続・君の名は。黄泉からの声・死霊の復讐   作:高尾のり子

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第3話

 

 

 三葉は早耶香と電車に乗りながらスマフォで通販サイトから敷き布団を注文していた。

「サヤチン、この国産綿100%の布団でいいんだよね」

「うん、それ」

「ごめんね、オネショして」

「もう謝らなくていいよ。布団も弁償してくれるわけだしさ。あと、半分は出すよ」

「え、いいよ。私が悪いんだから」

「それ、高いでしょ。三葉ちゃんが濡らした布団は、もう何年も私が使ったのだしさ。それを新品にしてもらうわけだから、半分くらい出さないと悪いよ。御祓いにもお金いるでしょ」

「うん、ありがとう。………御祓い、いくらかなぁ…」

「さっき、ATMで、いくらおろしたの?」

「とりあえず20万円」

「生活費は大丈夫?」

「大丈夫だよ、まだ貯金あるから」

 電車が目的の駅に到着し、二人で商店街を歩き、裏通りのビルにある占い師が営業している店舗へ入った。

「いらっしゃい」

「「……こんにちは」」

 一歩踏み入れて、あまり信用できない雰囲気を三葉も早耶香も感じた。ネットの口コミと地理的に近かったことで選んだ店だったけれど、そもそも占い師なのに御祓いもするのが、なんとなく雑多な感じがしたし、店の中に入ると、安っぽい鷹の剥製やガラス玉っぽい水晶玉が置かれていたりして、何より新興宗教のシンボルマークが掲げられていたので二人とも、ああ、あの宗教の系列か、と社会人として、そこそこ有名な新興宗教なので知っていたりした。

「どうする? 三葉ちゃん、相談する?」

「……うん……一応」

 わらにもすがる思いで、一応は三葉が相談してみると、いろいろと言われた挙げ句に50万円の印鑑を買えば、すべて解決すると押し売りモードに入ってきたので退店した。

「はぁぁ……サヤチンがいてくれて良かったよ。一人だったら買わされたかも」

「こういうとこ一人で来るのは危ないよね」

「付き合わせて、ごめんね」

「いいよ、次、行ってみよう、次」

 気を取り直して第二、第三の候補を訪ねてみたけれど、どこも嘘っぽい店舗が多く、もともと巫女をしていた三葉から見ると、いかにも安っぽいコスプレのような衣装を着ていたり、置かれている道具類も稚拙だったりして信用できなかった。それでも昼過ぎになって信用できそうな神社に付属した祓い屋を訪ねていた。

「…というわけなんです」

 三葉が心霊現象を相談すると、話を聴いていた老婆が三葉の顔を見つめてくる。

「…………」

「…………」

「三葉ちゃん、どうする? もう帰る?」

「……ううん……ここ、信用できそう……」

 少なくとも老婆が着ている巫女服は本物だったし着こなしも間違っていないので三葉は、ほのかに期待したけれど、老婆は首を横に振った。

「ワシには無理じゃ。お前さんに憑いておる霊の数が多すぎる」

「っ……そ、そんなに憑かれてるの……私……」

「三葉ちゃんに、どのくらいの霊が憑いているんですか?」

「百、あるいは二百、もっとかもしれん。村一つ丸ごとくらいの数じゃよ」

「「……………」」

 三葉と早耶香が悲壮な表情になると老婆は和紙へ、いくつかの神社や祈祷所の名称を書き出した。

「ワシには無理でも、もっと力のある御方なら、なんとかなるやもしれん。この中から、ご縁のありそうなところへ行きなされ。巡り合わせによっては救われるじゃろう」

「……。ありがとうございました」

 礼を言って表通りへ出てから、もらった和紙を見ていく。早耶香も見てみると、遠方の神社の名前が連なっていた。

「東北か、九州か……近くても三重県………。あとは、岐阜県の、ここだね………イヤかもしれないけど」

「……別に……イヤってわけじゃ……行きにくいだけだもん……」

 老婆が書いてくれた中には、新糸守神社、宮司宮水四葉の名があった。早耶香が三葉の背中を撫でた。

「ご縁もあるし、巡り合わせもあるでしょ」

「………そりゃ……妹だから……」

「もう宮司なんだ? 四葉ちゃん」

「…………よく知らないけど………私が東京に出たから、そうなるしかないかも………制度的には、どっかの大学を出ないとダメなはずだった気もするけど……うちは神社本庁から独立してる単立神社だから」

