ゆるユリ   作:肝油

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《ユリ、騎士の尋問に立ち会う①》

薄暗い室内に、両手足を縛り上げられた全裸の男が2人。

両腕を掲げた姿勢で、爪先が着くか着かないかの高さに吊るされていた。

そんな彼らを取り囲む形で3人――村長、村人、そしてユリが佇んでいる。

 

そこは、カルネ村で共同で使われている納屋小屋だ。

外からの印象では大き目の建物だが、一歩中に入ると、所狭しと並べられた雑多な生活道具で溢れかえり、更に光源が乏しく所々見通しが利かない上に、掃除が行き届いていないことも手伝って、異様な圧迫感があった。

鋤や鍬、玄翁などの極々一般的な農工具も、まるで拷問器具のようなおどろおどろしさを湛えている。

無論そういった用途で使うことだってできるだろうし、恐らくは威圧も含んでいるのだろうとユリは看破していた。

 

ユリは、改めて2人の捕虜の様子を観察する。

 

効果の程は覿面なようで、男2人――もちろん、先程ユリが捕えた指揮官クラスと思しき騎士だ――の表情には、一様に怯えの色が浮かんでいる。

 

中でも片方の騎士の震え方は尋常ではない。

この男のみ猿轡を咬まされている辺り、ここに到るまでどれだけ不様を晒したか、知れようというもの。

これで騎士団のリーダーというのだから、驚くしかない。

 

対照的に、もう一人の騎士――副官らしい――は落ち着いたもので、怯えの中にも、半ば覚悟を決めたような目で、静かにこちらを睨み返してくる。

恐らくだが、実質的なまとめ役はこの男が担っていたのだろう。

 

それにしても――・・・・・・

 

(やはり、追い払ってお役御免とはいかなかったわね)

 

内心で溜息を吐きつつ、しかしながらここまで関わりを持ってしまった以上、今更中途半端に放り出すことも出来ないと、ユリは腹を括る。

ともあれ、村が再起できるところまでは可能な限りの助力をしようと。

依然、末妹との連絡も空振りに終わっている現状、"あの場所"で待機する以外、他に出来ることもないのだから。

 

とはいえ、ではこの場に、一体自分に出来ることがあるのだろうかとユリは疑問に思う。

 

先ず必要と思われる住居の再建の為の建築技術をユリは持たない。

また、この村の主要産業である農業に関する知識も無い。

そういった職に就いていないからだ。

 

彼女が取得する職は多くが戦闘系のそれ。

こういう場面で重宝されるであろう生産系に関しては、僅かにコックを持っているのみである。

先程、少しだけ手伝った炊き出しのような作業であればそれなりにこなせるが、つまり料理は出来ても、その材料となる食物を作ることは彼女には出来ないのだ。

 

アンデッド故、不眠不休の肉体労働――物資を運ぶなどの単純作業に限るが――であれば、いくらでも買って出るつもりではいるが、その程度だろう。

 

また、怪我人や病人が出た場合も問題だ。

至高の御方より授かった回復アイテムにも限りがある為、そうそうポンポンと使うわけにはいかない。

 

ユリの就くモンク職に、気功を用いた回復手段があるが、アンデッドであるユリがそれを使った場合、その効果は全く真逆の、生気を貪る負のエネルギーになってしまうのだ。

その為、回復には使えない。

 

そもそもがユリの職業構成自体が、魔法的手段以外でのアンデッド種族の体力回復に使えるのではないかという実験的な意味合いもあってのビルドだったわけだが、ユリ自身は知る由も無いこと。

 

ユリは再び溜息を吐く。

己は何と無力な存在なのだろう。

マーレのような森司祭の力を持つ者であれば、きっとこの状況で無類の力を発揮したことだろう。

そしてペストーニャであれば怪我や病気の治癒だけではない、死者の復活さえも容易く行えた筈だ。

 

両親の遺体を前に、泣き崩れるエモット姉妹の姿は、未だユリの心に棘となって残ったままだ。

 

あの時、助けると約束しておきながら、果たすことができなかった。

自分のような半端者が一時の感情に流され、気まぐれで手を出した結果がこれだ。誰かを救ってやろうなどと、考える事自体がおこがましかったのかもしれない。

 

――ならば見捨てるべきだった?

