Central・Continent   作:ハンドボーラー

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ララリア

 肩を上下させ、荒い息で呼吸をするミュネル一行。ルネアはララリアの石畳にしばらくのあいだ膝を突いていたが、大陽の陽射しで熱せられた地面は膝を突くことを

 許してくれなかった。

 

「あつっ!」

 

 慌てて立ち上がり、近くの街路樹に寄りかかって息をそっとはく。少しヒリヒリする膝を見れば、ほんの少し赤くなっていた。

 普段はあまり使いたくないが仕方ないので魔法を、魔力をほんの少し使って指先から冷気を三十秒間だけ発生させる。

 冷気はルネアの膝を冷やし、赤みを引かせた。

 ルネアは再び膝を見ると、幸い火傷にはなっていなかった。ほっとため息をつくと、隣からも、「あつっ!」という声が聞こえてきた。

 

「あー、ヒリヒリするなー······」

 

 ミュネルだ。膝を見れば、先ほどのルネア同様に赤くなっていた。

 

「こういう時、氷魔法とかが羨ましいよなー······」

 

 はあ······とため息をついてぼやくと、ルネアが寄りかかっている街路樹とは別の木に寄りかかる。

 ルネアは人前で自分が魔法を使っているところを見せるのが嫌だが、人のために使うのなら、と納得させてミュネルの側に立つ。

 

「······冷やしましょうか?」

「······? ああ、ありがとう。助かる」

 

 ミュネルが頷くと、ルネアは膝を突かないようにしゃがんだ。右手の指先を赤くなっているところにかざし、先ほどと同じように冷やす。

 ナユカは最初から膝を突かずに、街路樹に体を預けていたのでルネアとミュネルのようにはならなかった。

 

「で、ララリアに着きましたが、このあと私たちは何をすればいいんですか?」

 

 冷やし終わると、ルネアは立ち上がってミュネルに問う。ナユカもそれが気になるようで、ルネアの隣に立つ。

 

「んー······ララリアで行われる第二次試験はちょうど一週間後だからなー······。それまでは各自自由行動にしてもいいらしい。だが、第二次試験は筆記だから勉強はしないと通らないぞ」

「それってつまり、魔法の基本的な知識とかが出題されるってことですか?」

 

 質問をしたのはルネアではなく、ナユカだ。ルネアも同じことを考えていたので、確かにこの質問の答えは気になる。

 

「そういえば言ってなかったな。主に出題されるのは魔法・幻獣に関することだ。と言っても、幻獣に関する内容は一般的によく知られていることばかりだから、まだ気楽にいけばいい。魔法は基本はもちろん、応用も出題される。というより、応用のほうが多く出題されるそうだ。この辺りの問題はララリア図書館に行けば参考になるような本がたくさんあるから、あとで行くといいぞ」

「図書······館············?」

 

 図書館と言われても、いまいちピンとこない二人。

 それもそのはず、ラッシャー村には図書館という建物がなかった。いや、正しくは十四年前まではあった。

 幻獣が襲来した時に図書館が崩壊し、本はすべて燃えたり破れたりした。

 それ以来図書館は建てられることなく、二人は図書館の存在を知ることなく育ってきたのだ。

 まあ、それをミュネルが知っているはずもないが。

 

「二人とも図書館を知らないのか!? 図書館っていうのは······様々な種類の本がたくさん置いてあって、それをその場で読んだり借りて家で読んだりするところだ。新しい本から古い本まで、本当に多種多様だな」

 

 ミュネルの説明を聞いているうちに、目を次第に輝かせるルネア。ナユカは逆に説明を聞くにつれて、あー······という表情になる。

 なぜならルネアは無類の本好きーーの本バカーーだからだ。聖夜の贈り物でもらった本は一日で読み切り、その後も何度も読み返した。

 それもあってか、ルネアの特技はその本の冒頭二十ページを暗唱することだ。

 

