「似合わんな」
「よし晃そこに直れ」
入学式の日が違うなあ、とは、誠の言葉であった。
大学生となった誠と晃はスーツに身を包み、大学入学式に出席した。
入学式で幼馴染というだけで晃が誠の横にすっと現れる。それがこの上なく苦痛だった誠だが、しかし下手に振ってみろ父親が何を言いだすか分かったものじゃないとその時は我慢した。ちなみに、誠がこれを嫌がったのは晃の顔が、父親の顔もだが、やたら整っているせいである。
誠の身長は170センチ、晃は178センチ。晃にスーツが似合い過ぎているのは足が長いからであろうと考えた。
「……やめろ、俺は典型的な日本人体形で胴長短足なんだよ!」
「……馬子にも衣裳?」
「俺を貶して愉しいか貴様!」
「そんなつもりはない、タイトスカートが珍しい。お前はいつもズボンを履いているからな」
「タイトスカートは似合わねえんだよ! 畜生!」
つい先日の朝はそんな会話をしていた彼らが、今現在は無言で、唯一たちの保護者ポジションで椅子に座っている。
近くの椅子に座った女性陣の視線を奪う2人の容姿に、会場に入った時はイチとアキと共に顔を見合わせたものだ。
今は2人とも仲良く眠っているようだが。
あの2人が興味のない定型句について話を聞かないのはいつものことなのでどうしようもない。
「……2人が何もしてないと良いけど」
「昨日夜中に帰って来たじゃないか……疲れてるんだよ……」
「Zzzzzz……」
「イチ寝てるし」
イチは寝入りが早いので致し方ない。眠たいのは2人も一緒である。
つまらない演説(正しくは校長の話である)は終わった。
イチを起こして会場から退出し、教員たちの話を聞く。
クラスは先に張り出されていた。よかったというべきか、3人は同じクラスだったので、周りの生徒と共に移動。教科書等を受け取って名を書き、プリントの配布が終わって解散となった。
さて、ここで問題となるのが、解散後、未だに一緒に帰りましょうかと言わんばかりの雰囲気を出して3人が出てくるのを待っている見目の良い男女である。
女の方も、女としては身長は少々高めである。平均から考えれば確かに平均的ではあるのだが、スカートをはいていなければ確実に小さい男と見られたであろう無表情っぷりを発揮している。
3人は早めに荷物を纏めて教室を出た。
「早く戻らないと、晃さんが女子生徒に囲まれて動けなくなりますよ」
「分かってるよ! だから僕に荷物持たせるのやめて!?」
「そんなんじゃいつまでたっても動けるようになりませんよ!」
「ぐぬぬ!」
3人が外に出れば、アスファルトの駐車場に、白い頭が見える。あれ、と3人は驚いて顔を見合わせた。
荷物を2人分持たされていたアキは白い頭――晃に走り寄る。
「晃さん! 誠姉は!?」
「おかえり。……チェイなら、先程教官に会ったので喋りに行ったぞ」
「えー。ここで喋っててくれればよかったのに……」
車はない。電車で来るような距離でもない。
自転車を全力で飛ばして登校するような距離に、彼らは共に住んでいる。
実は日和から通った方が高等部が近いとかその辺りのツッコミはとうに放棄されたのだ。
「少し話せば戻ると言っていた。あと、父が張り切っている」
「大学入学祝ですね。俺たちのことまで一緒に祝ってくれるあたり、マスターほんと大盤振る舞いですね」
「明確に10年ほど前から、それ以前よりも感情を出すようになっている」
晃の言葉が終わるとほぼ同時に、誠が戻ってきた。
「悪い、待ったか」
「いえ、今戻ってきたところですから」
「そうか。じゃあ帰ろうかね」
「はーい」
ほとんどしゃべることのない唯一の方を見て、誠が小さく笑った。
「さてと。囲まれる前に消えるかな。今日は何もないし。ああ、晃、お前のスマホ寄越せ」
「何故だ」
「お前は頼まれたら断らないからな! 電源を切るんだよ!」
「むぅ……」
自覚はあるらしい晃はポケットからスマホを取り出して誠に渡す。誠はあっさりとその電源を切って晃に返す。