 

答えの出ない煩悶は、しかし、ドスの利いた声によって遮られる。

 

「――さて、先ずは最初の質問だ。名を聞こう。」

 

大振りのナイフ・・・というよりも鉈と言った方が近いだろうそれを片手で弄びつつ、騎士達に向かって切っ先を突きつける男。

 

男の名はラッチモン。

村で唯一の野伏(レンジャー)の技術を持つ、狩人だという。

年の程は村長と同じくらいに思えるが、村長と比べて引き締まった体躯は未だ精悍さを感じさせる。先の襲撃に際しても、完全装備の騎士の一人と互角に渡り合った程らしい。

 

そんな男が刃物をちらつかせている上に、自らは抵抗さえままならない状態なのだ。

先程までは蹂躙する側だった彼らだが、今や立場は完全に逆転していた。

猿轡をされている男は涙目でフガフガと何事か訴えながら、ナイフから逃れるように必死に身をよじる。

一方、もう一人はなお微動だにしない。それどころか、無様を晒す上司を軽蔑混じりに睨みつけてさえいる。

 

「お前等が着ていた鎧にあるのは、ありゃ帝国の紋章だな。つまり、お前等は帝国の騎士ってことか?」

 

――帝国。

これもまたユリにとっての懸念材料だった。

これまでナザリック地下墳墓どころか、九階層から出ることさえ稀だったユリにとって、外の世界は全くの未知の領域。

外の様子を窺い知る機会も無ければ、どんな国、あるいは組織があるのかさえ、ほとんど知らないままにこれまで過ごしてきた。

 

唯一外との接点があったのは、かの大侵攻の折。

1500人から成るならず者達によるナザリック地下墳墓への襲撃は第七階層まで及び、至高の御方のお住まいたる聖域・第九階層の一歩手前、第八階層でようやく殲滅に成功した、ナザリック史上最大の危機であった。

 

迫り来る外敵を前に、御方の盾となる機会を得られるかもしれない喜びに、微かな興奮を覚えたものだ。

幸か不幸か、その機会はついに巡ってくることは無かったのだが。

 

さすがにヘルヘイムやグランベラ沼地といった、ナザリックに関わりの深い地名程度は把握しているが。

情報収集の名目で捕えたはいいものの、ユリの判断はあくまで教科書的なそれ。そして折りよく情報を引き出し得たとして、知識が無い彼女では、それを活用することさえままならない。

 

果たしてこの場にいる必要があるのかさえ不明だが、さて、どうしたものか。

ラッチモンの尋問は続く。

 

「だんまりか・・・・・・。それとも、単なる脅しだと買い被っているのか?あれだけ村の、仲間達を殺されて、俺達が黙っているとでも思うかっ!?」

 

怒りの感情に任せて投げつけられたナイフが、見事なコントロールで騎士達を掠め、背後の壁に音を立てて突き刺さる。

 

「ヴーーーーーーッ!ウヴォーーーーーーーッ!!」

 

その時だった。

最早恐怖も限界を超え(オーバーロード)たのだろう。

くぐもった叫び声を上げる猿轡の騎士の下半身から、某かが勢いよく放たれ、ショワショワと立ち上る湯気と、黒い染みが床に広がっていく。

そればかりか、どうにか縄から逃れようと必死の抵抗を見せるのだが、当然そう易々と解けるはずもなく、いたずらに全身をくねらせる動作によって、黄金の飛沫が、未曾有の災禍となってあたり一面に降り注いだのだ。

 

 

 

 

「「「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」」」

 

 

 

 

黄金色の雫がキラキラと光を反射する様はいっそ幻想的ですらあるはずもなく、村長も、ラッチモンもユリも、めいめいが部屋の隅へと退避、とばっちりから逃れようとする。

 

最悪だったのは、隣で縛られている男。

何しろ身を捩る以外に避ける術がないのだ。

 

「あはえ!おはえあえあーーー!!」

「べ、ベリュース隊長!!落ち着いて下さい!!」

 

ともすればナイフを突き付けられていた時よりも狼狽しているように見えるが、無理もないことだろう。全身を汚物にまみれさせながらも懸命に宥めようと努めるが、焼け石に水とは正にこの事。

 

(どうすんの、コレ?)

