続・君の名は。黄泉からの声・死霊の復讐   作:高尾のり子

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第6話

 

 日曜の夕方、名古屋から東京へ向かう新幹線の中で、三葉はスマフォを確認して早耶香から振り込まれた金額を見て、驚いて問う。

「え……? こんなに? 50万じゃないの?」

 早耶香からは借りる予定の50万円を大きく超える振込がされている。

「貸すのは50万だけど、あとは請求された畳代とか、15万円分は私が汚したのだしさ。今回の旅費が三葉ちゃん持ちなのは当然としても、食事代やビール代まで出してくれてたでしょ。さすがにアゴアシつきじゃ気が引けるから」

「……でも、私の都合で引っ張り回して……」

「隕石で死んでたかもしれないって話が本当なら、三葉ちゃんには助けてもらったことになるわけだから、その分も含めて、もらっておいて。遊びに使った鞭代とか、仮面代まで持たせてるしね。50万しか振り込まなかったら、230万を四葉様に振り込んだら、給料日まで一文無しでしょ。せっかく、彼氏ができてデートもしたいだろうにお財布空っぽじゃ気の毒だよ」

「ぐすっ…ありがとう、ありがとう、サヤチン。この恩は一生忘れないから」

 三葉は友情に感涙を流し、遅くならないうちに四葉へ230万を振り込む操作をした。

「これで一件落着……だと、いいけど……」

「この子たち、憑いてきたね」

 早耶香が目の前にいる三葉霊と早耶香霊を見る。新幹線の中、シートを四人がけ対面にして座っているので霊たちと向かい合っていた。重力に無関係に飛び回る霊だったけれど、今は気分なのか、人間のようにシートへ座って、まるで修学旅行のように寛いでいる。

(サヤ婆、そこのチョコレートを食べて)

 早耶香霊が早耶香に言ってくる。名古屋駅で買った有名チョコを指していたので早耶香が自分の口に入れた。

「(…………ん~、美味しい。やっぱり、いい店のチョコは違うね)」

「サヤチンとサヤチンの霊って感覚が共有できるんだ? 私と、私の霊も?」

 三葉の問いに三葉霊が答える。

(共有したいと思う感覚ならできるみたい。逆に、こんなこともできるよ)

「うわっ?!」

 三葉の右手が本人の意志に関係なく動いて駅弁についていた辛子チューブを取ると、それを三葉の口の中に吸わせた。

「ぅぅ~…辛いぃぃ…」

(きゃっははは!)

 三葉霊は嗤っていて、辛さは共有されていない様子だった。早耶香が心配そうに言う。

「つまり、私たちの身体を自由に操れて、感覚も共有したければするし、したくない体験はオフにできるってこと?」

(そうそう、チン婆、賢いね)

「せめて、サヤは残してよ。若い三葉ちゃん。あと、できれば婆もやめて。私たちは自分なんだよ?」

(17から見たら24は完全に婆だよ、チン婆。ね、サヤチン)

(サヤ婆もミツ婆ちゃんも老けたねぇ)

「「………自分に言われたくない」」

((きゃははは!))

 嗤っている二人とも、17歳の姿なので糸守高校の夏服がよく似合っていた。

(さてと、そろそろ婆三葉に、どんな復讐をするか、考えよっか。とりあえず、ここでオナニーでも始めさせよ)

「きゃ?!」

 三葉の両手が勝手に動いて自分の乳房を揉み始めた。

「ちょっ、やめてよ。こんなところで変に思われるから!」

 新幹線車内で自分の乳房を揉み続ける女という状況にされて、三葉は恥じらって真っ赤になった。

(きゃははは!)

「お願い、やめて。すごく恥ずかしいから!」

(私たちは死んだんだし、お前には死ぬほど恥ずかしい目に遭わせてやる)

 さらに三葉の右手は乳房からズボンのチャックまでおりて、開けたチャックの中へ入ると、下着に滑り込み、リズミカルに動き始めた。一目で自慰中だとわかる姿にされた。

「や…やだ……」

「三葉ちゃん……」

 かわいそうになって早耶香が上着をかけてやろうとしたけれど、早耶香霊が止めてくる。

(サヤ婆は余計なことしないで見てれば)

「うっ……私の手も勝手に……」

 上着をかけてやろうとした手が意に反して止まり、またチョコレートを食べる。

(ん~美味しい♪)

「あんまり食べないで。ダイエット中なの」

((よく太ったよねぇ))

「ぐぅぅ…」

(結婚式前にテッシーから見放されないでよ。せっかくセレブになる予定なんだから)

「そんなこと言われなくてもわかってるから食べさせないで!」

「…ハァ……ハァ……ぁあぁ……やめて……このままじゃ……私……」

(きゃはっは! 感じてる、感じてる、そろそろイキそうなんでしょ)

(こんなところでイクなんてミツ婆ちゃん、恥ずかしい女ね)

「んぅうっ……やめて……お願い…ぁあっ!」

 三葉が拒否しようとしても身体の高鳴りまで強制されて、どうにも限界を迎えてしまった。せめて喘ぎ声をあげないようにと口を閉じたのに、それさえ開かされてヨダレも垂らしてしまった。

「んあぁあぁっ……ハァ……ハァ……」

((イってる、イってる。人前で、よくやるよね))

「…ぐすっ……ひっく……ぅううっ…」

 もう思春期は終わったけれど、大人の女性として三葉は恥ずかしさと悲しさで泣いた。ときおり通りかかる他の乗客からの冷たい視線が心を苛むほど痛い。とくに家族連れなどは子供に三葉の姿を見せないように目隠しして、露骨に三葉を睨んでから通り過ぎていく。早耶香が気の毒になって、つぶやく。

「これで本当に状況はマシになったのかな……血まみれのお化けよりは怖くなくなったけど、高校時代の私たちって、こんなに性格悪くないはず……」

(じゃあ、サヤ婆は17歳で死んじゃう運命で納得できる?)

「それは……たしかにイヤだけど……自分に嫉妬して自分に嫌がらせしても……何も解決しないよ?」

((気が晴れる))

「……まさに悪霊ね……しかも低俗霊……」

「……ぐすっ……」

 いつまでも泣かずに三葉はハンカチで涙を拭くと、衣服を整えて座り直している。それでも恥ずかしいのでハンカチで顔を隠していた。なんとか精神的に立ち直ろうとしているのに、さらに三葉霊が追加攻撃する。

(さて、次は、そこの通路に立って、おもらししなさい)

「……それは迷惑だから……」

(今まで、さんざん都内の高校前にマーキングしてきたくせに。今さら? 早く漏らせ、婆三葉)

「………今……そんなに、おしっこしたいわけじゃないから……」

(だから、ズボンに染み込むだけで床は汚さないで済むから、早くしなさい)

「……………。どうせ! 拒否できないんだから! やらせればいいじゃない!」

(何その言い方。操るの面倒だし、自分でしなよ。こういうのは、あえて自分でする方が屈辱的でしょ? きゃははは!)

