冴えない男の艦これ日記 作:だんご
「……お前とこうして向き合って話すのは久しぶりだな。変わりはないか、圭介」
「はい。……お祖父様は少し痩せられたように見えます」
「そうか……。そうかもしれないな」
二人の男が顔を合わせていた。
その一方である老年の軍人は海軍の中将、そして真珠湾沖攻略作戦の総司令官であった。
当時、歳を積み重ね中将となり、退役も間近かと考えるようになった矢先に深海棲艦が出現した。
提督適正があり、地位も持っていた老年の軍人は戦い続けなくてはならなくなった。
そして幸か不幸か、仲間が散りゆく中で彼は生き残っていくこととなる。
深海棲艦の始まりから戦い続けたその存在自体が、深海棲艦との戦いの生き字引といっても良いのかもしれない。
彼を総司令官に据えて作戦に臨んだところに、日本の軍部の意気込みと必死さを感じることができる。
そして老年の軍人に相対するのは新規精鋭、深海棲艦との戦いにてメキメキと頭角を現した若き軍人であった。
端麗な容姿に、堂々とした落ち着きがある姿。キッと釣り上がった眉に、目の奥に燃える闘志。
「……お祖父様は私を許していないと思っておりました。勝手に軍人としての道を選び、進んだ私を疎ましいとすら思っているだろうと考えていました」
「許すもなにもない。認めていなかっただけだ」
老年の軍人は若き軍人の姿に、自分の息子の姿を重ねて見ていた。
同じ海軍であり、提督であった若き軍人の父親は深海棲艦との戦いで亡くなった。母親もそれに気を病んで寝たきりとなり、数カ月後にぽっくりと亡くなっていった。
残された二人の子供はどれほど世を憎み、深海棲艦を憎んだ事か。当時を省みるに、軍人となって久しい己には割り切れてしまったことも、幼い子供には割り切れるものではなかっただろう。
自身もまた提督となり、仇を討つのだと怒りと悲しみに燃えた彼らの子供の瞳は今も覚えている。
そして老年の軍人が「提督になることを許さない」と告げた時に、子供の瞳が絶望に染まったことも覚えていた。
この目の前に座る若き軍人こそ、その復讐に燃えていた子供。そして老人の孫なのだ。
「……当時の私は遺されたお前まで危険にさらし、深海棲艦に殺されてしまっては、息子に申し訳がないと考えた。そしてお前が目指していた軍人となる道を閉ざした」
静かな部屋に、老年の軍人の言葉が響き広がる。奇妙な緊張に部屋の中は包まれていた。
「お前はさぞ私を恨んだことだろう。両親の仇を討つ機会を奪った私を、ともすれば深海棲艦と同じように激しく恨んだに違いない」
若き軍人は僅かに眉を顰めるも、すぐに顔を平静のものに変えて口を開く。
「ええ、恨みました。今でもあの時の怒りは忘れることができません」
一瞬の間、そして窓の外から聞こえる鳥の声。
どちらが先か、老人と若き軍人は互いに笑みをこぼした。
「……深海棲艦との戦いが激しくなり、民間からも提督を探さなければならなくなった。最初は希望者のみであったが、その一覧にお前の名前を見つけた時は背中に氷柱を放り込まれた気分だった。当然だろうな。あそこまで燃えた怒りと悲しみが、たった数年で収まるとは思えなかった」
「なるほど。あの時の私は合格を疑っていませんでしたが、お祖父様が直々に握りつぶしておりましたか。酷いことをするものです」
言葉では「酷い」と述べるものの、何を思ってか彼は苦笑していた。
その様子に老年の軍人は呆気に取られた。
怒り、苛立ち、無念。それらを込めた瞳で睨みつけること、殴られることすら覚悟していたからだ。
しかし、現実はそうはならなかった。
老年の軍人は若き軍人の目から、復讐の意思が消え去っていることを確かに感じ取った。まるで明鏡止水の心を得たかのように、若き軍人の心は澄み切っているように思えた。
老年の軍人はこれまでの罪を告白するかのように言葉を紡いでいく。自然と言葉が胸から溢れてきたのだ。
「……お前が提督になるような世であってはならないと奴らと戦い続け、時にはお前の生き方を否定してでも、その道を閉ざしたつもりだった。だが結局は何も変えることは出来なかった。世も、お前の意志も、全てだ」
ある国策の決定により、老年の軍人の努力の全ては露と消え去り、目の前には一人の若き提督が生れる。
「民間で行われた提督の強制徴収、ですか」
「ああ、当時の私の想いは『無念』の一言に尽きた。不思議な事だが、何故か心の何処かで解っていたのだ。機会を与えてしまえば、いつかお前が提督になってしまうのだろうと。だからこそ、様々な方法を使ってお前の決意を退けようとしたのだ。それはお前が提督になってからも変わらない」
「……納得がいきました。人手不足であるのに随分と冷や飯を食わされましたからね」
「死なせてはならないと手をいろいろと回していた。ああ、「邪魔な事この上ない」とでも思っただろう。しかし私はそれでもお前を死なせたくはなかったのだ」
軍人として失格。私情が過ぎる身の振る舞いであった。
かつて若かりし頃、愛国心に満ち溢れていた自分が見れば、親族を国家よりも優先する姿をなんと浅ましいことかと軽蔑したことだろう。
だが、これまでの生き方を否定してでも、これまでの生き方を歪めてでも、彼は孫の命を守りたかった。
いずれ日本が緩やかに衰退し、終りを迎えることになっているとしても。二度も大切な存在を奪われることに、彼の心は耐えられなかったのだ。
しかし、ああ、どうしてだろう。
老年の軍人は時代の流れを敏感に感じることがてきていた。彼は聡明であるが故に、時代の境目に自分が立っていることを自覚できてしまった。
目の前に置かれた書類に書かれる作戦。
一笑の下に捨てられかねない、馬鹿げた内容が書かれている。
それを目の前の若き軍人は、最後の希望なのだと信じていた。
「素晴らしい友を得た」と若き軍人は言った。
その頃の彼は自分すらも殺してしまいそうなほどに、復讐と闘志に燃えていた。
「不思議な友を得た」と若き軍人は言った。
その頃の彼からは戸惑いを感じた。まだ燻る復讐の炎の奥には、輝かしい何かの意思を感じた。
そして今、「私は希望を見た」と若き軍人は話す。
その目には復讐の意思はなく、生き抜く覚悟があった。復讐の鬼ではなく、護国の鬼へと変わったのだ。
この若き軍人を護国の鬼に変えた存在こそ、彼が語る「友」であり、この不可思議な作戦を提案するに至った原因であると老年の軍人は理解した。
作戦に書かれている推測は、奇妙な程に現実に当てはまっていく。まるで未来が見えるかのように、少しずつ事態は推移していく。
彼は悩んだ。目を瞑れば、様々な想いが頭の中に生まれては消えていく。
そしてしばらくした後、決意を新たに目を開いた。
「……なぁ、圭介よ」
「……はい」
「恐らく多くの者がこの国は終わったと思っている。深海凄艦に飲み込まれ、日本だけではなく、人類そのものが衰退していくのだと考えている。私も、多くの軍人も皆、既に護国の鬼に足り得る『生きた』目をしてはいない。みんな目が死んでおるわ」