 

先程までの緊迫した雰囲気は霧散し、漂うのは名状し難い疲労感と、鼻が曲がるようなアンモニアの香り。

げんなりとした表情で、互いに顔を見合わせる村長とラッチモン。鳥を〆るようなジェスチャーを振られた村長は、思案げに腕組みをし、そして助けを求めるように視線はユリへ。

 

(そこで私に振るのね・・・・・・)

 

ユリは、初めてこの村に関わったことを心底から後悔した。

三度目の長い溜息の後、ユリは肩を竦めると、騎士に向かって歩を進める。

どういう理屈か、不規則に飛び交う飛沫の一滴とてその身に浴びることなく、見事な体捌きで瞬時に距離を詰めたユリが、猿轡の騎士の額に手を当てると、延々続くと思われた狂乱状態がピタリと止み――

 

強く押したわけでもないのに、騎士の頭が大きく後ろに揺らぎ、振り子のように戻って来る。

その時には騎士の目は、焦点の合わない、酔ったような瞳へと変わっていた。

 

猿轡を外す間も、取り乱す様子は皆無。

――特殊技術(スキル)傀儡掌(くぐつしょう)>。実際に使うのはこれが初めてだが、上手く発動したようだ。

 

 

「落ち着きましたか?」

「・・・・・・あぁ」

「それは何よりです。では、これからあちらの皆さんが貴方にいくつか質問をします。包み隠すことなく、正直に答えて下さい。いいですね?」

「・・・・・・分かりました」

 

「べ、ベリュース隊長?」

その180度どころでない豹変振りに、ユリを除く全員が瞠目していた。

 

「い、一体、何をしたので?」

「ちょっとした、手品のようなものです」

「精神支配・・・<魅了(チャーム)>?アンタ、ひょっとして魔法詠唱者だったのか?」

「いいえ。単に腕に自信のあるだけのメイドに過ぎません」

 

訝しげな視線を受けたまま、ユリは静かに微笑みながら立ち上がると、

「では、この場はお任せしても?汚れを拭く布がないか、探してきます」

 

 

 

全身にまとわりつく臭気を払うと、肺に溜まった淀んだ空気を全て吐き出すように、ユリは深呼吸をする。

といっても、彼女はアンデッド。真似事に過ぎないのだが、そういう気分にもなろうというものだ。

 

おもむろにアイテムを起動する。

――しばらく耳を傾けるが、やはり反応は無い。

微かな失望を覚えつつ、この、一本の糸がまさぐるような感覚の後、何物も捉えることなく掻き消えていく様子は、どうにも慣れることが出来ない。

まるで大海の中、一人放り出されたような孤独。アイテムを起動する度に、それが最早事実であると、より強く突き付けられるようで・・・・・・。

 

自らの創造主・やまいこが姿を見せなくなった時も、こんな気持ちになったことを思い出す。

 

一日とて、かの御方のことを想わなかった日は無かった。

何故、ある日を境にやまいこ様は御姿を現さなくなってしまわれたのだろう?自分に、何か到らぬ点があったからだろうか?

あるいはモモンガ様であれば、同じ至高の御方であれば、何かご存知かもしれない。

しかし、至高の御方に直接お伺いを立てるなど、そのような不敬が許されるはずもない。

 

課せられた使命を果たす以外にユリには・・・・・・ユリだけではない、全てのNPC達に出来ることは無かった。

ただひたすら、日々の勤めに没頭し、いつかの再来を待ち焦がれた。

そんな一日千秋の日々を、辛くとも乗り越えられたのは、偏に妹達を始め、同じ境遇にある仲間達がいたからに他ならない。

 

