異能者の日常~知人のキャラを添えて~   作:黄昏翠玉

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平和ですね。何で後半のプロットああなったんだろう……。


第16話 体育

「ボールそっち行ったぞー!」

「やっべジークに渡った! 止めろー!」

 

体育の時間というのは普通に存在し、男子と女子で別れてサッカーをやっているなんて普通の高校にもあり得る光景であろう。

異能使用は禁止、基本的に異能ありと異能なしで競技が分かれていることもしばしばである。これは、常時発動型の異能者が存在するために設けられたルールであった。

 

「オルタ!」

「おう」

 

ジークフリート=竜ヶ崎、彼も常時発動型の異能を持っている。異能の発動にレベルがある者が存在するが、これらは基本的に常時発動型の異能を持っているのだと考えてよい。

 

オルタ、と呼ばれた少年の方も似たようなものである。

鋭い目元に紅で化粧を施されているのは、彼の兄たちがどいつもこいつも似たような顔をしているせいだろう。

 

太田オルタ、本人は兄たちと共に施設に保護された少年で、自分の名前が分からないといいつつ兄たちからはオルタと呼ばれていたためそのままオルタで呼称が定着した。太田は里親の苗字である。

 

「ちょ、オルタ、つ お い」

「オルタを止めろー!」

「無茶言うなこいつバーサーカーじゃねーか!」

 

現在やっているのはサッカーである。断じて対軍戦などではない。

 

「邪魔だ」

「相変わらずのフィジカルだな!」

「お前兄貴さんよりちょっとでかいだろ!? なんで!?」

 

オルタに渡った時オルタはゴールに突進するだけなので止めるのは容易いはずなのだが、何せフィジカルが強かった。よって対応できるのは――

 

「追いついた!」

「チッ」

 

唯一のみとなる。

紅陽なんてものはオルタ側の陣営にいらっしゃるのでお話にならないのである。

 

最初は突破を試みていたオルタも唯一がぶつかり合いに強いことが分かってからは無理に抜こうとしなくなった。何せ下手に倒してしまえばファウルを食らうのはオルタの方だ。

 

「銀チビ」

「はいよー」

 

優がいつの間にか上がってきていた。そのままオルタからボールを奪いつつ唯一を抜いて優がシュートし、見事ゴールした。

 

「あー、もう、また欠月かよ!」

「残念、俺でした☆」

「オルタが囮になることを覚えたなあ……」

「ここにはクラス相性も何も無いからな……」

 

隣のクラスの藤丸立香の呟きは置いておくとして、唯一はオルタを見上げて少し頬を膨らませた。

また抜かれた。

盾があればこんなことにはならないのに。

 

だがそれは流石にスポーツとしてどうなのだ。

だから唯一は使っていない。オルタはジークフリートと同じく常時発動型であるためスポーツではある意味有利な部類に入る。

が、彼がその恩恵を受けていないようにも、唯一には見えたのだ。

オルタの首についている黒いドッグタグは見慣れないものだった。

 

 

 

 

「おつかれさーん」

 

金髪翠眼の少女が唯一に話しかけてくる。やはりこの授業には居たらしい。

座学にあまり出席して来ないだけで体育や戦闘訓練には出てきている。身体を動かす方が好きなのだろう。

 

彼女もまたおかしな名前を持っている。

 

「モードレッドさん、ありがとうございます」

「いーってことよ。おらおら、風邪ひくぞ」

 

ジークフリートの方へ歩いて行った彼女はタオルをジークフリートに押し付け、オルタにもタオルを押し付けた。次のゲームは隣のクラスのメンツが行うのでしばらく唯一たちはお休みである。

 

世話焼きなのか、はたまた。

粗野な言動から真意は読み取れない。

藤丸立香曰く「分かりにくくなった」。彼はモードレッドと知り合いだったのだろうか。

 

