異能者の日常~知人のキャラを添えて~   作:黄昏翠玉

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第8話 機人教官と日天

緋炉騎にしては珍しい名前呼びに、息子と順調に関係を築いているのが嬉しいような、寂しいような気がして、マスターは柔らかく笑みを浮かべた。

 

「おかえり、カルナ」

 

マスターはカウンターに息子を座らせる。手伝うことはないかとまだ問うていた晃だったが、もうすぐ準備は終わるから、と返されれば、そうか、と呟いて、席に大人しく座った。

 

じきになぜかカレーライスが出てくる。もともと用意してたなと緋炉騎は思いつつ、渡された皿を受け取った。

 

緋炉騎は甘いものが好きだが、辛い物、まあ、食べられないわけではない。機人であるとかそのあたりについてはいろいろとつつかれやすいところではあるが、まあ、機械生命体である以上人間のような外見を持つにあたって何らかの擬装用の機構を積んでいてもおかしくはなかった。

 

「ヒュー、美味そう」

「うむ、父の作るカレーは絶品だぞ」

「よっしゃあ、いただきます!」

 

さりげなく小さいからといって緋炉騎を挟んで会話するなこのデカブツども。

ちなみに晃は178センチ、紅陽は179センチとデカブツなのである。緋炉騎は165センチ、機人である以上これ以上成長することもないのでどうしようもなかった。

 

閉店の表示を出してくると言って一旦姿を消したマスターが絶叫したのは、緋炉騎がカレーライスを半分ほど食べ終えたころである。

 

「いやあああああああああああああああっ!!!」

「?」

 

誰かがいるようで、話し声がする。誰だろうかと思い、知っている気配であることに気付く。ああなるほど、それはマスターなら絶叫ものだな。

 

「何、誰?」

「マスター殿の知己の仲の者だ。まあ、毛嫌いしているが」

 

カレーライスを平らげた紅陽の言葉に緋炉騎は答える。晃ももう慣れたのか、迎えに行く気配はない。

マスターの反応を大げさだとは思わない。むしろそれだけする理由は十分にある男だ。

 

「く、来るな、来るでないわッ! マジで帰れクソ爺!」

「なんだよ外見的には変わらないだろう? いいじゃないか、久しぶりにカルナの顔見たいし」

「見るなっ、カルナが穢れるッ」

 

すさまじい言い合いである。

店先でどうしたよと周りの人間も咎められない。居ないから。

 

さらっと父親が言い合いしている間にカランとベルを鳴らして店内に入ってきた少年がいた。おそらく年齢は紅陽と同じぐらいであろう。

というか、この少年を緋炉騎は知っていた。

 

カレーライスを食べ終えてカルナが差し出してきた布で口元を拭き、緋炉騎は入ってきた少年を見る。

黒い髪、浅黒い肌。日本人というよりもハーフで通るのではないかと思われる、しかし見目の整った少年。

 

「お久しぶりです、音風教官」

「ああ、久しいな」

 

名は呼んでやらない。親しくなどないから。

 

「ああ、お久しぶりです、『カルナ』」

「久しぶりだな『アルジュナ』」

 

白と黒の間にしばしの間火花が散る。楽しそうな2人を見て、お熱いねえ、とあながち間違っていない言葉を述べた紅陽は非常に人間を眺めることに適していると緋炉騎は思う。これで司令官をやらないと言い切ったのだから惜しいものである。

 

音風教官という呼称は、この都市ではなかなか有名である。たとえ通っている学校が違ったとしても、その名はこの数年で爆発的に知られるようになった。

皆が緋炉騎を教官と呼ぶ。先生と普通に呼んでくれるのはごく一部の生徒だけである。そんな彼らもいざというときには教官呼びに戻ってしまうのだから、まあ、ちょっとばかり寂しい。

 

ところで、通常ヒロキなどという名前は2文字がいいのではないかと思われるのだが、なぜ緋炉騎が3文字の字をあてられているかというと、ようやく入ってきた2人組――つまり、『カルナ』と『アルジュナ』の父親たちの所為である。

 

「畜生ううううう!」

「吾はお前に負けるほど弱っとらん!」

 

――神秘の集まるここ。それはつまり、神々の出入りする場所。

 

「インドラあああああ!! 帰れえええええええ!!」

「うるさいぞスーリヤ。カルナ、コーヒー、砂糖とミルクを入れてくれ」

「承知した」

 

さらっと席を立った晃がカウンターに立った。スーリヤと呼ばれた金髪――晃の父、文字通り太陽神スーリヤは、現在黒髪――『アルジュナ』の父、雷帝インドラによって動きを封じられている。

 

『アルジュナ』こと鳴神白斗は大人しくカウンターに座る。

言っておくが彼と晃は仲が悪いわけではない。ただ単に何やら前世の縁とかそんなもの――本人たちはほとんど覚えていないのだが――のために、2人は同じレベルで競える間柄であった。

 

これでややこしいのが、2人は異父兄弟であるという点である。母親が同じなのだ。この辺りは本人たちもどうでもよいと思っているため割愛する。

 

