ゆるユリ   作:肝油

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《ユリ、村の葬儀に立ち会う》

村外れの共同墓地で葬儀が始まった。

村長が代表して聞いた事のない神の名を告げ、冥福を祈っている。

 

死者を弔う儀式・・・・・・知識だけはあったが、実際に目にするのはこれが初めてのこと。

最後方に参列しつつ、不謹慎とは知りながら、つい好奇心のそれが勝って辺りを見回してしまう。

 

村人たちが順番に冥福を捧げる中、とりわけユリの目を引いたのは、文字だ。

 

恐らくは墓標であろう、ポツポツと並ぶ簡素な墓石に刻まれた死者の銘。

そのいずれもが、ユリの知識の中に無い文字ばかりだったのだ。

少なくとも、ナザリックで使われているものでは断じてない。

 

これまで深く考えたことはなかったが、世界には様々な種類の文字が存在し、ナザリックで使われていた文字も、そんな中の一つに過ぎず、必ずしも外の世界で一般的に普及している文字とは限らないということだろうか。

 

ならば、ナザリックで使われているものと同じ、あるいは似た文字を用いる国や地域が、ここではない何処かにあるのかもしれない。

その文字を追うことが、ナザリックの在り処を探るヒントになるのでは?

後で、そういった事柄に詳しい者がいないか、話を訊いてみようか。

 

今後の行動方針の一つとして心のメモ帳に書き留めつつ、どうしても気になったもう一点について、ユリは隣にいる男――ラッチモンに問いかける。

 

「何故、復活を為さらないのですか?」

 

彼女がこれまで過ごしていたナザリック地下大墳墓は、アンデッドであるユリを含め、仕えるNPCもシモベも、一部の例外を除いて異形種の集まりであり、寿命がない、あるいは長寿の種族ばかり。

その要が無いばかりか、仮に死亡したとしても復活を施されるのが当たり前だ。

 

だからこそ、死を悼む行為それ自体が、どうしても不可解なものに感じられてしまう。

 

死んだのであれば復活を行えばいい。

よしんば復活の魔法を行使できる者が今この場にいないとしても、伝を頼るなり、依頼するなり。いずれにせよ、いつかの機会に備えて、死体は可能な限り保存しておく方が良いのではないだろうか?と。

言葉は悪いが、手を尽くさずに見殺しにするのは、余りに薄情ではないかと思ったのだ。

 

どうしても拭えぬ疑問を、隣にいるラッチモンに小声で訊ねたのだが、そんなユリの、本気とも冗談ともつかない質問に怪訝な顔をしつつ、ラッチモンは皮肉交じりに応える。

 

「仮にそれが可能だったとして、一体幾らの金を請求されるかねぇ」

「それは・・・そうですね」

 

失念していた。確かにその通りだ。

復活には、その触媒としてレベルに比例した額の金貨が必要になる。

件の大侵攻の折にも、死亡したNPC達の復活に、莫大な金貨が消費されたのをユリは覚えている。

至高の御方の御手によって、一人、また一人と復活を遂げていく、守護者をはじめとするNPC達の様子を見守りながら、最期の瞬間まで至高の御方々の盾となり、その使命を全うした彼らに、羨望の念を抱いたものだ。

 

復活に際して触媒となる金貨の必要量は、復活対象のレベルに比例する。

例えば100レベルの階層守護者クラスともなれば数億単位にも上るが、村人たち程度であれば然したる額にはなるまい。

 

しかしながら、それはあくまでもユリの――ナザリックの基準に過ぎないのかもしれない。

きっとこの村の者たちにとっては、一人分とて容易に揃えられる額ではないのだろう。

それが故の苦渋の決断であったかもしれないのに。

 

「申し訳ありません。浅慮でした」

「いや、別に謝ってもらう必要はないんだが・・・実際そこが、この村の泣き所でもあるわけだしな。復活・・・は、まぁ置いておくとして、神官に掛かるさえも難儀する懐事情じゃ、おいそれと病気もできやしねぇ。その辺は、この村に限った話じゃないんだろうが」

「?・・・・・・そういった治療行為にも金貨が必要なのですか?」

「そりゃそうさ。連中だって慈善でやってんじゃねぇんだ。取るもん取らなきゃ食っていけねぇって理屈を、納得できるできないは別にしてな」

 