「ほら、アキ、その荷物貸しな」
「はーい」
荷物をポンポンポンとどこからか出した段ボールに詰めて蓋を締め、その段ボールを丸ごと小さくして小さな袋に入れ、ポケットに突っ込んだ。
「こうして考えると本当に誠さんの異能って便利ですね」
「おかげさまで皆の荷物持ちですわ」
珍しい唯一の言葉には鋭く突っ込みが返ってきてしまった。
♢
「入学おめでとぅー!」
カフェ日和にて、ぱーん、とクラッカーを鳴らして一際喜んでいる金髪のマスター。
唯一たちの前にはマスター手作りの食事がずらりと並んでいる。息子の大学入学祝を名目に人数分用意するマスターは案外優しいよなあと思う唯一である。
誠は食事を並べるのを手伝って今ようやく席に着いた。
「ふふふ。皆も入学おめでとう。これからもカルナをよろしくね」
「「はーい」」
「いつもお世話になってます」
「手綱は握れないとこにある気がするがな」
順にアキとイチ、唯一、誠の言葉である。本当は妹の入学祝なので来たがっていた実は、ジャッジメントの呼び出しを食らって出動していった。どうせこうなるんだからと言って確実に呼ばれる自分たちのケータイの電源を落としている誠である。他人がどうなろうが知ったことではないのだ。
家族団欒の時間を就業してもいない学生に削らせるのが大人のやり方かと食って掛かったことがあるくらいである。なんだかんだ言って行動力はある。
ちなみにその時はしばらく謹慎処分を食らった。ジャッジメントは市の管轄である。
「あれ、そう言えば音風は?」
「教官ならジャッジメントの生徒に付き添うんですと」
「そうなのか……残念だな。アイツも来るとばかり思っておったわ」
特大パフェが準備されていたのはそのせいか、と誠は独り言ちた。
マスターが特大パフェなどという勇者メニューを作った原因が音風(おとかぜ)緋炉騎(ヒロキ)という教官がここによく通っているからで、こいつがまたいろいろと、ギスギスしやすい能力者たちの関係を緩和していたりするのである。
「音風緋炉騎? 字面が中二病ですね!」
「であろ? 自分の漢字分からないからって我に字を当ててくれとかいうものだから、遊んだ」
「ドヤ顔も美しくて嫌味な人ですねー」
マスターにツッコミを入れるのはイチの仕事である。もう皆がツッコミを入れないから自分がやるしかないと思ったそうである。
「まあアレは週末には来るだろう。その時また用意してやるさ」
「それが良い、父よ。戦闘員の俺が居ないから眠らせるためにミィが呼ばれたのだろう」
「ああ、それで音風に連絡が行ったのかあ」
いつの間に電源をつけたのやら、SNSの確認をしている晃に唯一は苦笑を浮かべた。
晃が見ているSNSはグループ内で誰か来い、というために作られたグループであると誠は語る。
「あー、先に先輩たち動いたか」
「ふむ。式の途中で一度来ているようだな」
「ま、もう終わったっぽいけど」
「教官が出たならば即鎮圧だろう」
そんなに強い教官がいるんだ、と唯一は思う。高等部の話を散々2人にせがんだが、教官の話はほとんどしてくれなかったものである。
「本当はその教官についてもいろいろ聞きたいんですけどね!」
「脳筋教官だな」
「機人だしな。プロトタイプらしい」
「機人がもう試験運転始めてるんですか! うわあ、見たいなあ!」
唯一よりもよく喋る2人が居れば、唯一は苦も無く情報が手に入る。
実に助かっている。
こちらに彼の強みだった人脈は、無い。
唯一は食事を終えてぽんと目の前に置かれた特大のパフェに目を煌かせる。フルーツパフェ、甘くておいしいので大好きですと告げればマスターがさらに改良を進めて唯一用のパフェを作ってくれた。
暗いことは考えない。こちらに来て、ホムンクルスとして生き始めて4年目。
彼が見つけた一つの生きてゆく方法である。
この話にでっかい壮大なストーリーは存在しません。イベントこなしていく日々です一応。いろんなイベントが書けるといいなあと思っております。