Central・Continent   作:ハンドボーラー

3 / 22
クリスマスを絡めたPrologueです。
次話からようやく本編に入ります。
感想・批評をよろしくお願いします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
十二月二十七日、大修正をしました。


Prologue3

「ねえねえシスター、何してるの?」

 

 シスターが重い箱を物置部屋から出している時に話しかけてきたのは、いつも笑顔のナユカだ。隣にはいつも一緒にいる相棒的存在のルネアがシスターを、ナユカとは違って不思議がっている表情で見つめている。

 

「今日は何の日か判る?」

 

 シスターは微笑んで、二人の幼い少女たちに質問をする。二人の反応は違ったが、同時に同じことを口にした。

 

「聖夜……」

「聖夜!」

 

 元気に答えたのはナユカで、小さな声で答えたのはルネアだ。二人の表情は答えると同時に笑顔になり、ナユカは飛び跳ねる。

 

「そう、今日は聖夜ね。普段はラッシャーイモばかり食べてるけど、今日は教会のみんながお腹いっぱいになれるぐらいの肉を用意するつもりなのよ。ちょうど今、神父さんが狩りの道具を持って、森のなかを走り回っている頃だと思うわ」

 

 これは神父だけではなく、このラッシャー村全体が狩りを行っている。ラッシャー村は、今は数少ない狩猟民族の村で、狩りの仕方も銃には頼らない狩猟方法だ。罠は木やツタを使い、仕留める時はナイフや槍、飛び道具を使う。

 ルネアとナユカは狩りをしたことがないが、近々大人と一緒にする予定になっている。シスターは農家の三女として生まれたので、今は教会で働いているが、子供の時はいつも畑を耕していた。だからシスターは狩りをしたことがないが、この村で生きていくためには狩りを覚えるか、畑をずっと耕すかしかない。

 教会が孤児たちを養えるのは、実は神父の努力あってのことだ。神父でありながら、凄腕の猟師である彼なくしては、教会はすでに孤児たちを養えていないだろう。

 走り去って行く二人を見ながら、シスターは箱を持ち上げて準備に取り掛かる。

 

 外に出てみると、教会で引き取っている子供たちが走り回ったり、ボールで遊んだりしている。壁際では女子たちが会話の花を咲かせている。どうやら聖夜に関する話のようだ。

 花畑では女子たちが花冠を作りあっている。そこにはルネアとナユカもいて、ルネアは読書を、その隣でナユカは花冠を唸りながら作っている。花冠の形はかなり崩れていて、少しでも衝撃を加えればすぐにバラけそうだ。

 シスターは苦笑し、ナユカの隣に座った。

 

「花冠はこうやって作るのよ」

 

 近くに花が大量に落ちていたので、シスターはそれを拾うと、解りやすいように実演する。ナユカは形崩れした花冠を作り直し、今度はきれいに作ることができた。ルネアは本を読んでいたが、ナユカをちらっと見ると、いいと思う、と口にした。

 

「きみ、もっと素直になっちゃいなよ!」

 

 ナユカは調子に乗って、茶化したような口調で笑う。

 

「これでも最大限素直だと思うけど」

 

 無愛想な口調だが、表情は微笑んでいた。

 シスターは立ち上がり、教会のなかに戻って聖夜の準備を進める。

 

 夜になり、昼ご飯のあと教会から強制的に外に出されていた子供たちは、シスターから戻っていいよ、と言われた。ルネアはとっくに本を読み終えて仕方なくナユカの花冠作りに付き合っていたので、シスターの口から、戻っていいよ、と出てきた瞬間ーー花冠を放り投げて本を持ち、シスターのすぐそばを通り抜けた。

 

「ちょ、ちょっと!? ルネアー!?」

 

 ナユカの右手にはシスターも驚きの、姫様が被っていてもおかしくないほどの豪華な花冠が出来上がっていた。

 

「むー、ルネアの本バカめー!」

 

 文句を言いながら立ち上がり、ナユカは花冠をシスターに手渡す。

 

「ど、どうしたの?」

 

