高鴨穏乃「須賀京太郎君っていう転校生」   作:ねりわさび

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第3話

-今日はろくに眠ることができなかった…。遠足が楽しみな子供のように。

おそらく今日は車の中で寝ることになるのだろう。

 

車というのは両親の車ではなく、赤土先生の車だ。

今日は皆で東京へ向かう。インターハイがついに始まるんだ。

待ち合わせは高校の校門前なので、制服を着て用意した荷物を持ち登校する。

「京太郎君ー!」

5分程歩いたとき、後ろから元気な女の子の声が聞こえてくる。

後ろを振り向くと、背の低い女の子とツインテールの子、立派なお胸をお持ちの人、夏なのにマフラーを巻いている人、ピンクのネクタイをきっちりと閉めている人が一緒に歩いてきていた。

「皆、おはよう!」

 

 

学校に到着すると、既に赤土先生の車が停まっていて赤土先生が出迎えてくれた。

見ると、先生だけでなく近所の方も来てくれていた。

小学生や中学生の子は「頑張れ阿知賀!」の横断幕を数人で持って広げている。…こういうのは涙が出そうです…。

各々挨拶を交わし、車に乗る。

穏乃ちゃんは出発してからも手を振っていた。

 

 

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「あ、須賀君起きた」

あれ、いつの間にか寝ちゃってたか…。玄さんが俺の顔を覗いていた。

目が覚めたら美人がいる…何て最高なんだ…。と、最高な状況に浸りながら腕時計を見ると、出発してから2時間くらい経っていた。出発してすぐ眠ってしまったっぽいな。

何か、俺だけ寝て申し訳ないな…。

外を眺めると、亀山市という文字の看板を発見した。どうやら今は三重県を走っているらしい。

奈良から東京まで車で向かおうとすると、高速道路を使って約6時間半かかるため、2時間置きにサービスエリアに寄って休憩をとる。

俺が目覚めてから10分後、サービスエリアに到着。

ずっと座りっぱなしは体にも悪いので、降りて体を伸ばしながら外の空気を吸い、歩く。

宥さんは寒くて震えている。…夏でも寒いと感じるのを羨ましいと思うのは俺だけだろうか。

その体質、交換してほしいところだが、冬になると地獄の日々が続きそうで怖い。

 

20分ほど休憩して出発する。

次に休憩をとるのは2時間後の静岡だろう。

赤土先生はずっと車を運転しているから少し申し訳なく思ってしまう。

 

「須賀ー、見て見て」

隣の席の新子さんが携帯の画面を見せてくる。見るとそこには、気持ちよさそうに眠っている俺の姿が写っていた。

「ちょっおい、何撮ってんだよ!」

「隙を見せるのが悪いのよー」

携帯を奪おうとしたが、すぐにポケットにしまわれた。こいつめ…。

「実は私も撮った」

追い打ちをかけるように、穏乃ちゃんが携帯を取り出し俺の寝姿写真を見せてくる。

消しなさい、と我が子を叱るように言ってみるが穏乃ちゃんは写真にロックをかけて携帯をしまってしまう。

別に怒っているわけではないが、自分の寝姿の写真を撮られるのは恥ずかしいものがある。

「玄さんたちは撮ってませんよね…?」

玄さん宥さん灼さんは、俺の寝姿の写真を撮るようなことはないと信じている。

「撮ってはいないけど、憧ちゃんと穏乃ちゃんに見せてもらったよー」

結局全員に回ってんじゃねえか!

今後は皆の前では寝ないようにしよう…。

 

 

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2時間後。静岡のサービスエリアに到着。

灼さんと赤土先生は飲み物を買いに行ってくれた。俺たちは食べ物を買ってベンチに座って食べることにした。

気になって買ってみたこのうなぎパン。とても美味だ。

灼さんと赤土先生の分も買っておいたから後で渡そうと思う。

今日はそこまで日差しが強くないこともあって、暑いがとても暑いとは感じない。夏としては過ごしやすい日だ。

「あ、あそこに制服の子がいる」

突然、穏乃ちゃんが前方を指差して言った。見ると、確かに制服を着た女の子が一人で川を眺めていた。

こんな所で制服姿で何をしているんだろう…と俺らが言えることではないが、注目していると突然に、力が抜けたかのように倒れかかった。

俺らが驚いてその人の方へ走っていくと、左方から「怜!」と叫ぶ女の声が聞こえ、音速の如く倒れかかった女の子に寄り添った。

こちらに気付いた二人は、どうやら穏乃ちゃんの咥えているうなぎパンを凝視しているようだった。

 

 

