冴えない男の艦これ日記   作:だんご

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第7話

 大井は手に持った剣で、深海棲艦の空母を貫いた。

 

 無表情の顔に苦痛が交じる。恐怖が交じる。そして死の色が交じる。

 口を開き、声にならない声をあげる彼女を見つめながら、大井は力をさらに込めて剣を押し込み、捻り、持ち上げた。絶叫が耳を打ち据えた。

 

 「───ッ!?───ッ!!」

 

 「……悪いわね」

 

 憎悪の籠もった瞳を向けられた大井。歴戦の艦娘であっても慄くであろう形相をみつめながら、こんなに近くで彼らの顔を見たことがあっただろうかと大井は思う。

 そして味方を串刺しにされて怒り狂い、此方に砲門を向けてきた深海棲艦達を見咎めると、腕を動かし剣に貫かれた仲間の空母を彼らの射線に挟み込む。盾にしたのだ。

 

 下級の深海棲艦に思考能力はない、というのが彼女の提督の理論である。

 であるならば、彼らはどのような状況であったとしても、種としての本能を優先することになるのだろう。

 

 空母、ヲ級と呼称される深海棲艦は、剣に貫かれて瀕死の状態でありながらも生きていた。否、あえて急所を外した大井によって生かされていたのだ。

 

 もし深海棲艦に考える力があれば、ヲ級ごと砲撃によって大井を攻撃したにちがいない。

 ヲ級は死に体であり航空戦力としては期待できず、この状態では継続戦闘どころか撤退も見込めない。さらには命を艦娘に握られて利用されている以上、どう足掻いても行く末は決まっていた。

 

 「提督の言うとおりね。いけるわ」

 

 しかし、彼女と対面する深海棲艦達は同士討ちを避けなければならないという、種の本能に従った為に動きが止まってしまう。大井の狙い通りであった。

 彼女たちには考える力はなく、自分たちや命を握られているヲ級の運命を想像する力もなかったからだ。

 

 こうして彼らは大井に対して隙を見せてしまった。

 

 大井は口を三日月のように歪めると、ヲ級を盾に砲撃を開始する。大井からすれば、ここまで距離が近いと外すことの方が難しい。

 軽巡級や駆逐級の深海棲艦はなす術もなく、大井によって蜂の巣となり、海の中へと沈んでいった。

 

 装甲がある重巡はその砲撃に耐えきる。しかし爆風と爆煙を隠れ蓑にした大井の接近を許してしまった。

 

 「これで終わり」

 

 大井は串刺しとなったヲ級を重巡へ蹴り飛ばす。剣から抜けたヲ級の身体をとっさに重巡は受け止めた。受け止めてしまったことが、彼女の最後であった。

 

 射線を塞がれ、視界を塞がれ、ヲ級を抱きとめることにより両手が塞がった重巡に対して、大井は魚雷を放ってその横を駆け抜けた。

 大井の姿を重巡が、既に事切れたヲ級の空虚な眼が映す。もし彼女たちに理性があったならば、大井のことをこう呼んでいたかもしれない───悪魔、と。

 

 背後で巻き起こる爆発の振動を背中に感じながら、大井は次の獲物を視線で探し始めた。

 

 単独であり、軽巡である大井という艦娘の優先度は、深海棲艦からすればとても低いものであった。

 戦艦や空母などといった高クラス、高火力、もしくは複数の艦娘から成る艦隊が戦場においては第一の驚異として認識されているからだ。

 

 大激戦の様相を見せ始めた海上にあって、単艦の艦娘、それも軽巡という火力も低い艦娘をあえて狙おうとはしなかった。

 

 モンスターハンターで例えるならば、危険な古龍がいるのにザコ敵を第一に注意を払うやつはそうはいないだろう。彼らが大井に対して向ける認識も同じようなもの。

 深海棲艦にとって、今の大井は余裕があれば狙っておこうぐらいの敵でしかなった。

 

 故に────これはある意味で言えば当然の結末であった。

 

 視線を彷徨わせていた大井が、空爆により陣形が崩壊した深海棲艦の集団を見つけて突撃。深海棲艦の目をえぐり、喉を切り裂き、顔を殴り飛ばし、腹を蹴り抜いた。

 

 度重なる過酷な経験により、空間認識能力が発達していた大井にとってはこの戦場は天国にも等しかった。

 

 自分が意図的に狙われず、空爆による援護がついており、周囲には味方がたくさんいて、敵は洗練された統率が行われていない。深海棲艦は動物や虫のような非常に分かりやすい反応で戦ってくれる。

 

 『多対一の戦い方?』

 

