端末が壊れてしまい、パスワードも忘れてログインできませんでした。
ですので、近々新しい小説を上げようかと思います。
誤字、脱字のほうもよろしくお願いいたします!
「そなた、服はどうしたか」
王直属の隊隊長のファングルがアルケミストに問うが、ハハハ……と乾いた笑い声を漏らすのみだ。大火傷はナユカの、炎の治癒魔法で完治された。が、心の火傷はさらにひどくした。炎で治されるあいだ、アルケミストはずっと、止めてくれぇーーーー!! と叫んでいたのだ。
これにはルネアも、かわいそ……と呟いていたが、ナユカは清々しい笑顔だった。
「でも、アタシは逸材を二人も見つけたかもしれない。一人はあの火加減のコントロールセンスと治癒魔法。それに……まだ隠し玉がありそうだ。もう一人はまだ魔法を見ていないが、そちらも隠し玉がありそうだ」
アルケミストはフフッと笑い、目を輝かせる。ファングルは感嘆し、口を開く。
「それは逸材であるな。炎魔法の子は治癒魔法も使えると……。隠し玉はーー炎魔法以外の魔法も使える……かもしれぬな!」
ガッハッハと豪快に笑い、そなたはどう思うか、と意見を求める。
教会の入り口で待ちぼうけしている水色の髪を持つ少女は、ため息をついて空を見ている。教会のなかからは騒がしい声が聞こえてきて、時折物音が楽しそうな悲鳴とともに聞こえてくる。その様子を見ながら、
「そうだな、普通は一人一種類しか魔法を使えないからな。もし氷魔法とか大地魔法、雷魔法が使えるなら、とんでもない逸材だ。二種類目の魔法を使える子は珍しいからな」
ここで少し魔法の説明をしておこう。
魔法にはいくつかの種類があるが、ナユカが使える炎魔法は炎系統に分けられる。しかし、ごく稀に二種類目の魔法が使える者がいる。その者は《ディファレンター》と呼ばれ、全く別の系統魔法が使える。さらに、炎魔法と雷魔法が使えるディファレンターは、通称・赤雷と呼ばれる魔法使える者がいたこともある。炎魔法と氷魔法は熱氷、炎魔法と大地魔法は熱地。いずれもディファレンターにしか使えない魔法だ。
いずれも攻撃力が高く、応用も利く。魔法騎士団にとっては、喉から手が出るほど欲しいディファレンターだ。
ごめーん、と慌てて飛び出してきた少女に、待ちぼうけしていた少女は、遅い、と無愛想に怒る。二人の少女の手には大きなカバン。しかし、入っている量が明らかに違う。
待ちぼうけしていた少女のカバンは驚くほど量が少なく、とても一週間分とは思えない。
一方、ディファレンター疑惑のある少女のカバンはパンパンに膨らみ、何が入っているんだと疑いたくなる。
「うぅ~~……。《バンジャクジュ》持っていきたかった……」
「せっかくララリアに行くんだから、そこにしかない料理食べようよ……」
ディファレンター疑惑のある少女は嘆き、待ちぼうけしていた少女はため息混じりに慰める。
「うん······そーだね」
涙ながらに納得し、頷いた少女。まだ二人の名前を知らないアルケミストーーミュネルは、右手を大きく振って呼び寄せる。
二人の少女はそれに気付き、大きなカバンを担いでーーディファレンター疑惑のある少女はふらつきながらーーミュネルのほうへ歩いてくる。
「どーも、お二人さん。まずは第一次試験通過おめでとう。でも、ここで油断して次の試験で脱落しないように」
拍手をして褒め称えるが、当然念押しも忘れない。水色の髪を持つ少女は頷き、ディファレンター疑惑のある少女はにらんで、異口同音に答えた。
「それくらい、言われなくても解ってます」
「それくらい、言われなくても解ってます!」
やや不機嫌な声を出して答えたディファレンター疑惑のある少女は、プイッとそっぽを向く。かなーり不機嫌な理由はミュネルだが、ミュネルはその理由が解らず、水色の髪を持つ少女は苦笑いをする。
「まあ······気にしないでいいですよ。······私も、色々言いたいことはありますが」
なにやら少女のうしろに、東洋の島国で俗に言われる般若が見えるが、ミュネルは見えなかったことにして話題を変える。
「そういえば、君たちの名前を聞いてなかったから、自己紹介をしようか」
うしろでファングルも、そういえばそうであったな、と本人は知らず知らずのうちにミュネルの企みを手助けする。