「場所を教えてください! いますぐ行きますから!」

「悪いけど、いますぐは無理だ。宿部屋を教えてないからな」

 

 はあ、とため息をついたミュネルに理由を教えられると、なぜか悲しくなってしまった。

 

 宿部屋を教えてもらうと、ルネアはすぐさま図書館に向かった。

 そこにはミュネルが言ってた通り、古い本から新しい本まで多種多様にあった。

 とりあえずルネアは«上級者向けの魔法学»を手に取り、隣の棚の前に移動する。すると、一番上の段にピンとくるものがあった。

 

「う~~······」

 

 しかし、どれだけ背伸びして手を伸ばしてもルネアの身長は低い方だから、本がある場所が高すぎて届かない。

 周りにハシゴがないかを見るが、ひとつもない。

 

「何かお困りでしょうか」

 

 不意にうしろから少し驚くが、リアクションはしない。

 うしろを見れば、図書館の女性職員が立っていた。名札の隣には、届かない本があれば気楽にお申し付けください、と書いてある。職員は笑顔でルネアの答えを待っていた。

 

「一番上にある«魔法辞典~中級者編~»が取れないんです」

 

 指で示しながら説明すると、職員は頷いた。

 

「では、少しお待ちください」

 

 ハシゴを取りに行くのかと思いきや職員は歩くことなく、左手を中に掲げる。

 職員の眼は青色に光り、表情は真剣味を帯びる。

 

 ーー魔法を使うんだ!

 

 ということは、この職員の魔法は«浮遊»だろう。本を浮かせて取り出すという形で、高い場所の本をとりだすのだ。

 ーーしかし、職員の行動はルネアの予想を裏切った。

 体がみるみる大きくなり、身長が高くなる。

 服も職員のサイズに合わせて大きくなり、破れることはなかった。

 

 ーー巨大化の魔法なんて聞いたことない!!

 

 唖然とするルネアをよそに、職員はまだまだ大きくなる。

 

 ーーいや、私もそうだけど······。でも、ナニコレ!!

 

 もはや混乱の極みに達し、頭のなかの整理が追いつかない。

 職員はルネアの二倍ほどの大きさになり、お目当ての本を取った。

 すると今度は小さくなり、元の身長に戻る。

 

「はい、どうぞ」

 

 何もなかったかのように、両手で丁寧に差し出してきた。ルネアは半ば自動的に受けとる。

 

「ありがとうございます······」

 

 魂が抜けたような声で返して閲覧室に向かうが、二冊の本の重量を感じる余裕さえルネアにはなかった。

 

 閲覧室でしばらく本をパラパラめくっていると、巨大化魔法について書かれているページを見つけた。

 

「«質量変化魔法»の応用······?」

 

 質量変化魔法は珍しいほうの魔法だ。基本的な使い方は物質の重量を変えるものだが、先ほどの職員は自身の身長を変えていた。

 応用としては、物質の大きさを変えることもできるらしい。

 それだけではなく、先ほどの職員のように自身の身長を変えることもできる。しかしそれはかなり難しいらしく、せいぜい体重を変えることぐらいまでしか少し上手程度の人はできないらしい。

 ということは、あの職員は凄腕の質量変化魔法の使い手だ。

 

「······それにしても、面白いことができるんだなあ············」

 

 さらにそのページを読み進めていくと、身長を変える時の注意が書いていた。

 

「自分の身長はミリ単位まで覚えておきましょう。戻る時に自分の身長が判るようにするためです。ほかにも、身長を変える時は服の大きさも変えましょう。自分の体に合わなくなってしまうからです」

 

 なるほど、魔法同時発動も習得必須なんだ······。と頭のなかでメモをし、閲覧室に向かう途中で手に取った本を読む。

 その本のタイトルは«帝国物語»と書いてあるが、内容は帝国ができるまでの、アーリィの戦いが書かれている本だ。

 全三巻からなり、一冊目の一章は各地の街・村の壊滅について書いている。

 