「ふーん……四葉ちゃん、まだ高校生だっけ?」

「うん……たぶん、2年生くらいだと思う」

「思春期後半かぁ……仲悪いの?」

「………連絡とか、あんまり取らないから。……」

「どうする? 他の神社にする?」

「………………」

 三葉がスマフォで時刻を見る。そろそろ日が暮れる。昼間は大丈夫でも夜になると怖い。そして、他の神社とは縁もゆかりもないし、東北や九州は東京から岐阜より遠い。

「明日は日曜日だし………来週にすると一週間も先に……」

「たぶん、三葉ちゃんが一週間も精神的に保たないよ。早く解決しないと危ないって」

「けど、糸守町に東京から日帰りは………、月曜には大事な会議もあるし……」

「今から行って岐阜市内に泊まって始発で糸守に入って、なんとか祓ってもらって帰れば月曜朝には間に合うんじゃない?」

「……うん………遠いけど………ついてきてほしい。もちろん、交通費とかも出すから」

 すがるように見つめられて早耶香は頷いた。すぐにタクシーを拾って電車を乗り継ぎ、東京駅から新幹線で名古屋へ向かう。新幹線が走り出すと、三葉はデッキから電話を瀧へとかけた。

「ごめんなさい。明日のデート、急にドタキャンして」

 約束していたディズニーランドへのデートを涙目で断っている。

「別にいいって。急な話だったし。それなら、それで会社説明会とか、参加するかもしれないからさ。泣くほどのことじゃないから気にしないで」

「ぐすっ…ありがとう。でも、本当にごめんね。いきなり一回目のデートでドタキャンなんて」

「いいって。オレ、お金ないしさ。女におごってもらってまでディズニーも無いだろうって思うから」

「そんなの気にしないで。私が行きたいだけだから。いつか、瀧くんと行きたいと思ってたから、まだディズニー、東京へ来てから一回も行ってないの。お金、あるから。今度、付き合って。お願い」

「うん、わかったよ。じゃあ」

「ごめんね。またね」

 電話を終えて座席へ戻ると、早耶香にも謝る。

「ごめんなさい、サヤチンだって明日、いろいろと予定あったでしょ?」

「気にしないで。とくに、ないよ。克彦はゼネコンだから休日出勤かかりやすいし。それでなくても結婚資金を残したいから、もうデートとか初々しいこと減ったからね」

「結婚資金かぁ……いくらくらい要るの?」

「それは結婚式の程度によって、ぜんぜん違うよ。ちゃんとホテルで挙式したら200万はいるかな」

「200万かぁ……さっきまで、あったけど、もう200は無いかな」

「けっこう貯金してたんだ」

 今朝から、都内の御祓い店を回ったり、新幹線の切符を買ったりしたので三葉の所持金は減っていたけれど、それでも就職2年目にしては多いと、早耶香が感心する。

「うん、まあ、デートしたりとか、しなかったから」

「休日もフラフラ散歩してるくらいだったもんね」

「だって、運命の人が、どこかにいるかもって思ってたから」

「運命の人か………よかったね、会えて」

「うん」

 頷いた三葉と、克彦に東京を離れることをメールで伝えた早耶香は寝不足だったこともあり、静岡県へ入る前に座席に座ったまま眠った。

 

