冴えない男の艦これ日記   作:だんご

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第2話

 提督の適正が自分にはあった。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?俺の就職活動の成果がぁぁぁぁぁ!?」

 

 穏やかな文面で「お前提督な、絶対な」と脅迫されるそれを見ながら、家の玄関で絶叫した。妹に煩いと怒鳴られた、解せぬ。

 

 訳の分からない提督適正検査の日。

 

 目の端に映る奇妙な小人を必死に無視しながら、ちょっとした人間ドックのような検査を受けていく。

 途中、奇妙な小人によって自分のすそを引っ張られたり、髪の上で遊ばれたり、声をかけられたが、全て知らない振りをした。ええい、話しかけるんじゃない!あっちいけ!

 

 そうして必死に平静を装う私を余所に、じっとりとした目で此方を見る軍人さん達。多分、俺の後ろのデブを見ていたのだろう。脇汗ヤバイしな。

 

 こそこそ話を端の方でしながら、此方を指差す軍人さん達。多分、俺の横の若ハゲを見ていたのだろう。髪のケアの重要性を確認しているに違いない。

 

 此方に歩み寄ってくる怖い雰囲気漂わせる軍人さん。多分、俺の前の鼻息荒い奴に興味があるのだろう。めっちゃ荒いからな。

 

 名前を確認してきた軍人さん達。多分うしろのイケメン……。え?自分?なんで?ただしイケメンに限るんじゃないの?

 

 「キミ、もしかして何か見えているのかい?」

 

 何も見えていません。ええ、見えていませんとも。

 

 後ろで「うそをつけー」「こっちをみろー」「しゃざいをようきゅうするー」「いつざいだー」と騒ぐ小人たちは、きっと私が緊張しているから見える幻覚です。もしくは今ここにいるストレスからなりつつある、統合失調症の症状でしょう。

 

 「……そうかね」

 

 よく、ドラマとかで見るような氷のような笑み。あれだ、あれを浮かべて怖い軍人さんは去っていった。

 

 なにあれ、なんか格好いい……。心のなかで、あの人をデミウルゴスと呼ぼう。人柄から溢れ出る空気が、オーバーロードという物語に出てくる悪魔に似ているからだ。すっごい近づきたくない。

 

 何はともあれ、こうして一切の問題はなく、無事に検査は終了したのである。

 

 俺の提督の適性がないことは、どうみても明らかであった。そうなるよう、必死に演技を重ねた。

 

 筋肉ないし、体力試験はドベ。面接でのやり取りでも「そんなことよりおうどんたべたい」と言い続けたし、どう考えても国を守る軍人には向かない。

 というか、関わりたくない。実際、同じ面接会場にいた連中には可哀想な人を見る目で見られ、おもいっきり引かれていた。

 

 面接会場を出る際、あのデミ様に捕まって話しかけられたが、「これからアダルトビデオ50本を返却しなくてはならないので」と嘘を叫んで急いで帰ってきた。

 

 ……周りから白い目で見送られながら。

 我ながら、もう少しマシな嘘にすれば良かったと、後悔が絶えない。泣きそう。

 

 まぁ、これで帰る時もダメな奴として印象づけることは出来ただろう。

 これで結果については問題は無い。唯一あるとしたら、検査会場が街の会館だった為、知り合いや顔見知りがあの場にはたくさんいたことである。

 

 ……就職は遠方だな。

 

 翌日、俺の狂乱を知り合いより聞いた愛する妹から、静かに「もう私に近付かないで」と言われた。膝が崩れ落ちた。

 

 

 悲しい思い出をバネとし、俺はこの絶望を振り切るべく熱心に就職活動に励んだ。

 なんせ失敗したら変態の上に無職である。家で飯を食べていると、遠回しに精神病院への通院を勧めてくる親もいる。家には精神衛生上いられない。

 

 近所でスーパーやコンビニに行った際、「あ、あれってヤバイ人じゃない。ほら、例の」と言われる日々はもう嫌だ。

 

 こんな街にいられるか。俺は早く外に出ていくぞ!