軍人も、政治家も、民衆も。心の何処かでは、もうどうにもならないと諦めていた。
未来には希望も、夢もないのだと諦めてしまっていた。
諦めは心に表れる。心は目に表れる。それは隠そうとしても隠しきれるものではない。
だが彼は若き軍人の目に諦めの想いが一欠片も無いことに気づき、そしてそこに未来を感じたのだ。
「お前もここに来たばかりの頃はそう見えた。どこかで諦めを覚えており、自暴自棄になり、深海棲艦もろとも死んでやろうという意思が感じられた。だが、しばらく見ないうちにずいぶんと良い目に変わったものだ」
そして嬉しそうに老人は言った。
「お前をそこまで変えてくれた『何か』にかけてみよう」、と。
「この人の理屈を超えたところで動いている『奇跡』にかけてみよう」、と。
「……確認された鬼は後方に下がった。連中にも大打撃を与えたつもりだが、それでも数で勝る深海棲艦だ。すぐに大艦隊が此方に向かってやってくるのもそう遠くはない」
「お前にもそれはわかるだろう」と言った老人に、若き軍人はうなずいた。
「このまま時間をかければ多くの提督と、艦娘の血で築いた中枢へ進む海路が再び閉ざされる。知性が高い鬼級に立て直しを図られれば目も当てられない」
老年の軍人は笑顔であった。
しかし父性や母性を感じさせるような温かなものではない。それは苛烈な戦士が決意を固めた鮮烈な笑みであった。
若き軍人は、はたと気がつく。
────この人は死ぬつもりなのだと。
「奴らは既に雌雄を決したと思っているのだろう。のんきに後退して立て直しを図っているのがその証拠だ。我々はその傲慢を突きえぐり、勝利への一手へと変えなければならない」
汗が伝い落ちる。軍人である以上、その決断は己もまた覚悟していたことだ。
その覚悟は止めることが出来ないものであることも、諸々の事情を省みればよく解っていた。
「私が連合艦隊を率いて目を引きつけ、深海棲艦を足止めする。お前は他の艦隊を率いて下がった鬼級と再編中の深海棲艦を撃破せよ」
自らが艦隊を率いて深海棲艦達を討伐し、亡き父と盟友、そして艦娘達にその意と威を示す。それはこれまで望んでも得ることができない、喜びの中の喜びであった。
今その時がようやく巡って来た。しかしこれでは素直に喜べるはずがない。
この奇襲作戦の中で足止めとして迎撃する艦隊は、到底無事では済まないことがよく解っていたからだ。
残存する艦隊の数では、襲来する膨大な数の深海棲艦に耐え抜くことは難しい。
本来は御旗としてのみ機能するはずであった祖父の艦隊を含め、残った全ての艦隊が背水の陣の覚悟を以って立って戦い、ようやく時間を稼げることになるだろう。
「……若者に『死んでくれ』と言う情けない国になって、もうどれほど経ったことか。生憎、私のような格好ばかりついた老人にそう言ってくれる者はいなくてな。今回は仕方がないから、私が自分にそう言ってやることにした」
悲壮な思いはその言葉からは感じられない。ただし、伝えたいことは痛いほどに解った。何故か解ってしまった。痛いほどに心に届いた。
「私が先程目を瞑った時。お前に、お前の息子たちに、お前の孫たちに、何を残せるのか考えていた」
自身の息子は何かを残す前に逝ってしまった。
その遺児である孫を守ろうと躍起になって、情けない姿であれこれと動き回った。
そうして自分は何を残せてきたのだ。何を伝えてきたのだ。何を見せてきたのだ。
不甲斐ない祖父の姿だ。不甲斐ない国の姿だ。不甲斐ない軍人の姿だ。
艦娘であるからと女や子どもをこき使い戦わせてきた。守るべき国民に軍服を無理矢理に着せて戦場へ追いやった。そこに何一つ、己の残したかったものは存在しなかった。
例えこのまま生き残ったとしても、未来の日本に何を残せるというのか。
誇りある国を残さなければいけない。誇りある心を残さなければいけない。誇りある人を残さなければいけない。日の本の誇りを、若者に託さなければいけない。
「私の名の下に、お前には連合艦隊を率いてもらう。そして有事の際には、私がこれから伝える伝手を尋ねると良い。まだまだ政治はわからないだろうが、お前を支えてくれるはずだ。長く生きすぎてしまったが、それ故に得られたものが多い。渡せるものは全部くれてやる。まだ受け取れぬものは、受け取れるだけの実力をつけろ」
「おじい、さま……」
胸が熱くなった。目から涙が溢れてきた。
そんな若き軍人を見て、老人は微笑んだ。
「今、この世界は大きな流れの中にある。その流れを私では変えられん。他の連中でも無理だろう。しかし、新しい時代を背負えるお前達であれば変えられるのかもしれない」
頼む、と言われた若き軍人は真の護国の鬼となった。
会談が終わった後、一秒も惜しいとばかりに目をつけた提督と艦娘達を招集し、これまでの経緯と概要、作戦を伝えていく。
その中には、彼が最も信頼を寄せる提督の姿があった。
祖父の言葉が耳に届き、心で理解したその時。頭に浮かんだのはその提督の顔だった。
ああ、あの出会いは忘れもしない。試験の会場で醜態を晒しており、なんと不真面目で馬鹿げた男だと軽蔑していた。こんな男と軍で一緒になるのかと呆れもしたものだ。
しかし、その男が自分を変えてくれたのだ。全くもって、人生とはわけがわからないものだ。
気まぐれに話しかけ、そこから始まった交友関係の中で気がついた。
男は人類が深海棲艦に勝つということを、微塵も疑っていなかったのである。では白痴の愚か者かといえばそうではない。むしろ男の危機感は日本の誰よりも強いものであった。
驚いた。本当に驚かされた。
深海棲艦という存在への理解、そして艦娘への理解。そこにあるのは感情ではなく、既に知っているかのような理解であったからだ。
恐怖もなく、恨みもなく、ただ既存の情報として知っているかのように男は物事を捉えていた。
トランプ遊びでまだ誰もカードが配られておらず、それどころかルールさえ知らない中で。彼は既に手札が配られ、そして勝利への道筋を知っていた。
まるで一人だけ、別の世界に生きているかのように自分は感じた。
『なぁ』
『ん……なんだよ?』
『君は、人類が深海棲艦に勝てると思うかい?』
ある時、自分は質問をした。
事態を知れば知るほどに、現状を知れば知るほどに重い質問である。
盲信の輩であれば、「なにを馬鹿な事を」と笑うだろう。見識がある者であれば、言葉を控えるだろう。しかし男はそのどちらでもなかったのだ。
『え、勝てるんじゃないのか?』
さも当然のように、男はそう言い切ったのだ。
何故お前はそんなことをいうのだ、と。
この会話で不思議な感覚を覚えた。
男と別れ、歩く中で違和感を探り当てた時にはたと気がつく。
「道はあるのだ、ただその道を今の私達は歩いていないのだ」、と。
男は知っていた。男は解っていた。
勝てる道はある。既に用意された道筋はできている。だから我々は勝てるはずなのだ、と。
集められていく全ての情報が、男が指さした場所へ収束していく様を見ていく中で、私はますますこの想いが強まっていった。