これは灼さんと赤土先生に上げる予定だったが、丁度二人だし灼さんと先生の分はまた買えば良いと思ったので、二人にうなぎパンを上げることにした。

「これ、美味しいな」

「うん」

一方は長髪で巨乳…一方はボブっぽい髪型で胸は…少し。とても美人な二人だ、という印象だ。

「体調の方はもう大丈夫なんですか?」

穏乃ちゃんが心配げに訊く。

「私、ちょっと病弱で」

さっきも倒れていたし、どうやら本当に病弱のようだ。

「そういえば、どうして制服なんですか?」

制服を着ている玄さんが制服を着ている理由を訊く。巨乳の人曰く、部活の大会があるから着ているらしい。

それってもしかして…。

 

唐突に、再び左方から女の子の声が聞こえてくる。

見ると、三人の女の子が並んでこちらに手を振っていた。三人とも、この二人と同じ制服を着ているところを見ると、同じ学校の人だろう。一人はなぜか学ランだが。

二人は立ち上がり、「楽しかったで」と言葉を残して三人の元へと歩き出す。

「お待たせ」

と、丁度二人の買い物が終わったらしい。

「ん?あれ、千里山じゃないか」

先生が二人の制服を見て言う。

千里山って確か、関西最強の名門で全国ランキング二位の…。ってことは、あの五人が千里山のレギュラー陣なのか…?

あの病弱の人も、病弱なだけで実はもの凄く強かったりするのだろうか。

 

休憩を終えた俺たちは再び車に乗り東京を目指す。

 

 

 

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そんなこんなで東京に到着。

やはり東京は人で溢れている。長野や奈良なんかとは比べものにならないくらいの多さだ…。

まず先に向かうは宿泊先のホテル。インターハイは数日に渡って行われるので、東京に近い県以外の高校はホテルや旅館に泊まらなければいけない。

女子は二人ずつの部屋割りだが、男の俺は一人だ。一人で部屋を使うのは贅沢だが、何とも寂しい。

今日の日程は抽選会のみ。

各校の代表が壇上に上がり抽選くじを引く。そのくじに書かれた番号によって対戦カードが決まるのだ。

もしかしたら、1回戦で清澄と当たるってことも十分にあり得るんだ。

でも清澄とは、せめて決勝戦で戦いたいよな…。

 

 

大会会場の広間には様々な制服を着た様々な女子高生がいる。男子もちらほら見かけるが、やはり数は女子が圧倒的だ。

我らが阿知賀の代表は、部長である灼さんが務める。

灼さんが2年生にして部長なのは、俺達のの中で一番しっかりしているからだと先生は言っていた。…納得してしまった。

灼さんが抽選会のために一人奥へ向かうと、穏乃ちゃんや玄さん達が「ファイトー!」とか「ぶちかませー!」とか、ただの抽選会に大袈裟なエールを送る。

灼さんの姿が見えなくなったのを確認して、俺達は会場入口まで移動し灼さんを待つことにする。

が、実は今俺の尿意は限界を迎えようとしていた。

最後にトイレに行ったのが浜松のサービスエリアで、ホテルに着いてもトイレに行くことすら出来ずに会場に向かい、結局今の今まで我慢していたんだ。

これ以上我慢すれば俺の膀胱がただでは済まなさそうだったので、挙手して皆に言う。

「あの、すみません…俺東京に着いてから一回もトイレに言ってなくて…。先に移動していてください」

「分かった。入口の場所分かる?」

「はい、大丈夫です」

そう言って、お互い反対方向に進む。

幸いトイレは近い場所にあったのですぐに辿り着くことができた。

 

…今、ここに咲や和達がいるのかな…?いる、んだよな…。

俺だって阿知賀の麻雀部員。咲達とは今は敵同士なわけで、咲達に今会いに行くのは違う気がする。

さて、用も済んだことだし、皆と合流しよう。

 

 

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「京太郎君」

会場入口で皆と合流する。灼さんはさすがにまだ抽選会か。

「須賀って、長野の清澄高校から阿知賀に来たんだよね?」

唐突に赤土先生が俺に言う。

先生を含め阿知賀麻雀部の面々は周知しているはずだが、なぜ改めて訊くんだろう?

「そうです」と返すと、穏乃ちゃんの口から思いもよらない言葉が出る。

 

「私たち、清澄の宮永さんに会ったんだ」

「咲と…!?」

驚いた。俺がトイレに行っている間に穏乃ちゃん達と咲が邂逅していたんだ。

タイミングが良いというか悪いというか…。

…清澄に会ったわけではなくて、咲と会ったってことは、咲は一人だったのかな?