 シスターが尋ねると、ナユカはにかっと笑いって答える。

 

「シスターにこれあげる! 花畑にとてもきれいな花があったから、シスターにいつもの感謝を込めて作ったの!」

「これはーーヴァルヒアね。この辺りではとても珍しい、とてもきれいな紫色の花ね。私も昔に一度だけ見たことがあるけれど、まさかもう一度見れるとは思わなかったわ。聖夜には持ってこいの、最高の贈り物ね。ありがとう、嬉しいわ」

 

 シスターは微笑んでナユカの頭を撫でると、ナユカはシスターに質問をする。

 

「どうして聖夜の贈り物にピッタリなの?」

「それはね、ヴァルヒアの花言葉が《贈り物》だからよ」

 

 優しい声で説明すると、ナユカはへえー、と感嘆の声を漏らす。

 

「ねえねえ、だったらこの花はどういう意味なの?」

 

 続けて見せたのは、同じ花冠に付いている水色の小さな花。

 

「これはファフリア。色によって意味は変わるけど、この色は《運命》。グリフラクの花なら悪い意味の運命だけど、ファフリアはいい意味の運命なのよ」

 

 なぜ花言葉を知っているのか、シスターは思い出してみる。

 思い出したのは、母親が花言葉を教えてくれたこと。シスターの母は花が大好きで、畑仕事の合間にいつも花を愛でていた。その影響で、シスターも花言葉を覚えたのだ。

 

「シスターシスター、もっとたくさん花言葉を教えて!」

 

 シスターは微笑み、頷く。

 

「いいけど、もうすぐ夕食だから明日ね」

「うん!」

 

 いつもの元気な声に、シスターは嬉しく思う。ナユカは捨てられたのではなく、生まれたばかりの頃両親が災厄に殺されたのだ。ルネアは両親と双子の姉を殺された。ほかにも、この教会で引き取っている子供たちの大半は災厄によって両親を殺された者だ。八年前と五年前に、ラッシャー村に災厄と揶揄される幻獣が出現した。この幻獣は倒すことができず、二回目の出現の時に深手を負わせることしかできなかった。この幻獣により大勢の村人が殺され、子供が大勢残された。そのうちの大半は飢え死にや、獣によって殺された。

 だからこそシスターは、生き残った子供たちには笑顔で過ごしてほしいと願う。

 

「さあ、早く部屋に入りなさい。もうすぐ夕食よ」

 

 外にまだいる子供たちは、はーい、と元気よく返事をして教会のなかに戻っていく。

 

 

「シスター。これって肉だよね? 幻じゃないよね?」

 

 子供たちの眼前に広がるのは、普段あまり食べない肉。それもたくさん置いており、普段目にしない光景に、子供たちは眼を輝かせている。ほかにも、周囲には聖夜の飾り付け。知っているはずの二人は口をポカンと開け、ナユカに至っては嬉し泣きもしている。

 

「今日は聖夜だから、神父さんが子供たちのためにって朝から張りきってくれたのよ。だから、みんなでお礼を言いましょう」

 

 せーの、とシスターが合図をすると子供たちが口々にありがとう、と言う。神父は頬をポリポリと掻き、口を開く。

 

「別に、僕はお礼を言われるようなことはしていない。普段食べさせてやれない肉をたくさん用意しただけさ。それと、食べ終わったら椅子に座ったままでいてくれ。大事なことを言わなければならないからな」

 

 はーい! と何人かの子供が答えると、子供たちが各々の席につく。

 シスターは中央の椅子に座り、ラッシャー村ならではの言葉を発する。

 

「森に生きる民の命を頂き、感謝いたします。私たちの力の源となり、これからも見守りください」

 

 ラッシャー村の民は、森と森に生きる民を敬う心を持つ。だからこの言葉が生まれたのだ。狩りにおいて火器を使わず、魔法も使わない。原始的な狩猟方法を用い、己の技術で仕留める。火器や魔法を使うのは森や森の民に失礼だとされているから、原始的な狩猟を行うのだ。

 子供たちもシスターに続いて暗唱し、フォークとナイフを持って肉を食べ始める。

 