それぞれに想う所を抱えながら、互いに務めを果たすことで、不平不満を、あるいは寂しさを、表に出さずとも励まし合ってきた。

最後に残られた至高の御方であらせられるモモンガ様に奉仕することが自分達の存在意義であり、モモンガ様だけが他の至高の御方々と自分達とを繋ぐ一縷の希望と信じて。

 

いつかまた、あの輝かしい日々をもう一度・・・・・・。

それだけを信じ、これまでやって来たというのに。

 

ユリは溜息を吐く。

どうにも癖になってしまっているようでいけない。

ともかく、今は目の前のことだけを考えよう。そう思い直し、行動を開始しようとしたタイミングで、背後の扉が開く音がした。

振り返れば、そこには村長の姿。

 

「何か、目ぼしい情報が掴めましたか?」

「そ、それが・・・・・・」

「?」

 

村長の様子がおかしい。何かを言いあぐねているような、そんな雰囲気だ。

何を?トラブルでもあったのだろうか?傀儡掌の効果が切れた?しかし、実地で使用するのは初めてだが、把握する限りでは効果が切れるにはまだ早過ぎる。

しかしながら、察するに朗報ではあるまい。そうであるならば、このような態度は取らないだろうから。では一体何が起こったというのか?

あまりよろしくない類の、ありとあらゆる想像が瞬時にユリの脳裏を駆け巡る。

 

しかし、やがて村長の口から告げられたのは、そんなユリの想定の範疇には無い、起こり得るはずのない最悪の事態だった。

 

 

「それが、先程ユリさんが精神支配をした男なのですが、今しがた・・・・・・」

 

「―――死んだ?」

 




BUZAMA担当、べりゅーす隊長!大ハッスル!!
放尿は、オバロ世界における様式美です(すみません)

それはさて置き、2期第1話良かったですね。
総集編的といいましょうか、幕間フィーバーというか、ファンサービス回なノリに、終始ニヤニヤしながら観てましたよ。
丸山先生のメッセージも良かったですね。

個人的にはリグリットが素敵。
搾られたいなどと不覚にも。

魔法戦士リウイのジェニおばさんとか大好きでしてね。
カッコイイBBAは最高ですね。


話は変わりますが、
拙作に感想コメント下さる方、どうもありがとうございます。
個別に返信はしませんが、テンション舞い上がったり凹んだり参考にさせて貰ったり、恐々としつつも、良くも悪くも励みにさせて頂いております。
なんかすみません。

ところでユリ姉さんがポーションを持っていた件について、2件ほど疑問のコメントを頂戴しております。
そんなに気になるところかしらと個人的な思惑を述べさせてもらえれば、モモンガさんだって持ってたんですよ?
拘りさんの多いAOG面子であれば、ロールプレイの一環で、自前のNPCに、様々な状況を想定した各種アイテムを持たせるくらいはしてるんじゃないでしょうか。
特にプレアデスはチーム戦を想定して造られている節がありますし、自分には使わないアイテムを所持していても何ら!

その程度の理屈です。

やり過ぎるとキャラ性能的にも縛りの多いユリの良さ?が失われてしまうかもしれないので、そこら辺は上手いことバランスを取りつつ、出来る限り安易な解決には逃げないようにしたいものですが。

捏造に近い、極端な独自設定/解釈については、その旨注釈を付けるべきでした。
すみません。
今回に関していえば、負のエネルギー云々のくだりは完全にでっち上げです。
アンデッドって気とか使えるのかしら?というのが、そもそもポーションに逃げた理由で(っあ)

それとベリュース隊長がお隠れになった理由は、原作での陽光聖典のそれと同じです。
同じといっても、原作でも明確にはされておりませんので、何かしらイニシエーション的なナニに見せかけた仕込みをされているのかもしれない、という妄想に過ぎないのですが。ザレム人的な。
仮にそうだとして、末端まで徹底されているかは意見の分かれるところでしょうか。

という具合に、
大概において深い意味は無い場合がほとんどで当人にも大した拘りがない場合もすが、作中疑問に思われた箇所があればお気軽に。もちろん、作中描写でフォローするのがベストなのは分かっております。
頑張ります。

それではまた次回。

肝油でした。
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