京太郎が阿知賀に転校してきて京太郎視点で物語を進ませるだけの話です。
-親の転勤で長野から奈良へ引っ越すことになった。
清澄高校に入学して1週間後の事だった。転勤は急に決まったらしい。
送迎をしてくれた咲は寂しそうな顔をしていたけど、電話できるから俺は寂しくない。
奈良の学校での出来事とかを文章にして送ってあげれば、あいつも寂しくなくなると思うし。
まぁ、今は和たちがいるし、大丈夫だろう。
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「須賀京太郎です。よろしくお願いします」
笑顔で自己紹介をして軽くお辞儀をする。俺の転校先は阿知賀高校。元々女子高だったのが2年前に共学になったらしい。皆の視線を浴びるのはあまり好きじゃない。何かひそひそ喋ってる女子もいるし。
先生から席を指定され、それに従い移動する。2年前まで女子高だったからか、まだ男子の数は少ないらしく、男女比は2:1で女子が多い。だから、俺の隣の席も女子なわけなのだが…。
(えっと…この子も高校生、なんだよね…?何だろう、遠近感とかそういうわけでもないのに、すごく小さく見える…)
茶髪でポニーテールの女子。小学生と見紛う程の背丈で、他の女子より一回り小さいのが座っている状態でも分かる。
ずっと彼女を凝視していたからか、彼女は俺の方を振り向いた。
「私、高鴨穏乃。よろしくね」
可愛らしい声だ。俺は、よろしくと返し席に着く。高鴨穏乃ちゃん、ね。覚えておこう。
「ねえねえ、須賀君って何かスポーツやってたの?」
HRが終わり担任の先生が教室を後にしたと思った瞬間、クラスの男女問わず半数以上が俺の席に近づいてきて、ただいま質問攻めを受けている真っ最中である。漫画かよ…。
趣味とか特技とか血液型とか好きなタイプとか彼女の有無とか諸々の質問をすべて返す。特に隠したい事もないので全て素直に真実を答える。
そうこうしていると、予鈴が鳴り始めた。何人かは、また後でねと質問を予約して自分の席に戻った。思わず苦笑。
「お疲れさま~」
嵐のような怒涛の質問タイムが終了したことで静かになり安堵していると、隣の席から労いの言葉がかけられた。
俺の隣の席・高鴨穏乃ちゃんが笑顔でそう言ってくれたのだ。
「本当に疲れたよ」
苦笑混じりに言う。全然嫌というわけではない。ただ、あまりの嵐にちょっと疲れただけだ。
「ここが共学になって初めての転校生だからねぇ。そりゃ気になるよね」
「そういうもんかね…。…穏乃ちゃんは何か俺に質問とかないの?」
「え、穏乃ちゃん…?」
あ、しまった。小学生と見紛う程の外見だからつい年下の女の子みたいに扱ってしまった。
「あ、ごめん、つい。ビックリさせてごめんね高鴨さん」
「別に穏乃ちゃんでもいいよ。私は京太郎君って呼ぶね」
「うん、穏乃ちゃん」
初対面で、出会ってから数分の間柄にも関わらずお互いを下の名前で呼び合うことになった。こんなことは咲以来か。咲は親しくなるのにちょっと時間はかかったが。これは幸先良いスタートだな。
と、そんなことを考えていると、さっきの俺の質問に対する質問を投げかけてきた。
「京太郎君は、麻雀ってできる?」
麻雀。今年の4月から始めた、すっかりハマっちゃったボードゲーム。タイムリーな質問が来たな。
「できるけど、4月から始めたばっかで、漸く全部の役を覚えたところだから技術力は0なんだ」