 子供たちが一斉に、ごちそうさまでした! と言ったあと神父が立ち上がり、別の部屋に行く。子供たちは戸惑うが、誰一人として立ち上がる者はいなかった。

 やがてガサゴソと神父が行った部屋の方向から物音がし、たくさんの箱を持って神父が出てきた。子供たちは箱を見た途端、箱が神父からの贈り物だということを理解して喜ぶ。

 まず年少の子供たちから貰い、最後のほうに年長の子供たちが貰った。

 年少の子供たちが貰ったのは、人気のおもちゃや本だった。みんな欲しかった物を貰ったらしく、どうして判ったの? と聞いているが、神父は微笑むばかりで答えない。最後は一番年上のルネアとナユカが贈り物を受け取るが、二人の贈り物は他の子供たちより、大きかった。

 ナユカが箱を開けると、そこには何種類かの狩猟道具と狩りをする時の服、そしてきれいなヘアゴムが何本か入っていた。ルネアのほうもほぼ同じで、ヘアゴムに代わって分厚い本が入っていた。

 

「そろそろ狩りをするからな。服は鳥の羽や獣たちの毛皮で作った。ナイフは切れ味のいい物を選んでやったから、鈍らない限りは切れないということはないだろう」

 

 神父の言葉にルネアとナユカは眼を輝かせ、子供たちは沸き立った。八歳になったら狩りをするための道具をくれるの? とか、早く八歳になりたい、など子供たちは口々に羨ましがり、喜んでいた。しかし、一番喜んでいたのはルネアとナユカの二人だった。

 ルネアは喜びを表に出していないものの、眼は輝いていた。いつも元気いっぱいのナユカは、誰が見ても一目瞭然、跳びはねて、やったー! と叫んで喜びを表している。

 子供たちにとって、今までで最高の贈り物だっただろう。特に、ルネアとナユカにとっては忘れられない思い出となっただろう。不器用な神父は子供たちのことが大好きで、この計画を悩みながら一ヶ月以上前から企画していた。

 神父は優しく微笑み、喜んでいる子供たちを見守っている。

 

  ***

 

 

「さあ、早く片付けて寝ろ。ルネアとナユカは、明日の朝は夜明け前に起きなければならないからな」

「えっ、ちょっ、う、嘘ですよね!? わたし、朝弱いですよ!? せめて夜明けのあとにしてください~~!」

 冷や水を浴びせられたかのように、一気に現実に戻されたナユカは涙目で抗弁するが、神父は聞き流すだけだ。尚も抗弁しようとするナユカの肩に手を置き、仕方ない、といつも一緒にいるルネアに言われれば、ナユカは遂に地面に倒れ伏す。子供たちからは、ナユ姉頑張ってーと言われればカッコ悪い姿を見せられない。

 これこそが年長者に対する理不尽だということを、ナユカははっきり理解した。それに、夜明け前に起きることにも意味はある。明日以降から狩りをするからだ。その日のうちに狩りを始めてもいいだろうと神父が判断すれば、おそらく夕方から狩りを始めるだろう。そうなるように、明け方から狩りの基礎を叩き込むつもりだろう。

 

 解ってる。解っているけどーー朝はどうしても弱いの~~~~!

 

 心のなかで絶叫しても、当然誰にも聞こえない。

 ナユカに救いの手が伸ばされることなく、ナユカを含めた子供たちは各々の部屋に戻った。

 

 

  ***

 

 

 子供たちがすっかり寝静まった頃、シスターは部屋の窓から星を見ていた。星はいつもと変わらず、キラキラと暗闇を照らしている。今頃フリース様は別の地で朝を知らせながら人間たちに見えないように飛び、ダクト様は暗闇のなかを見つからないように駆け回っているだろう。少なくとも、神話ではそうなっている。

 もしそうなっているのなら、シスターは願わずにはいられない。

 

 ーー子供たちが幸せに過ごせますように、と。

 

 星がキラリと瞬いた気がした。

 

 

  ***

 

 