 四葉が小学校に入学する日だった。三葉は中学2年生だったけれど、親代わりにビデオカメラを持って妹の入学式を撮影するために保護者席に座っていた。

「なつかしいなぁ」

 二年前に卒業した小学校の体育館に来るのは久しぶりで懐かしい。思い出してみると、本当に自分の小学校の卒業式以来になる。

「あそこでテッシーが転んだっけ……フフ」

 小学生だった頃を思い出し笑いしつつ、体育館の匂いを嗅ぐ。木とワックスの懐かしい匂いだった。

「卒業式でも、みんな泣かないんだよね。糸守の場合、中学卒業でも、そうなるかな」

 ドラマやアニメでは、よく卒業式で別れを惜しんで泣いたりするシーンが描かれるけれど、糸守町の場合、全員が同じ中学へ行くので誰も泣かない。中学から高校へあがるのでも、よほどスポーツに優れていたりしない限り、ほぼ全員が糸守高校へ行くので、やっぱり別れを惜しむことはない。

「高校を卒業するときは泣くのかなぁ……サヤチンやテッシーとは別れたくないなぁ。まあ、この町に住む限り、死ぬまで別れないけど」

 山奥の町独特の閉鎖された人間関係なので大学進学や就職で都市部に出ない限り、別れはあまり無い。三葉はビデオカメラの操作を確かめるため、電源を入れて体育館全体を撮った。もう保護者と在校生は着席していて、三葉は早めに場所取りしたので保護者席の中でも最前列の撮影に適した席にいた。

「最近の入学式は新入生と在校生を対面させるんだぁ」

 小さめの体育館の中央に演台が設けられ、出入口から遠い方に新入生の席が並び、それらの席は中央の演台を向いている。また出入口から近い方に在校生の席が並び、同じく中央の演台を向き、そして保護者席は新入生の左右に分かれて体育館の端に並び、新入生の方を向いていた。三葉は自分たちの名字がマ行なので四葉の出席番号は遅い方になると予想し、撮りやすいように奥の席の最前列に座っていた。

「ご来賓の入場です!」

「……お父さん、来るかな……まあ、来るよね」

 町長なので当然に宮水俊樹は来賓として招かれ、中央の演台に近い位置へ座った。

「一応、撮ってあげよう」

 主役は四葉だったけれど、とりあえずビデオカメラの操作に慣れるためにも俊樹も撮ってみる。ゆっくりと望遠してアップにすると俊樹も、こちらを見た。

「………」

「………」

 父娘の目が合った。けれど、俊樹から、撮らなくていい、四葉を撮ってやれ、という思念が飛んできた気がするので、三葉は舌を出して父親を撮るのをやめ、体育館の出入口へフォーカスする。

「新1年生の入場です!」

「四葉、ちゃんと撮ってあげるからね」

 賑やかな音楽が流れ、新入生が6年生と手をつないで入場してくる。すぐに妹の姿を見つけた。しっかりとした足取りで6年生の男子と手をつないで歩いてきた。

「四葉ァ♪ 四葉ァ♪」

 小声で呼びかけ、手を振ったけれど、目が合ったのに無視された。

「愛想悪いなぁ」

「「………」」

 式の最中なんだから余計なことするな、という思念が父と妹から飛んできた気がする。それでも手を振りつつ、四葉を撮る。

「四葉、あんなに立派に大きく育ってくれて……つい、この前まで赤ちゃんだったのに」

 四葉が生まれた時に7歳で小学生だった三葉は抱っこしたり、オムツを替えたりした四葉が大きくなったのを実感して、少し涙ぐんだ。担任となる教師が一人一人を呼んでいく。

「宮水四葉さん!」

「はい!」

「いい返事できたね、四葉」

 新入生の入場と点呼というハイライトが終わると、あとは校長や町長の長話になるので三葉はビデオカメラを膝の上においた。そして、ずっと意識しないようにしていたことに意識がいく。

