さて。どこに行こうか…とりあえず寒い。事前に取っておいたホテルで休むかな…
ご飯もそこで食べられるかもしれないし。
「キャット、ホテル行くよ。」
「む、ご主人はホテルに連れ込んでイチャイチャしたいのか。」
「違います。とりあえず荷物を置きに行きたいだけです。それとイチャイチャは…少ししかしません。」
「そうか。では行くのだな!」
楽しそうに歩き始めるキャット。
今は手を繋いでいるので必然的に引っ張られるような形になる。
「ねぇ…キャット…」
「どうした?はっ!まさかお腹が空いたのか?そんなご主人を助けるのもキャットのつとめなのだな。よし、ニンジンだ!」
「違う違う!お腹は空いてるけど北海道来てまでニンジン食べたくないから!」
「ご主人…嫌いになってしまったのか…?」
漫画なら背後に『ガーン!』と書かれそうな感じで驚いている。
見ていて面白いのだが…ここは道のど真ん中。邪魔になってしまう。
「いや、嫌いじゃないけど…」
「では好きか?」
「あー…うん…」
「では行くぞ!
「だ、だから!」
「道そっちじゃないんだってば!」
「あー…疲れた…」
ホテルに着いて、部屋に入ったとたんに一気に体から力が抜ける。
キャット…道わからないのにどんどん引っ張っていかないでくれるかな…
その『なんとかなるさ』精神は好きだけど…こっちの言うことも聞いてほしいな…
「ご主人よ…」
なにやら奥の方でキャットが騒いでいる。
はしゃぐのはいいけど備品を壊さないでね…
「どうしたの?ベッドがふかふかで驚いた?」
ゆっくりと奥に移動する。
細い通路を進むと開けた場所に出た。
その中心でわなわなと震えているキャット。
「き…」
「き?」
「キッチンが…ないぞ…?」
………はい?
「水飲み場しかないではないか!これでどう料理をしろと!」
「手洗い場ね。普通ホテルにキッチンはついてないよ。それに料理はしなくてもいいから。一階にバイキングがあってね、このホテルに泊まっているお客様は無料でご利用できますって言ってたからさ。そこ行こう。」
「そうか…つまりご主人はこう言いたいのだな。」
「欲しいなら奪え…と。」
「は?」
おーい…どうした?その爪はしまいなさい。危ないから。やめて、臨戦体制とらないで。あ、目が本気だ。獲物を狙う肉食獣の目だ。ヤバイ。これは襲われる…
「待っていろご主人よ!すぐにキッチンを制圧するのだ!」
「わー!やめて襲わないで助け…あれ…?」
てっきり襲われるものと…キャットのことだからきっと胸に飛び込んでくるだろうと思って、衝撃に備えて準備してたのに…一向に衝撃が襲ってこない。
キャットが動き出した瞬間につむった目をゆっくりと開く。
部屋には…誰もいなかった…
「き、キャット…?どこに…」
バタン
後ろから音がした。
どうやらドアが閉まった音らし…ドア!?
「まさか…!いや、でもそんな…いくらあのキャットでも…」
そして俺は思った。
『あのキャットならやりかねない…!』
「ま、待ってキャット!早まらないでぇぇぇ!!!」
急いで部屋から出て一階へ向かう。入り口の近くにあるバイキングへと続く道に立っているお兄さんに尋ねた。
「あの…猫みたいな女の子来ませんでした?」
「あぁ。さっきの子だね。よほどお腹空いてたのかな、すごい勢いで駆け込んでいったよ。」
「うわ…あ、ありがとうございます…」
遅かった…どうする?俺は他人です、みたいな感じでここを離れることもできるが…
無理か。ばれるか。ついさっき受け付け通ったもんね…
仕方ない。覚悟を決めろ。いざ、突撃…!