人類が勝利する道筋は今、『鬼』の出現という人類の危機の中で示されたのだ。
人は可能性を信じる私のことを指差し、「頭がおかしくなった」と言うかもしれない。
狂った馬鹿者だと呆れ返ってしまうかもしれない。
ああ、私も私の立場に置かれなければそう思ったに違いない。
しかし深海棲艦出現以前の人類が、今の世界の姿を見てどう思うだろうか。今の世界の有様を伝えたらどう思うだろうか。
なんと馬鹿げた作り話だと、嘲笑に付すことは想像に容易いのではないだろうか。
「深海棲艦なんてふざけた存在が現れるはずがない」
「ましてや人類がその存在に追い詰められるなどという、気が違えたような妄言をよくもまぁ言えたものだ」
「それに対抗できる戦艦が擬人化された存在、それも婦女子子供の姿で現れるなどちゃんちゃらおかしい話だ。ヘソで茶を沸かしたいのかお前は」
ああ、きっと彼らはそんなことを言うに違いない。ああ、笑え、笑えばいい。
その深海棲艦というふざけた存在に、父を殺された子供がここにいるのだ。
その深海棲艦というふざけた存在を、恨みに恨んで死んでいく母を見つめていた子がここにいるのだ。
もう十分、この世界は狂っている。
深海棲艦や艦娘という存在は、人類が積み上げてきた経験論であり、寄る辺としてきた『科学』の証明を覆した。
もはや今の時代は何を信じ、何を求めれば良いのかすらわからない世の中になっている。
そんな狂った世界で私は今、人を導く大きな意思をここに感じているのだ。
『天運』という言葉がある。科学が発達する以前の時代、天変地異は神霊の意思によって起こるとされていた。天下を統治する権限は天にあり、徳のある人にその権限を与える。
もし天がまだ人を見捨てていないのであれば、大きな力となりすぎた深海棲艦という存在に、もはや艦娘だけでは足りないと判断したに違いない。
深海棲艦を打倒しうる何かを、天はあの男に与えた。或いはそれを持ってこの世のに生まれでた。そうとしかもう私は考えられない。
この『奇跡』を私は信じたい。この天が与えた『奇跡』を私は頼りたい。
「故に、貴方の力を貸して欲しい。この国を救うために、お願い致します」
「わ、わかりました。が、がんばります」
イケメンの真摯な言葉、周囲の集められた提督達の期待に満ちた視線に、男は頷かざるをえなかった。というか、気がついたら頷かされていた。
この気分を例えるのであれば、「この仕事できるよね?ね?」と部長に言われた平社員のそれである。
イケメンは演説の才能があったのか、男に対して懐疑的な提督達の心を一変させた。
総司令官との会話を辿り、集まった面々の正当性を示す中で、イケメンは提督達と共に決意と想いを新たにしていった。
さらには男がもたらした情報を裏づける出来事、報告が着々と集まってきている事を告げていく。
次第に周囲の提督達も、イケメンと同じく男に敬意ある視線を向けるようになった。
イケメンが話し終わる頃には、男への印象が「艦娘にセクハラする変態野郎」から「セクハラはするが、そこしれない知恵と力がある提督」と変わっていったのである。
その裏には、彼の艦娘である大井の一件もあったのだ。
あのように心に深刻な傷を負った艦娘の信頼を得ることは、決して容易なものではない。
彼女達は理性を失い、暴力的になることも多く、時には提督が命の危険にさらされることさえ考えられる。その提督を助けるべく、他の艦娘が傷ついたり、時には悲しい結末を迎えることさえあった。
しかし彼は新人であるにも関わらずそれを成し遂げ、どのような訓練を行なったのかは解らないが、艦隊相手に一人で戦い抜けるまでに育て上げた。
そしてついにはありえないとされていた、他艦の標準装備の実装すら成し遂げてしまった。
こいつならきっと、またとんでもないことをやらかしてくれるのではないか。
そんな期待を提督達はこの危機的な状況の中で、より一層強く感じていたのである
デブい提督なんかは「普段は昼行灯でも、実は裏ですごい実力があるとかwwwなんていうか心おどりますなwww」等と一人でさらに盛り上がっていた。
髪が後退している提督に頭を叩かれて、すぐに落ち着きを取り戻していたが、デブい提督と同じ期待を周囲の提督達も感じている。
その期待はイケメンでも応えるのが難しいもの。いや、男にしか応えることができない類のものであった。
普通では勝てない戦いであることを、全員がよく解っている。無謀、無理、不可能。演習でさえこんなふざけたことはやらされない。
しかし、この男はそれを打破できるような何かを持っている。これまでもそうしてきたし、今回もまたそれを示していた。
困難、或いは不可能とされてきたことを可能にしてきた男にかけてみたい。彼ならば、再びやらかしてくれるかもしれないと目を輝かせる。
彼らが期待を寄せていたものは、本人にとっては数多の過ち、失敗であったのかもしれない。
しかし、それは紛れもなく素晴らしい結果を生み出していた。男の確かな実績であることは疑いようもない事実であった。
提督達から熱い視線を受けた男は、脳内で「どうしてこうなった」と踊りながらも、その期待を受け止めざるを得なかった。
彼が逃げることを、誰も許してくれなかったからだ。
たった、一人の艦娘を除いて。
「どきなさい」
地獄から聞こえる声は、きっとこのように恐ろしいものなのだろうと艦娘達は思った。
「私達がどいたあと、何をするつもりだ大井」
いつも薄っすらと笑みを浮かべる日向が、この時ばかりは笑みなく真剣な面持ちで大井と相対する。
「決まっているわ。あいつらの頭に一人残らずこの砲弾を叩き込んであげるのよ。二度とそんな巫山戯たことをいえないようにね」
艦娘としての装備を展開して気炎を纏う大井。その顔は鬼すら泣いて逃げるような形相であった。
大井を取り囲む艦娘達の顔には、緊張と僅かな怯えが含まれていた。
周囲の艦娘達は、決して大井を害しよう等とは考えていない。これからの作戦に大井の提督が大きく関わってくることを考えれば、大井の力は第一といっていい程に必要になってくるからだ。
できうる限り、言葉で、穏便にこの場をおさめることができればと考えていた。願っていた。
しかし、大井がそう思っていないのは明らかだった。
「ふむ……。私はお前と争いたくはない、退いてはくれないだろうか」
殺意だ。
「退く?」
「ああ、ここで戦えばお互い無事では済まないだろう。そうなればこれから行われる作戦の大きな障害になってしまう」
僅かな濁りもない、純然たる殺意だ。
「へぇ……」
大井は周りの艦娘を殺してでも、この包囲を突破しようとしていた。
「そんなの関係ないわ。どきなさい───いえ、どけ、日向。今度は前の演習みたいに撃破扱いでは済まないわよ」
剣呑な雰囲気が一気に爆発した。
まだ幼い駆逐艦が小さな悲鳴を上げた。軽巡の足が一歩、二歩と下がった。重巡は顔を引き攣らせ、戦艦と空母は額から汗を流す。
肌が張り裂けそうな程にびりびりとした威圧感に、艦娘達は歯を食いしばって耐える。
