高鴨穏乃「須賀京太郎君っていう転校生」   作:ねりわさび

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ちょっと短いかも…すみません。


第4話

-インターハイ二日目。ついに阿知賀の出番がきた。

玄さんがソファから立ち上がり楽屋の扉の前まで歩く。

俺たちも立ち上がり玄さんを見送る。

「頑張ってください!」

「はわわわ…」

「全国デビュー!」

「頑張ってほし…」

「行けー玄さん!」

全員でエールを送る。玄さんは「お任せあれ!」と残し楽屋を後にする。

一回戦は岡山の讃甘《さのも》高校、福島の裏磐梯高校、富山の射水総合との戦い。

地区大会の映像を見た限り、三校に特殊な打ち筋を見せる人はいなかった。もっとも、阿知賀の面々が特殊すぎて感覚が麻痺しているのかもしれないが。

テレビには、試合会場へ向かう選手が映る。何故か岡山の新免那岐という人は帯刀している人がいるが、これは考えるに宮本武蔵をモチーフとしているのだろう。

宮本武蔵は別名・新免武蔵守藤原玄信と言い、かつて讃甘村と呼ばれた地域の生まれとされているんだ。

中学の頃に社会の先生が授業中に言っていた。

 

まぁそんなことはさておき。

この三校で一番の脅威なのが射水総合の寺崎遊月という人だ。去年の全国個人戦15位。

個人戦は各地区の代表が3人なので、156人出場するわけだが、その中で15位というのは普通に強い。

ただ、玄さんには怒涛の高火力があるから少しくらい削られてもいけるはずだ。

 

そんなこんなで試合が再開される。

玄さんが、阿知賀にとって全国最初の一打を打つ。玄さん、頑張ってください。

 

「ロン!11600!」

しかし最初にあがったのは寺崎さんだった。しかも放銃したのは玄さん。

まぁ、玄さんは攻撃力と引き換えに防御力は無いからな…。

だけど、11600点なら玄さんは簡単に取り返してしまうと思う。

東一局一本場。

玄さんは高目三色のタンピンドラ3を三面張で聴牌。

11600点を削られた以上、ドラの一索を切って立直して倍満を狙いたいところだ。

が、玄さんはそんなことはしない。

玄さんは八萬を切って聴牌を崩した。

実況のアナウンサーは「どういうことでしょうか…」と解説の三尋木プロに問うが、「わっかんね~」と雑に返す。

まぁ、普通はおかしいと思うし、分からないだろう。

二巡後、ドラ一索をツモって再び聴牌。

「うわ~、またドラ5とかまじっすか」

三尋木プロが言う。東一局、玄さんは手元にドラが5つあったんだ。上がれなかったら意味なかったけど。

次巡、またドラ一索をツモる。ははっ、この人が味方で本当に良かった…。

しかし、玄さんは八索を切り三面張と平和を捨て片上がりのノベタンに。

「これなら立直をかけたほうが…いや、それ以前の問題ですね…」

アナウンサーが明らかに困惑している。何かニヤニヤしてしまうな。

しかし、三尋木プロの口から驚きの言葉が出てきた。

「かけられないんじゃないの~?立直かけたら二つ目の赤5筒が来たときに困るんじゃないかな~。知らんけど」

…この人、もしかして玄さんの打ち方にもう気付いている?

アナウンサーはこの言葉に「別に困りませんよ?」と返すが、実際困るんだ。

玄さんはドラを切ると暫くの間ドラが一切来なくなるという制約めいたものがある。

だから立直をかけてドラをツモってきてしまうとそれを捨てるしかなくドラが来なくなるんだ。

…さすがトッププロ。雑に見えてしっかりと観察している。

結局玄さんは三色ドラ6で16300点を裏磐梯からロン上がりしてみせた。

ドラ6…相変わらずの火薬庫。

25000点持ちルールだと玄さんにすぐにハコにされるからなぁ…何度泣きそうになったことか。

その後の東二局では18000点をツモ上がり、続く東二局一本場では24300点をツモ上がった。

彼女の真に恐ろしいところは、全てのドラが集まるということだ。

だからカンすればカンドラが玄さんに乗る。

相手はドラ以外の役を作ることしかできず、高い点数を上がることが困難になる。

…咲はいつも自分で槓する時はカンドラが乗ることはないから玄さんと打つ時は平常運転なんだろうな。

 

