「おっしゃ! もらったあ!」
「させるかっ!」
生徒たちの声が鍛錬場に響く。
ひときわ暴れまわっているのは漆黒と白銀。ついで鮮烈な黒と赤、オレンジと青が走る。くすんだ白を纏う少年の適性は盾に振り切っていた。
チーム戦もしなければならないから、そのためにまずは個々人の能力をそれぞれ把握してもらう、と、この日の戦闘訓練担当の教員は言った。
その横にいた背の低い童顔な教官に女子生徒は色めきだった。興味なさそうなやつばかり実力者なのはいかがしたものかと思いつつ、背の低い教官――音風緋炉騎は生徒たちの点呼を取った。
緋炉騎の姿をちゃんと見えていなかったのか、はたまた服装が随分と変わっていたせいで同一人物だとすぐに判断できなかったのか、緋炉騎が小突いてやりたい生徒は緋炉騎のことをただの教員として見ていた。
そして現在、バトルロワイヤル形式で1クラスが潰し合っていた。
異能の種類によってクラスを分けるような理不尽な学校ではないので、異能には希少性によってそのランクが決められているが、最上級のSランクから最低のGランクまで所属している。40人もいればそうなるという話であるが。
現在ダントツ撃破数が多いのが漆黒――日向紅陽。彼の異能は常に発動しているが、それは本人曰く鍛錬のためである。本来のランクはDで、そこまで珍しくもないが、規模が桁違いであるため個人的にCランクに分けられている。『肉体の換装』、と口で言えば単純だが実際は元の肉体は如何、質量は、その鉄をも捻り潰すパワーは、と研究対象としては飽きない存在であり、本人はそれから逃げ回っている状態だ。
ジャッジメントに所属してくれているだけでもありがたいと思え、というのが緋炉騎の感想だが、お偉いさんたちの考えは違うのだろう。
それに次いで撃破数が多いのが黒と赤――笹垣一。ハジメではなくイチと呼ばれている。彼の異能は珍しい部類に入り、Aランク。ただし、やはりここでもそのぶっ壊れ性能を発揮していて、個人的にはSランクに分類されている。出自の詳細は不明だが、ある日ひょっこりととある施設にやってきて運営者の元に居候し始めた。最初は苗字を名乗るのをためらっており、他に家族がいたが逃げ出してきたと言い、それ以上は語らなかった。異能は『魔法』であり、治癒回復系以外のすべてをこなすことができる。
安定してこの版面を動かしているのが白銀――欠月優。銀髪碧眼色白で美しい。こんな色彩を持っていた生徒がほんの1年前までこの学校にいたが、顔立ちは全く違っている。かといって同じ系統の能力を持っているわけでもない。ランクは文句なしのSであり、彼以外に似たようなタイプは確認されていない。故につけられた個別名称は『
名に恥じぬ敵の弱点を知り全てを見抜き、敵の攻略に特化した異能は類を見ない、まさに神の視点で物事を見るものである。
それに抗っているのがくすんだ白――射天唯一。緋炉騎に気付いてくれなかった知り合いである。盾を持っているために動きは鈍いのだが、優に盾で応戦することで何とか自分側で戦ってくれているイチを保たせている。
彼の異能は『干渉』とされている。ランクはBであり、なかなか上等なものである。ただ、これは彼の経歴を調べると出てくるのだが――ホムンクルスである。故にその上等な能力を使い続けるだけの寿命があるかどうかは怪しいところだ。
最後に、この場において最強クラスの体術を持っている、オレンジと青――時守暁、名はアキである。身軽さはクラス、いや、学年でも最高峰であり、異能は『治癒』。ランクは同系列が複数あれどSランク。
イチと自然と組む形になっているため何とか相対している紅陽を抑え込んでいるが、紅陽が一旦あの換装体を破棄して相手の実力に合わせたステ振りに変えると同時に不利になるだろう。
残ったのが彼らだけであるのが残念過ぎる。
もう少し他の生徒も粘ってくれてよかっただろうに。