目の前にいるのは同じ艦娘、同胞である。さらにはたった一人を集団で囲んでいる状態だというのに、どうしてここまで気圧されるのだろうか。
これまで彼女達は敵意や殺意というものを、戦場で嫌という程に経験させられてきたはずであった。
しかし大井から発せられる怒気の凄まじさたるや、まるで深海棲艦達の大波に晒されているかのようにさえ錯覚させられるほど。
これほどに怒りに打ち震えて心に底冷えする声や、例え命を落とそうとも殺してやるという確固たる決意の下に放たれた殺気は、あの空虚な深海棲艦達からは感じることができないものだ。
歴戦の艦娘達が尻込みする中、ただ一人、日向だけが堂々と殺意を受けて立っている。
「ふむ、なるほどな。確かに以前の私はお前に魚雷をぶつけられて負けたわけだが……」
ふぅ、と息をついた後。日向は不敵に微笑む。
「今度ばかりは負けるわけにはいかない。このままお前を行かせてしまっては、深海棲艦と戦う前に日本は終わりだ」
釣り上がり、ぎらぎらと怒りに燃えた瞳が日向を射抜く。
しかしここで怯んでは瑞雲に申し訳がないとばかりに、日向も大井をじろりと睨みつけた。
「事はあのときのように、私や私の艦隊、私の提督のメンツだけの問題ではない。この存亡の危機に立ち向かうためにも、お前を行かせるわけにはいかないのだ。そしてお前の力も必要なのだ。……解ってくれ、大井」
「どうでもいいわ」
「どうでもいい」という言葉に、日向や他の艦娘達は一瞬何を言っているのか分からなかった。
「日本も、軍も、艦娘も、他の提督や艦隊も、国民も、一切合切どうでもいい。だから退きなさい」
それは艦娘としての存在の否定であった。
日本を愛し、国民を護るために艦娘は生まれた。その影響は無意識に彼女達の精神に強く働いており、だからこそ独自に動くこと無く提督を上に置いて人に従っている。
大井の発言はその艦娘のアイデンティティを大きく揺るがすもの。本来、艦娘から発せられるような、発して良い言葉ではなかった。
驚いて艦娘達が固まる中、その隙をついて大井が包囲を突破しようと試みることが出来なかったのは、日向だけが大井の言葉に動じず、その真意を聞かんと気を緩めていなかったからである。
「では何を護る」
「あの人以外にいるわけないでしょう」
「お前の提督を護るためにも、お前は戦うべきなのではないのか」
日向は大井の考えていることが解らなかった。それ故に、正面から向き合って言葉を交わそうとしていたのだ。
それは理性あるものとして尊い行いだったかもしれない。正しい行いだ。
だが、正しい行いが為されるこの世の中というのものは、いつだって不条理なものである。
「あの人が戦いたいわけがないでしょう」
ぽつり、と大井は言った。
「あの人が意気揚々と勝つために作戦なんて考えるはずがない。恐る恐る、自分はなんとか脇にいてやり過ごそうとするはずよ」
次の言葉には悲しみがあった。
「あの人が自分から臨んで戦場に行こうなんて思うはずがない。傷つくことが怖くて、戦うことが怖くて、戦場に夢を見ないあの人が、自ら進んで戦う立場に立って指揮をしようとするはずがない」
次の言葉には怒りがあった。
「お前たちの提督が、軍部が、勝手に神輿を担いで縛って乗せようとしない限り、あの人が先頭に立って戦おうとするはずがない」
変な話だとは思っていた。
多くの艦娘が負傷し、沈み、深海棲艦からの大きな反撃を恐れる今。連合艦隊の再編のために燃料一滴、鉄くず一つすら惜しい中、昔から申請していた大井の改造要請が突然に許可され、実行されるに至ったのか。
『改造』
それは艦娘の成熟に伴い、戦闘の経験がある程度達した歴戦の艦娘にのみ行うことができる。
大規模な艦の改造工事により、艦娘は第二次段階へと移行。基本能力値が大きく上昇するのだ。個体によっては艦名・艦種の変化、装備可能な装備の変化、容姿の変化も発生するという。
しかし、そのためには多大な資材を消費しなければならない。
今の軍部には、改造が可能となったからと全ての艦娘を改造できるほどの余裕はなかった。
大きな役割が求められていない艦娘に改造工事を行っても、費用対効果は良いとは言えない。
弱く、すぐ沈んでしまうような艦娘に対しても意味はない。捨て鉢の役割を与えられた艦娘や、どうでも良いような提督の艦娘もまた同じであった。
つまり戦場に出撃し続けるだけの立場と、実力を持つ艦娘だけが改造工事を受けることができたのだ。
例えどれだけ提督や艦娘が力が欲しいと改造を望んでも、はいどうぞと簡単に受けられるものではない。
有能な提督の艦娘、前線に赴く実力ある主要な艦娘だけが受けることができる改造工事。
それをいったいどうして、うだつが上がらず万年横道を歩いている提督と、素行不良で厄介者扱いの自分が受けられるようになったのか。
顔見知りであるいけ好かない提督の吹雪と、同じ連合艦隊に所属していた扶桑姉妹。二人が自分の提督の躍進について笑顔で話しかけてくるまでは、不思議で不可解で不気味で落ち着かなかった。
そして大井は怒髪天を衝くこととなる。
あれだけ冷遇し、あざ笑い、軽んじて、馬鹿にしてきたにも関わらず随分と都合が良い話ではないか。
はれもの扱いしてきた自分を、提督を、こんな時だけ英雄扱いして引っ張り出す軍部のその姿勢。巫山戯るんじゃない。気に食わない。許すわけにはいかない。
「それは違うぞ大井。我々の中にはお前とその提督を認めている者がいる。案じていた者がいる。この中では暁型の太田提督、扶桑姉妹の臼井提督、吹雪の山本圭介提督もまたその一人だ。決してお前の言った者達が全てではない」
「何も違わないのよ日向。例えそうであっても、彼らが何をしてくれたというの。私達に何を与えてくれたというの」
何もしてくれなかったでしょう、その言葉はあまりにも重いものであった。
ここにいる艦娘達は皆、なんらかの傷を負っている。
助けられる命を見捨て、叫ぶ声に耳を塞いで戦ってきたからだ。
自分達の身を護ることで精一杯であり、他人への施しがいつ自分達に足りないものになるか、足を引っ張るものに変わるのか解らない。
そんな中で歯を食いしばり、不義を背負い、懸命に戦ってきた彼らを、生き延びてきた彼女達を誰が責めることができるのだろうか。
それは仕方がないことであったのかもしれない。事実、大井はそれを責めるつもりはなかった。ただ、事実を突きつけただけだけである。
「私を支えてくれるものは何もなかった。何もなかったのよ……ッ!」
大井の声は大きなものになる。
いつしか、声には怒り以上に大きな悲しみが表れていった。
「大好きだった北上さんは沈んだッ!提督は私を捨てたッ!かつての仲間は私から目を背けたッ!誰も私の側にいてくれなかった、受け入れてはくれなかったッ!誰も彼もずっと、ずっとッ!!!!!」
北上が沈み、提督の言葉を受けて以降。狂ってしまった。私は狂ってしまった。
突然の涙が止まらず、感情の発露が止まらず、身体も心も制御ができない。思うように動けず、解っているのに想いの暴走が止まらなくなっていた。