「ぅ~……早く終わってよ。おしっこしたいのに……」

 早めに場所取りしに来たときから、ずっとトイレを我慢していた。

「昨日は温かかったのに……今日は、めちゃ寒いし……」

 四月で昨日は桜が咲きそうな陽気だったのに今朝は一転して真冬のように寒い。

「上着もってくればよかった……タイツも……」

 三葉は中学の制服で参加していた。妹の手前、きちんとしなければと制服しか身につけていないので、とても寒い。校則通りの白い靴下も、あまり温かくないし、上靴も小学校と共通だったので持参したけれど、薄っぺらくて寒い。わずかにビデオカメラのバッテリーだけが少し温かいので、それをお腹に抱いて暖を取る。

「続いて、糸守町の宮水俊樹町長よりお言葉をいただきます」

「新入生のみなさん、ご入学おめでとう! そして、ご列席の保護者のみなさん、今日という日を、お子さんが生まれた日から待ち望んでこられたことでしょう。立派に育った息子さん、お嬢さんの姿を見て胸が熱くなることと…」

 町長らしい挨拶をしているけれど、もう三葉は尿意を我慢するのに必死だった。もともと父の挨拶は撮る予定でもないので、制服のスカートを少しでも温かいように腿へ巻きつけて両手で押さえているけれど、寒くて震えてくる。

「…ぅぅ……震えるとチビりそう……」

 おしっこを我慢するためにはジッとしたかったけれど、まったく動かないでいると寒くて漏らしそうで、身体を温めるために震えると、それはそれで振動で漏らしそうになってくる。

「……お父さん……早く…終わって……」

「この糸守町は小さな町です。けれど、みんなが協力して町づくりを…」

 こういった席は政治家にとって重要な演説の場なので保護者からの票を意識しつつ、小学生にもわかるレベルで噛み砕いて俊樹は熱心に話している。

「…………もう無理……途中退席ってダメなのかな……」

 三葉は周りを見る。自分が小学生なら先生に頼んでトイレに行かせてもらうところだったけれど、今は中学生で、しかも立場が保護者なので対応がわからない。小学校の先生にトイレに行きたいです、と言うのは変な気がする。黙って席を立とうかと思ったけれど、小さな体育館に所狭しとイスが並んでいるので、退席するには中央の花道を通るしかない。今まさに演説している父親のそばを通って出て行くのは、目立ちすぎてありえない。

「あ~っ……ハァっ……ハァっ……」

 三葉は寒いのに、額と両腋に汗が流れるのを感じた。額の汗がビデオカメラに落ち、腋の汗が腕を流れて肘まで滴ってくる。三葉が前屈みで尿意に耐えていると、四葉と目が合った。

「………」

「………」

 四葉は姉の表情と姿勢で、だいたい察した。

「はぁぁ……」

「ぅぅ……タメ息つかないでよ……お姉ちゃん、大変なんだから……ぅぅ…」

 妹にタメ息をつかれてしまった。

「少子高齢化という言葉があります。子供が少なくなり、お年寄りが増えていくという意味です。今、糸守の町に、子供たちの声が響き…」

 まだまだ俊樹は語っている。三葉は、おしっこを我慢することだけに集中していたけれど、寒さのためにクシャミが出た。

「くしゅん! っ?!」

 クシャミでお腹に力が入ってしまい、おしっこが溢れてくる。

 じょわじょわ…

 三葉はショーツが生温かく濡れる感触を覚え、身震いした。

「ヤダ…止まって…」

 まさか妹の入学式で姉がおもらしするわけにはいかないと、両手を股間にやって全力で押さえた。周囲に見られて変に思われることを気にしている余裕もなく、やや脚を開いて、その分だけ両手を押し込み、指先で噴き出してくる小水を手が攣りそうなほど力一杯に押さえて耐える。

「はうぅ……もれるぅぅ…」

 もう三葉の膀胱は一気におしっこを出したがっていて、クシャミで漏らした流れのままに放水しようと収縮してくる。

 しょわ…しょわ…

 指先で押さえているけれど、その隙間から漏れてきて止まってくれない。

「いうぅうぅぅぅ…」

 収縮したがる膀胱に逆らって、漏らしているのを指先で無理矢理に押さえつけると、膀胱がズキズキと痛い。いつの間にか半開きになっていた口からヨダレまで垂らしてしまうほど苦しいけれど、両手で押さえていないと漏らしてしまうのでヨダレは垂れるまま三葉のスカートに落ちる。