これも素直に正直に答える。ここで変に意地張って、強いとか言ってしまったら期待されてしまうからな。
「じゃあ、麻雀部入ろうよ!」
部活勧誘された。俺は運動部に入るつもりだったんだが…穏乃ちゃんの目はとてもキラキラしている…。入ってくれと言わんばかりに。まぁ、もっと穏乃ちゃんと仲良くなれるかもしれないし折角だから麻雀も強くなりたいしな…。…よし。
「うん。よろしくお願いします」
「!やった、よろしく!」
両手を広げて喜びを表す穏乃ちゃん。転校早々、楽しみが増えた。
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放課後。
忘れ物がないかを確認して、バッグを持ち席を立つ。…。
「ん?どうしたの?」
穏乃ちゃんがもの凄く上目遣いをしてくる。穏乃ちゃんの頭のてっぺんが、俺の胸あたりの位置にある。
「穏乃ちゃんって、背低いね」
自慢することではないが、こう見えても俺は身長が183㎝もある。超高身長の部類だ。だから、大抵の女子は一緒に並ぶと頭のてっぺんが肩あたりの位置にあるんだが、穏乃ちゃんはそれより低い位置にある。
何というか、小学生と並んでるような…。
「え~低くないよ~。皆が高いだけ」
「身長何cm?」
「139㎝」
おぉう…。140もないのはちょっとまずくないか…?道徳的に?社会的に?穏乃ちゃんがまずいんじゃなくて俺が。穏乃ちゃんは何故か胸を張って答えてくれた。穏乃ちゃんより身長低い高校生ってもしかしていないんじゃないか…?
「京太郎君はおっきいよね」
穏乃ちゃんは自分の頭に手を置いてから真上に伸ばす。しかし、手は俺の頭上まで届くことはなく額までしか届いていない。こうしてお互い立っていると、やっぱり小学生にしか見えなくなる…。
俺は183㎝だから。と胸を張って答えると、「山みたいだ」と呟いた。いや例えの規模でけえよ。
「あ、穏乃ちゃん。そろそろ麻雀部の方に行かなきゃ」
「そうだった!京太郎君行こう!」
身長の話に花を咲かせ過ぎたせいで俺も穏乃ちゃんも当初の目的を忘れていた。
教室を出、穏乃ちゃんの後ろをついて歩いていく。穏乃ちゃんの制服って特注なのかな。小さすぎて。
一階に降りて左へ歩いていくと、「麻雀部」と書かれた表札が掛けられているのが見えた。教室に近づくにつれ、コトッという音が大きくなっていく。もしかして麻雀牌の音なのだろうか。
教室の目の前にまで行くと話し声が聞こえる。麻雀部の部員か。何か緊張してきた…。今のうちに深呼吸しておこう…としたが穏乃ちゃんが容赦なく教室の扉を開く。
「しず遅ーい」
「ちょっとHRが長引いちゃって」
一番先に穏乃ちゃんに話しかけてきたのは、ツインテールっぽい子。可愛い。
ここが麻雀部の教室かー。雀卓が一つしかなくてソファやストーブがあるくらいだから閑散としているっていうか、広く感じる。
「ねぇ、しず。あの人誰?」
「紹介しよう」
荷物をソファに置いた穏乃ちゃんが俺の元へ駆け寄る。くるりと踵を返して部員の方へ向くと、俺の紹介をしてくれた。自分も自己紹介をして入部希望の旨を伝えた。まぁ、男子部員だから興味は湧かないだろうけど。
「わぁ!入部希望の方なんですね!ようこそ、阿知賀麻雀部へ!」
少し紫がかった長い黒髪を揺らして席を立つ女子が俺の元へ駆け寄ってくる。可愛い。そして、胸が大きい…!