「…………」

 三葉が黙って顔を伏せていると、三葉の手が勝手に動いてスマフォを出した。

(しないなら恥ずかしい写真を撮って立花に送るよ)

「っ…やめて! それだけは、やめて、お願い!」

(じゃあ、そこに立って、おしっこしなよ。おもらしがイヤなら脱いでしてもいいよ)

「…………」

 三葉はストレスで顔を引きつらせながら、立ち上がると新幹線車両中央の通路に立った。立つと、まわりの乗客からの視線を浴びて身体が硬くなる。さきほどまでの行為を見かけた乗客もいるので視線は好奇心か、嫌悪感に彩られている。

(サヤチン、他の乗客から撮影されないか、見張ってて)

(了解)

 早耶香霊が車両内を飛び回って三葉をスマフォなどで撮影している者がいないかチェックし始める。早耶香が不思議に思った。

「若い三葉ちゃん、そういう配慮はしてあげるの?」

(だって、いずれ融合するのに、新幹線の中でおもらしする映像なんかネットに流れたら生きていけないじゃない。いい歳した大人が、しかも見せつけるように、わざと漏らすなんて記録が残ったら、たまらないよ)

「……だったら、やめてあげなよ……」

(ほら、早くしないと、またオナニーさせるよ)

「…………」

 三葉は屈辱感で身震いしながら、下腹部の力を抜いた。

 じわぁ……じわぁ……ちょろちょろ…

 三葉のズボンが濡れてシミが拡がり、内腿から膝あたりまで変色して誰が見ても小便を漏らしたのがわかるようになった。

(きゃははは! ホントにしちゃったよ、この人)

(よく人前で、そんなことできるよね)

「……ぐすっ……ひっく……」

(あ、また泣くよ。いい歳して泣くよ)

(ミツ婆ちゃん、お目めもおもらしかな?)

「……」

 命令に従ったので三葉が席へ戻ろうとすると、冷たく言われる。

(そんなカッコで座る気? シートが汚れて迷惑でしょ。そのまま通路に立ってなよ)

「…………」

 三葉は顔を伏せたまま、通路に立ちつくした。早耶香は胸が痛くなるほど憐れに思ったので言ってみる。

「ねぇ、もう十分じゃないかな?」

(まだまだ生き地獄を味わうのは、これから。東京に着いたら、立花のとこに行こう)

「それだけは許してください」

 三葉が頭を下げて、悲運の最期を遂げた自分の霊に言う。けれど、三葉霊は幸運だった自分に冷酷だった。

(サヤチン、どんな目に遭わせるのが、いいと思う?)

(ん~……あ、そうだ。運命の人とか言ってるから、その愛を試してみたら?)

(どうやって?)

(それは……オナニーでもさせてみる? しかも、彼の家の玄関先とか、台所とかで、いきなり始めるの)

(うわぁぁ……それは普通の男なら引くね。ドン引きだよ。どんだけ盛りのついた女だよ、って思うね)

(けど、運命の人なら愛が深まるかもよ。クスクス)

「よ、四葉が、これからは普通の恋愛になるからって。お願い、変なことさせないで、私、瀧くんに見放されたら生きていけない!」

「三葉ちゃん、あんまり大きな声を出さないで。他の人には、この子たちが見えてないから私がイジメてるみたいに見えるから」

 ついつい、三葉霊と早耶香霊の姿が見えて声が聞こえる二人は忘れそうになるけれど、周囲の人間には見えないし聞こえないので、通路に立って三葉が頭を下げて懇願していると、まるで早耶香がさせているような構図になる。ときおり三葉や早耶香が空中に向かって話しているようにも見え、四人がけのシートを二人で占領していても、とても怪しい雰囲気なので自由席だったけれど、誰も近づいてこないほどだった。

(まずは玄関先でオナニーさせて、それから上がり込んで台所に放尿させよう)

「っ……ィや……イヤっ……お願いっ……どうか、……瀧くんの前だけは…」

(さらに、女として終わってる姿を………あ! 最悪なの思いついた)

(なになに、どんなの?)

(すっぽんぽんになって踊って、踊りながら下の毛を自分で毟るの)

(うわぁぁ……)

(で、毟った下の毛を立花と、その家族がいたら、そいつらにも投げつけるの。タッキむかつく! とか意味不明なことを叫びながら、下の毛が無くなるまで毟って投げるのを続けさせるの)

「「(…………)」」

(えぐいでしょ?)

(かなり……それで見放されなかったら、立花くんの愛はダイヤモンドより硬いか、もともと彼が変な人だったか、女性に求めるものが品性とか人格じゃなくて、下品なお笑いな場合くらいじゃないかな)

「………ゆるして…………イヤ………絶対………イヤ……」

(きゃははは! めちゃ嫌がってるし、これに決定ね)

「……イヤ…………イヤ………」

(どんなにイヤがっても身体を操って、やらせてやるから楽しみにしてなさい)

「…………」

 絶望のあまり立っていられなくなり三葉が通路に座り込んだ。三葉の表情から生気が消えていくので早耶香が心配する。

「三葉ちゃん、しっかりして」

「…………………あ………テッシー……テッシーの前で、それをするから、ゆるして」

「(はァ?)」

 早耶香と早耶香霊が氷のように冷たい怒気で問い、早耶香の手が三葉の胸倉をつかんだ。

「あんた、何言ってるか、わかってる?」

「………うん………わかってる…」

「まだ懲りてない? 次は本気で叩きのめすよ」

 さっきまで心配していたのに、婚約者のことが関わってくると、もう女の友情は雲散霧消して、排除すべき敵として睨みつけている。

「あんた、私からお金まで借りておいて、この上、どんだけのこと晒す気よ? 克彦に手を出すってことは、もう徹底的につぶすよ」

「………心配しなくても………テッシーだって、二度と私と関わりたくないって思うほど私のこと嫌うよ………部屋に来て、おしっこして……裸で踊って……毛なんか投げて……二度と顔も見たくないって、私を部屋から蹴り出して………本当にサヤチンと婚約しておいて、よかったって……私が盗るなんて可能性……まったく無くなるよ……」

 ぽたっ……ぽたっ……

 そう語る三葉は涙を流していたし、表情筋にさえ力が入らないのか、ヨダレも垂らしている。その涙と唾液が胸倉をつかんでいる早耶香の手に落ちてくる。早耶香は三葉の瞳を見て、敵対心より心配が上回った。もう三葉の瞳は焦点が定まっていない。手足にも首にも力が入らないのか、ダラリとしている。

「……二度と……相手にされない………消え失せろって……完全に嫌われる………サヤチンを裏切ったりなんかしない……できない……ただ、嫌われにいくの……お願い……テッシーの前で、……させて……。瀧くんの前だけは……イヤ……」

「三葉ちゃん………」

「………あ……東京駅でするよ……裸になって踊るよ……毛も撒くよ……それで…ゆるして」

(それは逮捕されるからダメ。あと、旅の恥はかき捨てみたく、まったくの他人の前より、人間関係がある方が苦しいでしょ? テッシーもいいけど、やっぱり立花かな)

「若い三葉ちゃん、これだけ嫌がってるんだから、せめて立花くんの前だけは、やめてあげようよ。他に……たとえば、会社で何かさせるのは? それなら人間関係もあるし」

(それは絶対ダメ。せっかく、いい会社に就職してるんだから続けたいし。もしも辞めることになったら今の世の中、どうせ派遣くらいしかないし。そうなったらチン婆にも、サヤチンにもお金を返せなくて申し訳ないし)

「申し訳ないと思うなら、さっさと融合してあげなよ」

(それは別腹)

「………微妙に手加減しつつ、三葉ちゃんを苦しめる気なのね……会社は続けたいとか……妙に人間臭いし……」

(だいたいさ、立花って内定も取れて無いよね? あんなんより、テッシーの方がいいよ。今からでも考え直し…うぐっ?!)