「す、すいませーん…」
中に入る。バイキングを利用している人は少ない。これなら目撃者は少なく済みそうだ。
しかしキャットの姿は見えない。どこにいったのか…本当にキッチンを探しているのなら…
「あはははははは!」
ですよね…
おそらくあの扉の向こうは料理を作るスペース、
そーっと近寄り、ドアに耳をつける。少しでも中のようすが知りたい。さらに言えばできればキャットが自分から出てきてくれると嬉しい。
「嬢ちゃ るなぁ」
「 であろう!アタシは だからな!」
なにやら楽しそうに話している。
問題は起こしていないみたいだけど…これから起こさないとも限らない。
回収しよう。今ならまだ笑って許してもらえる…はず!
「失礼しまーす…」
扉をノックし、中へゆっくりと入る。
そして俺の目に飛び込んできたのは…
「なに…これ…」
大きな白い塊だった。
「ご主人~!できたぞ!褒めろ!」
キャットが無邪気な笑顔で駆け寄ってくる。
だが俺は目の前の塊に気をとられていた。そんな状態の俺にキャットは飛び付いてくる。するとどうなるか…
ガッシャーン!
当然倒れます。
「いたた…もぉ…大丈夫?いきなり飛び付かないでよね。ビックリするから…」
「褒めろ!」
「あー…はいはい…」
頭を撫でる。目の前で可愛い耳がピコピコと動いている。
「ん~…!」
甘える声が漏れてきた。やっぱり…キャットは猫だね。いや、キャットなんだから猫なんだけど…オリジナルは狐だったりするからよくわからないんだよなぁ…
「おいおい嬢ちゃんたちや。こんなところでイチャイチャしないでくれよ。」
イチャイチャなんて…してるね。
今俺は仰向けに倒れている。そして胸元にはキャットの頭が。つまり俺は押し倒されている。
そんな状態で頭を撫でてたら…そりゃしてるね!
「すいません…」
体を起こす。なぜかキャットは腰に手を巻き付けて離してくれないけど…
「ご主人…もう終わりか…?」
「うぐ…お、終わりです。もうしません。」
「そうか…やはり嫌いになってしまったのだな…」
「兄ちゃん…女の子を泣かせちゃダメだろ…」
で、でも放っておいても復活するし…というかあなた方は早く料理を作らなきゃいけないのでは…?こっちに構ってる時間はないでしょ…
「はぁ…わかりました…ほら、部屋で撫でてあげるから。戻るよ、キャット。」
「む?そうか!そうか!!ではしばし待つがよいご主人よ。持ってくるのでな!」
「いや、いいから早く戻ろう。急いで、至急、即刻。」
イソイデモドラナキャ…ハヤク…
「この…」
「ウエディングケーキをな!!」
言うなよぉぉぉ!!!
必死にスルーしてたのに…考えないようにしてたのに!
なにこれ!入った瞬間に視界の半分以上を覆った白い塊!明らかにケーキだよ!
『できたぞ!』ってよってきた瞬間に思ったさ!『こいつには触れずに急いで戻ろう。』ってな!
盛大に触れやがって!しかも『ウエディング』!誰のだよ!
「フ~!お幸せにな!」
「違う!違いますから!こいつが相手とか…」
「…ご主人…?」
「うっ…」
「「「フ~!!!」」」
「だぁぁぁ!!!わかったよ!持っていけばいいんでしょ!食えばいいんでしょ!わかりましたよ!ご迷惑かけて申し訳ありませんでした!」
「あ、一口くれ。」
「俺も。」
「俺も。」
「どうぞ!!!」
部屋が…真っ白になりました。
よくドア通ったよね…そしてこんなに作ったよね…
あー…これはバイキングなんていらないわ…
食べきるのに数時間かかりましたとさ。
あ、キャロットケーキ(外にクリームが塗ってあるだけで中はオレンジ色)でした。
さすがに辛い…
「うまいか!うまいかご主人!」
でも…この笑顔が見れたし…いいかな…