「ぁあぁ…うはぁぁ…」

 小声で呻きながら三葉は頑張った。その姿は、どう見ても変だった。切迫した表情で女子中学生が自分の股間へ両手を入れているのは普通ではなかったし、制服のスカートも押さえているために腿の半ばまでめくれてしまっている。それでも三葉が注目されなかったのは、だいたいの保護者が自分の子供を見ていたり撮っていたりしたおかげで隣席の人でさえ脚を拡げて座る行儀の悪い女子中学生くらいにしか感じていなかった。

「…ハァ……ハァっ……勝った…」

 膀胱が強烈に収縮すること3回、その噴き出しそうな流れを圧迫して放尿してしまうのを押さえ込むと、波が引くように楽になるのを感じた。

「ハァ…ぁぁ…ハァ…お姉ちゃん、勝ったよ」

 しばらくは大丈夫、けれど次はもう無理という状態で、小さな勝利に喜び、そっとスカートを見下ろすと、押さえていた部分が小さく濡れていた。

「……これくらいなら大丈夫……お茶、零したくらい……」

 スカートは栗の実ほどの大きさに濡れているけれど、なんとか目立たないはずだと思えた。けれど、もしも次に膀胱が収縮しかけたら、押さえきれない気がする。三葉は体育館を脱出してトイレへ向かう方法を考えたけれど、何も思いつけない。そんなときだった。少し離れた席の保護者が携帯電話を持って、立ち上がると申し訳なさそうに出て行った。

「………そっか……保護者は自分の判断で出て行っていいんだ………」

 おそらくは仕事上の重要な電話なのだろうと思われ、入学式の最中なのに中央の花道をコソコソと中腰で走り去っていく姿を見て、三葉も決断した。このまま漏らすより脱出しようと試みる。そっと同じように立ち上がって、体育館の奥から中央へと歩く。

「糸守町の小学生は……元気に山道を歩いて学校まで…」

 娘が席を立ったのに気づいて俊樹は、こんなときに立つのか馬鹿者が、という目になったけれど、立場をわきまえているので演説を続ける。

「登校してくれるでしょう。その健脚が未来の糸守町を支える日が…」

「………」

 三葉は中央に近づいたので中腰になって目立たないようコソコソと俊樹のそばを通り抜け、左右に在校生が座っている花道を進む。小学生であれば勝手に席を立ったことで教師が注意しにくるところだったけれど、もう中学生なので誰も何も言ってこない。何か事情があって席を立つのだろうと、まったく干渉されない。けれど、立ち上がってから気づいたことに、スカートの後ろをかなり濡らしてしまっているようだった。スカートの前は栗の実くらいにしか濡らしていないけれど、後ろはカボチャくらいに濡れているのが触った感触でわかるし、それ以上に濡れている下着からポタポタと滴が歩く度に体育館の床に落ちていく。こんなことに気づかれたら恥ずかしくて生きていけないと、三葉は中腰になりつつ両手でお尻を覆いながら歩く。

「この良き日に入学される子供たち…」

「……うっ…」

 中腰で歩いたせいで三葉の膀胱が、また収縮して放尿しようとしてくる。三葉はお尻を覆っていた手を前にやって押さえ込もうとした。ここで漏らすのは絶対にイヤだと、立ち止まって脚を開いて両手で力一杯に股間を押さえる。

「痛、いぐっ…」

 けれど、今度の収縮は強烈で、さきほど押さえつけられた膀胱が怒っているかのように煮え立ち、身体の反射なのか腹筋にまで力が入って、おしっこを出そうとしてくる。

 プシャ!

「ひっ…痛っ…」

 もう、おしっこを出したいという感覚程度ではなく、激痛が膀胱に走り、これ以上は破裂しそうで手で押さえる力も入らなくなってしまった。

 プシャぁあ! しょわああ!