 三葉霊は強烈なボディーブローをくらって呻いた。さらに早耶香霊が膝蹴りも入れて三葉霊を吹っ飛ばした。

「霊同士だと肉弾攻撃が当たるんだ……ナイス!」

 早耶香が親指を立てると、早耶香霊もガッツポーズした。

(うぅぅっ……ごめん、サヤチン……つい…)

(つい、で人の婚約者を狙うな!)

「やっぱり油断のならない本音を持ってるね」

「………瀧くんさえ……いれば……いいよ……テッシーには嫌われるから……」

「三葉ちゃん……、このままだと三葉ちゃんは気が狂うか、どうにかなるよ! 若葉ちゃん! 立花くんに手を出すのはやめてあげなよ! 融合先が無くなるかもよ!」

((あ…微妙に略した……))

「そんなことは、どうでもいいから! 立花くんはやめてあげよ! 三葉ちゃんが、ずっと探してた人なんだよ! きっと、彼にフラれたら三葉ちゃんは生きていけないよ! 大学に行ってたときも、ずっと探してたんだから!」

(いいこと思いついた。この際、立花にフラれて婆三葉を精神的に殺すの。そしたら私が融合じゃなくて、乗っ取りで、この身体を使えるかも!)

「っ……乗っ取り……自分を乗っ取って、どうするのよ?!」

(私の人生を謳歌する。立花でもテッシーでもない、東京のイケメンを見つける!)

(乗っ取りかぁ……けど、私の場合、テッシーは共通して大事だし……立花くんみたいに、サヤ婆にとって大切だけど、私にとって、どうでもいいものって……あるかなぁ…)

 早耶香霊まで乗っ取りを考え始めたとき、早耶香のスマフォが鳴った。着信表示が宮水四葉だったので早耶香が受話してみる。帰りがけに教えてもらっていた番号だった。

「も…もしもし…」

 新幹線の客室内で通話するのはマナー違反だったけれど、そんな場合でない気がするので話している。

「四葉です」

「助けてほしいことがあるの!」

「ええ、そんな予感がしたので電話しました。そこにいる低俗霊に伝えてください。本人の健康をそこなうほど、ひどい目に遭わせたら、その影響は肉体に出るって。そして、乗っ取りはできないことも。つまり、精神的に追い詰めすぎると、円形脱毛症になったり胃潰瘍になったり、そんな事態が発生し、それを乗っ取りで治癒することもできないって」

「だって! 聞こえてた?!」

((…ちっ……))

「では」

 四葉が電話を切った。

(乗っ取りは無しかぁ………嫌がらせも、ほどほどでないと円形脱毛症になるのはイヤだし)

「……瀧くんさえ……いれば……いいよ……」

「とりあえず、今日は、もうやめてあげなよ。もう本当に壊れかけてるよ、三葉ちゃんが! 月曜朝には大事な会議があるって! ポカやってクビになっても知らないから!」

(…………、しょうがない、何か美味しい物でも食べてもらおう。私も共感したいし)

「…瀧くんに……会いたい……」

「三葉ちゃん………東京に着くのは7時過ぎ……少しでも会ってみる? あんたたち絶対邪魔したらダメよ!」

((へいへい))

 悪霊たちがおとなしくなったので早耶香は崩壊寸前の三葉を慰めて立ち直らせ、瀧へ連絡を取るよう勧める。

「どうせ、デートをドタキャンされた男なんて昼まで寝てて、起きてから、ぼんやり就活の資料でも眺めてるだけでしょうし。せっかくの休日なんだから会えばいいよ」

「……うん……ありがとう……」

 三葉はメールを送り自分の部屋で会うことになった。早耶香は心配なので付き添い、夕食の材料を買って、三葉のアパートで瀧を待つ。立ち直った三葉は初めての手料理をふるまう機会に頑張っているし、悪霊たちも静かにしている。料理を手伝っていた早耶香がトイレに入った後、しばらくして瀧が訪ねてきた。

「や…やぁ…三葉さん。こんにちは」

 まだ三葉との接し方が今ひとつ定まらない年下らしい遠慮がちな態度だったけれど、三葉の方は瀧の顔を見た瞬間に感極まって抱きつく。

「瀧くん! ああ、瀧くん!」

「うっ?!」

 いきなりキスをされて舌を入れられると瀧は戸惑ったけれど、抱き返した。

(うわぁぁ……速攻で食いついた。婆三葉どんだけ欲求不満をためて…)

(かぶりつく前に、せめて、ご飯にする? 私にする? くらい訊きたいとこだよね)

 もう悪霊たちの囁きも三葉の耳には入らず、玄関から2メートルであるベッドへ瀧を導いて想いを遂げている。

(っていうかチン婆がトイレから出られなくなって。困ってるんじゃない)

(見てこよう)

 早耶香霊がバスルームの壁をすり抜けて覗くと、早耶香は静かに便座に座ったままスマフォを眺めて時間をつぶしている。壁が薄いので気配で三葉と瀧が何をしているかは十分にわかっている様子で、せめて一回目が終わるまで待っている。

(サヤ婆、トイレから出ないの?)

「………」

 かわいそうだし待ってるよ、という視線が返ってきた。そのまま早耶香が明日の天気や結婚後に買いたい家具などを検索して30分ほど待っていると、さすがに三葉も友人が在宅中だったことを思い出したらしく、脱いでいた衣服を瀧にも着るように言ってから声をかけてくる。

「ごめん、サヤチン……思わず……」

「終わったみたいね」

 早耶香がバスルームから出ると、瀧が驚く。

「えっ?! 誰かいたんだ!」

「はじめまして。……なのかな? まあ、電話では話したよね。三葉ちゃんの友達の名取早耶香です」

「は…はじめまして。立花瀧っす。……なとり……さやか……どこかで……聞いたような」

 瀧は既視感を覚えていたけれど、はっきりとは思い出せない。恥ずかしそうに着衣を直した三葉は料理の仕上げをして三人で夕食を食べる。簡単な自己紹介や就活についての話をしているうちに食べ終え、食器を片付けた三葉は瀧を見つめて言う。

「瀧くん、もしも私が急に変なことをしたとしても、どうか、信じて!」

 感情が高ぶって、また涙を流している。

「私が瀧くんを好きなのは本当だから! それは絶対だから! だから、もしも私が女性としてありえない言動をしても、どうか見放さないで!!」

(あ、こいつ、予防線を張りやがった)

「み、三葉さん?」

「お願いだから、私が変なことをすることがあっても見放さないで! 嫌いにならないで! そのとき、私の身体は私以外のものに動かされてるの!」

「………わかったよ、だから、泣かないで」

 瀧が優しく指先で三葉の涙をぬぐうと、早耶香は気を利かせて帰ることにした。早耶香がいなくなると、悪霊はいるものの二人きりになったので、また三葉はベッドの上で瀧と抱き合うと、名残惜しくキスをしてから見送って寝た。

 