 

その後、結局玄さんの圧倒的リードで先鋒戦は終了し、次鋒戦以降は淡々と打ちトップで勝利することができた。2回戦進出だ。

穏乃ちゃんが戻ってきて皆でハイタッチをする。取り敢えず何とか無事にって感じだな。

インターハイは2回戦からが本番なんだ。理由は、シード校の参戦。

阿知賀が2回戦で当たるシード校は、千里山女子。過去何十回と全国に出場している本物の最強校。

明日は、阿知賀が千里山に対してどれだけ対抗できるか…それが重要な気がする。

 

 

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インターハイ5日目。先鋒戦の時間が刻一刻と迫ってきている。

今日も阿知賀のドラゴンロードが火を吹くのか。

「…ぶふっ」

やばい、ドラゴンロードというワードが面白くてつい吹き出してしまった。

「…どうしたの急に…」

新子さんが俺を蔑視するような目で俺を見ている。うん、急に吹き出したら誰だってそうなりますよね。

でも一応説明しておかないと。

「いや、1回戦で玄さんに付けれられたあだ名を思い出しちゃって」

「あ~」

「あだ名?」

新子さんは納得してくれたようだ。が、当の玄さんは頭にクエスチョンマークを浮かべている。

本人は実況解説の声なんて聞こえないから知らないのか。っていうか、あの後誰も教えてないんかい。

「玄さん、1回戦で解説の三尋木プロに、『阿知賀のドラゴンロード』って呼ばれていたんですよ」

「ええ~!?は、恥ずかしい…」

赤面する玄さんも可愛いよ。

「かっこいいじゃないですか!ドラゴンロード!」

穴があったら入りたい。そんな様子の玄さんにフォローを入れる穏乃ちゃん。多分、女の子はカッコいいあだ名じゃなくて、可愛いあだ名の方が嬉しいと思うよ。

「私も何か欲しいな~」

穏乃ちゃんが天を見上げ、自分に相応しいあだ名を考え始める。

そうだな…穏乃ちゃんに相応しいあだ名…。

穏乃ちゃんは、麻雀を打つ時に、山のカドが深い所にある時だけ相手に思い通りに打たせないオカルトチックな力を発揮してみせている。これで赤土先生も何度か放銃したりしていた。

つまり、山を支配するということだ。

山を支配するから、あだ名は…。

「山の守り神とか、どうすか!」

自信満々に言ってみる。が、回りからの反応は、特に無かった。ノーコメントが一番辛いんですが…。

「うっわ~…だっさい」

新子さんが直球で言う。…部屋の隅っこで山座りになっていようかな…。

「山ガールとかどうかな?」

今度は玄さんが提案。確かにこれは穏乃ちゃんそのものを表している気がするな。

「でも、山ガール・高鴨穏乃!って呼ばれたら、どう…?」

腕を組んで新子さんが唸る。まぁ、呼ばれる時にそれはなぁ…。

そう思うと、阿知賀のドラゴンロード・松実玄!とか、完璧だな。

遂には全員で考え込む。

が、途中でアナウンスが入り先鋒戦が間もなく始まる時間になってしまった。

あだ名はまた今度でもいいか。

 

いつものように玄さんに声援を送り、それに「おまかせあれ!」と返し楽屋を後にする。

2回戦の相手は埼玉の越谷女子、全国屈指の激戦区・兵庫の劔谷高校、そして…全国ランキング2位のインターハイ常連校、シードの北大阪・千里山女子。

各校の先鋒が会場一堂に集まる。

昨日、北大阪の地区大会の映像を見て思ったことは、千里山の先鋒・園城寺怜さんは不可思議な打ち方をするってこと。

まず目立つ点は、その一発率だ。

立直をかけることが出来てもスルーし、数巡後に立直をかける。すると、必ず一発で上がる。

それだけじゃない。まるで、次に来る牌が分かってるかのような捨て牌も多々ある。というかほぼ毎回か。

まるで、一巡先が見えてるような…。

 

…まぁ、流石に未来予知なんてことが出来るわけないんだから、偶然ではないにしろその打ち方が裏目に出ることだってたまにあるだろう。

そこを突けば、玄さんは勝てるのかもしれない。

場決めが終わり、それぞれが席に着く。

阿知賀がシード校を相手にどこまで闘えるのか。

集中して見よう。

 


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