 『ええ、なにかないのかしら。参考にできる動き、考え方、戦い方を知りたいの』

 

 『あー、えー、そうだな……』

 

 『なんでもいいから、ほら。前の魚雷みたいに何かないのかしら』

 

 『……あー、役に立つかはわからないんだよなぁ。同じ世界観的な意味でマブラヴ、絢爛舞踏祭、ガンパレードマーチ?あとはネウロイ、とか』

 

 『……なにかあるのね』

 

 『い、いや、ほら妄想というか空想というかですね』

 

 『話しなさい』

 

 『はい』

 

 本来、それらは空想の産物であったはずだ。

 

 しかし、空想の産物が生まれる土壌には、現実において先人たちが汗と血を流して積み重ねた知識や学問、歴史が散りばめられているものである。

 大井はそこを敏感に感じ取り、理解した。そして同じ空想の存在であった彼女は、実現可能なものとしてそれを受け入れてしまったのだ。

 

 そして生れた大井の戦闘スタイルは──

 

 「なんだ、あれは……」

 

 「エグすぎワロタwww一人違うことやってる件wwwなにあれwwwいいぞ、もっとやってくださいましwww」

 

 他の提督を唖然とさせた。

 

 「……なぁ、説明してくれないか」

 

 頭がやや寂しい上官の提督に視線を向けられ、目を逸らす。

 

 「どう説明すれば良いのでしょうか」

 

 俺にだって……わからないことぐらいある。というかわからないことのほうが多い。

 

 「質問に質問で返さないでくれ、気持ちはわかるけれどもさぁ……」

 

 いや、むしろ私が説明してもらいたいぐらいだった。

 

 突然、真珠湾の攻略作戦が発表された。そして連合艦隊に配属されることになった。

 これは当然ながら裏方雑用だろうと思ってたら、戦闘に巻き込まれる後方に配置された。

 ここまでこないっすよね、と近くの太ったデブい提督と談笑してたら、数日後に前線が崩壊した。そして撤退する艦娘達の支援を行い今に至るのだ。

 

 もう気持ちがいっぱいいっぱいである。

 余裕のよの字もありやしない。社会人一日目みたいなものだ。寝ようと思ったら、今ここで立ったまま寝られるくらいには精神的に疲れ切っている。

 

 そんな私に大井の解説をしてほしいと言われても無理である。

 ちなみに、元気いっぱいであっても解説は無理だ。いつの間にかああなっていたのだ、むしろ自分がどうしてこうなったのか知りたい。

 

 いや、本当に、どうしてこうなったんだろうか……。

 

 「まず、どうして天龍の剣を使ってるんだ。拒絶反応が起こるだろう」

 

 「なんだかんだで近接戦も重要だなって話になったんです」

 

 「ああ」

 

 「流石に拳だけでは厳しい。近接戦には武器が必要だなって」

 

 「なるほど」

 

 「じゃあ、使われないで倉庫に眠っている武器を使おうってことでああなりました」

 

 「何をやっているんだお前」

 

 別の生き物を見るような目で上官どころか、周囲の提督からも距離を取られる。

 

 「いや、そもそも接近戦をまともにやろうというのがおかしいぞ」

 

 「拳、……拳?」

 

 「んんwww近接系艦娘というパワーワードwwwというよりそれ天龍ちゃんの剣を使える説明になって無い件www」

 

 デブい提督の言葉に皆がうなずく中、ものすごい居心地の悪さを感じつつ口を開く。

 

 「魚雷が手で扱えるんだから、天龍ブレードもいけるんじゃって話になって……いけました」

 

 「どこからそんな発想が生れたんだよ……。てかまだ他の艦娘の固有武器を使える説明になってないよな。いや、説明できないって言っていたな。やっぱりお前らおかしいわ」

 

 酷い冤罪だ。私は無実だ。話せって言われたから話しただけなんです。

 

 自分の艦娘が修羅勢に変わり果てるとか、そんな平穏イチャコラがますます遠のく展開を誰も望むわけ無いだろういい加減にしろこんちくしょう。

 

 「まぁまぁwwwおかげさまで我々の艦隊は大助かりですぞwwwまだ轟沈が一隻もいないとかwwwもう嬉しくて泣きそうwww」

 

 「鎮守府に帰るまで泣くんじゃねぇよ。戦い方はあれだが大助かりに間違いないか……。しかし、生きて帰れても上への言い訳どうするかなぁ、またストレスで髪が後退しそうだわ。いや、艦娘の命か俺の髪かって言ったらそりゃ命なんだけどさぁ……」

