「げえーっ、プロトの野郎またか!!」
“兄”の声が聞こえる。
ソファに沈んでテレビを見ていたオルタは携帯端末を覗き込んでいるであろう“兄”の方を向いた。
オルタの横では空色の髪を伸ばした少し年上の青年が同じように声の方を振り向いていた。
「うるせーよ槍の俺。プロトのレポートが終わらねえなんて今に始まったことじゃねえ」
「そうだけども! そうじゃねえんだよ! 俺今日飲み会!」
ぱっと見だけなら四つ子。
けれども明確に違うと彼らは知っている。
何の因果かおかしな話。
神が存在するならば、英雄も存在している。ここまではまだわかる。
が、これはどうしたことか。
彼らの名は、プロトと呼ばれる兄弟も含め皆、“クー・フーリン”である。
カフェ日和。ここを中心として、ごくごく近所に複数このように、英雄であるはずの者たちが転生していた。転生前の記憶はある。
特にここと近いペンドラゴン兄妹というとんでもない名の付いた4人きょうだいの居候している家であるとか、この家こと太田家であるとか、はっきり自分が何者なのか認識している者たちが存在した。
それだけのことである。
「マスター、つーか、リツカに引っ張られたんだろうけどな」
「俺の思考読むなキャスター!」
「分かりやすすぎんだよ」
結局皆適応したというか、慣れてしまったので特に問題はない。
名が同じというかベースが同じであるためにそれぞれの呼称が“キャスター”やら“槍の俺”やら“プロト”、はては“狂王サマ”などと一般の人間からするとよくわからない呼称が飛び出してくることもある。
ちなみに、プロトと呼ばれてはいるが一番上で大学4年生の長男はセタンタとちゃんと名がついている。青、と言っていい髪の色をしている。瞳は紅い。
クー・フーリンという名で呼ばれるのは槍の俺こと次男、大学1年生。髪は藍、瞳は紅。
問題が下の2人で、キャスターとも呼ばれるが一応呼称としてはキャスと略されるのが三男、大学1年生。クー・フーリンとは双子である。
オルタに関してはオルタで統一となった。髪は紺色瞳は血の色。高校1年生である。
「今日お前が飲み会、なら、買いに行くかぁ」
「……そうだな」
キャスとオルタがアイコンタクトを交わした。
キャスに関しては問題を1つ抱えており、ものすごく身体が虚弱である。クー・フーリンが双子なのにものすごく頑丈なのに比べると、よく車椅子でお出かけする羽目になっているキャスの虚弱さが際立った。さらにそこに足を悪くしているオプション付き。
「キャスター、歩けそうか?」
「ああ、今日は調子がいい。問題ねーよ」
「お、リツカに頼んどいたってよ」
「プロトの野郎……」
遠出するわけではないけれども、足を悪くしたキャスに杖は必要だった。
荷物持ちはできない。本当は足手纏いになるだけだけれども、オルタを1人にするのこそ怖い。そんな意見が珍しく上3人でまとまったため、基本セタンタもクー・フーリンもいない場合はキャスがオルタのお目付け役のように傍に居た。
「行ってくる!」
「いってら」
飲み会とその前の集まりか何かに出かけて行ったクー・フーリンを見送り、キャスとオルタも財布を持って家を出た。
彼らは現在兄弟で里親の持っていた家に住んでいる。
近所にいる学生と言えば大学生のアーサーとアルトリア、高校生のモードレッドが一番近い。
少し先に行けば日和に着くのでカルナ――と言いたいところだが、残念ながらカルナは転生していることを認識していなかった。生き方も容姿も変わっていないせいですぐに分かってしまったのだが。
オルタはカルナに関してはあまり会いたくないとさえいう。キャスも後々知ったことだが、カルナとアルジュナ、2人についていろいろと思うことがあったらしく、その記憶のせいでクー・フーリンから引きはがされたのかもしれないとさえ語った。
いつになく弱気なオルタを見てキャスは笑い飛ばしたものである。
そしてきっと、それが人間になったということなのだと。
外をゆっくりと歩いていると、丁度庭先に出てきたモードレッドと目が合った。
「お、よう、キャスター、オルタ」
「ん、コンニチハでいいかね、モードレッド」
「……ちわ」
これからどこかに出かけるところらしく、あとから金髪碧眼の男女が出てきた。
「こんにちは。あれ、キャスターとバーサーカーだけ? セタンタはどうしたの?」
「プロトならレポートが終わらねえって図書館に籠ってますよ」
「なんだ、言ってくれたら手伝ったのになあ」
「こんにちは。キャスター、バーサーカー、どちらへ?」
「晩飯がないんで、買いに行くとこだ」
「今日は調子がよさそうで安心しました」
「心配かけちまって悪いな」
「いえ」
アーサーはセタンタと同い年である。現代社会を普通に満喫している姿を見ることができる。大学にまで通っているあたり、転生とかあまり関係なく普通に過ごしていると見えた。
中心となっているカフェ日和には一柱の太陽神が現界している。
彼と、近くに限界している神々の力によってこの場に転生という形で一定数の英霊が集められている状況であることだけは分かっているので、もう特に気にすることもなく10年以上普通に過ごしている。
「案外仲良さそうじゃねえか、モードレッド」
「おう、まあな!」
「転生した影響か、はたまた別の因果かは不明ですが、モードレッドとの衝突は以前ほどはなくなりましたね。かわりによくホムンクルスを拾ってくるので問題外ですが」
「えー、それ問題じゃねえじゃん! いいじゃん魔力食わすくらい!」
「ペット感覚でホムンクルス拾ってくるのをまずやめなさい!」
それはきっと一生直らんよ、とは口にしないキャスであった。
♢
日和に珍しく手が回らぬほど客足が多かったのでバイトに誠を呼んだスーリヤ。横では晃が普通に配膳を行なっていた。
「こんなに客が来るとか珍しいな」
「ああ。だが稀にある。腕が4本あっても足りんと父が言うくらいには」
「スーリヤ神って4本腕だっけな。まー今は腕8本だろ」
「タコか?」
「もーお前のそういうとこ好き」
なんか知ってる兄とだいぶ違う、とは白斗の台詞である。
日和は密かな穴場になっているらしく、定期的に訪れる客が多い。内装も落ち着いた雰囲気で、流れる曲はクラシック。何気にレコードなんていう古めかしいものまで置いているのでスーリヤは店の雰囲気づくりには成功していると言えるだろう。
今日はなぜか飲み会の二次会みたいなものに使われているが。
二次会と言ってもどいつもこいつもまったく酒が入っていなかったりほとんど酔っていなかったりである。夜まで開けなければならないスーリヤの身になれという話だが、スーリヤが彼らを追い出したことはない。
酒は置いていないが、紅茶やコーヒーが好きな者にはいいだろう。
「しかし、こいつら何でジャッジメントに入ってないんだ?」
「それぞれ理由があるのだろう。強制するものでもない」
「ま、そうだがね」
俺はほぼ強制なんですが、とぼやく誠であった。
「チョコパフェ、特大で!」
「俺チーズケーキで」
「私抹茶アイス」
「承知した」
注文を聞き取った晃が手元の紙にさらさらとメモを取ってスーリヤの許へ向かった。
本来ならば注意されるべきなのだろうが、晃のこの態度を今回来ている客たちは許す傾向にあった。
まるで知っているかのように。
「あ、ボクこのベリータルトがいいなあ!」
「私もそれがいい」
「アストルフォと姐さんはベリータルトか。チェイ!」
「へいよー」
若草色の髪の青年が呼ぶ。誠は注文票を手に青年の許へ向かった。