 高校3年生として卒業式を迎える日の朝、三葉は通学中につぶやいた。

「この三人で、この道を行くのも、これで最期になるんだね」

「そうだな……この制服を着るのも今日で最期か……ずっと永遠に続くようでいて、終わっちまうと、あっけないな……」

 克彦もつぶやき、早耶香も淋しそうに言う。

「小学校、中学校、高校まで、糸守だと、ずっと卒業しても別れはないけど。今度こそ私たちも別々の学校に行っちゃうんだね……」

「サヤチン……」

 淋しくなって女子同士が手をつなぐと、克彦は明るく言った。

「大学は別々だけど、同じ東京だし。すぐ会えるさ。下宿先も、なるべく近いところにしようぜ」

「……うん…」

「暗い顔するなって。そうだ、春休みは、どうする? 三人で名古屋にでも遊びに行かないか? それか、金沢にでも。福井の芝マサなんかもいいよな」

「私は明日から東京へ行くよ」

「「そんなに早く?!」」

「うん、一日も早く東京へ行きたいの」

「「…………」」

「あ、ここも今日で最期だね」

 そう言った三葉は道ばたの自動販売機の前に立った。

「このカフェにも何回も……せっかくだからモーニングカフェしよう」

 三葉は三人分の缶コーヒーを買った。

「はい、どうぞ」

「おう、サンキュー。東京に行ったら、なにかおごってやるよ」

「三葉ちゃん、ありがとう。でも……卒業式の前だから、あんまり飲まない方が……」

「最期だし」

 ゆっくりと味わって三葉は缶コーヒーを飲んでいる。その温まった唇が白い湯気を吐くのは魅力的で、それを注視してしまっている克彦を見つめた早耶香は卒業以上に胸が痛くなった。教室で最期のHRをしてから体育館へ向かう途中で早耶香は三葉に言っておく。

「三葉ちゃん、体育館は寒いから、トイレに行っておいた方がいいよ。私も行くし」

「うん、そうだね。…あ! ユキちゃん先生! ごめん、最期だからユキちゃん先生にも挨拶してくる!」

「…………」

 早耶香は恩師と楽しそうに会話している三葉を心配そうに見ながらトイレに寄ってから体育館へ入った。式次第が進み、校長の挨拶、そして町長からの言葉が始まっている。

「ただいま、ご紹介にあずかりました糸守町、町長、宮水俊樹です」

 紹介されなくても町民の誰もが知っているし、もはや全国に名の知れた奇跡の男が演説台に立っている。

「皆さんもご存じの通り、この糸守町は一昨年、大きな災害に見舞われました。あの隕石によって多くの家々が倒壊し、電気は止まり、水道も通信も大きな混乱をきたしました。この高校の校庭や体育館で寒い冬を過ごした方も多いでしょう。それでも、私たちは負けない、負けなかった。今年、立派に卒業していく皆さんは将来の糸守町を背負って立つ気骨ある若者です。あの避難生活の経験が必ずや皆さんの人生にも、糸守町の歴史にも大きな力となってくれるでしょう」

「……ぐすっ…」

 聴いていて早耶香は泣きそうになってきた。演説そのものは技巧的でも扇情的でもないけれど、つらい体験をしてきたのは町民に共通した経験であり、誰一人死傷することなく終わったとはいえ、一瞬にして複数の集落が吹き飛んだことは恐ろしいことだった。地震や台風には慣れていたけれど、隕石は人類全体でも経験が少ない。最初の数ヶ月は学校暮らしで大変だったし、そんな中で大学受験の年になり頑張って志望校に合格している。そんな感情もあって涙が溢れそうになってくるし、声を漏らして泣きそうになる。くわえて、小学校の卒業式でも中学校の卒業式でも別れは前提でなかったけれど、今度こそ、みんなバラバラの学校や仕事先に行くことになる。まったく経験のない別れの卒業式で早耶香はハンカチに涙を染み込ませた。他のクラスメートたちも泣き出している。

「糸守は一人がみんなのために、みんなが一人のために…」

「…………ぐすっ…」

 俊樹の長めの演説を聴いているうちに早耶香は涙を拭きつつ、別のことが心配になって名簿の順では遅い方にいる三葉を振り返った。

「……ぅぅ……」

 三葉はパイプイスに座って両膝を合わせてプルプルと震えている。涙ぐんでいるけれど、それは父親の演説に感動しているわけではなくて生理現象を我慢している顔だった。

「……三葉ちゃん……また……」

「卒業後に地元で働く人も、大学へ行き経験を積んで帰ってきてくださる人も、みな仲間です! 明日の糸守のため! 力を合わせて頑張りましょう! 糸守町は不滅です! 何度でも蘇るのです! ガンバロー糸守! 糸守に栄光あれ! 糸守万歳!」

「「糸守万歳!!」」

 何人かの保護者が、いっしょに唱和すると、他の保護者や来賓の町議会議員なども続く。

「「「糸守万歳!! 糸守高万歳!! 宮水家よ、永遠なれ!!」」」

 大きな災害を乗り越えている町民たちには硬い結束と土着信仰が再燃しつつあった。その熱気に教師たちは引いている。教職員は県からの派遣なので糸守町民である者は少ない。おかげで温度差が激しかった。

「卒業証書授与、3年1組」

 いよいよ一人一人への卒業証書の授与が始まった。呼ばれた生徒から順に壇上へあがり校長から手渡される形式だった。粛々と式が進み、タ行の克彦が呼ばれる。

「勅使河原克彦!」

「はい!」

 克彦が登壇し、校長に一礼をして証書を受け取る。

「卒業、おめでとう」

「ありがとうございます」

 決まり切ったセリフを言って席へ戻る。すぐにナ行の早耶香が呼ばれた。

「名取早耶香!」

「はい!」

 返事をすると涙が止まり、早耶香は立ち上がって登壇する。

「卒業、おめでとう」

「ありがとうございます」

 礼をして受け取り、席へ戻る途中で三葉を見ると、もうダメなのがわかった。

「宮水三葉様!」

「っ、はい…」

 身体を揺らさないように返事をした三葉が腰の引けた内股で立ち上がり、そのままの姿勢で登壇する。来賓席の俊樹は、もっと胸を張りなさい、と叱咤したくなる衝動を抑えるのに苦労している。糸守町民でもある校長が恭しく卒業証書を三葉へ差し出した。

「ご卒業、おめでとうございます」

「……私なんかに……様は、いらないです……巫女はやめたから…ぅっ…うくっ! ヤダぁぁあぁ…」

 腰が引けた姿勢だった三葉が前屈みになると、自転車を立ち漕ぎしたときのように背後からは白いショーツが丸見えになる。

 ぷシャーーーーっ! ジョボジョボッ…

 そのショーツから勢いよく黄色い滝が噴き出してきて、寒い体育館内で大量の湯気をあげて足元に黄色い泉をつくった。

「うっ…うくっ…ぐすっ…ひっく…うっ…うっ…」

 恐る恐る三葉が背後を振り返ると、全校生徒と保護者の視線が三葉に集まっている。

「うわああああん!」

 泣き出した三葉を教頭が舞台袖に連れて行き、ユキちゃん先生が壇上を雑巾で拭くと、式が再開される。大騒ぎにはならなかったけれど、私語が増える。早耶香の前にいる女子たちも囁いている。