 

 私の上官であるこの前髪が寂しい提督が、この私達の艦隊の指揮官となっている。

 よって司令部から詰問が行われた場合は、前回のように私一人ではなく彼も一緒である。むしろ、彼のほうがいろいろ言われる立場になる。

 

 素直に言いたい────ごめんなさい。

 

 そんなやり取りをしているうちに、深海棲艦達の撃退に成功。後退、という名の事実上の撤退が開始された。

 

 既に前線は崩壊している。追手はまだまばらではあるが、そのうちに大規模な攻撃が行われる可能性が高い。急ぎ連合艦隊を再編し、迎撃をしなければならないのだ。

 

 その道中、大井はものすごく機嫌が良さそうだった。

 そりゃあれだけ暴れられたらそうもなるだろう。

 

 周囲の艦娘は戦闘中の大井が怖かったのだろう。私と同じように微妙な距離が生れているのだが、気にしている様子は一切ない。そのメンタルの強さを少しでいいからわけてもらいたいものだ。

 

 そんな様子を眺めながら、ふと疑念が頭を過る。

 たった数日で前線が崩壊とか、いったい何が起こったのだろうか。

 

 下っ端のクソ雑魚提督、私のような者なら話は解る。弱い。大井は強いのかもしれないが、私は弱い。ほぼ大井一人に戦ってもらっているぐらいだ。

 

 しかし装備良し、練度良し、性能良しの艦娘達を率いた歴戦の提督達がこうも簡単に撃退されるとは……。中々見れないほどに戦艦と空母もあれだけ大集結していたのに、本当に一体何が前線で起こっていたのか。

 

 ……というか、出発式で見たけど事実上の最高戦力だよなあれ。いまズタボロになってみんな撤退してるけれど、大丈夫だよね、ね?

 元帥から受けた言葉を意訳すると今回の作戦が失敗したら、それこそ経済水域や海路を完全に失うので死ぬ気で頑張れって言われていたよね私達。

 

 ……よし、これはアニメやライトノベルでよく見た展開だ。多分ここから逆転するな!

 野球の試合にてどこかの高校も9回裏8点差で逆転してたし、多分余裕だろ!

 

 そんな現実逃避しながら、なんとか臨時の司令部と鎮守府が建設された島へ帰還が完了。

 集結し始めた複数の艦隊を見て私は言葉を失ってしまった。

 

 ずたぼろだった。ああ、ずたぼろだったのだ。

 

 砲撃の粉塵に塗れ、血と火傷に塗れた艦娘達。苦痛に顔を歪ませた戦艦、顔を青くしてじっと目を瞑りたたずむ空母、背中を丸くして泣きすする駆逐艦。全て前線に赴いた艦娘達だ。

 

 出撃の前に勇ましい姿を見せて威勢に溢れていた彼女たちの姿はもうどこにもない。負傷していないものなど一人もいなかった。姿が見えなくなってしまった艦娘の姿も多いように思える。誰も彼もが疲れた表情を隠せないまま、傷を癒やすための入渠と補給を静かに待っていた。

 

 私も、髪が薄い上官提督も、デブい提督も、私達の艦隊の他の提督も全員、この光景を見て唖然として何も言えなくなってしまった。ここまで被害を受けたという現実に頭が追いつかなったのだ。

 

 最初から地獄であると解っていた作戦であった。乏しい資源、疲弊した艦娘達、末端まで駆り出される総力戦。どれをとっても碌でもないことになる要素満載であった。

 

 しかし現実はこのさらに上をいったのだ。

 

 艦隊の補給を目的に来たのだが、これでは時間がかかることだろう。大型艦の回復には時間がかかる。こんな数の艦娘がやられてしまっていては、明日まで待たなくてはいけないかもしれない。

 

 「なんでも潜水艦型の深海棲艦が初めて出現したらしい。おかげで主力の戦艦や航空戦力がだいぶやられたらしいとは聞いていたが……」

 

 まさか、これほどとは。

 そう言って額から汗を流す薄髪提督の言葉に、何か違和感を覚えた。潜水艦?……撤退?