「へー、しずが男子連れてくるなんて。…そういうことなのー?」
ツインテールの子がニヤついた表情で穏乃ちゃんに言う。だが穏乃ちゃんは、「そういうこと」が何を指しているのか分かっていないようで、頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「俺、今日ここに転校してきて。隣の席が穏乃ちゃんだったので会話していたら麻雀の話になって、麻雀部に入ろうって言われたんです」
上手くまとめられていない感はあったが、穏乃ちゃんが「そういうこと」ではないことを説明する。
「へぇ。穏乃”ちゃん”ね~…。転校初日で女の子をちゃん付けとか、しずを狙ってる?」
今度はツインテールの子が俺にニヤついた表情で言ってきた。流石の穏乃ちゃんも「狙ってる」の意味を理解したようで少し赤面して驚いている。
「いやいや、そういう訳じゃないですよ!何か、穏乃ちゃんって年下の女の子感が半端ないんすよ。近所の女の子みたいな」
何か、こう口に出して言うと恥ずかしい感じがするし、ちょっと気持ち悪かったかも。でもツインテールの子、だけでなく他の部員たちも共感をしてくれた。
「あ~それ分かるわ~。抱きしめたくなるよね」
「穏乃ちゃん元気良いもんね」
「私より身長が低…」
ツインテールの子の「抱きしめたくなる」という言葉に共感し頷くと、「京太郎君は私を抱きしめたいの?」と赤面しつつ聞いてきた。ここで「うん」って言ったら流石に会ったばかりでそれは引かれると思うし、この人たちにも殺されると思うから否定しておいた。
「ふぅ~ん、京太郎”君”ねぇ…。本当に今日会ったばっかなのかな~?」
このツインテールの子は恐らく恋バナが好きで、他人の恋愛事情にニヤニヤするタイプの人だ。
「そ、そんなことどうでもいいだろ!…あ、京太郎君紹介が遅れてごめん。このうるさいのが新子憧だよ」
穏乃ちゃん、この子と仲良いな。と、そういえばまだ自己紹介の途中だったか。穏乃ちゃんが彼女に指を指しながら紹介する。
「うるさいのって何よ。よろしくね~。一応同い年だから」
「松実玄、高校2年生です!よろしくね須賀君」
「松実宥です、高校3年生です。よろしくね」
「鷺森灼です。高校2年生です。よろしくお願いします」
一人ずつ自己紹介をしてくれた。あの二人は姉妹なのか。美人巨乳姉妹…。
自己紹介が終わったところで穏乃ちゃんが、取りあえず打ってみようってことで雀卓に手招きされる。麻雀にハマってるっていっても実際に雀卓でやったことはないのですごく新鮮だ。
対戦相手は新子さん、松実宥さん、松実玄さん。
ボタンを押すとサイコロが回ってくれて、山が自動で形成される。自動式の雀卓じゃないと混ぜて山を作るのも手作業だもんな。科学の力ってすげーわ。
さて、起家は新子さん。俺は西家。ゲームだと自動で理牌してくれるから楽だったけど、リアルだったら当然自分でやらないといけない。
えっと、タンヤオ狙いかな…。
「ロン 3900!」
八巡目。9索を捨てたところ新子さんのアガり牌だったようで放銃してしまった。点棒を新子さんに渡していると穏乃ちゃんが「ドンマイドンマイ」と慰めてくれた。
「よっしツモ!1100・2100!」
東一局一本場、立直メンタンであがることができた。新子さんは親が流れたので「ちぇ~」と零していた。
対局終了。結局1位は宥さんで最下位は俺という結果に。宥さんがかなり強かった…。2位は玄さんで3位は新子さん。対局してとても不思議に思ったことが二つ。
この半荘で一度もドラを持てなかった。俺だけじゃない、新子さんも宥さんもあがるときはドラ無し。それなのに玄さんがあがるときはドラ5以上が当たり前みたいな感じだったし、河にはドラが一枚も捨てられなかった。
それともう一つ。
「宥さんって、ツモの偏りがあるんですか?」
唐突な質問を投げかけられたからか、宥さんが目を丸くして驚く。そして謎の沈黙。あれ、俺なんか変なこと訊いちゃったかな…?