「うぐううううう…」

 呻きながら三葉は漏らした。止めよう、我慢しようと、それでも頑張って力を入れるけれど、もうどうにもならない。決壊した堤防を押さえられないように次から次へと、おしっこが溢れてきて止まらない。すでに濡れていた下着は、まったく吸収してくれず内腿へお湯をあてられたような温かい感触が流れ落ちていき、それが膝へ拡がり、ふくらはぎ、足首も濡れていく。同時に、股間の真ん中からも黄色い滝が体育館の床へ降りそそぐ。

 パシャパシャパシャ!

 おしっこで黄色い泉が体育館の床に拡がると、寒い体育館なので大きな湯気がのぼった。

「最後に、もう一度、ご入学おめでと…う、と言って私の言葉を………………」

 演説していた俊樹も長女が、おもらししているのに気づいて思わず黙り込む。俊樹が黙ると、体育館がシーンと静かになった。

 パシャパシャ! ジョボジョジョ…ポチャ…ポチャ…

 静まりかえった体育館に三葉が漏らす音だけが響く。

「…ぅう……ひぐっ…」

 一歩も動けなくなった三葉のそばにいる在校生たちも驚いている。

「あれって、おもらし?」

「中学生が?」

「ホントだ、漏らしてる。カッコ悪」

「中学生って、おもらしする?」

「あの制服って中学だよな」

「なんで中学生がいるの?」

「もらすから小学校に落とされたんじゃね」

「きゃははは、落第したんだ」

「一年からやり直しで入学かもよ」

 はじめは小声だった在校生たちの笑い声がだんだん大きくなってくる。三葉は見たくないのに、まわりを見渡してしまい、体育館にいる誰もが自分を見ていることに絶望していく。それでも助けを求めるように俊樹を見た。

「ひぐっ…ぅうっ…お父さん……助け…」

「………」

 一瞬、俊樹も迷った。親として、おもらしした娘を助けてやりたい気持ちも芽生えた。けれど、演台にいる俊樹は公人として振る舞うことを選んだ。

「私の言葉を締めくくらせていただきます。ご入学、おめでとう!」

「…ぅう…」

 本来、拍手が起こる場面だったけれど、ありきたりな挨拶より誰もが三葉の失禁に驚いていて拍手が起こらない。もう、おしっこは止まったけれど、三葉は涙が止まらなくなっている。おもらしして泣いている中学2年の娘を見て、俊樹は苦々しくつぶやいた。

「…恥さらしな…」

 その声はマイクには拾われないほど小さかったけれど、三葉には聞こえてしまった。

「ひっ?!」

 三葉の父親への最後の期待と、14歳の少女としての乙女心、そして姉としてのプライドが、まるでワイングラスを床へ叩きつけたように割れて砕け散り、粉々になった。

「うっ…うぐっ…うわああああん!!」

 三葉が大声で泣き出した。

「ひええええん!!」

 もう心を支えるものが無くなって幼女のように泣いている。

「うわあああん! わああああん! お母さんんぅぅ!」

 何かに助けてほしくて、この世にいない母親を頼るほど心が幼児に戻っていく。

「お母さんぁああ! おしっこもれたよぉおお! お母さんぅんうぅ! ひええええん! ちっこ出たのぉお! ママぁああ! あああっーああんん!」

「「「「「……………」」」」」

 笑っていた在校生たちも、これには黙った。すべての町民が三葉の母親が早世したのを知っているし、大声で泣く三葉を見てからかう気にもなれない。泣き続ける三葉のスカートを四葉が引っ張った。

「保健室ってとこ、行くよ」

「ひぐっ…うぐっ…ひうぅ…」

 そういえば、春休み中に妹へ、小学校では気分が悪くなったり、服が汚れたりしたら保健室へ行くんだよ、と教えた気がする。四葉に引っ張ってもらうと、一歩も動けなくなっていた脚が少しずつ歩けるようになって両手で顔を隠しながら体育館を出た。