紅陽と優はお互いの健闘をたたえ合っている。紅陽は今回全く動いていないが。

オルタか紅陽どちらかがキーパーにいることが一緒にグラウンドに出る条件になっていたりする。この2人のパワーが拮抗していると言えば藤丸立香の反応は面白いくらいに変わったのだが、それは割愛しておく。

 

「大丈夫だった?」

「ええ、大丈夫です」

 

唯一に声を掛ける者がいる。また女子である。モードレッドを女子とカウントしていいかどうかは唯一にはよくわからないが、一応女性ということにしておく。

 

赤城杏、赤城財閥の娘である。

彼女は何かと唯一のことを気にかけてくれていた。

 

ついつい唯一も聞かれれば自分の話をしてしまっている。優しい子なので、気を許している部分もあるだろう。それに、何かあっても唯一なら大体なんとかできる――そこを過信するなと緋炉騎は言っているのだが。

 

「無茶はしないでね?」

「はい」

 

彼女が唯一を特別気にかける理由。

彼女にもホムンクルスがいるのだと聞いた時には、なるほど? と思ったが、一緒に暮らしている、と言ったので気にかけられたのはそれでか、と納得したものだ。

 

ホムンクルスは総じて脆い。

そう、日和に立ち寄って偶然再会した白斗が熱弁していった。

 

白斗の家である鳴神産業がホムンクルスの生産を行なっていると聞いて驚いたが、鳴神産業のホムンクルスは基本的には手の足りない介護や医療方面の助手役としてのモノであるらしく、また寿命は3年程度、パワーを補強して命令を受け取り実行するだけのものとして極限まで人間性を削ぎ落したものである。人間と同じように生活するホムンクルスではなくそれ用の物として作られたもので、雑に扱えば壊れて動かなくなってしまうという。

そして量産型であるため顔はない。

 

脆さは彼らを守るためにも必要だ。

これは一種のセーフティ。

人間と違って痛みに泣き叫ぶことも死に狼狽えることもないホムンクルスという人造種を守るためには、技術的にはそうするしかなく、そうすることでホムンクルスは完全ではない存在として人間と共存できるのだという。

 

完全な存在がいてたまるか。

そんなモノが居たら世界など必要ない。

そうまで言い切った白斗の目に憐憫が浮かんでいたのを唯一は忘れはしないだろう。

 

得体の知れない者は恐れられるものである。

たとえ彼がアルジュナと呼ばれ、大英雄の名を二つ名と冠されていようとも、父親が神を名乗っていようとも、普通の人間として育てられれば普通のことである。

むしろあまり表情に出さなかった白斗は褒められていいのではなかろうか。

 

唯一の中をそんな思考が通り過ぎた。

転生者として考える。

仮にアルジュナという英雄が本当に転生していたとしよう。神話に詳しくはないがインド系の神々とは浅からぬ縁もあり、多少関連した英雄の名を聞いたことくらいはある。アルジュナが清廉潔白な英雄だったとかその程度には。

 

白斗の様子からして恐らく転生して記憶があるなど言語道断と言ったところではないだろうか。モードレッドが姉のことに言い換える前になぜか「父上」と言ったりするがそこにまで踏み込む気はない。何かあったのだろう。今はこれでいいと思う、特に問題もないのだから。

 

白斗に転生前の記憶はないのだろう。父親がインドラとか言っている時点でおかしいと気付かないあたりにやはり彼が転生者である気が甚だして来るのだが覚えていない時点で一般大衆と同じではないか。

 

つまるところやはりおかしいのは唯一たちの方であろう。

唯一はそこまで考えて一旦その考えを放棄した。これ以上考えても深みにはまるだけで何も解決することはない。仮定条件だけで話すのはいかがなものか。

 

「ホムンクルスも、守られるようになるといいなあ」

「そうですね」

 

赤城の言葉に唯一は小さく頷いた。

丁度集合の笛を体育教師が鳴らし、皆集合してゆく。

 

完全に余談だが、更衣室で立香が細めの見た目よりも鍛えていたことの方に驚いた唯一は悪くない。

 

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