 

 「潜水艦型の大量出現……?」

 

 「……ああ、俺もまだ着いたばかりで詳しくは知らないんだが」

 

 そう言って彼が口を開こうとした矢先。此方に歩み寄る足音が聞こえた。

 

 「潜水艦型深海棲艦の大量出現。戦艦を中心とした先鋒隊は大打撃を受け、多くの戦艦と空母が轟沈」

 

 知っている声。凛々しく、透き通るようなイケメンボイス。

 全員が後ろを振り返ると、そこにいたのは自分の艦娘の吹雪を連れたイケメン提督であった。

 

 松葉杖をつき、額には包帯を巻き、やや血色の失った顔で微笑むその姿に全員が息を呑む。……怪我しても、イケメンはイケメンという考えがよぎったのは私だけかもしれない。ごめんなさい。

 

 「潜水艦型の深海棲艦は戦艦、空母、重巡の攻撃を受けることはない。戦艦を絶対的な戦力として見ていた海軍にとって、これは大きな衝撃でした。大艦巨砲主義が幻想に消える、そんなことは私と貴方ぐらいしか考えていなかったでしょうね」

 

 困ったようにイケメン。そして俯き、震える吹雪ちゃん。

 

 「加えて戦艦の後退支援、潜水艦の撃破のために多くの軽巡、駆逐艦が大破、轟沈。酷い戦いでした」

 

 息を吐き出す彼の姿は、酷く疲れたように見える。心身ともにあれほど気力満ち溢れていた彼の姿が、今はどこにも重ねることができなかった。

 

 「作戦に参加した軽巡、駆逐艦がすぐに戦闘に加わったものの、練度の差が大きいことが原因で連携が上手くとれず、多くの駆逐艦や軽巡がこの戦いによって犠牲になりました。満足な支援や物資、経験を彼女達が得られていなかったという、海軍が軽視してきた問題が大きな影響を与えた事は間違いありません。貴方がいつぞや、講義の終わったあとに言っていた危険性が表に出てしまいました」

 

 「貴方は……」

 

 何か言いたげな薄髪提督の顔をちらりと一瞥すると、イケメン提督は「話に割って入って申し訳ございません」と苦笑して髪をかく。

 

 「臼井提督、すいませんが彼と少し話をさせてください。そして私達は血路を切り開き、戦線を突破するものの、空母と戦艦の深海棲艦艦隊との激しい戦闘が続きます。さらには人類史上初めてとなる、統率された潜水艦型深海棲艦艦隊との遭遇」

 

 提督達も無事ではすみませんでした。私のように。

 そう言って目をつむるイケメン提督が思い浮かべているのは、きっとその地獄の如き海上戦に間違いない。

 

 イケメン提督が拳をぎゅっと握りしめた。血が拳をつたい、土の上にぽつぽつと落ちていく。

 空を見上げ、此方に向き直った時。彼はこれまでにない真剣な顔になっていた。その口から驚きの言葉が飛び出す。

 

 「そして私達は満身創痍になりながらも突破、ようやく勝利が見えたと思った矢先に遭遇しました。一隻の巨大な確認不明の深海棲艦。人と同じ言語を理解し、話す深海棲艦に」

 

 「……人語を、話すだと」

 

 「知性をもった最近の深海棲艦の行動……もしや、そういうことですかな?」

 

 おとぎ話。空想。夢物語。

 そう噂されていた話が、現実となってしまった。

 

 誰もがそう思い、イケメン提督の話に聞き入っている中で。私の中にある違和感が抑えきれない大きなものになっていく。

 

 「ええ、恐らくは彼女が原因なのでしょう。これまでの深海棲艦とは絶する火力の砲撃。そして此方の攻撃をまるで寄せ付けない強固な装甲。例え無傷であったとしても、果たして勝つことができるのか」

 

 私は何かを知っているような気がする。でもそれが何かが解らない。

 それを見つけるために、必死に頭を回転させる。ここでそれを見つけなければ、取り返しがつかないことになるぞともうひとりの自分が叫んでいるのだ。

 

 「司令部はその危険性を考慮し、新たに深海棲艦における階級を設定しました。深海棲艦における別枠、例外の例。その呼称は────」

 

 

 

 

 

 

 ────『鬼』です

 

 

 

 

 

 

 全てが、頭の中で繋がった。

 

 潜水艦型深海棲艦の初実装。軽巡、駆逐を育成してなくて阿鼻叫喚の提督達。

 海域ゲージの実装。しかも回復する。メンテナンス中も回復する。ざけんな。

 言葉を発する『鬼』と『姫』の深海棲艦が初出現。サービス開始一ヶ月で出ていい強さじゃないぞ。

 多発するエラー猫。敵よりもサーバーの方がよく死んでいたとか意味が解らない。

 

 そのあまりの困難さに、延長まで行われた例のあれ。『艦隊これくしょん』の初めてのイベントにて、多くの提督を地獄に叩き込んだ例のあれ。

 

 例のあれッ!