「ひぐっ…ひっく…」

「保健室、どっち?」

「ぐすっ…あっち…」

 泣きながら妹と保健室へ入った。

「いらっしゃい。どうしたの?」

「おしっこ漏らしちゃって」

 四葉が答えた。

「あらあら大変ね。………」

 児童を傷つけないように、おもらしの始末をするのに慣れている養護教諭は四葉の下半身を見て濡れていないので首を傾げる。四葉は入学式らしい上等の衣服を着ているけれど、どこも濡れていないし、ちゃんと着ている。

「………もしかして、漏らしたのは、お姉さん?」

「ひぐっ…ぅうううぅ…」

 泣いているのは三葉で、よく見ると靴下や脚が濡れている。つい新1年生と中学生が入ってきて、おしっこを漏らしたというので四葉に違いないと反応したのが余計に三葉の心を苛んだ。

「あうぅう…お母さんんァ! うええぇえん!」

「………」

 あまりにショックで幼児退行しているのを見て取った養護教諭は三葉をカーテンのあるところへ案内する。

「こっちで脱ぎましょうね」

「ぐすっ…ひっく…」

 いつまでも濡らした衣服を着ていたくないので三葉はカーテンの中でスカートとショーツ、靴下を脱いだ。

「ぐすっ…うぐっ…ひっく…」

「こういうパンツしかないけれど、これで我慢してね」

「はい……ぐすっ……ありがとうございます…」

 渡してもらったのは小学生の女児が着るような、もこもことした女児パンツだった。こういうパンツを卒業して、もう3年くらいになるけれど仕方なく着けると、ぎりぎりサイズは合った。

「服はどうしましょう。………Lサイズの体操服ならあるけれど……」

 三葉の身体でも着られそうな体操服はあった。ただ、小学校の体操服なので上が中学校の制服のままだと、いかにも不格好で他人に見られて笑われそうだった。

「いっそ、上も体操服に着替えますか?」

「…………はい、……そうします。ぐすっ…」

 三葉は2年ぶりに小学校の体操服を着た。やはり胸が目立つほど成長していたけれど、今は気持ちが沈んでいて、そんなことはどうでもいい。養護教諭が保健室の外を見て言う。

「着替えは終わったけど、今出て行くと人が多いわね。少し待ってからにしますか?」

 もう入学式は終わって、新1年生と保護者たちは帰っていくけれど、記念撮影をしたりしていて、その近くを通って帰るのは苦痛だろうと配慮してくれる。

「…ぐすっ…」

 頷いた三葉は20分ほど保健室で啜り泣きながら時間をつぶし、四葉はランドセルを教室へ取りに行き、戻ってきた頃には人が少なくなったので校門へ出た。

「ぐすっ…ひっく…」

「三葉」

 俊樹が声をかけてきた。

「歩いて帰るのはイヤだろう。送ろう」

「……………」

 返事はしなかったけれど、三葉と四葉は俊樹の車で帰宅し、三葉は午後からの中学校の入学式に在校生として参列することになっていたのは欠席したし、家の中で何度も泣いた。

 

