唯一が拾われて以来住んでいる都市のことを、人々は八角都市と呼んでいた。
八角都市というのは、八角形の街を形成している。
ここに基本的に能力者の教育機関が存在しており、誠たちも学校へ通っていた。
唯一の目の前に現在立っている白髪痩身の少年は、唯一を見た途端眉根を顰める。
じっと見つめられるとその眼力に押されてしまう。青空を映したようなその瞳に何か暴かれそうであまり気分の良い物ではなかった。
「……えっと?」
「……危ういな」
「え?」
たった一言。それ以外何も言わずに少年は去っていった。
これが、唯一と『
♢
唯一は目の前に出された特大のパフェに目を煌かせていた。
誠が行きつけだというカフェに唯一を連れて行ったのだ。そこには金髪を三つ編みにした神々しい外見の男と共に、白髪痩身の少年がいたのである。
マスターの子供であると思われる少年は、少年と言いつつもおそらく誠と同い年ぐらいである。誠は大柄な部類に入るらしく、かなり少年が幼く細く見えた。
「――え、じゃああのウェイターさんが俺を保護するようにって?」
「ああ。まあ、マスターの方も関係者だからある程度は事情知ってるだろうけどな」
そしてきっと先に叱られたに違いない。これから誠は報告書の件で叱られるのが確定事項であるというのに。
不愛想なウェイター、名前は日和晃という。
ちなみにカフェの名前が日和なのでお察しという奴だろう。
晃には二つ名がある。それが、カルナだった。
「晃、報告会始めまーす」
「む、わかった」
インド神話マハーバーラタに出てくる悪役側に加担する英雄の名を冠された彼は、学校でこそ晃と呼ばれているが、父親からさえカルナと呼ばれている。
それに彼が不満を言ったことは、無い。
ちなみにふざけたり文句を叫んだりする以外で誠が晃をカルナと呼ぶことはまず、なかった。
「まず、こいつの能力についてだが」
「……」
「どこのスパロボだって言いたくなる武装を出現させることができる。あと魔術の類も使う。能力的にはハイブリッドだ。その分燃費は悪い」
「仕送りは増やした方がいいか?」
「つーかテメーがうちに来い。マスターが渋ること請け合いだが自分の発言に責任を持ってくれるところだけは本当に裏切らねえからなお前」
「わかった、父を説得してこよう」
そのまま席を立ってマスターの前に言って何か喋り始め、「そんなの父は認めないからな!」とマスターが言い出した。案の定、と苦笑を零した誠だが、どうせ何か条件つけてでももぎ取ってくるに違いないよと唯一に告げて、晃が帰ってくるのを待った。
「戻ったぞ」
「どうだった」
「全部終わったらまた一緒に暮らすのだとマントラを」
「毎度思うけどマスターって神様? スーリヤ神なわけ?」
「いや、確実に人間のはずだが」
じゃあなんでマントラとか出てくんの、と誠が問うても、さて、と首を傾げた晃に、それ以上追及しても無意味と判断した誠は話を続けた。
「で、転生者。武器は一部を残して他はほぼ使えなくなっているらしい」
「何を使う」
「シールドとパイルバンカー、あとは変形ありのチェーンソーだな。それ以外は一発撃ったら倒れた」
「……身に余る力など使って良いことはない。やめておけ」
唯一はその言い方が癪に障った。元々自分が使えていたものを見せただけなのに何が悪い。いや、確かに今は身に余っているのだが。
今現在はの話である。
「その身に余る力など使って体に変調をきたすのだから良いことなどない。身体を壊す前にやめておけ、な。誰も転生したやつの転生前からの能力にいちゃもん付けないよ」
「ほえ?」
今、通訳をされたのか。
というか、通訳できるのか。
「……どっかの一言足りない英霊みたいだ!」
「あながち間違ってないぞ、こいつ渾名
「うげえええええ!? モロですか!?」
「モロだぞ。こいつの一言足りなさと言ったら!」
誠はくすくすと笑う。唯一は、笑っている誠と不可解だと言わんばかりに首を傾げている晃を見て、笑みが零れた。
「手続きは?」
「済ませた。イチたちと同じ学校に行かせる。イチたちと同い年でな。そっちの方がいろいろやりやすいだろうし」
「そうだな。離れることにはなるが、イチたちの学年には高い能力値の者が多い。十分補填し合えるだろう」
「つーワケで、唯一君もパフェ食べ終わったし会計頼むわ」
「承知した」
唯一の報告をしに来ただけだったらしい誠はあっさりと席を立った。
唯一も慌てて後を追いかける。
レジに立った晃を見て、ふとマスターの方を見る。マスターは眩しそうに息子を見ていた。
「あ、あの、パフェとてもおいしかったです」
「ん? そうか、それはよかった」
マスターに声を掛ければニコリと笑みを浮かべるマスター、しかしその目に感情はない。作り物の笑みだと分かって唯一はぞっとした。
「ん、気に入ったの?」
「はい」
誠が声を掛けてくる。これ幸いとマスターから目を話せば、誠が晃と顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
「マスター、唯一に感謝してくださいね。この子が食べに来たいと言ったらまた来ます。もれなくカルナを連れて!」
「なんだと」
マスターの食いつきがよかった。今度はマスターを見上げれば、そこには期待の眼差しでこちらを見下ろすマスターがいた。
何だ、さっきのは営業スマイルか、と唯一は思う。
なるほど感情が籠っている籠っていないにかかわらず見抜けてしまうので怖く思えただけかと納得して、会計を済ませた誠にくっついてカフェを出た。
「またおいで!」
「父よ、俺に会いたければ呼んでくれて構わない」
「ああ、カルナ、なんていい子なんだ!」
溺愛親子劇場を最後まで見ることなくドアは閉じられる。
からんころん、ドアのベルが涼しげな音を立てた。
これは、唯一が異能者と一般人の混交中学校2年に編入した年の、8月のことである。