そういえばあいつらもこうだったな、とかつての生徒を思い出した緋炉騎は残っている5人の実力とスキルの使い方の癖などをメモしていった。
♢
「結果発表だ」
最終的に勝利したのは紅陽だった。
紅陽の能力をよく分かっていなかった唯一がシールドバッシュで紅陽を上に跳ねあげてしまったのがいけなかった。その瞬間に紅陽は換装を解き、“魔力反射”と“速度”にステータス値を振り分け直して再換装、イチの魔法を反射しつつ速度でアキを上回り、唯一に魔法を無効化して戦えなくなったイチを放り投げ、アキを盾にしつつ優を封じてしまった。
手段を択ばない合理的な戦闘スタイルと言える。
「まず、日向紅陽。お前は実践寄りの戦闘をし過ぎだ。欠月以外にお前に付いて来れるだけの者がいたことが嬉しいのは分かるが、もう少しどうにかならんのか。時守は盾にされて苦しんでいたぞ」
「すまねえ」
「久しぶりに盾にされたよ……いいけど。手に持ってるもの全部換装できるんだね。僕も換装してくれたでしょ」
「あれ、気付かれてやんの。すげーな、今まで気付いたの優だけだったのによー」
はあ、これだからこの戦闘馬鹿は、と緋炉騎は思う。
そもそも優相手に盾を使ったのは優にはそのステータスだと勝てないと踏んだからだろう。それくらいはその能力とそろそろ6年の付き合いになる緋炉騎にはわかってしまった。
何より、優は一度くらい紅陽の換装を解くことができる。それ以上は体力が持たないが。
であるから、紅陽はやはり優を倒すためにも唯一を利用したとみるのが自然だった。
「笹垣一、貴様は異能に頼り過ぎだ。魔力が潤沢なのは分かるが、もっと少ない魔力消費で立ち回れ。それはこれから追々教えていくことになるが、魔法系統は血統によって一番合う方法が異なってくる。心しておけ」
「はーい」
まさか一緒に住んでいるはずのあの出来のいい2人と違ってここまでごり押しとは。
一体どんな風に能力を使わせていたのだろうか。今度問いたださねばならない。
「欠月優。貴様は本当にバトルロワイヤルに弱いな。今回は武器の固定があったが、固定しなければまだやれるだろう。最低限爆破系のアイテムは装備に入れておけ。常に日向といられるわけではないからな」
「はい」
優等生、それを体現したような少年であるがために、特にツッコミどころはなかった。実践ならば味方ごと斬れ、とも言われるだろうが、今は必要ない。
「時守暁。貴様はこの中では一番動きがよかった。その点は褒めるに値する。だが、貴様の異能は回復系統。いちいちナイフで応戦するな。そちらは最後のとっておきにしておけ。お前も複数の武器を扱えた方が戦いやすい。一回一回相手の懐に入り込まねばならん攻撃方法など、回復持ちのお前には悪手だ。もしも日向のような異能者がいたらどうする。間合いは槍、しかも自力でステータス、つまりはそのスペックを多少いじれるのだから、今回のように笹垣は無力化される可能性もある。欠月のような異能者がいたらどうする。相手の回復手段を絶つのは定石であり、お前は真っ先に狙われる。お前が今回日向を押しとどめる方に動いたのは間違ってはいないが、あくまでも気付かれないように欠月から引き離さねばならんのだ、そうでなければ基本的にこやつは無敵に近しい状態を維持し続け、体力は底なしでとてもではないが俺でも危うい」
「……はい。前線には出ません」
あ、長々喋ったが言いたかったところは伝わったらしい。空気読める生徒だなあと緋炉騎は思った。
「最後、射天唯一。唯一よ、お前、こんなに無駄な動きが多かったんだな?」
「……へ?」
「
「……はい」
緋炉騎がクラス全員分の解説を終えると同時に、チャイムが鳴った。
「今日はここまで。解散!」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
さて。
ここで、ひとつ。
「……まさか今の……ガンカイザー?」
どうやら、唯一は相手が何者なのかに気が付いたようである。