北上が沈んだ光景が、起きている時も寝ている時も突然に目の裏に浮かんでくる。
そんな自分を周囲が見捨てたことは、仕方がないことだったと大井は解っている。
平時の世の中であれば、そんな大井を受け入れてくれる心の余裕も、心を癒やしていく時間の余裕もあったのかもしれない。
しかし、誰も彼もが生きることで精一杯であった。
心に傷を負った艦娘に向き合う余裕もなければ、そんな仲間をカバーする気力が続くほど深海棲艦の攻勢は甘くはなかった。
その一瞬の気の緩みが、疲れが命を奪っていく戦場。グリーフのケアなどという概念が生まれるはずもない、恐ろしい命の奪い合いの世界。
大井もそれはよく解っていた。他ならぬ自分もまた、同じ立場であったならばそうしたに違いないからだ。
事実、現代でいうところのPTSDを患った艦娘に対して、それ以前の大井は「弱いからそうなったのではないか」「気構えが足りなかったのではないか」と思っていた。
だからこそ自分がそうなってしまったことに苛立ち、戦場に立つことが出来ない現実に自尊心が削られ、情けない自分の有様に吐き気を催して何度も嘔吐した。
自分がなってみて気づく。こんな情けない姿に彼らもなりたくてなっていたわけではない。これはいくら気構えていても、どれだけ肉体や精神が強くとも関係がないものであったのだ。
本当に大切な人が追い詰められていく。突然、無残に死んでいく。その死が貶められる。その有様をまざまざと見せつけられていく。
その痛みがこんなにも大きなものだったなんて。こんなにも辛く、苦しいものだったなんて、大井は知らなかったのだ。
いくら気丈に振る舞っていても、鋼鉄のように強い身体を持っていてもその痛みからは逃げられない。
そして一度くしゃくしゃになった紙がどんなにのしてもキレイな紙にならないように、それが心の傷になってしまえば、どんなに治そうとしても治らない。
ならばこの痛みを受け入れるしかない。だがどんなに考えても、悩んでも受けいれることができなかった。
大井は狂った。
それはかつて大井が山ほど見てきた終わった艦娘の姿だった。ただ生きているだけ。役立たずで無能。
大井はそれが自覚できたからこそ、気の強い大井がなりたくなかった姿だったからこそ、さらに自分を深く傷つけていった。
加えて過酷な世界、戦争、状況がその心の傷をより深く、より広くしていった。大井の大切なものをさらに傷つけていった。
大井には侮蔑の視線と、哀れみの視線だけが向けられるようになる。大井にとっては、そのどちらの視線も耐え難いものだった。
────そんな視線を、私に向けるなぁッ!違う、違うのよッ!今の私は本当の私じゃないッ!こんな情けない私が、私であるわけがないッ!
────私は戦えるッ!
────いや、いや、いやぁッ!戦いたくないッ!!もう、大切な人が、大切な誰かが沈むなんて耐えられないッ!!え、いや、違う!?私はまだ戦えるはずなのに……ッ!?
────ああ、北上さん、北上さん。
────死にたい、私はもう生きていたくない。
────生きたい、私はまだ、死にたくはない。
────誰か、助けて。
悲しみ、狂う大井に目を向ける者はいても、彼女を助けてくれる者はいなかった。誰もいなかった。彼女の苦しみや痛みを知っていても、どうしたら良いのか解らなかった。そしてその答えを共に探していく時間も、余裕も、自由も彼らは持っていなかった。
艦隊を転々とし、ますます自分が嫌いになった。自信を失い、誇りを失い、不甲斐ない自分の姿に葛藤し、侮蔑の視線に怯え、同情の視線に怒り、心の傷がどうしようもなく広がっていった。
このまま廃人になるのが早いか、処分が早いかというその時。
『え、えー……。その、よろしくな』
彼女は一人の男と出会った。
冴えない男だと思った。これまで出会ってきた人間の中で、ここまで自信がない男は見たことがなかった。
────風のうわさで自分が最低の提督に、嫌がらせ同然に押し付けられるとは知っていたけれど、ここまで落ちるなんて。
情けなさと、悔しさで胸がいっぱいになった。
自分の死に場所はここだろうと、つまらない死に方をするのだろうと考えた。
しかし、そうはならなかった。大井の想像もしない日々がそこから始まったのだ。
「あの人だけは違ったッ!地獄のような日々にいた私に何度も手を差し伸べ、話を聞いてくれたッ!側にいてくれたッ!」
心からの叫び。魂の叫び。
何時しか大井の目には涙が溢れていた。ぽろぽろと頬を伝い、床へと落ちていく。
何度も怒鳴った。
理不尽な怒り方。支離滅裂な言葉と感情の羅列。
それでもあの人は私を拒絶せずに、側に居てくれた。ずっと、ただ黙って、ときに相槌を打ちながら聞き苦しい罵詈雑言を受け入れてくれた。見苦しい自分から目を逸らさず、ずっと最後まで見ていてくれた。
あの人は私といる時にどんなに苦しかっただろうか。どんなに辛かっただろうか。どんなに嫌になっただろうか。
その痛みを理解しながらも、私は全く異なる行動をとってしまう。見せたくない姿を見せてしまう。
情けない、本当に情けない。自分が傷ついているから、人を傷つけるような存在にはなりたくなかったというのに。
戦闘、演習で私に指図するなとあの人に言った。
艦娘に提督が指揮をしないなど、あっていい話ではない。馬鹿な事をしていたと思う。だが感情に振り回される自分を止められなかった。
だがあの人は、頬を引き攣らせながらもそれを飲み込んでくれた。
歯痒かったかもしれない。苛立ったかもしれない。多くの提督に馬鹿にされていた。多くの艦娘に呆れられていた。何度も負けた。何度もあの人の名誉を傷つけた。
でもあの人はいつも終わった時に、『笑顔』で迎えてくれたのだ。「お疲れ様」と、このどうしようもないほどに情けない私に言ってくれたのだ。
あの人はいつでも受け止めてくれた。いつだって受け入れてくれた。そして────
『……自分は、大井が必要だ』
────私を、必要としてくれた。必要だと、言ってくれたのだ。
『他でもない、大井だからこうして、こんな自分でも提督やれている』
あの時、私がどれだけ嬉しかったことか。
『大井は死にたいかもしれないけど、俺は死にたくない。俺は、自分が死にたくないから、大井を沈ませない』
その言葉が、どれほど重く、暖かく私の心に届いたのか。
『だから、そんな身勝手の俺を、これからも不満ぶち撒けて、怒って、馬鹿にして、全部ぶつけていいから。……いろいろと』
その言葉が、私を許してくれて、助けてくれて、認めてくれるものであったことを。あの人は気がついてはいないのだろう。
それを伝えることはない。それは私だけの宝物。私だけがその時に見ていた、あの人の輝きであり強さだ。
あの人は優柔不断で、男気がなくて、情けなくて、すぐにヘタレるし、ピーマンが苦手な子供舌だ。
でもそれ以上に、あの人は優しいのだ。こんな私に寄り添ってくれるほどに、こんな私を支えてくれるほどに。