「宮水さん、また漏らしたね」

「あの人、リハーサルのときも同じタイミングで漏らしてなかった?」

「してたね。わざわざ大勢の人前で。あれって性癖なのかな。人前でおもらししたい、みたいな」

「それもう変態じゃん。あの家の場合、人前でヨダレ垂らしたいって性癖に目覚めちゃうリスクはありそうだけど」

「シッ、宮水家の悪口いうとヤバいよ」

「わかってるよ。でも、姉の方は巫女やめたし。それに性癖なら、もっと気持ちよさそうな顔しないかな。毎回大泣きして心底イヤそうなんだけど」

「誰かに強制されてるとか?」

「それだと悪質なイジメだね。実は身近な名取さんが影でイジメてたりとか?」

 話していた女子がチラリと早耶香を見てきたので、早耶香は否定するように手のひらを振った。

「そんなことしないし。さっきもトイレに行っておいた方がいいよって言うだけは言ったけど、別のことに気を取られて行きそびれたみたい」

「ふーん……宮水さん、よく不登校にならずに頑張って卒業したよね」

「最期の最期まで漏らしてたけど。あれで彼氏とかできるのかな?」

「顔いいし、実は人気あるよ。あの子のヨダレなら飲みたいって男子、ひそかに何人かいるらしい」

「うわぁぁ……需要と供給って感じ?」

「あの子のおしっこでも飲みたいって男子もいるらしいし」

「巫女の聖水かぁ……」

「和風に言うと、巫女の岩清水かな」

「巫女の股清水じゃない?」

「それ下品」

「巫女の秘処清水は?」

「それだと高値で売れそうだね」

「あ、もう卒業式、終わるね。なんか、宮水さんのおかげで泣くタイミングが無くなっちゃった」

「校歌斉唱!! 全員起立!!」

「「「「「太陽の風ぇ♪ 背に受けてぇ♪ 千二百羽ばたこうぉ♪」」」」」

 卒業式が終わって、すぐに早耶香は克彦に駆け寄った。うかうかしていると名前も知らないような後輩に横盗りされることもあるので勇気を出して平然を装って頼む。

「テッシー、記念に第二ボタンちょうだい!」

「あ………あ、……ああ、いいぞ。こんな物でよければ、ほら」

「ありがとう! ねぇ、春休みに名古屋へ遊びに行かない?」

「ん~………それもいいけど……オレも早めに東京へ行ってみようかな。バイト先を探したりとか、早い方がいいかもしれないし」

「………じゃ、私も早めに行こうかな。ディズニーとか行きたいし。いっしょに下宿先を探そうよ。不動産屋さんを回ったり」

「そうだな。そうしよう。三葉は、もう住むとこ決めてる感じだったなぁ」

「…………」

 まだまだ早耶香は持久戦に挑む決意を新たに克彦と校門を出ると、最期の下校をする。その道中で走り行く電車を見た克彦が叫んだ。

「三葉?! おい、今の電車に三葉が乗ってなかったか?!」

「さ、さあ?」

「あいつ……もしかして一日、早めたのか……三葉ぁ!! おーーい!!」

 克彦が視線を送り手を振ると三葉も気づいた。

「……テッシー……サヤチン……先に行ってるよ」

 軽く手を振って三葉は糸守町を出て行った。東京に向かって。

 

 朝起きてオネショしていた三葉は急いで布団を干すと、身支度を調え通勤する。予定通りの電車に乗ってから瀧へメールを送った。

「おはよう、瀧くん」

「おはよう、三葉さん」

「また昼休みにメールするね。就活頑張って。私も仕事頑張るから」

「ありがとう。頑張るよ」

 やり取りが終わる頃に三葉は頭上から声をかけられた。頭上には三葉霊と早耶香霊が浮いていた。

(東京のラッシュ電車って殺人的……よく、こんなのに毎日乗ってるね)

(ミツ婆ちゃん、痴漢に遭ったことは?)

「たまにね」

 三葉は小声で答えておく。あまり大きな声だと一人言を漏らす怪しい女と認知されるので話しかけないで欲しいという表情も浮かべている。会社のある駅で降りると物陰で、大きなマスクを着けて伊達眼鏡をかけ、髪も三つ編みにした。

(婆三葉が地味子になった)

(そうやって会社では変装してるんだ)

(まあ、東京中におしっこ撒いてれば、素顔で勤務はできないかもね)

(しかも、いまだに女子高生の制服で)

(婆、歳を考えろよ)

「瀧くんが見つかったから、もうしないから。お願い、仕事中には話しかけないで。今日の会議、大切なの」

 三葉の願いは聞き入れられ、もう静かにしてくれたので会社に入ると、会議に出席する。予定していたプレゼンテーションを行い、それが採用され、さらに先月までの業績で表彰された。

「バイスエグゼクティブリーダー賞、おめでとう。宮水くん」

「ありがとうございます」

(意味不明な賞ね)

(東京の会社って、そんな感じなのかな)

「社から金一封も出ているよ」

 上司が封筒を手渡してくれた。受け取った封筒には10万円が入っていた。

「こんなに……これからも頑張ります!!」

 三葉が涙ぐんで喜ぶ。就職して2年、堅実に貯めていた預貯金を妹に根こそぎ奪われ、友人に借金までしている身にとって給料以外の臨時に入った10万円は両目から涙が零れるほど嬉しかった。最近の冷めた若者らしくなく予想以上に部下が喜んでくれたので上司も微笑んでくれた。

「来月から君にはプロジェクトリーダーを務めてもらう。頑張りなさい」

「はいっ!」

(それって何するの?)

「……」

 三葉は会議が終わり、誰もいない廊下へ行ってから答える。

「新しいジュースをつくるの」

(……そんな子供みたいな……)

(それって仕事なの? ままごとみたい)

「一つのジュースが、よく売れたら何億ってお金が動くんだよ」

(億か……)

(不動産より、いいのかなぁ……)

「もう黙っててね」

(了解。私たちも復讐会議をしておくね)

(何億って回数の恨みについてね)

「……………」

 三葉は暗い顔になりそうだったけれど、仕事中なので気を取り直して夕方まで働き、会社を出ると伊達眼鏡とマスクを外し、三つ編みも解いた。

「はぁぁ……」

 一日働いた社会人らしい達成感と疲労感のあるタメ息をついている。

(アフター5の飲み会とか、無いんだ?)

「入社してから、ずっと断ってたから誰も誘わなくなったよ」

(ふーん……あ、そうか。制服に着替えて、おしっこ撒きに行ってたもんね。あんた、ホントに変態だね)

「………。最近はプライベートと仕事を分ける社員も多いから、アフター5の付き合いは少ないの。一応、飲みに行くなら、うちの社のビールを新規に入れてくれた店とかに行くよう営業課から連絡はあるけど、それも微妙に任意」

(微妙に任意って何?)

「行って、行ったことを、ちゃんと社に報告したり、そのお店を自分のSNSで紹介してウインウインな関係を築く人の方が出世はしやすいの」

(大人って大変だね)

「持ちつ持たれつなんだよ、社会は」

(まあ、何でもいいや。そろそろ復讐の話しよ)

「…………」

 三葉が暗い顔になった。

「……お願いだから……瀧くんの前では……変なことさせないでください」

(そう言うだろうと思って、復讐会議で新復讐プランが決まったよ)

「………何をさせるの?」

(これからテッシーの部屋に行って、婆三葉自身が思いつく限りの恥ずかしいことを頑張ってやったら、その分だけ立花の前で変なことさせるのは控え目にしてあげるよ)

「……テッシーの部屋で……でも、それはサヤチンの…」

 三葉がそばにいる早耶香霊に問いかける視線を送ると、答えてくれる。

(さっき、サヤ婆にも確認しといた。優しい私たちは、それを認めてあげるよ。せいぜい女として二度と男に相手にされないようなことしなよ。テッシーは昨日は休日出勤だったから、今日は午後から部屋にいるらしいし。サヤ婆は遅くまで残業があるから、終わってからテッシーの部屋を訪ねるから、そのとき何をしてたか、確認するって)

「……サヤチン……私のこと信じてくれて……」

((さあ、せいぜい考えて頑張りな))

「………はい…」

 三葉は考え込みながらアパートへ戻り、シャワーを浴びると、糸守高校の制服を着た。

(うわぁ……それで行く気なんだ。もうしないとか言っておいて。また着るんだ。恥ずかしい~ぃ)

(並んでみてよ。三葉ちゃんとミツ婆ちゃん)

(はいは~い)

 三葉霊が三葉に並ぶと、その違いは鮮明だった。現役女子高生の頃の三葉と24歳の三葉が同じ制服を着ている姿は痛々しいほど年齢差があった。ごく自然な可愛らしさのある女子高生の三葉と、すっかり大人びた顔つきになった三葉が並んでいて、いかに無理のある服装かが浮き彫りになる。

((痛い! 痛すぎる!! 笑える、きゃははははは!))