「京太郎君凄いね…!何で分かったの?」
よく見ると宥さんだけでなく全員が驚いている様子だった。代表して穏乃ちゃんが疑問を投げかけてきた。俺は頬を人差し指で掻きながら答える。
「だって、宥さんがツモってきた牌って全部赤色が含まれてる牌だろ?赤色が含まれていない牌もツモってくるけどその時はツモ切りするし、配牌時にその牌があれば優先して捨ててるからさ。不思議だなって思って」
全員の疑問に答えると、再び沈黙が訪れる。
「すごい…完璧に解析されてる…」
「須賀君、凄いんだね。赤い牌はあったかい牌なの。赤くない牌はあったかくない牌」
「あったかい牌…?」
牌に温かいとか温かくないとかってあるか…?まさか、赤色が含まれてる牌は超微妙に温かい仕様があるのか…!?
そんなバカげた考えを全否定するように新子さんが説明する。
「言っておくけど、牌自体の温かさとかじゃないからね。宥姉って真夏の時期でもマフラーとコタツが必須レベルで寒がりなのよ。いつもストーブとかに近寄っては温かそうにしてるんだ」
真夏でもコタツって…寒がりってレベルじゃなくないか?と言おうとしたが、おそらく何度も言われてるだろうから心の中だけにしておいた。
「自分の体質が牌にも反映されているってことか…?すごいな…」
これが俗に言う、オカルトってやつか。穏乃ちゃん達にもそんなオカルトチックなことが出来るのかな。ちょっと気になるかもしれない。
「よし、じゃあ次は私と打とう!」
新子さんが離席して穏乃ちゃんがそこに座る。…やっぱり小さいな。玄さんも席を立ち、鷺森さんと交代する。
「よし、次は負けねえ!」
と、意気込んだ瞬間、教室の戸がガラガラと音を立てて開かれた。「遅れてすまん」という言葉と共に先生と思わしき女性が入室する。
「職員会議が長引いちゃって。…ん、その男子は?」
やはり先生だったか。まぁ制服じゃないし当たり前か。スラッとしていて綺麗な人だ。
俺に気づいた先生に、穏乃ちゃんが紹介をしてくれた。俺も自己紹介をする。先生の名前は赤土晴絵。阿知賀麻雀部の顧問兼監督だそうだ。
「まだ4月が始まったばかりなのに転校なんて珍しいね。どこから来たの?」
「長野です」
「え!?」
穏乃ちゃん達が急に驚きだした。長野って言っただけなんだけども。
「須賀君、原村和って人知ってる?」
玄さんが俺に質問をしてくる。そこには和の名前が出てきた。やっぱインターミドルチャンピオンって有名なんだな。まぁ、知ってるも何も数日だけだが麻雀部で一緒だったしな。
「和とは麻雀部一緒だったんで一応友達ですよ」
友達、だよな?うん、そういうことにしておこう。質問に答えると、穏乃ちゃん達はまたもや驚きだした。なんだなんだ?まぁ、インターミドルチャンピオンと友達って何気に貴重だもんな。
「…まるで運命だね」
見ると、赤土先生までも驚いている。大人たちの間でも和は有名なのか。
「…私たちも、実は和と友達なのよ」
新子さんが衝撃的な事を言ってきた。え、あいつって元々奈良県民だったの?いやでも中学は高遠原中だったし、ってことは長野には引っ越してきたんだ。へー…。
「…運命だな」
聞けば、小6の頃に和が奈良に引っ越してきて、昔ここにあった麻雀クラブに、皆で通っていたらしい。その時の先生が赤土先生なんだと。和の家は転勤族で2,3年で引っ越してしまう家で、中2の頃に長野に引っ越したと、穏乃ちゃんが説明してくれた。
…これは偶然か必然か。
「私たち、和と全国で遊ぶためにインターハイを目指しているんだ」
穏乃ちゃんが言う。インターハイで和と麻雀をする…。部長も染谷さんも優希も強いからなぁ。5人とも強いからな、県予選は勝ち抜いてくるかも。
「多分、あいつらは全国に来るよ」
確信はないが自信はある。あいつらは強い。俺は笑顔で答えた。