 神父は礼拝堂のなかで、神々に祈りを捧げていた。これは毎晩していることだが、聖夜の日は長い長い祈りと願いを捧げている。

 

 ルミネリアは命の神なのでーー子供たちが健やかに育つようにと。

 ネイシアは創世神なのでーー世界が子供たちに味方してくれるようにと。

 ダクトは暗黒神なのでーー夜が子供たちに安らぎを与えてくれるようにと。

 フリースは太陽神なのでーー子供たちに光を与え続けて、悪から護ってくれるようにと。

 ルーンは暗殺と記憶の神なのでーー子供たちを暗殺から護り、教会での日々を忘れないようにしてくれるようにと。

 

 神父以外誰もいない礼拝堂で、神々が願いを聞いてくれたような気がした。

 

 

  ***

 

 

 ルネアは深夜に眼を覚ますと身を起こし、窓を見た。窓から差し込んでいる光は、部屋全体を明るく照らしている。その光景に、ルネアは眠気を忘れた。夜だけでしか見られないこの幻想的な光景を、もっと見たいと思った刹那ーールネアのなかで何かが目覚めた。

 何かが目覚めた途端に体のうちが何とも言えない感覚に襲われ、思わずもがいて呻く。

 一緒の部屋で寝ていたナユカと二人の少女たちは、ルネアの異変に気づいた。

 

「ルネア!? ルネア、大丈夫なら返事をして! ルネア!」

 

 咄嗟にナユカがルネアを揺さぶって呼び掛けるが、ルネアには返事をする余裕がなかった。

 

 ーー私の体が重い……! でも軽い……! それだけじゃない……! 熱い、冷たい。視えない、視える。聞こえない、聞こえる。遅い、早い。色がない、色がある。痛い、痛くない。

 

 矛盾した言葉を思い浮かべているが、ルネアにはその言葉しか出てこなかった。

 そして、この現象がーー体内の魔力生成の始まりだ。

 この現象は誰もが幼少期に体験し、個人差はあるが、誰もが矛盾した感覚を体験する。しかし普通は《少し変な感覚》で済むが、ルネアの場合は《かなり異常な感覚》となっている。

 理由は、新しい魔法だ。

 アーリスト帝国ではまだ魔力生成が始まっていない子供に、今まで発現したことのある魔法に対応する注射を何本か打つ。そうすれば魔力生成が始まっている子供が苦しむことなく、その現象を終えることができるからだ。しかし、新種の魔法には対応できない。

 つまりルネアは一日から一週間のあいだ、苦しみ続けるということだ。

 

 一週間が経過した。

 あの夜の現象が終わったルネアは、今は何もなかったかのように狩りをしている。魔力量は測定していないので不明だが、期間が長かったので、魔力が多い可能性は高い。

 今はルネアと入れ代わりにナユカが現象を体感しているが、ルネアほど苦しんでいない。

 ひゅんっ! とルネアが射った矢が風を切り裂き、鳥の急所にトスッと刺さる。

 仕留めた鳥は、鮮やかな青い羽根を持っている《ファブラドリ》だ。この鳥は繁殖能力が高く、スープにするととてもおいしくなる。

 

「今日はファブラをたくさん仕留められたから、夕食は《チョルガスープ》にしよう。さあ、市場に行くぞ」

 

 チョルガスープとは、ファブラドリとラッシャーイモを使った料理だ。ラッシャー村では一般的な家庭料理で、まろやかな味が特徴だ。しかし、家庭によって味が異なり、教会の味はピリッとスパイシーが効いている。

 ルネアはこのピリッとした教会のスープが大好きだが、ここしばらく食べていなかった。

 二ヶ月ほど前に食べた時の味を思い出すと、思わず顔が緩んでしまいそうになる。ルネアは浮き立つこの気持ちを抑えられず、神父に告げた。

 

「ここから走って市場に行きませんか? 早くファブラをシスターに調理してもらいたいんです」

 

 神父は苦笑し、頷く。

 

「同意見だ。僕も早くスープを早く飲みたい。だからーー」

 

 二人で同時に走りーー口にした。

 

「どっちが先に市場まで着くか、勝負だ!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。