「咲一人だった?」

「うん」

あぁ、多分それ迷子だな…。あいつ方向音痴癖あるから。

「須賀…あんた、凄い人と幼馴染なんだね…」

「私たち、最初は目の前に歩いてくる人がいるなーって認識しかなかったんだけど、天江さんを感じた時のような…ううん、それ以上を感じたの」

「玄ちゃんちょっと震えてたね…大丈夫?」

「大丈夫だよお姉ちゃん」

この人たちは、強い人と出会うと、オーラのようなものを感じ取ることができるらしい。

それもおそらくは、怪物や魔物と呼ばれる人のみ。

あの天江さん以上のオーラって…咲ってそんなに凄いのだろうか。

道に迷って歩いているだけで人を震え上がらせる…迷子という事を言うのは野暮だろうか…?

 

と、咲の凄さに改めて実感していると丁度灼さんが抽選会から戻ってきた。

右手には一枚の紙を持っている。おそらくトーナメント表だろう。

「さ、ホテルに戻るよ」

全員が揃ったところで赤土先生が先導する。

道中、トーナメント表を見た玄さんが「決勝まで行かないとだね」と言っていた。

玄さんから見させてもらう。インターハイはAブロック・Bブロックと別れているが、清澄とは逆ブロックになってしまった。

でも、阿知賀と清澄は決勝で会うのが理想だし結果的には良かったと俺は思ってる。

 

咲…決勝で会おうな。

 

 

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翌朝。

皆で一つの部屋に集合しミーティングを始める。

「もう皆見てると思うけど、インターハイのトーナメント表」

そう言って赤土先生はトーナメント表の紙を机に置く。

人数分の枚数あるので一人ずつ配っていく。

何かに気付いたのか、穏乃ちゃんが驚きの声を発する。

「これって、清澄と完全に逆ブロック…!」

今頃気づいたんかい。

しかもそれだけじゃないんだ。俺らはAブロック、清澄はBブロックなのだが、Aブロックにはあの高校がいる。

 

白糸台高校。

 

言わずと知れた全国ランキング一位の高校。一昨年昨年と団体戦優勝を果たし、今年は三連覇を成すべくしている。

個人的に白糸台は気になっているんだ。だって、先鋒の人が…。

「荒川憩さんが、白糸台の宮永照は人じゃないって言ってた」

新子さんが言う。

「宮永」なんて名字はそうそうあるものじゃないし、名前の漢字一字というところも咲と似ている。

でも咲に姉がいるなんて聞いたことないし、同姓なだけなのだろうか?と考えたこともあったが、最近、やはり姉妹か何かじゃないかと思い始めている。

根拠は「強さ」だ。同姓で雰囲気も何となく似ている、しかも二人とも強い。それも魔物級に。

もしかしたら咲は、宮永照さんに会いに行くために全国に来たのではないだろうか。

というか、荒川憩さんが人じゃないって言うとか、どれだけ強いんだよ…。

白糸台と当たれば、宮永照さんと戦うのは玄さんということになる。大丈夫だろうか…。

 

新子さんの言葉で、回りの空気が鎮まる。宥さんは掛布団を体に包んで震えている。しばしの沈黙。

しかしその沈黙を赤土先生が壊してくれた。

「まぁ、暗くなったところでどうなるわけでもない。取り敢えず、最初のタスクから一つずつ」

先生の言う通りだ。

清澄と戦うのが目的な阿知賀にとって、清澄と戦う前に一番負ける可能性の高い高校と戦わなければならないのはとても不安だ。

だが、だからと言って諦めて何もしないまま過ごすのは駄目だ。

確実に勝てるために相手を研究したりコンディションを高くしたりする必要がある。

まず一つ目のタスク。それは。

「東京見物!」

穏乃ちゃんがどこから取り出したのか分からないが、東京観光のパンフレットを見せる。

「切り替え早っ!」

と新子さんの言う通り、切り替えが恐ろしく早い…。切り替えの早さは見習いたいところだな。

しかしその東京見物は、赤土先生の「インターハイが終わってから」という言葉によって崩れ去る。

穏乃ちゃんはガクッと肩を落とす。新子さんはそれを笑って見守る。

「Aブロック一回戦を観戦、でしょうか?」

宥さんが掛布団を体に包んだまま訊く。可愛いな。

「いや。富山福島岡山の地区大会の映像だよ」

今日は阿知賀の試合はない。明日皆が戦うのは、この富山福島岡山だ。

この三校を確実に倒せるように今日は一日中テレビと睨めっこらしい。

一回戦のみ、トップの高校だけが二回戦進出のため三校より点を多く獲らなければならない。

 

俺も映像を見て研究して、気づいたことがあれば教えてあげたい。

俺がここで出来ることは、買い出しと研究と応援だけだからな。

 

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