とにかく、この2人、武器を持っていなくともかなり危なっかしい喧嘩を繰り広げる。喧嘩ではなく本人たち曰く“戯れ”、周りの被害が酷すぎて誠や実が出動するレベルである。ちなみに2人の戦闘の規模丸ごと小さくできるため誠はかなりの頻度で出動してくる。

 

この2人の戯れを止めるために最初に出動していた誠は、高校3年になって極端に電話に出なくなった。いろいろあって後任になっていたのが紅陽と緋炉騎である。

元はと言えば緋炉騎がこの神話級大英雄の名を冠された2名を出会わせてしまったので、本当はもっと早くから緋炉騎に回しておけばよかったのだが。

 

過ぎたことはどうしようもない。

丁寧にミルクと砂糖を入れて混ぜられたコーヒーをインドラに差し出した晃を見て、緋炉騎は嘆息する。他者のためにどこまでも尽くす晃の姿勢はこんなところにも出てくる。

 

たまにいろいろ悟らせないようにするための虚飾が足りないがそれはそれ、これはこれ。こやつに何を言っても無駄である。自分の道を違えることだけはできない人種だ。

緋炉騎がちょっとばかり頭を悩ませた生徒でもある。

 

今年はもう大学生になった、もうすぐ成人だというのに、父親の溺愛、まあそれはいい、本人の進路には何ら問題がない。本人は普通にこのカフェを継ぐ気でいる。

 

問題なのは、どちらかというと頼みを断らない晃の気質である。いや、そもそもこんなことに頭を悩ませている緋炉騎がおかしいのだが。高校時代を抜けた彼の進路を何故まだ気にしているのか。仕方がない。ジャッジメントの依頼を受けていると何かと彼も呼び出しを受け、二つ返事でジャッジメントへ顔を出しているのを見かけてしまうのだ。

 

大学生、それでいいのか。たまには断るということを実行してほしいと思う。おそらく唯一たった一度だけ彼に断られたことのあるインドラですら、たった一度だけ。

しかもそれは神話のお話である。

 

「あ、そうだ。ダリット、先生業順調そうだね!」

「……唐突に振ってくる話題ではないな、インドラ殿」

「ヤダなあ、いいでしょうこれくらい?」

 

インドラとスーリヤに関して、緋炉騎は非常に世話になっている。それは緋炉騎がこの世界に渡ってきたことによって避けられないものとなっていた。

 

元はと言えば、緋炉騎が様々な世界線を渡りながら『神殺し』をなしたことによる。

「うちの子に何する気だァ――!!」と開口一番怒り狂って太陽の炎をまき散らしたスーリヤと「あの子は渡さんぞ、ガンカイザー」とこちらもあっさり神造兵器であるヴァジュラを開放せんとしたインドラを推して知るべし。

 

別の世界線で因縁があったためにこうして何もする気が無かったのに神に追い回されるという苦行に見舞われた緋炉騎である。

 

緋炉騎の名を付けたのもインドラとスーリヤである。

スーリヤはその太陽としての神格からか、どう足掻いても相手に対して常に平等に対応してしまうようで、インドラも直接殺し合ったわけではないこともあってか緋炉騎の名を決めるときに緋炉騎と友好関係を結んでいた者たちの象徴的な言葉を以って名付け、緋炉騎の特徴からその字を当てた。

 

結果、音風緋炉騎という機人が登録されたのである。

機人という括りがあったことで緋炉騎の異常性は覆い隠すことができた。そのあたりをしっかり考慮してくれたという点で、やはり“あの契約”は緋炉騎にとって必ずしもマイナスなものではなかったといえる。

 

緋炉騎とスーリヤの間には『カルナに手を出さない』代わりに『最低限度存在を疑われないように配慮』するという契約がある。インドラはカルナを愛しすぎているスーリヤの尻拭いとして『インドラかスーリヤの許可なく神性を持つ者を殺さない』ことを条件として、『生活のサポートをする』という契約を結んでいる。

 

そうでもしなければ、今彼がいる学校に勤務することは叶わなかっただろう。

大体神性持ちイコール神と戦ったがために、こんなところでまさか異能の一種に“神性”があるだなんて誰が予想できようか。知らされなければ下手をすればその辺にいる近所のお兄さんまで死なせるところだった。

 

「……世界の理とは、世界により異なるものなのだな……」

「なんだ今更。何か思い出して虚しくなったか」

「……生まれ持って以外の神性がいるなんて思わんだろう!」

「あー、それ俺をやっちゃったときの奴っすか? 気にしなくていいって言ってるじゃないっすか」

「俺が気にする! お前の異能が創造神に近しくそれを被るタイプだったからよかったものの、下手に手合わせして神性のある者を傷つけるとか嫌すぎる! なんでこんな経験まで概念でくっついてくるんだ!」

 

今は無論そこまで苦労はしていない、回避方法は見つけた。

だからこそ、まかり間違っても、今年の新入生の中にいた緋炉騎の見知った名に、このことを伝えねばならない。

あの大馬鹿者をもう一度この手で鍛えることになろうとはと、これからを思って緋炉騎は嘆息したのだった。

 

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