 新幹線の座席に座ったまま寝ていた三葉は早耶香に揺り起こされていた。

「三葉ちゃん、三葉ちゃん」

「……お母さん……」

「起きて、三葉ちゃん。もう名古屋に着くよ」

 早耶香は揺り起こしている三葉が泣いているのに気づいたし、さらに座ったまま、おしっこを漏らしているのにも気づいた。

「………また、オネショしてる………もしかして、これも呪いなのかな……」

 ぐっしょりと三葉が座っているシートと私服のズボンが濡れていて、早耶香の方まで濡れそうになってくるので立ち上がった。

「三葉ちゃん、起きて」

「…うう………サヤチン? ……ぐすっ……入学式は……」

「なに言ってるの?」

「あ……新幹線……」

 三葉は状況を思い出した。そして、おしっこでズボンと座席が濡れているのにも気づいた。

「………ううっ……」

「よく寝てたから仕方ないよ」

 いい慰めが浮かばず、早耶香は三葉の頭を撫でた。三葉が顔を伏せて真っ赤になり、ぽろぽろと涙を零した。

「…ぐすっ……ひっく……なんで……あんな夢……今さら……」

「なにか、イヤな夢でも見たの?」

「……………四葉の小学校入学式へ行ったときの……こと…」

「ああ、あの……大変だったらしいね」

 早耶香も直接に見たわけではないけれど、中学2年の入学式に三葉が来なかった日に小学校で起こったことは噂話で聞いた記憶があるような気もしないでもない。

「最近、変な夢ばっかり……」

「とにかく降りよう。もう到着だから」

「……こんなカッコじゃ……」

「仕方ないよ。着替えもないし。ずっと乗ってても大阪に行っちゃうだけだよ」

 二人とも急に決めた移動なので着替えなどは持っていなかった。名古屋駅のホームに降り立つと、ぐっしょりと濡れたままの三葉のお尻は目立った。

「ぐすっ……乗り換え、どうする?」

「かわいそうだけど、3分しかないから、このまま行こう。大丈夫?」

「……大丈夫じゃないけど………行くよ。顔、隠してたいから、手を引いて」

「うん。じゃ、こっち」

 顔を伏せて片手で隠している三葉の反対の手を引いて、早耶香は乗り換える。すぐに乗り換えないと終電なのでやむを得なかった。岐阜へ向かう在来線に乗ると、三葉はお尻を隠すように壁際へ立った。あまり混雑していないけれど、早耶香も密着するように三葉の前へ立って、隠してくれる。

「ぐすっ……ごめんね…」

「いいよ。あ、岐阜で泊まるところを探しておかないといけないね」

「そうだった……うっかり寝ちゃって…」

 二人でスマフォを操作して宿泊先を探す。

「シングルしか無いね」

「こっちも……」

「やっぱり、三葉ちゃん、私と二人で寝たい?」

「お願い。いっしょに寝て」

 二人の会話が、たまたま聞こえていた周囲の乗客がチラリと三葉と早耶香を見た。密着するように立っている二人を何度か見て、それから都会らしく興味を無くして見なくなる。三葉と早耶香もスマフォで宿泊先を探すのに専念するけれど、当日予約で、すでに終電時刻なので空き室があるのはシングルのビジネスホテル系ばかりで二人で寝られそうな部屋は一つも見つからない。早耶香が検索方法を変える。

「仕方ない。ラブホとかにする?」

「あ、そっか。ああいうホテルなら二人以上が基本だから。……サヤチン、けっこうテッシーと行ったりしてるの?」

「たまにね。けど、基本、克彦の部屋だよ。あんな、いいマンションあるのに旅行でもない限り、使わないよ。三葉ちゃんは使ったことある?」

「エヘへ、こないだ初めて使ったよ」

「いきなりラブホに連れ込まれて、彼氏、びっくりしたでしょうね」

「だって、やっと会えて嬉しかったんだもん」

 瀧との再会時の話をしているうちに岐阜市に到着し、二人はタクシーで最寄りのラブホテルへ行った。なるべく新しくてキレイなラブホテルがいいとタクシー運転手に告げたので、それなりの施設に来ている。ロビーで、いくつかある空き部屋から二人で選んでいるときだった。

「三葉ちゃん、ここにしない?」

「ここ? ……SM部屋って……なんで?」

「だって、鞭とかありそうじゃない。あったら、夕べの続きで、お仕置きするから」

「ぎくっ………」

 さっきまで優しかった早耶香が今は昨夜と同じような表情をしているので三葉は生乾きになっているお尻に疼きを覚えた。布団叩きと鞭、どっちが痛いのだろうと怖くなる。

「……お手柔らかにお願いします」

「それは三葉ちゃんの態度次第かな。フフ」

 二人はSM部屋に入っていった。

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