことを。お前の能力と性格をこの上なく正確に把握している奴が1人居る」

「は、はぁ……」

「そしてそいつは、はっきり言う。裏側の人間だ。高い能力を持ったが故に引きずり降ろされた、が正しいがな。まったく、お前なら言い出しかねんことを危惧しているに違いない」

「その人評価高いですね!?」

「日和晃や鳴神白斗と同類の人間だ。誰かまでは知らん」

 

じきに電話がかかってくる。

 

「はいもしもし、欠月です。あ、はい、わかりました。回収しますね」

 

優にかかってきた電話は正しく呼ばれた人物たちだったようで、優が目を閉じると同時にふっと3人、姿を現した。

 

黒い髪、黒い瞳に青黒のチェック柄のシャツ、ジーパン、黒無地のウィンドブレーカーを着ている――誠。

銀髪、病的なまでに白い肌、青空の如き見事な碧眼に、黒いシャツ、黒にショッキングピンクのパーカ、黒のスラックス――晃。

そして黒い髪を腰まで伸ばし、紫のシャツに黒迷彩のズボン、紺のジャケットを羽織った青年。

 

「ジャッジメント『曙』班、到着しましたー」

 

黒髪の青年は、声変わりしていないようだなと、そんな感想を唯一に抱かせたのだった。

 

 

 

 

実質的な彼らの班のまとめ役は、この青年であるらしい。

誠なのかと思っていた節があった唯一はここでも驚くことになった。

この青年、無悪雷華と名乗った。

 

「――で。つまりホムンクルスの魔石の入れ替えの立ち合いをしろと?」

「平たく言えばそういうことっすね」

 

状況説明を行なったのは紅陽だった。彼が一番的確に伝えられると唯一たちは認識していた。何せよく口が回る男なのだ。

 

「それは構わんが。……チェイ、前回はいつ入れ替えた?」

「入れ替えなんざしてねえよ。初期のが相当質の良い魔石を組んであるんじゃないか?」

「お前なあ、自分で引き取っておいて……」

「転生者ってなった時点でお察しだろうが。ただのホムンクルスならまだしも、きちんと人格が形成されている者を他人が弄るのはよろしくない」

 

誠の言葉に小さく青年――雷華は息を吐いた。

 

「そりゃそうだがな。まあいい。どうせ上にはバレたんだろ?」

「ああ。お前に大人しく出しときゃよかったとさえ思ったな」

「止めろ俺が責任問われる!」

 

雷華の鋭い悲鳴に誠がせせら笑った。晃は無表情のままである。

唯一は口を開く。

 

「えっと。魔力がなくなるとホムンクルスって死ぬんですよね」

「ああ。細胞レベルで消滅するぞ。ホムンクルスってのは元々瓶から出たら生きられない、生物として内向きに完成してるモノだ。でもそんなものはバケモノ以外の何でもない。だから魔力で殻を作ってやってるのさ。その殻に回す魔力がなくなればそりゃあ消滅するわな」

 

死ぬよりももっとヤバい状況になるぞ、と雷華は言う。

 

「だから魔力切れなんざ起こす前に申請してくれないと困るわけです。おら、服脱げや」

「ふぁっ?」

 

見た目だけなら女とそう変わらない雷華に言われたものだから驚いた唯一である。紅陽が唯一に声を掛ける。

 

「魔石は心臓にあてられてるんじゃねえかな? さっさと換えたが身のためだぞー。お前今日授業中に一回魔力寸断されてたから、たぶん1個確実に魔力なくなってる」

「は?」

 

唯一が首を傾げる。

晃が前に出た。

 

「ホムンクルスには3つの魔石を連結したものを動力源として組み込まれている。1つの魔力が空になれば一旦武装等に回す魔力が寸断され、生命維持を優先するようになる。最後の1つになれば武装はできなくなる。特にお前の武装は魔力を用いて出現させていると聞く。ホムンクルスはそもそも戦闘用には作られていないのだから逃げる方がよほど建設的だろう」

「ちょ、迫ってくるのやめてくださいせめて瞬きしてください晃さん!」

 

唯一の言葉を聞いて小さくむう、と唸った晃は唯一のシャツをばっとつかんでたくし上げた。

 