「……きっと……あきれるよ……もう二度と……テッシーと友達として話すこともなくなると思う………ごめん、テッシー……」

(頑張ってね、ミツ婆ちゃん。テッシーか立花くんなら、ガチ立花だもんね。そこを思いっきり頑張ってみせて)

(あ~あ~…セレブ路線は消えるのかぁ…)

(また殴ろうか?)

(ごめんなさい!)

 騒いでいる霊たちと三葉はコンビニへ寄って買い物をすると、克彦のマンションを訪ねた。ちょうど克彦は部屋の前でバケツをもって、三葉がシミをつくったコンクリートの床を洗っていた。自分のおしっこの始末をしてくれていることに気づいて三葉は猛烈に恥ずかしくなったけれど、それでも真っ赤な顔をして声をかける。

「て…テッシー、こんにちは」

「え? あ…おおっ?!」

 克彦は一目見て驚き、バケツを落とした。

 ビシャっ!

 バケツの水が飛び散り、バケツが転がる。

「ど…ど、どうしたんだよ?! 三葉! そのカッコ!」

「……うん……ちょっとね……部屋にあがってもいい?」

 恥ずかしさで顔を伏せた三葉が問うと、驚きつつも克彦は頷く。

「あ…ああ、いいけど……。いや、でも早耶香に……許可を…」

(えらい! そういう配慮が必要だよ!)

(ちっ……私のキープ君も、すっかり持って行かれてるのか)

「サヤチンには言ってあるから」

「そうか。じゃあ、どうぞ」

(いやいや、この女が嘘ついてるかもしれないって疑いも持とうよ!)

(テッシーは私を信頼してるんだよ)

「お邪魔します」

 三葉はリビングに通されると、コンビニの袋から買ってきたペットボトルなどを出した。

「おっ、また新製品の味見か? それなら喜んでするぞ」

「………きょ…今日は……そうじゃないの……」

「じゃあ、どうしたんだ?」

「これは……私が飲むの。コップをかりていい?」

「ああ、いいぞ。オレも少しもらっていいか」

「うん、どうぞ」

 しばらく二人で清涼飲料を飲み、すでに尿意を我慢した上で訪問していた三葉はスカートから伸びた脚の膝をモジモジと擦り合わせている。

「三葉、トイレなら使ってくれていいぞ」

「……ありがとう……でも、我慢する」

「…………。いや、我慢しなくていいから」

「我慢させて」

「…………………」

「……ぅ~……ハァ……」

 だんだん限界が近づいてきた三葉は自分で自分の乳房を揉み始めた。

「んっ……ハァ……ハァ……」

「み…三葉、な…なにやってるんだよ?」

「……ぉ…オナニー…だよ…」

「………………」

 克彦に困惑した目で見られた三葉は顔を真っ赤にして恥じらいつつも、自分の胸を揉むのはやめない。そのうちに乳首が勃ってきて、息も乱れてきた。

「…ハァ……んっ…」

「………三葉……いったい、どうしたんだ?」

「ハァ……ハァ……テッシー、このテーブルの、このあたり使っていい?」

 三葉がリビングにあるテーブルの角を指した。

「あ、ああ、いいけど。………何に使うんだよ?」

「……ハァ……ハァ……こうするの…」

 三葉はテーブルの角に股間を擦りつけ始めた。

「んっ…んぁっ…」

「…………」

「…ハァ…んっんっ……イキそう…」

 喘ぎながら三葉はヨダレも垂らして、そのまま絶頂した。

「あはぁんっ!」

 大きく喘ぐと同時に、おしっこを漏らしていく。

 シャァァァァ……

 おしっこの半分が床に、もう半分がテーブルの上に拡がった。

「…ハァ…ハァ…気持ちいい…ハァ…」

「……三葉………お前、頭、おかしいんじゃないのか?」

「っ……」

「いっしょに病院へ行こう」

 いきなり婚約者のいる男の部屋に高校時代の制服姿で来て、自慰を始めて失禁までした女性に対する気遣いと心配を感じたので、三葉は申し訳なさが頂点に達して泣いた。

「うっ…くっ…ごめん! 心配してくれて、ありがとうっ……でも、病院はいいから…」

「三葉………お前、何か悩んでるのか? 新しい彼氏とうまくいってないのか?」

「……そんなことないよ……」

「だったら、もっと自分を大切にしろよ。お前、こんなことする女じゃなかったろ?」

「うっ…ひぅううっ…」

 軽蔑して蹴り出されると思っていたのに、温かく心配してくれるので余計に自分の行いが恥ずかしくなって三葉は啜り泣いた。それでも泣きながら再び自慰を再開する。今度はスカートの中に手を入れて指先で自分を刺激し始めた。

「…ハァ…ハァ…ぐすっ…」

「…………。知ってるだろ。オレ、早耶香と婚約してるからさ、そういうこと部屋でされても困るんだけど……」

「……ハァ……んっ…またイキそう……ハァハァ…」

「三葉………」

(きゃはは! テッシーが勃起してきたよ)

(テッシー……こんな婆を見て勃起しなくていいから)

「…あんっ! イク!」

 また三葉が絶頂しながら、おしっこを垂らす。

 しょわ…しょわ…

 二度目なので出が悪いけれど、ショーツから滴って床に落ちた。

「ハァ…ハァ…ああ、気持ちいい…ハァ…」

「…………誘ってるのか? オレを」

「違うよ。………オナニーしたいから、してるだけ」

「……………自分の部屋でしろよ」

((ごもっともです))

「ハァ…ハァ…」

 三葉はペットボトルから炭酸飲料を大量に飲んだ。克彦が哀れむような目で見てくる。

「三葉………いい医者を探しておくから、今はしたいようにしていいよ」

((テッシーが、すごい大人だ))

「…………。…ハァ……ハァ……」

 怒ったり軽蔑されたりすると思っていたのに哀れまれて三葉はいたたまれない気持ちが大きくなったけれど、それでも自慰を続けて何度もおしっこを漏らした。そのうちに早耶香が合い鍵で入ってきた。

「うっ……おしっこ臭い。人の家にあがりこんで……ここ、結婚したら私も暮らすつもりなんだよ?」

「ぐすっ…ごめんなさい」

「早耶香、あんまりキツイ言い方をしてやるなよ。きっと、三葉は心の病気なんだ」

「「…………」」

「三葉、そろそろ早耶香と風呂にでも入ってこいよ。な?」

「ぐすっ……いろいろ、ごめんなさい」

 三葉は拭き掃除してから風呂はかりずにアパートに帰った。

(思ったより面白くなかったね。テッシーの反応が大人すぎて)

(いい男に成長してるよ。私の目は確かだね)

「…ぐすっ……うっ……ううっ……」

 アパートで一人になると制服を脱ぎながら三葉は号泣した。

「うわああああぁあぁ!」

(きゃははは! 泣いてる泣いてる!)

