Central・Continent   作:ハンドボーラー

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ララリアの夜~ナユカ~

 八冊の観光本をすべてルネアに押し付け、広場に走るナユカ。広場は騒がしく、ルネアならば嫌がるだろうが、ナユカはこれぐらい騒がしいのが好きだ。

 広場に着くと、そこには酔っぱらいや子供連れの家族が大勢いた。なかには酔っぱらいの男たちが、笑いながら殴りあいの喧嘩をしている。理由は酒を奪って呑んだかららしいが、その後も奪い合って、どちらがどれだけ奪ったのか判らなくなるほど奪い合ったらしい。

 それでこの状況になっているらしいが――最終的にはお互いの肩を寄せあい、片手に持つ酒瓶をらっぱ飲みした。

 この光景に周囲の人々は拍手を送り、なかには口笛を吹く者もいた。

 

「さあさあ、喧嘩が一段落したところで、ヴォラを続けるとしましょう! そこの見慣れない顔の嬢ちゃん、こちらに来てくれるかな?」

 

 不意に大声で司会者が場を仕切り、広場の人々は再び沸き立って、今度は一斉にナユカを見る。ナユカは周囲をキョロキョロと見てから、自分を指差す。

 

「わたし……ですか?」

「そう、キミだよキミ。さあ、上がっておいで」

 

 司会者は手招きをし、笑顔で答えた。ナユカは人々が開けてくれた道を歩き、階段を上ってステージに立つ。

 ステージから見える人々の顔はさまざまで、顔が真っ赤な先ほどの酔っぱらいの男たちも見える。ナユカは心の中で感嘆し、ラッシャー村に戻ったらこういう祭りを始めるのもいいなーと思った。

 

「名前は?」

 

 司会者が質問すると、人々は一斉に静まって聞き耳を立てる。

 

「ナユカです!」

「どこから来たのか、教えてくれますか?」

 

 再度の質問に、ナユカは笑顔で答える。

 

「ラッシャー村です! 一緒に育った親友あるいは家族の人と一緒に、アルケミストになるために村を出ました」

 

 おぉー、と人々が感嘆の声を漏らし、司会者は口を開く。

 

「では、その人とこの辺りの人々に向けて抱負を大声で叫んでくれますか?」

「はい!」

 

 元気よく、はっきりと答えて、ナユカは大きく息を吸う。

 

「わたしの名前はナユカ! アルケミストになる人です!」

 

 これを聞いたルネアが心の中で突っ込みを入れ、窓を強めに閉めたことをナユカは知らない。

 おおー!! と人々が歓声を上げ、手をバチバチと叩いた。

 ナユカは非常に社交的な性格をしている。狩りの時はルネアと違って、連携を取り合って大物を狙う方法が得意だ。ルネアは一人もしくは二人の少人数で、鳥などの獣を狩るのが得意だ。村では晴れの日はいつも誰かと遊び、門限ギリギリに帰ってくる。

 祭りでは積極的に準備を手伝い、役目は買って出てきた。

 

「魔法は何ですか?」

 

 司会者は笑顔で質問をし、ナユカに聞く。

 

「炎……です。それで花火を作ることもできます!」

 

 また人々が沸き立つ。

 ――ララリアの人たちって、わたし並みにテンションが高いのかな? いや、それともただ単に酔っているだけかな? と思い、気づかれない程度に苦笑する。

 ――と、不意にどこからか、ある声が聞こえてくる。

 

「なら、その花火を見せてくんれ! おりゃあ、毎日の祭りに何かたんねぇと思ってたんだよ!」

 

 その声を皮切に、あちらこちらから同じ意見の声が聞こえてくる。

 

「そっだそっだぁ! 確かにあたしも足んねぇと思ってたぁ!」「見せてくりゃあ! おいりゃも見てえ!」「花火わたしも見たい!」

 

 ララリア訛りの声がたくさん聞こえ、ナユカは頷いて、ラッシャー村の言葉――ラッシャー語で答える。

 

「フムジャール!」

 ――了解!

 

 ラッシャー語は普段の生活で使われることがない。しかし狩りの時は常に使われ、獲物の位置を報せる時などに使われる。右に行った、はグルッカヴ。左に行った、はナイーハズル。一斉射撃、はチャーブナ。危険を報せる時はヨクシャル。撤退、はグーフ。

 ラッシャー語のみで生活しようと思えばできないこともないほど、たくさんの言葉がある。

 なぜ使われ始めたのかは不明だが、国が興る前に使われていた、その辺りの言葉という説がある。なぜ残されたのかは知らないが。

 ナユカは全身の血が熱くたぎっていくのを感じ、それを手のひらから放出させ、頭上の空間にその熱を凝縮させるイメージで行う。

 

「いきますよ~、三、二、一、ポン!」

 

 ポン! と言った割にはポンに似つかわしくないほどの大爆発音が響いた。

 空にきれいな火薬いらずの花火が咲き、人々が大歓声を上げる。ここでナユカは調子に乗り、続いての花火の準備をする。さらに熱くたぎっていく体内の血は、ナユカの感情を高ぶらせる。

 不敵に笑い、指をパチンと鳴らして口を開く。

 

「続けて~、ポン! ポン! さらにポン!」

 

 三回連続で大爆発音が響き、さらにさらに鳴り響いて広場はさらにお祭り騒ぎになる。

 

「ヴォラを踊りましょう! さあ皆さん、立って立って!」

 

 座っていた者は立ち上がり、演奏者たちは音楽を奏で始める。リズミカルな太鼓の音楽が辺りに流れ、歌手は歌い始めた。

 ナユカの隣に立つ司会者が動きでナユカに、ヴォラの躍りかたを教えてくれる。ナユカは教え通りに、半分ノリで踊る。

 踊っているあいだナユカは器用に、花火を作って、空にたくさん開花させた。体内の魔力はすでに一割ほど使ってしまっているが、今からは魔力を節約するつもりなので、三時間ほどは打ちっぱなしでも平気だろう。

 ボンッと無意識のうちに炎を纏う。しかし衣服は燃えず、ナユカも人々も炎を気にすることもない。

 情熱的な踊りと、情熱的な音楽。情熱的な歌が見事に合わさり、情熱的な空間を生み出している。

 ああ、楽しい。なんて楽しいんだろう! とナユカは呟き、より一層炎が大きく燃える。

 燃ゆる炎は夜闇を照らし、響く花火は人々を熱狂させ、それらはナユカの魔力が底を尽きるまで一秒も止まることなく続いた。

 

「ルローオウ!」

 ――楽しい!

 

 ナユカは知らない。ルネアが花火のせいで眠れないことを。

 

「ララリアの夜よ、永遠に続け~、情熱の夜を~~!」

 

 歌手は知らない。ルネアにとっては不眠の原因になっていることを。

 ナユカーーその名のラッシャー語での意味は情熱。

 

「ナユカボンシーヤ、デルゴナ!」

 ――情熱の夜よ、続け!

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