「確かにそうでしたね。私の名前はルネア、出生届によれば一の月二十日生まれの十四歳です。好きなものは本で、苦手なものは騒がしいものです」
いまだに消えぬ般若が話しているように見えるのは、ミュネルの錯覚だと思いたい。その隣で、ディファレンター疑惑のある少女がため息をついて口を開く。
「わたしの名前はナユカです。出生届によれば八の月二日生まれの十四歳。好きなものはにぎやかなもので、苦手なものはルネアの鬼······じゃなくて、ルネアが怖い時です」
「どっちも同じだから! このバカ!!」
ミュネルの眼には、般若が牙を剥いて本格的に怒り出したようにしか見えなかった。
「痛い痛い! 本気で殴らないでよ、この鬼!」
「鬼を目覚めさせたナユカが悪い」
「いつも思うけど、その台詞なによ!?」
「事実を述べてるだけだけど?」
「だから、その事実ってなによ!?」
「······さあ?」
仲がいい掛け合いを繰り広げ、最後にはルネアがのらりくらりとした対応をして幕を閉じた。ナユカは、んぎぎぎぎ············と唸っているが、やがてため息をついて、視線でミュネルに促した。
「では遠慮なく······アタシの名前はミュネル。誕生日は四の月二十八日で、今は二十三歳だ。好きなものは酒、苦手なものは«ヒューズマリズム»だ。······アイツとはもう戦いたいくないよ」
そう、アイツとはもう二度と戦うのはごめんだ。
あっつーい砂漠地帯で躍り狂うあの幻獣を相手に、よく十時間以上も戦い続けられたものだと、今でも我ながら感心してしまう。
その幻獣は攻撃のしかたも変わっていて、どこからともなく流れてくる音楽のリズムに合わせて攻撃していた。その攻撃はかわすしかなかったが、それだけならばここまでイヤにはならなかっただろう。しかしその幻獣は超絶メンドイやつで、こちらも音楽のリズムに合わせて攻撃しなければ、攻撃が通じなかった。
しかしそれでもまだここまでイヤにはならないだろう。
ミュネルの出身地はララリアで、そこは情熱の街と言われている。昼間は音楽でにぎわい、夜も音楽でにぎわう。ミュネル自身、幼少期は毎晩広場で踊っていたし、太鼓で演奏もしたことがある。
しかし、幻獣の音楽は無理難題だった。予測のできないリズムが流れ、ここだと思ってもリズムがズレて、自分に自分の攻撃が向かってきたこともあった。
時には、これ絶対反則だろ!? と思う攻撃もあった。
終わった頃にはもう喉はカラカラで、一歩たりとも動く気力もなかった。危うく砂漠で死ぬところであったのである。
だからミュネルはもう、ヒューズマリズムとは二度と戦うのはごめんなのだ。
「おーい、聞いてますかー」
棒読みで聞いてくるルネアの声に、どこかに飛んでいってたミュネルの意識が戻ってくる。ミュネルは慌てて口を開いて答える。
「すまない、聞いてなかったよ」
「ちゃんと聞いててくださいよ。ララリアの方向ってどっちですか?」
声を尖らせて方向を聞くルネアに答えるために辺りを見回してみるが、周りは木々だけしかない。
「あれ? ここはどこだ? ファングルどのは?」
ルネアは大きくため息をつき、呆れたような眼差しで答える。
「ここがどこだか知りませんが、ファングルさんはさっき隊を引いて戦場へ行きましたよ」
「じゃあ、戻ろうか。たぶんそんなに村から離れてないだろうし」
再び大きくため息をつき、口を開く。
「今度はちゃんとしてくださいよ?」
「ララリアに行く途中に迷いの森があるから、迷わないという保証はないがな」
「············」
ルネアが絶句するが、ミュネルは事実を言ったまでだ。
「目印はくるときにつけてあるから、目印通りに歩けば迷わないはずだから、そこまで心配しなくてもいいぞ」
「············」
なにやら信頼されていないような視線が刺さるが、ミュネルは気にしない。木々のあいだを通り抜け、道なき道をルネアとナユカのあとをついて行くと、出発したようなしなかったような感じのする村が見えた。
ーーここからだ。
ここから二人の少女の道が始まるのだ。きっと二人はミュネルの想像を遥かに越えるアルケミストになるだろう。いや、絶対になる。
ならば、自分の役割は初めに二人の背中を押し、二人を見届けることだ。
「さあ、ララリアに行くぞ」
「「······はい!!」」