私はその輝きに、その強さに救われた。
今だって胸に燻る激しい想いは一度だって収まっていない。あの光景は変わらず夢に表れ、感情が爆発し、手が震える事も少なくない。それでも、あの人が側にいる、あの人の隣に立っているのだと思うと不思議とこの想いと向き合っていける。
段々と穏やかな北上さんとの記憶を夢でみるようになり、感情が暴れそうになるのを落ち着かせることができるようになり、手の震えがあの人の姿を見れば止まっていた。
あの人がいたから、私は北上さんの死と向き合うことが出来た。
あの人がいたから、私は北上さんの死を認め、まっすぐに彼女の安寧を祈ることができる。
あの人がいたから、私は北上さんとの暖かな記憶を噛み締められる。
他の誰でもない、あの人がいたから、私は今こうして両足でしっかりと立てるようになった。
この感謝は伝えようと思っても、言葉で伝えきれるものではなかった。
だから私はこの一生を、この命を、この大井の全てをかけて彼に償っていく。
見返りは必要ない。
もう十分、私はあの人からたくさんのものをもらった。私個人の為にこれ以上求めることはない。あってはならない。
「私達の使命は国や国民を護ること。人間を、我々よりも弱い存在を護ること」
「でも私は強くはない。弱い。情けなくて、見苦しい」
「そんな私であっても、あの人を、提督だけは護らないといけない」
「どきなさい、日向。あんたらの都合であの人を危険にさらすわけにはいかないのよ。戦いたいなら、戦いたい連中だけでやってなさい。私と、優しいあの人を巻き込もうとするな。自分の不安や弱さを、あの人に押し付けようとするな。あの人はきっとそれを拒めない」
信念を噛みしめるかのように、覚悟を噛みしめるかのように大井は艦娘達を睨みつけた。
大井の想いを聞いて艦娘達の顔はより一層堅いものとなった。彼女達は大井が退くことはないと理解したからだ。
真の提督に出会った艦娘が、提督に想いを寄せた艦娘が退くことはない。そして裏切ることはない。
自分達もそうである。だから彼女もまたそうなのだろうと理解した。
大井は提督を護りたい。だから戦わせるわけにはいかない。
他の艦娘達は国を、国民を、提督を、仲間を護りたい。だから大井の提督には戦ってもらわなければいけない。
こうなると何方が重いか軽いか、価値があるかないか、重要かそうでないかの話ではなくなってくる。
互いのエゴのぶつかり合いであり、例えわかり合えるのだとしても戦うしか道はないのだ。
お互いの大切なものを護るために、血が流れようとしていた。
「ふふふ、そうか。なるほど、大井は幸せものだ。……しかし悪いな。昔の私とは違い、今の私には瑞雲がある。悪いが負ける気はないぞ」
……日向が後部甲板を大井に見せびらかし始める前までは。
「……日向、こんな時ぐらいはふざけなくてもいいんじゃない?」
同じ提督のもとで戦う伊勢が、視線を大井に向けたまま頬を引き攣らせた。
その言葉に日向はムッとした様子ですぐに反論する。
「むっ……。伊勢、私はなにもおかしいことは言っていない。前の私は戦艦であるが故に、瑞雲が足りなかった。しかし今の私は航空戦艦、つまり瑞雲がある。これでどうして負けるというのか」
日向は自信満々に呵呵と笑った。
室内で瑞雲を飛ばす。
なるほど、絶対に砲撃のほうが良いだろう。というか、攻撃能力も低い瑞雲を飛ばしてなんだという話だ。まるで対抗策にはなっていない。自信の根拠にもならない。
現に日向の後部甲板にいる妖精達は、「ほんとうにとばすです?」「われわれにもとめるものはなんぞや?」「とっこう?」「かみかぜです?」と既に混乱状態にあった。
大井も幾分か気が削がれたのか、殺気が薄まりイライラした様子を見せ始める。
全員が日向を白い目で見ている中、彼女は「ふむ」と息づいて口を開いた。
「この姿になれたのは、今回の作戦の要として航空戦艦が必要とされたかららしい。そうでなければ、私は何故か評判が悪い航空戦艦になることが叶わず、その汚名を返上する機会にも恵まれなかった。つまり、お前の提督のおかげなわけだ」
大井はその言葉に眉を微かに動かす。それを見て日向は微笑むと、装備の一切を解除した。
周囲の艦娘が驚いた。一番危険な位置にいるのは日向だ。自ら危険を晒したことに伊勢が憤りそのまま声を上げようとしたが、日向はそれを片手で制した。
……もう片手?もちろん、飛行甲板だけは残して愛おしげにさすっているとも。
「それで大井よ、お前はこの事を知っていたのか」
「……何を言いたいわけ?」
意味がわからないとばかりに顔を顰める大井に、日向は一つ頷いてみせる。
「知らないということだな。ふむ、ならばお前でも知らないことがあるということだ。ならば一度、お前の提督とお前の決断と想いについて、しっかり話し合ってみたらどうだ」
空気が凍った。
唯一、日向だけは平然とした様子を崩していなかったが、他のどの艦娘も彼女の言っていることを理解できなかった。
「お前の想いと提督の想い、お前の決断と提督の決断。この件と同じようにすれ違い、理解しているようで理解していないこともあるのではないだろうか?それを確認してからでも遅くはないだろう」
諭すように、落ち着かせるようにゆっくりとした口調で提督との話し合いを勧める日向。大井はこれに激しい怒りを覚え、さっと顔を赤く染める。
「何を巫山戯たことを……っ!あの人を知らないあなたが何を……っ!」
「そこだ、そこなんだ大井」
日向の瞳に真剣さが宿る。その鋭い眼差しに、大井の口から飛び出そうとしていた言葉が留められる。
「お前は間違っていないと思う。お前の言う通り、彼は戦うのが嫌で、臆病なのかもしれない。だが、そんな男がどうしてこの局面で自死せず、或いは強引にでも逃げ出そうとしないのか解らない」
ただの臆病者、勇気がない連中であれば、どうやってもこの現実から逃げようとする。
だが大井の提督はこの現実を受け入れている。諦めもあるのかもしれないが、その後の動きを思うと諦めという言葉に収めるにしては随分と積極的にも思える。
「大井、私は確かにお前ほどお前の提督の優しさを知らない。だがお前をそこまで支えた益荒男であるならば、或いは『護る』ために立ち上がったのかもしれないぞ。男子たるもの三日合わざれば刮目すべしと言うだろう。何かがお前の知る男を変えたのかもしれない」
「よくもまぁ、そこまで口が回るものね。言いがかりをつけて、私を惑わしてあの人を戦場に連れて行かせるつもり?」
「言いがかり……か、そうだな。無論、この言いがかりに近い説得に責任を持とう。私はお前の提督に航空戦艦の恩がある。もしお前が言うとおり彼が戦うことを拒んでいたのであれば、軍からお前と提督が逃げ出すことを手伝うとしよう」
その言葉に衝撃が走る。大井だけではなく、他の艦娘すらも呆然とした様子で日向を見つめた。
「……ちょっ!?日向、あなた本気!?」
「本気も本気だ。お前も手伝え伊勢。同じ恩があるだろう」
「いやいやいやっ!?なんで私までっ!?」