「びゃあっ!?」

「すげえ! 表面に出てない!」

「関心すんのそっちか」

「もしかしてコードが必要?」

「魔石の入れ替えをするにはどうすれば?」

「コマンド何だっけ」

「はあ、俺に聞くなし! あの研究所に突入したのはお前と晃だろ! 俺は知らねえぞ!?」

 

ええと、と唯一は一旦状況を確認した。

まず自分は魔石を交換せねばならない。その為にそもそも一体どこにあるのかという話で胸部を見せねばならないのは分かる。

そのコマンドが必要、とは一体どういうことだろうか。

 

「射天唯一、自分でどうにかできんか? コマンドになりそうな台詞を言ってみるとか」

「えっと……」

 

緋炉騎に言われて唯一は考える。

燃料タンクの詰め替えみたいなものだろうか。

自分は生身であることの方が普通だったのだからこんな状況分かるはずもない。

 

だが。

 

「――魔石交換」

 

呟いてみると、案外あっさりと胸元に紫の石と、朱色だったであろう名残の残った灰色の石が現れた。

 

「これが魔石ですか?」

「!」

「ああ、それが魔石だ。灰色がかってるやつはもう魔力がないってことだ」

「魔石って消滅するんじゃ?」

「水晶を使ってあるな。作った人間が錬金術系だろうよ」

「そんなことまでわかるんですか?」

「宝石に魔力込めるのって結構大変なんだよ。下手したら石が割れちゃうし」

 

言葉を交わしつつなるほどと唯一は納得した。とりあえず、ホムンクルスの動力源は魔力を扱う人間以外にはどうにもならないことは分かった。

 

「で、人の胸部開けておいてこれからどうするんですか?」

「うん、これ取り込んで」

 

アキからころころと渡された2つの青い魔石。青かあ、と思いながら肌に描かれている回路らしきものの先、水晶がはまっているところに入れ替えて置けば自然とはまり込んで消えていった。

 

「消えた」

「連結されたってことだ」

「何で1つだけ色が違ったんだろう」

「さあ?」

 

色が違うと何かあるのかと問えば、単純に1人の魔力ではない可能性があることくらいしか分からないと返された。

 

「色によって大体向いてる傾向があるから注意してね」

「分かりました。青は?」

「回復。赤は攻撃だよ。晃さんたちみたいに外に出てる色だけじゃわからない人たちもいるけれど、黒は規格外。色によって向き不向きがあり、その分魔力の消費量が変わっちゃうから気を付けてね」

「なるほど」

 

アキの解説に理解したと示した唯一はふと思う。

 

「……あの、コレ2つにできないかな?」

「……え、3つ組んでるやつを2セットってこと?」

「ああ、ツインリアクター……」

「出来なくはないだろうけど、そこはもう“長持ち”に振っとかないとだめだよ! 下手に流す魔力の量を増やしたりしたら魔力量に耐えきれなくなって筋繊維断裂とか洒落にならないからね!?」

「むぅ……では“長持ち”に振っておきましょう。それならいいですよね!」

 

こいつのモノを改造したがるのはどうにかならんかな、と緋炉騎は頭を抱えた。

唯一の事情を知っているであろう4人はここにはいない。

 

「ええい、生体を弄るなどお前の年齢ではまだ許可されておらんわ! せめて医者にやってもらえ!」

「それじゃ思ったとおりにやってもらえないかもしれないじゃないですか!」

「お前が自滅を早めやすい設計ばかりするからだ! 俺を最初に修繕したとき、儚巻(はかまき)(メイ)が言った。『なんでこんな組み方をしているの、出力は上がるけど回路が焼けつくししょっちゅう交換しなくちゃならない、この金属フレーム量産型なの?』と文句を散々な!」

「ガンカイザーのは実際ちょっと手を加えてはありますけど基本的には量産型じゃないですか!」

「こちらではそれが存在しないのだ! いや、確かにないわけではないがあれを使うとスキルが全て無効化される! こちらでは向こうと同じようにはいかんのだ、法則や枷を全て捻じ曲げてきた貴様には分かり辛いやもしれぬが、こちらの法則を学べ! こちらの常識を身につけろ! 案外簡単にここに居るメンバーも、うむ、カルナ、というか晃以外は死ぬのだということを体感する前に知っておけ!」

 

射天唯一、音風緋炉騎。

転生者と転移者である彼らの会話に、とてもではないが付いて来れない誠たちが小さく息を吐いた。

 

ちなみに、結局唯一には魔石のセットが2つ積まれることになった。

 

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