神々が《清めの雲》に突入すると同時に、人間界では立て続けに異変が起こっていた。
人間たちは知らない、《グルーフォン》からの使者だと言う魔族によって起こされた災厄。災厄はあらゆる国の人々を殺した。人間は抵抗する術を持たず、無抵抗に殺され続けた。世界中の誰もが諦め、世界中の誰もが希望を見失ったその時ーー颯爽と現れたのはアーリィだった。伝記ではアーリィもまた被害者で、災厄に村を壊滅させられ、家族も親友も殺されたらしい。その魔の手がアーリィに伸びた時、体の奥底から今までにないほど力が湧き出てきたそうだ。その力は光となり、災厄を倒した。
アーリィは災厄を滅ぼせるほどの力があることを知り、これ以上悲しむ人が増えないように世界中に現れ続ける災厄を滅ぼすことに尽力した。人々はその姿を見て、アーリィのことを《光の女王》と呼んだ。なぜならーーアーリィは王を亡くした国の新しい王となり、新しい国を興したからだ。その国の名前はーー《アーリスト帝国》。
***
「光の女王は異変に対峙し、魔法を繰り出します。『これで終わりよ。《ライトニング・スパーク》!』魔法は異変に直撃し、異変は倒れました」
つぎはぎだらけのぼろぼろのソファーで、シスターと三人の子供が伝記を読んでいる。三人の子供はニコニコ顔でおとなしく聞いているが、不意に手を挙げる者がいた。
「ねえシスター、今はみんなが魔法を使えるよね? どうして?」
そう聞いたのはペールブルーの髪を持つ少女だ。ところどころにエメラルドグリーンの色が混ざっていて、宝石のような色合いをした髪をしている。眼は髪とほぼ同じ色だ。
少女は普段あまり感情を表に出さない子だが、特定の人物たちーー同じ教会の人に対しては感情を表に出す。
「ねえ、どうしてどうしてー?」
少女に続くように聞いたのは、栗色の髪を持つ少女だ。燃えるような赤い瞳は、無邪気な光を讃えている。髪型は先ほどの少女と同じで、肩辺りに切った髪の一部を三つ編みにして、その三つ編みを後ろに束ねている。
「それはね、アーリィが世界を光で満たしたからよ」
「どーいうことー?」
先ほどの少女たちよりも幼い少年が、舌足らずな口調で尋ねる。その質問にシスターは微笑んで答える。
「アーリィはね、魔法を世界中の誰もが使えるようにしたのよ。今は魔力の強い人とか弱い人がいるけど、最初はみんな同じ強さの魔力だったらしいのよ」
私は弱い方だけどね。とシスターは呟くと、手のひらからそよ風程度の弱い風を発生させた。しかしそれは数秒と持たず、すぐにピタリと止んでしまう。
「私はあなたたちに、魔力が強い人間でいろとは思わない。ただーー心が強い人間であってほしいと思っているわ。泣き虫になるなってことじゃなくてね、えーっと、まあ、答えは自分で見つけたほうがいいわね」
シスターは困ったように笑いながら、言葉を続ける。
「ルネア、あなたはもう少し他の人と仲良くしなさい」
優しい声でルネアと呼ばれた、他人の前では感情を表に出さない少女の頭を撫でる。ルネアはむくれ顔で、考えとく、と無愛想に言うと、シスターは頷いて、栗色の髪を持つ少女の頭を撫でる。
「ナユカはその笑顔を絶やさずにね。泣いてもいいけど、そのあとは笑ってほしいな」
「うん! シスターもね!」
その言葉にシスターは微笑み、頷いた。続けてルネアたちよりも三つばかり幼い、五歳の少年の頭を撫でる。
「ハスはナユカのように元気に、よく笑う子に育ってほしいな誰かさんみたいに無愛想な子になったらダメよ」
――誰かさんって私のことを言ってるの!?
「うん、ルネ姉みたいにはならないよ」
――ハスははっきり言わなくていい!
快活な笑顔で返したハスと、その言葉に頷いたシスターを軽くルネアは睨んだ。ナユカも「ホントのことでしょ?」と言ってくるので、ルネアはナユカを一睨みして小突く。
「あー! やったなー!」
ナユカはにやりと笑い、ルネアの脇腹をくすぐりにかかる。
「苦しめ苦しめー!」
いつの間にか意地の悪い顔になっているナユカは、ルネアを倒してくすぐりやすい姿勢になる。ルネアは足をジタバタさせ、大笑いして笑い泣きをする。手はナユカの手を払い除けようとしているが、全く効果がない。
「こらこら、そこで揉めない!」
シスターのからのお叱りが飛んできたので、ナユカはやむなく中断する。ルネアは息を荒くして、「助かった……」と呟いて起き上がった。
シスターは深くため息をつき、困ったように微笑んで口を開く。
「それじゃあ、続きを読みましょうか」
今は誰もが魔法を使える世界ですが、魔法の始まりはアーリィです。アーリスト帝国の民はみんな、アーリィを神格化しています。災厄が現れてから千年後の帝国では、軍神アーリィと呼ばれ、崇められていますーー。