(みじめだったよね。病人あつかいされて)

「ううっううっ!」

 囃し立てられても三葉はベッドに泣き伏している。涙が枯れ果てた頃に天井を見上げて悪霊たちに問う。

「あれだけ、みじめで恥ずかしい想いをしたんだから、どうか、瀧くんの前では何もさせないでください。お願いします」

(……ふーん……)

(どうする? 三葉ちゃん)

(………こうする)

 何かを決めた三葉霊は三葉の身体を操って瀧へ電話をかけた。

「もしもし、オレだけど」

「もしもし、瀧くん? 私」

 声帯まで操って瀧と会話を始めた。

「ちょっとお願いがあるの。いいかな?」

「いいよ。オレにできることなら」

「神宮高校の頃の制服って、まだ持ってる?」

「持ってるよ、一応、捨ててない」

「明日の夕方、それを着てデートしようよ」

「………オレが、それを着るの?」

「そうそう」

「え~……」

「私も高校時代の制服で行くからさ。お願い」

「三葉さんも制服で……」

「見たいでしょ?」

「ちょっと…興味ある……かも…」

「すごく見たいくせに」

「……そんな、すごくってわけじゃ……けど、オレまで制服でないとダメなの?」

「逆でもいいよ」

「え? ……逆って?」

「瀧くんが私の糸守高校の制服を着て、私が瀧くんの神宮高校の制服を着るの」

「っ、え、遠慮します!」

「ホントに? 実は着てみたいんじゃない?」

「なっ、なわけないから!」

「フフ、まあ、それは別の機会にとっておくとして。明日、神宮高校の制服で会おうよ。お願い」

「……わかったよ……。で、場所は?」

「神宮高校の校門」

「ええっ?! オレ、卒業したのに、あそこに制服で行くのかよ?! それはキツイっすよ!」

「お願い」

「う~…………」

「そのあと制服でエッチなことしていいよ。私に」

「…………時間は?」

「大学と会社が終わってるくらいだから……黄昏時かな」

「……それくらいなら在校生も……少ないかな……誰かに見られたらオレ……あ、でも、オレが卒業したときに1年生だったヤツも、もういないのか……もう誰もオレを知ってるヤツがいないはずだし……時間の流れって、あっという間だな」

「じゃ、約束だよ」

 そう言って電話を切って、三葉の身体を操るのをやめた。

(明日、楽しみだね)

「勝手なことしないでよ!」

(けど、許容範囲でしょ。円形脱毛症にはならないくらいの)

「う~………瀧くんにも悪いし……」

(と言いつつ、彼の制服姿を見たいとか、想ってるくせに)

「………見たいけど……私の方は、もう見せたくないよ……」

((婆の制服姿を見たら、どんな反応するかな。楽しみぃ~♪))

「……………もう寝るから!」

 やや不安を残しつつも三葉は眠った。

 

 糸守町の火葬場で三葉と四葉は泣いていた。

「ぐすっ…ひっく……ぅううっ…お母さん…」

「…お母さん…うぅううっ…」

 宮水二葉の火葬が始まってから、もう2時間になる。そばにいる俊樹と一葉も悲しみに耐えながら娘たちの背中を撫でていた。

「……お母さん…ひっ…ひぅぅ…」

「お母さん…ぐすっ…ううっ…」

「今は、よう泣いておき」

 一葉が言って、神事に使う祭具をもった。もう火葬が終わる。三葉と四葉は、よく見ておくようにと言われたけれど、祖母が行った儀式を見ることは涙のせいで、ほとんどできなかった。それから、火葬場から糸守湖へ徒歩で移動すると、一葉が湖へ散骨を始める。その様子は町民のほぼ全員が出てきて見ていた。

「二葉、黄泉の国から二人を見守っておりよ。私も手伝うからね」

「二葉、君に出会えてよかった。ありがとう」

 一葉と俊樹も最期の別れを言い、すべての遺骨を散骨し終えたときだった。

 じわ……じょわぁ…ショぁぁぁ…

 泣いていた三葉がおしっこを漏らした。喪服として着ていた巫女服を濡らしてしまっている。

「ひっ…ひっく…お母さん……ママぁぁ……おちっこ漏れたよぉ……助けてよぉ…」

「「………」」

 一葉と俊樹は優しく長女の背中を撫でた。あまりに悲しくて、その代償行為として無意識に失禁してしまったのだと気づき、他の町民たちも優しく見守っている。

「三葉ちゃん、かわいそうにね」

「つらいやろうね。ええんよ、泣きたいだけ泣いて」

 みんなから温かく慰められても三葉は泣き続けたけれど、妹にだけは残念そうに言われた。

「…お姉ちゃん…ぐすっ……もう少し、しっかりしないと……お母さんが心配するから…」

「だって…だって……うぇえええん!」

 いつまでも三葉の泣き声は糸守に響いていた。

 

 夕方、仕事を終えた三葉は会社を出ると、駅のトイレで三つ編みだった髪を解き、伊達眼鏡とマスクも外すと、通勤着も脱いで糸守高校の制服に着替える。

(婆が変身中です)

(ミツ婆ちゃん、どんなに頑張っても若返るのは無理だって)

「………」

 三葉は黙って化粧を直していく。

(あんまり濃くすると余計に婆に見えるよ)

(女子高生はスッピンで可愛いんだから)

「わかってるよ! スッピンに見えるナチュラルメイクって難しいから黙ってて!」

(ほらほら、急に怒鳴るから周りの人が変な女って思ってるよ)

「…………」

 三葉は女子トイレの洗面台にいた他の客に頭を下げておいたけれど、かなりドン引きされていた。それでも気合いを入れた化粧を終え、電車に乗る。乗車する前に三葉の手が勝手に動いて自社製品のペットボトルを買ったので暗い顔になって言う。

「おもらしはイヤです」

(おもらししたくらいで愛想尽かされるなら、どうせ長続きしないって)

「……ぐすっ……昨日、テッシーの前で、あんなに恥ずかしい想い……頑張ったのに…」

(ミツ婆ちゃん、泣くとせっかくのメイクが崩れるよ)

「……鬼……悪魔……」

((悪霊ですから♪))

「………」

 三葉は神宮高校に着くまでにペットボトルを飲まされ、いっそ途中で漏らそうと下腹部に力を入れたけれど、それも阻止され、為す術なく神宮高校の校門前に到着した。

「……瀧くん……まだ……」

(来ないかもよ)

(制服で来てとか、変な要求する女だし、もう愛想尽かしたのかも)

「………彼に捨てられたら、私、死ぬから」

(それはやめて。私の融合先が無くなるし)

「なら、トイレに行かせてよ!」

((東京全体が自分のトイレだと思えば? きゃはっは!))