 ――幻獣が最初に出現したのは、今は亡きファズド王国の小さな村だ。その村はその日、一年に一度の収穫祭の準備に忙しかった。

 取れた農作物はきれいな木箱に入れ、村で一番大きい野菜は祭壇の前に大切に置かれていた。

 そんな時だった。雲ひとつない空が突如、黒雲に包まれ、夜以上に暗くなったのは。

 農作物は灰になり、大地が唸った。外にいた人は農作物と同じ運命を辿り、屋内にいた人は無惨に食い殺され、切り裂かれた。

 人々をそのようにしたのは«アッシュビースト»といわれ、アーリィが最後に戦った幻獣だ。しかし、当時最強の力を持っていたアーリィでも倒すことは敵わず、なんとか封印はしたが、数百年に一度の周期で封印が解かれる。

 一通り暴れたあとはアーリィの封印によって再び封印されるので、現在の被害は当時に比べてまだ少ない。

 その日を切っ掛けに、各地で様々な幻獣が出現し、暴れた。

 森で佇まい、侵入してくる者は一切の容赦なく追い払う«フォレストヴォロフ»。

 火山洞窟のなかでマグマに浸かりながら過ごす«ブラストグーラン»。

 自然豊かな地を永久凍土に変え、常に吹雪く地にした«フロストヒュイ»

 空を翔て獲物を狙って待つ«デアフルーグシュルツ»。

 乾いた地で砂に埋もれながら進み、獲物を見つけた時は砂ごと丸呑みにする«シュルッケンロアー»

 アッシュビーストを含めたこれら六体の幻獣は、後の後世から«六大幻獣»と呼ばれ、恐れられた。今は世界のどこかで封印され、また目覚める時を待っている。

 そのほかにもたくさんの幻獣が猛威を振るった。

 «チャクグラジュッカ»、«ウルフローガル»、«ティータンブロクナ»、«イェーガーヴォル»、«ナイターエイチィア»、«ファラッグァー»など。

 そのうちの一体、ウルフローガルが後に女王となるアーリィが住む村を襲った。

 

「ちょっとちょっと、そろそろ閉館の時間なんだけどー!」

 

 不意に、一章を読み終えた辺りで隣から、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 しおりを挟んで隣を見ると、薄い本ーーしかも観光本を何冊か持ったナユカがいた。観光本はすべてこの街のことが書かれているもので、ちょっと、今から何するつもり!? とつい思ってしまった。

 時計を見ると長針は十一を、短針はそろそろ六を指しそうになっていた。つまり、現在時刻は五時五十五分。

 本日の図書館の閉館時刻はたしか――六時だったはずだ。

 慌てて立ち上がり、いつの間にか増えた、全部で十冊の本を受け付けに持って行く。

 一度に借りられる冊数は十五冊なので、時間にもう少し余裕があったらあと五冊借りていたかもしれない。

 受付の男性職員が貸し出しカードを差し出してきたので、ルネアは書くための棒の先を消せるインクに浸けて、名前と本の題名を十冊分書く。

 すべて書き終わる頃にはちょうど六時になり、館内は職員以外人がほとんどいなかった。

 急ぎ足で二人は外に出ると、もう空は暗くなっていた。西の空はまだ少し明るいが、少し時間が経てば、頭上の空の色と同じ色になるだろう。

 ルネアは腕に抱える十冊の本を置くべく、昼間に教えてもらった宿屋に早足で向かう。

 宿屋は広場近くにあり、昼間は出店で賑わっていた。値切りの交渉をする声や、子供が親にねだる声。

 さすがに、夜間は静かだろうと思っていたルネアの予想を裏切り――。

 広場に近づくにつれて、人々の猥雑とした喧騒の声やジャンジャカドンドンと大音量の楽器の音。

 

「…………は?」

 

 ララリアの一日はこれからだったことをルネアは悟り、ナユカはルネアに観光本すべてを無理やり渡して喧騒の渦に自ら飛び込んで行った。

 

「ヒャッフー!!」

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