ナザリックにおいて、大概のバッドステータスは魔法で解消できるし、その都度金貨を消費するという話は聞かない。外には外なりのやり方があるということだろうか。

ポーションは普通に機能したことを考えると、アイテムの類であれば単独で問題なく発動するようだが、さすがに金貨の持ち合わせまではない。

文字の件もそうだが、これまで培った常識が必ずしも通じないというのは、行動が制約されるという意味で非常に厄介だ。

 

「ただ、森に自生する薬草で賄える分、他所よりは恵まれてる方なんだろうな。危険なモンスターのナワバリと隣り合わせって意味では、五十歩百歩だが」

「モンスター?」

「"森の賢王"。聞いたことねぇか?まぁ、俺も実物を拝んだことはないんだが。トブの大森林に昔からいるとされる強大な魔獣で、ここいらはヤツのナワバリらしくてな。他のモンスターも余り近寄らねぇのさ。だからこそ、普通であれば危険とされる森の側なんて立地で、これまで平穏にやって来られたところもあるんだがな、この村は」

「森の賢王、ですか・・・・・・」

 

そのような二つ名を冠するからには、叡智を湛えた立派な魔獣に違いない。

第六階層の守護者アウラの従える神獣フェンリルのような姿を想像しつつ、あるいはその魔獣であれば、文字のことやこの辺りの歴史事情を詳しく知っているのではないか。

是非、話を聞いてみたいところだが、意思の疎通が可能なのかということと、何より自分を越える強さを持った個だった場合、藪蛇にならないとも限らない。

村を巻き込むのは本意ではないので、慎重に行動する必要があるだろう。

それ以前に――

 

(あの広大な森の中から一体のモンスターを捜すとなると、難しいかしら?)

 

とはいえ、時間だけは腐るほどあるのだ。

こちらも今後の予定に組み込んでおこう。

 

再び心のメモ帳に書き留めていたタイミングで、エモット姉妹が前に進み出るのが見えた。

 

 

 

 

2人は、先程から村人たちがそうしていたように、両親の墓前に跪くと、胸の前で両手を組み、静かに頭を垂れた。

 

未だヒクヒクとしゃくり上げる妹。

姉の背中は小刻みに震えている。

 

ユリは、両親の遺体と対面した時の姉妹の様子を思い出す。

その時と比べれば、いくらか落ち着いたようにも見えるが、そう簡単に切り替えられるものでもあるまい。

特にエンリだ。彼女は相当無理をしている筈。

 

突然の襲撃。エンリに到っては、自身も深い手傷を負わされた。

まだ年端もいかない娘にとって、それだけでも心的負担は相当なもの。

 

そこへ追い討ちをかけるような両親の死。

こうして、形式的な所作をなぞれるだけでも立派なものだ。

幼い妹の手前という、姉としての責任感が、ギリギリのところで彼女を支えているのだろう。

心掛けは立派だが、彼女自身、まだ幼いといっていい年頃だ。もっと自分の感情に素直になってもいいだろうに・・・・・・。

 

あの時、姉妹の願いを聞き入れながら、約束は果たせなかった。

単純に手遅れだったのだが、この村の、復活に関する特殊な事情を思えば、なおのこと罪悪感が募る。自分が安請け合いをしたばかりに希望を抱かせてしまった。

それだけに、姉妹の失望は如何許りか。

 

例えば仮に、自分に復活の魔法を行使する力があったなら、この姉妹の両親を蘇らせただろうか?

 

適うことならば、すぐにでもそうしてやりたい。

――というより、恐らくだがそれは可能だと、ユリは思っている。

 

アイテムボックスの奥底に眠る、あのアイテムを使えば――

 

しかし、それは本当に正しいことなのか?