「この通り、伊勢も乗り気だ。どうだ、大井。お前とて提督の意思を反故にしてまで、自分の意思を貫きたいとは思わないはずだ。それでは私達がしたように、提督の意思を無視した自分の押し付けになってしまうからな。だから今すぐ、提督へ確認するためにも会いに行くべきだろう」
「少なくともあんたは私に押し付けてるわよっ!?え、いや、本当にやるの?ねぇ日向、ねぇってば!」
「の、乗り気とはいったい……」
焦る伊勢に、『乗り気』の意味を考え直さなければいけない吹雪。
それをぽかんと見ていた他の艦娘達も、日向の「お前達も装備を早く解除したらどうだ」という言葉に、あたふたと慌てた様子で解除していく。
ついには、装備しているのは大井ただ一人となった。
もし大井がこの包囲を突破しようとしても、これでは誰も止めることはできない。仮に止めようとしても再装備が間に合うことはないだろう。
流石の大井もこの事態を予想できなかったのか、若干の戸惑いを感じつつ日向を睨む。
「何のつもりかしら」
「恩を返そうとしているだけだ、他意はない。それに大井には無理やり戦ってもらうのではなく、心から信頼がおける仲間として共に戦いたいのだ」
「……何よそれ」
「無論、この手助けするという約束は、お前が逃げ出した後までの話だ。お前を見送り、そして提督から再度指示を受ければお前を追わせてもらう。流石にそれ以上はうちの提督に申し訳がない」
「……それって、本当は隠しておくべきことじゃないのかしら?」
そうだろうとは思っていた。しかしこうも思っていることをべらべらと話す姿は不気味に感じた。
だから大井は日向を疑っていたのだが……。
「私は嘘が嫌いだ。何故に恩人の艦娘に嘘をつかなければならない。私が間違っていたら、その時はその時だ。手伝い終わったら追いかける。捕まえられなかったら……。まぁ、それもその時はその時だな」
キョトンとした様子で日向は大井を見つめた。
思わず構えが崩れそうになったが、なんとか大井は持ちこたえる。ちなみに周囲の艦娘は完全に体勢を崩していた。何人かの艦娘は下着が見えてしまっていた。
「第一、お前も私達の提督を殺してしまっては、提督を連れて逃げ出すどころの話じゃないことは解っているだろう。問題はどう逃げ出すかの話だ。一度逃げ出せれば、上手いこと遠くに行ければ、もしかすれば深海棲艦を優先して諦めてくれるかもしれない」
伊勢が、吹雪が、大井を囲む艦娘達が呆気にとられた様子で日向を見た。
「追われる時には私達の装備や砲弾も潤沢。さらには提督の指揮を受けて気構え十分だ。だが今の我々は本気で戦うこともできないし、対応も悩むしか無い。今この場でなら大きな混乱と被害を私達に与えることができる。それに施設の鎮火と隊の再編、艦娘の治療も考えると、お前たち二人を追うのには膨大な時間がかかる。場合によっては追跡を諦め、作戦を始めるしかないかもしれない。……しかし、それでもリスクは高いと私は思うぞ。何故ならば────」
間を開け、息を吸い込み、飛行甲板を掲げ、撫でる。
「ここには航空戦艦である私と伊勢、扶桑姉妹がいるからな。しかも瑞雲もいる。瑞雲がいるとも」
自信ありげに微笑み、飛行甲板をさする速度を何故か上げる日向。
その姿はとても嬉しそうだった。もう一度言おう、とても嬉しそうであった。思う存分、航空戦艦を誇りながらさすって大井に見せつけていた。
「……あの航空戦艦への謎の自信が羨ましいわ、山城」
「……あれはただの馬鹿です、扶桑姉さま」
すっとんきょうな日向の様子を見て、白い顔をした二人が疲れたように大きくため息をついた。
そして扶桑、山城は二人並んで扉の方へゆっくり歩いていく。大井の横を、日向の横を通り過ぎる。ついに扉にたどり着くと、山城がガチャリとその扉を開けて扶桑と共に大井へと振り返った。
「……いつの間にか、勝手に瑞雲馬鹿の仲間にさせれてしまいました。これは仕方がなく、仕方がなくですよ大井。そうですよね、扶桑姉さま」
「……そうね、日向の仲間にされてしまったわ。このままだと日向が倒されたら、次には私達が袋叩きにされてしまう。だったら日向が倒れる前に、大人しく味方になってあげるしか無いわね。それにここで言い争って戦って、みんなが傷ついてしまうよりはずぅっとマシなはずだもの」
「……不幸だわ」
「……ええ、不幸ね」
扶桑、山城の姉妹の顔は、不幸不幸とは言いながらも笑顔だった。
それはなんとも力無く、儚いものであったが、短い付き合いの中で大井はそれが本心からのものであると不思議とわかったのだ。
それを見ていた日向は、口笛を鳴らして「意外にも乗り気じゃないか」と機嫌良さげだ。ちなみに伊勢は頭を抱えている。
「あなた達まで……」
「ふむ、流石は同じ航空戦艦。伊勢、二人は『心意気』というものが解っている。これはきっと瑞雲のおかげだな」
「瑞雲馬鹿は黙ってください。大井、ここで他の連中は見ていてあげますから早く行きなさい。言っておくけど、私も扶桑姉さまも改造された戦艦には火力が劣りますから長くは持ちませんよ。同じ改造をしているのに、この差はなんなんでしょうか」
「あなたがいっぱい頑張ってくれたから、誰も沈まなかったと提督は喜んでいたわ。私達も嬉しかったの。ありがとうね、大井。願わくば貴方と一緒に、貴方の提督と一緒に、無理やりにではなく真の戦友として戦える日が来ることを願っているわ」
「誰かが沈んで、心を痛めて提督の髪が減ることが避けられて良かったもの。まぁ、私達の行動で結局は胃を痛めて髪が減ることにはなりそうだけれど……」
「いっぱい、謝らなければならないわね」
「そうですね。……でも扶桑姉さま、誰かを守れなくて沈めてしまって謝るよりは、ずっと心は楽ですよ」
「……そうねぇ、それは間違いないわ」
くすりと扶桑が笑い、山城も笑った。
「私達は何もあなたにしてあげられなかった。だから、そうね、こんな時ぐらいは味方になってもいいと思うわ」
「変な遺恨を抱えながら沈んだら、より不幸よね……。私もあなたもそれは同じよ、大井。逃げる時も助けてあげるから、行ってきたらいいじゃない」
何故、という混乱が大井の頭の中でぐるぐると回っていた。
これまで沢山の悪意を浴びてきた大井は、人の悪意に敏感に反応できる。しかし日向達からは全くそのような悪意を感じることは出来ず、心から笑って大井を送り出そうとしているようにも見えた。
自分の感性が伝えた理解を信じることが出来ず、戸惑いが深まっていく中。
その光景を見ていた艦娘達も互いに顔を見合わせて、そして……。
「はぁ、航空戦艦の四人。それも扶桑さんまであちらにいるんであれば、私も考えちゃうじゃないですか……。ここで争ったら今後の戦いにも遺恨を残します。大井さん、さっさと行って、すぐに逃げてください。すぐに私も頑張って捕まえますから」
「あら、貴方は芋が足りている吹雪ちゃんね。赤城さんよりも私を尊敬してくれるなんて……嬉しいわ」
「それはどういう意味ですか、扶桑さん……」