 

 「あのクソイベかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?」

 

 周囲の提督が驚き、呆気に取られたように自分を見ている。あそこで絶望に打ちひしがれて並んでいた艦娘達も、イケメン提督ですらも唖然とした様子で自分を見つめる。

 

 それほどまでに取り乱していたのかもしれない。見苦しく、酷い有様であったのかもしれない。

 しかし言わせてもらいたい。あの『敵泊地に突入せよ!!』だぞ、あの『敵泊地に突入せよ!!』なんだぞ!?

 

 あの過酷なイベントが過酷な現実世界で発生し、命をかけて、全てをかけてそれをこれから完遂しなければならない。しかもイベントスルーすらさせてもらえないのである。

 きっとこの世界の神様はヘロインやり過ぎて頭の中がスカスカになっているに違いない。もしくは日本が大嫌いな最悪の愉快犯に違いない。

 

 酷い頭痛に襲われて頭を抱えこんでいると、太陽を遮るように影が覆い被さった。

 顔を上げるとそこにいたのはイケメン提督であった。目を見開き、口を一文字に結び、先ほどとは打って変わって全身に活気があふれている。

 

 「……やはり貴方はッ!来てくださいッ!」

 

 松葉杖を放り出し、よろめきながらも私の手を掴んで彼は力強く歩き出す。

 後を追う吹雪ちゃんの呼び声すら無視して、彼は鎮守府の建物に私を引き込んでいった。

 

 「最早我々に余力はありません。資材も残り少なく、深海凄艦の襲撃を考えると時間も残されていない」

 

 「あの、足を痛めてるんじゃないの?大丈夫?」

 

 「そうなると方法は一つしか無い。敵の中心である『鬼』の撃破。司令塔を失えば深海棲艦は有象無象の衆に変わる。そのためには深海棲艦達の出現位置を把握し、敵艦隊の編成を把握し、進行する負担の限りなく少ない海路を見つけ出し、あの『鬼』のいる場所を突き止めた上でそこを目指して出撃し撃破する必要がある。しかし海域を探索する時間も、資材も、戦力もない。だからそれら全てを仮定して出撃しなければならない。そしてその仮定が全て正解でなければならないッ!」

 

 「あの、額から血が流れてるんだけど、それ傷開いてない?大丈夫?」

 

 「ええ、まさに貴方が言う通り『クソ』みたいな確率です。砂漠の中にある小さな宝石を見つけるに等しい確率だ。あまりにも現実味がない、不可能な話だ。だからこそ私達は諦めかけていた。でも────ッ!」

 

 興奮しているようなのか、全く話を聞いてくれない。対して此方はもう一周して冷静になってしまっている。

 後ろから追ってきている吹雪ちゃんが、もう悲鳴みたいにして呼びかけてるんだけどいいのだろうか。

 

 「────貴方なら、貴方ならッ!」

 

 ある部屋の前に到着すると、彼は勢い良く扉を開く。扉の横にいた軍人がイケメン提督を止めようとするものの、その顔をみて顔を青くし、立派な敬礼のポーズをとった。それを無視したイケメン提督と共に中に連れられて入る。

 

 立派な長机と高そうな黒塗りの椅子達。そして張り出された海域のマップと、多くの情報資料の山。

 会議室なのだろうか。紛糾した跡がみてとれるそれらを横目に、海域のマップの前にイケメンと共に立つ。

 

 「変な事を承知で聞きます。私ですら、自分の頭がおかしいと思っている。それでも私は聞かなければならないのです。……『鬼』がいるところはどこだと思いますか」

 

 頬が紅潮し、何か色気すら感じる雰囲気を見せているイケメン。

 不思議と冷静な頭で妹がみたら喜びそうだと思っていると、再度問いかけられてしまい慌ててマップの方へ向き直った。

 

 あのイベントは数年前の話。既に記憶は薄れてしまっていたのだが、こうしてみるとよく思い出す。何故かって、そりゃトラウマに近いほど酷い思い出なのだから嫌でも思い出してしまうのだろう。

 

 一つの場所へ指を指したのは、吹雪ちゃんがヘロヘロになりながら飛び込んできたのと同時であった。




三回ぐらい全部を書き直しましたが、なんとか終わってよかった!
次回から、大井っちの出番ももっと増えそうです。

のんびり、続きを書いていけたらと思います。

※追記
もし詳しくイベントを知りたい方は、オタクwikiのが一番分かりやすいかもしれません。
開始一週間の時点で30人しかクリアできてなかったとかいう、よく解らない難度のイベントです。やべぇ。

※追記2018年8月16日
七割できたので、あと三割ぐらいです。

※出来ました。感想返してから投稿予定。

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