村の事情を知った今、復活という"現象"それ自体が、あるいは奇跡に等しい御業だという認識が一般的であるこの場において、安易にその力を披露すれば、一体どのような結末が待つかは想像に難くない。

 

一体何故、この姉妹だけが――そういう不満は、確実に生じるだろう。

 

ユリは思う。

こうして外の世界の事情に触れるにつけ、ナザリック地下大墳墓が、至高の御方の下、どれだけ完璧なバランスで成り立っていたかということを痛感する。

 

そして、気付く。

ナザリックの守り手として、至高の御方にお仕えする盾として創造された自分たちではあったが、実のところ、守られてもいたのではないかということに。

 

彼の地で暮らす中で、このようなもどかしさを、不便を感じたことなど一度とて無かった。

強いて挙げるとすれば、至高の御方の盾となって死ぬ機会を得られずじまいだったこと。そして、姿を現さなくなった創造主の再び降臨される時を、ただ待ち続けるしか出来なかった不満はあるにせよ。

 

潤沢なマジックアイテム。頼もしい同僚たち。愛すべき姉妹たち。そして、敬愛する創造主方々。

当たり前だと思っていた。全てが与えられていた環境が、どれほどに恵まれていたことであったか。

翻って、そんな箱庭から一人放り出された現状に、今度こそ本当に、完全に見捨てられたのではないかという可能性に至り、ユリは愕然とする。

 

言い知れぬ不安と孤独に苛まれながら、それを振り払うかのように、身の上に起こった出来事の意味するところを必死に考える。

 

これは偶発的な事故なのか。

あるいは、至高の御方がそうあれと望まれた必然なのか。

 

ユリにとっては、後者の方が可能性があるように思われた。

何故なら至高の御方は、彼らNPCにとっては神に等しい存在。全ての事象は、その見えざる手の意のままに。

であるならば、この状況は、むしろその御意志によって意図的に引き起こされたと考える方が納得がいく。

 

では一体その狙いはどこにあるのか?

望まれた?何を?

 

その時、泣き叫ぶ子供の声で、ユリの思考は遮られる。

声のする方を見れば、そこにはエモット姉妹の姿。

土をかけられ、埋まっていく両親の姿に堪えきれなくなったのだろう、墓穴に駆け寄り、それを止めようとする妹を、エンリが必死に宥めていた。

 

「お父さん、お母さん!やだぁ!!」

「ダメよ、ネム!」

「お姉ちゃん、離して!!お母さん達が!!」

「いい子にして!ちゃんと見送ってあげないと、お父さんもお母さんも安心して眠れないでしょう!」

「やだー!!!」

 

幼子の居た堪れない姿に、周囲から嗚咽が漏れる。

土をかけていた村人も、スコップを持ったまま、困ったように顔を見合わせるしかできない。

傍らでは、ラッチモンが僅かに顔を伏せる。

ユリもまた、掛ける言葉が見つからなかった。

 

「ネム、聞いて。いくら泣いたって、もうお父さんたちは帰って来ないの。これからは私たちだけで生きていかなきゃいけないの。強くならなきゃいけないの!」

「だったら、わたしもお母さんたちのところに行く!一緒にいたい!」

「馬鹿ッ!!それじゃ…お父さんもお母さんも、何の為に死んでいったか分からないじゃないっ!!!」

 

――何の為に・・・・・・。

 

エモット姉妹の両親は、何を思い、その身を挺して彼女たちを守ったのか。

考えるまでもないことだ。親として、我が子の幸せを願ったのに違いない。

 

自分が置かれた今のこの状況も、そうだというのだろうか?至高の御方々は、私たちの幸せを願って?

では、彼の方々が望まれた幸せとは何なのだろう?

いや…

 

"私の望む"幸せとは何だろう?

 

ナザリックに属する者であれば、誰もが口を揃えてこう答えるだろう。

"それは、至高の御方に全てを捧げ、お仕えすることだ"と。

 

では、仕えるべき主を、守るべき場所を失った今、私が望む幸せとは――・・・・・・

 

 

 

いくら考えても、答えは出なかった。

 

 

 




奥底に眠るアイテムって何だろうね!(白々しい)


寒い日が続きますが、こういう時は冷気耐性持ちのアンデッドが羨ましくなりますね。
夏場については、余り考えない方向で。

さて置き、二期第3話。
相変わらずOPかっこいい。
イグヴァ戦は、ゼンベルにしろクルシュにしろロロロにしろの見せ場でしたが、尺の短さが悔やまれますよ。というか蟹の出番が・・・・・・

次回はコキュ反省会と魔王軍お披露目イベントでしょうか。
個人的には、ベッドダイブに期待したい。
是非、滞空時間に無駄に尺を割いて欲しい!



というわけで、最新話もお付き合い頂き、ありがとうございました。
また次回、お会いしましょう。
肝油でした。
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