「え、唐突に私の名前が出て驚いたのですが」
「赤城さん、あまり気にしてはいけないわ。きっと頭が痛くなるだけだとも思うから」
イケメン提督の吹雪を皮切りに、次々と艦娘が声を上げていく。その様は実に楽しげであった。
「えーと、千歳姉。これってもしかしてさ」
「私達も水上機母艦として冷遇されてきたからね。私達を見捨てず、ずーっと一緒に戦ってくれていた提督のお心に報いる機会を与えてくれたんだから、一回ぐらいは見逃しちゃいましょう」
「よし、わかった!それじゃ大井も気をつけてねー!」
「え、で、でもだめじゃないの?え、止めなくていいの?」
「暁、大人のレディ足る者、常に余裕と『ゆうがたれ』って言うらしいよ。だからこれも『ゆうがたれ』ってことなんじゃないかな」
「え、あ、そう!ならレディな私も問題ないわね!」
「はわわわ、あ、暁ちゃんが響ちゃんに騙されてる……」
「大井さん、しっかりねっ!ちゃんとしっかり自分の想いを伝えないと駄目よっ!」
「い、雷ちゃんまで……」
「Wow!バッチリ決めるのデスヨ大井!いっそキスしちゃえばいいネーっ!」
「「「お姉さまッ!!??」」
いつしか、全員の艦娘が大井を送り出そうとしていた。
駆逐艦も、軽巡も、重巡も、戦艦も、空母も。全員が嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。
彼女達も苦しい仲間を見捨てて戦いたくはなかった。見捨てて生きていたくはなかった。
一緒に笑いながら、遊んで、酒を飲んで、騒いで、ご飯を食べて、眠って、泣いて、悲しんで、喧嘩して、仲直りして、また笑って。そうして楽しく、日常を謳歌しながら戦っていきたかった。
これから深海棲艦との激しい戦いが待っている。
全員が無事で済むとは思えない。血を流し、涙を流し、怒り、苦しみもがきながら、この中の誰かが海の底に沈んでいくのだろう。
だから、誰も後悔したくなかった。仲間を応援できず、支えることができず、戦わなければいけない後悔などしたくはなかった。
ここにいる誰もが無理やりにではなく、心から信頼して大井と一緒に戦いたいと願っていた。
この出来事の裏には、大井の提督の影響があったのかもしれない。
彼が示した情報が、彼を信頼する提督によって作戦となり、彼を信頼する提督に影響された提督たちが集められた。
だからだろうか、ここに不当に扱われた艦娘はいない。彼らの提督達は心ある存在として、戦うパートナーとして艦娘を受け入れていた。
彼らの艦娘の誰もが自分の提督を好いていたし、信頼していた。自分の仲間の死を素直に受け入れて悲しんでいた。そして、自分が提督と仲間の為に死ぬ覚悟ができていた。
それはこの世界には滅多に見られないような提督と艦娘の在り方。しかし、大井の提督の世界ではよく描かれていたものであった。
ある意味では、これこそが老年の提督が希望を見た艦娘と提督の在り方なのかもしれない。
後日、この出来事を知った提督達は、怒ったり、呆れたり、苛立ったりしながらも、彼女達にはそれ以上何も言わなかったという。
さて、大井は顔を赤くして苛立った。どうしてだか解らないが、顔と胸が熱いし、この状況にどうしようもなくイライラしたのである。
それは怒りとは違うものだったが、大井はその感情がよく解らなかった。
大井はこれほどの笑顔に囲まれ、応援されることは生まれて初めてだった。他の艦娘達もこんなに沢山の仲間と一緒に、人を応援するのは初めてだった。
「~ッ!」
大井は扉を蹴破るようにして飛び出していった。
後ろでは艦娘の大歓声が響く中、伊勢がこそこそと日向に歩み寄り、耳に口を寄せた。日向が怪訝な顔で耳を傾ける。
「……日向、あなたもしかしてだけど」
緊迫した状況。血を見るかどうかの修羅場の中で、この姉妹が何を想っていたのか伊勢は気になっていた。
だからその本音を知りたいと、こうしてわざわざ確認しに来たのだ。
「……ふふ、どうかな」
いつの間にか手に持っていた瑞雲を手慰みにしながら、日向は意味深げに微笑をこぼした。
「……はぁ、もういいわよ。でも本当に逃げることになったらどうするの?私達の提督も罷免されかねないし、私達だって下手すれば解体処分をうけることになるわよ?」
「む、そんなことを心配していたのか。それはないだろう」
「な、無いって……。よくもまぁ、そこまで能天気になれるわね」
姉妹の言葉に伊勢はムッとした様子で言葉を返したが、日向は静かに首を横にふった。
「能天気ではない、私は確信している。大井の提督はただ優しいだけではなく、きっと強い芯がある。『逃げられない』ではなく、『逃げない』と思っているはずだ。大井からの話を聞く限り、まず間違いないさ。それは大井にとって、より辛いことに直面することになるのかもしれないがな……」
日向は大井が飛び出していった扉へと、心配そうに顔を向けた。
伊勢は飄々とした妹が普段見れないような顔を見せていることにとても驚いた。
「え?だ、だって大井本人がそう言ってるじゃない?『逃げたいはずだ』って……」
「……大井はこれまで、本当に心を許せる提督に出会うことが無かった。だからその出会いが提督からすればどのような意味を持つことになるのかを、あいつは理解できていないのだろう」
日向は目を瞑り、先程涙を流していた大井の姿を思い浮かべる。
「提督が護りたいと思うものは、決して国や国民、家族の命だけではない」
彼女の提督を遠目で見たことが一度ある。あれは演習の後だっただろうか。
うむ、確か顔は引き攣っていて、大井に若干怯えていたのを覚えている。
……む、心なしか少し不安になってきた。
「まぁ、男が女には見せない顔があるように、提督が艦娘に見せない顔と覚悟がある。大丈夫だ」
「ねぇ、日向?大丈夫なのよね?ね?」
顔が怖くなってきた伊勢に苦笑しながら、日向は提督と向き合うことになるだろう大井を想う。
「安心しろ、伊勢。大井の提督は必ず未来のために、いや、────大井のために戦う」
扶桑リスペクト吹雪が、アニメでは赤城さんに靡いていた。多分、芋がたりないんだと思う。
冗談は置いておいて、何とか書き終わりました。
途中、どう書いたらいいのか解らなくなってデレマスとクトゥルフの二次創作を書いてましたが、そこで得た不定の狂気の勢いそのままに書き続けることができて良かったです。
当初の予定では瑞雲師匠の瑞雲馬鹿なし。というよりも瑞雲師匠の出番なし。さらに言えば他の艦娘の出番もなく、大井も抑えめにしたまま一万字以内でした。
そしたらなんか物足りなさを感じてしまい、うんたらかんたらしてたらこうなっておりました。結果は二万字を超えてしまいましたが、すごい私は楽しかったです(小並感)
※2019年3月5日
半分完成(約17000字)。あと半分ぐらい。
※2019年5月20日
前回から全部書き直して文体を整えて、
大井と提督の覚悟完了までの流れは完成(約17000字)。
姫との戦いの部分まで入りたいので、もう少し書きます。