「……ぐすっ……」

 三葉は泣かないように我慢しながら校門に立って瀧を待った。ときおり帰ってくる現役の神宮高校の生徒からの視線が微妙に痛い。近くで顔を見られると歳がバレそうなので顔を伏せている。

「……ううっ………瀧くん、早く来てよ」

(そろそろ黄昏時だね)

(来ないのかな)

「…………」

(よく頑張って何年も高校巡りして、校門の前で待ったねぇ。すごい執念)

(四葉様がいってたけど、普通は会わないはず、らしいもんね)

「………………」

(道理を歪めるくらいの執念かぁ)

(おしっこじゃなくて、せめて血とかに力があるなら、陣を敷いてもカッコよかったのにね)

「…………」

(それだと常に貧血になってたんじゃない。毎日毎日、都内の全高校にだし)

(そう思うと、おしっこでちょうどいいかな。飲めば出るし)

「………………瀧くん……まだなの……」

(でも、やっぱり、おしっこはカッコ悪いよ。せめて口噛み酒の原液でも撒くとか)

(毎日、いろんな高校の前に吐くんだ? それ、拒食症の女子高生だと思われるよ)

「……………」

(それを言い出したら、血を撒く女も、スプラッターでやばいでしょ)

(なにかの呪いみたいになるね。それか犯罪の予兆みたいに。5校目くらいから警察がマークしそう)

「…………………」

(結局は、おしっこが、ちょうどいいのかな)

(ただの変態だけどね)

「………」

(そろそろ膀胱の限界が近いね)

(会う前に、漏らしたらオナニーさせようよ。ここで彼が来るまで、ずっと)

「そんなっ?!」

(それいいね。私も操って我慢させてるの疲れてきたし。主導権を返すから自分で我慢しなよ。はい、3、2、1)

「ぅっ…」

 ずっと三葉の意志に関係なく力の入っていた尿道括約筋のコントロールが急に渡されて三葉は呻いた。

「はぅっ…ぅぅ……もれちゃう…」

(漏らしたらオナニー)

(さすがに、それ見たら立花くんも引くでしょ)

「…ぅぅっ……ハァ……くぅっ…」

 三葉は両手を股間に入れてギュッと押さえた。そうしないと、もう漏らしてしまいそうなほど尿意が強い。

(クスクス、そんなカッコしてるから通行人が変に思ってるよ)

(そのポーズだと、丸わかりだよね。私、おしっこ我慢してますって)

「ハァ…ハァ…」

(トイレ行けばいいのに)

(こんな校門の前で、おもらしするまで我慢するなんて)

「…ぅぅっ…ハァ…」

((すっごい変態))

「…んっ…ハァ…はぅ…」

(もう漏らしちゃえ)

(出しちゃえ。気持ちいいよ)

「ィヤ…」

(漏らしてオナニー始めようよ)

(きっと気持ちいいよ)

「…ハァ…ハァ…誘惑しないで…」

(ほーぉら、おしっこシーしようね)

(出ちゃう出ちゃう。もう漏らしちゃう)

「んっぅぅ! はあぁ…ああ!」

 本当に漏らしそうになって三葉は両手を股間に入れたまま身悶えする。通りがかった高校生たちが見ているけれど、もう我慢するのに必死で汗とヨダレで顔を濡らしていた。とくに口の端から垂らしたヨダレが地面まで糸を引いていて、三葉を見た高校生たちは眉をひそめて去っていく。

(もう楽になろうね。カウントダウンで、おもらししていいよ。10)

(今までで最高に気持ちいいおもらし、しちゃおうね。9)

「ハァ…ハァっ…ぅぅ」

(大丈夫、漏らしてもオナニーしてても彼は受け入れてくれるよ。8)

(大好きな女の子のおしっこは聖水だから。7)

「ぁあぁっ…ダメ……お願い……耳元で囁かないで……集中できない…」

(いいんだよ、おもらしして。でも、あと6)

(しちゃうね。あと少しで、おもらししちゃうね。5)

「ハァハァ…も、…漏らしそうなの…」

(まだ我慢だよ。頑張って我慢した分だけ気持ちよく漏らせるから。4)

(いよいよだよ、いよいよ、シーしていいよ。おもらしまで3)

「んっんぅぅ…」

(もう少しの我慢でおしまいだよ。頑張れ、2)

(よく我慢したね、えらい、えらい、いい子、いい子、1)

「ハァっハァっ…ぁ、ぁ。ぁあ」

((はい、解放してあげる。ゼロ!))

「んぁぁぁ!」

((出る出る! 漏らしちゃう漏らしちゃう! 宮水三葉はおもらしの化身、さあ、彼の高校の前で、おもらしたっぷりしちゃおうね。シーーー♪))

「くぅぅうん!」

 三葉は股間を両手で押さえてブルブルと震え、口の端からヨダレを垂らしながら、それでも耐えた。我慢した。

「ハァっ…ハァっ…」

(へぇ、すごいね)

(えらいね、最期の罠に)

(耐えきったね)

(あ、彼氏が来たよ)

 瀧が緊張した顔で卒業した高校の制服を着て歩いてくる。すれ違う在校生と目を合わさないように視線を正面に固定して、三葉がいる校門前まで来る。

「遅くなって、ごめん。やっぱ、恥ずかしいな、このカッコ。三葉さんだって顔、真っ赤だよ」

「ハァっ…ハァっ…」

((おもらし、どうぞ))

「あはぁあん! おちっこ出るぅぅ!」

 三葉が喘ぎなら漏らし始めた。

 プシャ! ショワアアアアアア! ジョボジョボジョボ…

 三葉の黄色い滝が瀧に披露されて、またたく間に黄色い泉が足元にできた。我慢に我慢を重ねた膀胱を解放する快感に三葉は酔いしれてヨダレを垂らしながら言う。

「ぁはぁぁ…おもらし気持ちいいぃ…」

「……三葉さん…」

「ハァっ…ハァっ…おちっこ出たの」

「……………」

「ハァハァっ…私、人前でおもらしするの好きなの。ハァハァっ、すっごく興奮するの」

「…………」

(言っちゃった)

(告白しちゃった)

「ハァハァっ…ヨダレ垂らすほど我慢して、おもらししながらイクの、ハァハァっ」

「…………」

「こんなことに目覚めたマゾ体質の私でも、お願い! 付き合ってください!」

「……三葉さん………」

 瀧の瞳が迷う。ものすごく迷う。黄昏時の夕日が瀧の迷いを照らし出している。

「…………」

「…ハァ……ハァ……ぐすっ…」

(まあ、ダメだろうね)

(普通、引くよね)

「……………」

「……瀧くん……」

「………三葉さんに、そんな秘密の趣味があるとは思わなかった……」

「っ……ごめんなさい。でも……お願い……見放さないで」

「…………」

 瀧が迷い、そして頷いた。

「…………わかったよ。………実は……オレも……高3くらいから……変わった趣味に目覚めてしまったから……」

「……どんな…?」

「……………………………女の子の……制服とか……着たり……」

「女装?」

「………うん…」

「……………」

((引くわぁ………変態やん))

「オレ、な、なんでか知らないけど! 着ないでいると淋しくて! つい! 週に2、3回だけど、着るんだ! こ、こんなオレでもよければ! どうか付き合ってほしい!」

「………そっか……お互い…人に言えない趣味に目覚めちゃったんだ……なんとなく、わかるよ。瀧くんが、そうなった理由」

 そう言って三葉が濡れたまま抱きつくと、瀧は抱き返してくれたし、二人でキスをした。

 

 

 

副題「様々な代償・あれから身に付いた癖」 完

 

 

 

 

 

 




お読みいただき、ありがとうございます。
これにて完結となります。
ただ、この後は、この世界観を継続して、いずれ新連載を始めます。
タイトルは「課長・立花三葉」
社会人として仕事と性行為を頑張る三葉さんが、ときどき思春期の夢も見るという物語ですし、R18でやります。
スタートできましたならば、読んでやってください。
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