 

 百を超えるお断りを受けて涙目となり、大学で例の噂が広がって孤立して涙目になり、お気に入りのラーメン屋に入ったらデミ様が何故かいて涙目になった。

 

 奢ってもらった。あの人いい人だわ。顔と雰囲気で人を判断しちゃいけないよな。

 

 それでも俺は諦めない。希望を胸に努力を重ね、自分を偽り、仮面を貼り付け、そんなんしてない自分を自信気に話しながら、合格を幾つももぎ取った。

 

 どれもこの不況の中であっても、安定して業績を上げている会社である。勿論、ブラックでもない。

 勝った、やり遂げたのだ!気分はデスノートのライトくん状態だ。テンション上がってきた。

 

 これで地元を離れ、安息なる日々を送るのだ。そんでクラスで六番目ぐらいの女性と結婚し、安定した収入を得ながら平穏な人生をまっとうするのだ。

 そんな私のためにも、頑張れ提督達。あの日、奇行を晒した会場にいたまだ見ぬ提督に、エールを贈りたい……。

 

 

 

 

 

 

 で、冒頭に戻る。世の中クソだな。

 

 出頭当日になっても、家でファミコンもどきをプレイする。服はジャージのまま。送られた制服は、昨日の内に雑巾にした。家が綺麗になって嬉しい。

 「クソ兄貴!早く出てけ!」と口が悪くなってしまった妹が扉をしきりに叩く。無駄だ。ドアには板を貼り付けて、釘を打ち付けてある。

 

 ゲーム開発等の娯楽の発展は『深海棲艦』によって止まってしまっている。

 どれも奥深いゲームたちだけに、残念極まりない。早く提督たちが、深海棲艦をぶっ潰してくれることを願うばかりだ。

 ああ、ゲームとテレビがあれば、ジオンと同じく数年は戦える(引きこもれる)なと確認した矢先。

 

 扉が吹き飛ばされ、何人もの軍人さんが飛び込んできた。

 呆気に取られる自分は床に押し倒され、顔を何とかあげると、そこにはいい笑顔のデミ様が。

 

 「もう時間は過ぎております。さぁ、急ぎましょう」

 

 やたらといい笑顔のデミ様に、思わず頬が引き攣った。やっぱりデミ様は悪魔だったようだ。

 

 両腕をむさ苦しい筋肉質の軍人に掴まれ、部屋から連れ出される姿は「捕獲された宇宙人」を思わせる。脳内BGMは勿論ドナドナ。子牛を乗せてどころか、加工場まで一直線である。

 

 助けてくれとダメ元で視線を妹に送った。

 デミ様に見とれていた。あぁ、うん。すごいイケメンだよね。

 一方で両親は心配気に自分を見ると、恐る恐るといった様子で口を開く。

 

 「あの、息子は、無事に帰ってこれるんですよね……?」

 

 「きっと帰ってまいります。ご安心を」

 

 多分に希望的観測が含まれるご回答、ありがとうございます。泣きそう。

 

 絶望に打ちひしがれていると、「軍服はどこにあるのかね」とデミ様に聞かれる。

 仕方がなく此方ですと廊下のバケツへご案内すると、盛大にデミ様の頬が引き攣っていた。「演技ではなかったのか……?」「しかし、適正は高い以上……」と、何故か混乱しているデミ様だったが、いい笑顔に戻ってそのまま車に連れて行かれた。

 

 心なしか車の空気は、シベリヤと思わんばかりに冷え切っていた。

 最初は意図的に厳しくしていただろう周囲の軍人さんの目も、今は普通にクズを見る目で俺を見ていた。つらい。

 

 いや、理由は分かるのです。ただ、人間はストレス振り切ると、意図しないことをしてしまうのです。絶対食えないと分かっているのにも関わらず、大盛りのラーメンを頼んだりとかするでしょう?あれなのです。

 

 合理的に生きられない悲哀を背負っているのが、人間という生き物なのです。

 

 だから俺は悪くない。お願いだから、このうちの廊下みたいな匂いのする軍服を着替えさせて頂きたい。

 俺は民間人であり、税金を収めているのにこの仕打はあまりにも酷いのではないだろうか。

 

 「残念ですが、それはできません。それは貴方の言う国民の血税で賄われておりますからね。一回も着ずに提督に捨てられたとあっては失礼でしょう」

 

 ごめんなさい。

 

 「あと貴方の税金をお支払いしているのは、貴方のお父様とお母様なのでは。大学を卒業するまでは、代わりに払っていると聞いております。また、民間人云々についても、今は解決しております」

 

 「これからはご自分で払えるようになりますよ、提督としてね」と微笑む彼の姿に、こちらも笑みが溢れる。

 

 扉を開けて逃げようとした。逃げられなかった。

 

 揉み合いになるも、首と関節をきめられてしまう。

 意識を落とされる最中、「こいつ本当に運動テスト最低点なのか!?」と愚痴を溢す軍人さん達の声を聞いた気がした。




最近寒くて辛い。多摩と一緒に炬燵でだらだらしたい、したくない?

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