やあ、皆の衆。
家族が増えてご満悦のワラキーだ。
そして、喜びつつもサーゼクスを説得もとい言い負かしに行ってる途中だ。
あの後、サーゼクスから連絡がまた入って今すぐこちらへ来いとイイ笑顔で言われたのだ。
ちなみに、反省なんぞこれっぽっちもしてません。
ところでだが、皆は昼には何をしてるかな?
俺は普段は錬金術とかオーフィスと遊んだりとかだけど
皆はゲームとか仕事とかで忙しい感じかな?
ハッハッハ、まあ、これも元二次元の時空ですし。
俺からしたらここがリアルだから何とも言えないけども
そっちはそっちで頑張ってくれ。
お給金のために!
こっちはこっちで忙しいんやで。
冥界復興はまだ完全には終わってないし。
と、脳内会話をしていたら着いたな。
さっさと入ってさっさと説得してさっさと帰ろう。
この時の俺は、そんな気分だった。
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「遅くないようでよかったよズェピア。
さて、確認だけど、赤龍帝の少女は?」
「ああ、今頃我が家で暇を潰してるだろうね。」
「…それで、君はどうするつもりなんだい?」
「どうするも何も、普通に人並みの暮らしをさせる。
それが何か?」
「何か、じゃないだろう。彼女が冥界に害を為すとは考えなかったのか?」
「ない。それはないよサーゼクス。あり得ないとすら言っていい。」
俺は断言する。
フリージアは戦うことすら知らない少女だ。
幸福を過ごすべきだった少女なのだ。
「理由は?そこまで言うのなら、何か理由があるんだろう?」
「理由も何も。……私が、理由だが?」
「……意味が分からないな。」
「だろうね。要は、私が彼女の安定剤になるだけだ。
それに、あのまま野に放っていたら逆に何か起こっていたと思うがね。
それこそ、ドライグに何か言われ…とかね。」
「そうかもしれないが……」
「それと一つ。忘れていないか?
赤龍帝をどうするか任せたのは君だよ。
だから、任された通りに探しだし、任された通りに処分した。
……もう一度聞くが、それの何が問題なのかね?」
「……君、詐欺師って呼ばれたことはないかい?」
「心当たりがまるでないな。
私は依頼通りにしただけだよ。」
サーゼクスはこれ以上は意味はないと理解して溜め息を吐いてから、いつもの穏やかな笑みを浮かべる。
「…今回はもうやってしまったことだし仕方ないとして許そう。今回だけだからな?
君がこちらに何かする気がないのは分かってるが、心臓に悪いよズェピア。」
「それは失礼。だがね、サーゼクス。
あの子はもうこちらに関わった以上はもう自分がどんな立ち位置なのかも理解してる。
故に、命の終わりまでは、赤龍帝としての役目など忘れてほしいという我儘を私は選んだ。
元より、私は放浪者だった身だよ。融通が効きにくいのは知ってるだろう。」
「知ってるけど、まさか強行手段に出るなんて思わないって。魔王の許可云々を度外視するのは度胸があるね。」
「褒めてるのかね?」
「呆れてるんだよ。」
笑い合う俺達。
今この時は、ただの個人でいられる。
先程の会話は魔王として、今は、ただのサーゼクスとして。
きっとこれから、その時間が少なくなるであろう彼に多少の申し訳なさを感じながら俺は笑う。
しかし、その時間と雰囲気は、サーゼクスが振りだした話によって壊される。
またサーゼクスが魔王として話をしだしたからだ。
「ところで、ズェピアには伝えておこうと思ってね。
アジュカが今開発中の悪魔の駒というものについて。」
「……悪魔の駒、かね?」
悪魔の駒…確か、チェスに見立てた駒で、人間とか種族問わずに転生悪魔にして眷族とする物。
しかし、これは悪用されてるのを知ってる。
例えば、私利私欲の為に問答無用で女を転生悪魔化させて性欲の捌け口にしたり、強い神器を持っている人間を無理矢理転生させたり。
悪魔化して逆らった眷族ははぐれ悪魔とされて討伐される。
そんな、道具だった気がする。
そして、サーゼクスが説明したのも、概ねそんなものだった。
「……なぁ、サーゼクス。それは、やめた方がいい。」
「何故だい?確かに、問題は発生するかもだが悪魔という種を存続させるにはこれ以上ない手だと思うんだが……。」
「君の言い分は分かる。現在の悪魔が少ないというのも知っている。
だが、その悪魔の駒はこれからの冥界に本当に必要なのかを考えてくれ。
私には、それが後に大きな問題となるようにしか思えないのだ。」
「……ふむ、君が言うなら、アジュカとも相談してみるよ。
それか、君がアジュカと話をするかい?」
「いや、それは勘弁してくれ。殺し合いになる。」
「ハハハ、物騒な冗談だなぁ。」
サーゼクス…前にアジュカ・ベルゼブブと会ったときの険悪なムードを忘れたのか。
もしや、気づいてなかったのか!?
おま、お前ぇ!
それでも魔王かよぉ!
しかし、悪魔の駒か……人間も無理矢理転生させられる……ね。
─フリージア。
彼女も、もしかしたら……
いや、やめよう。
それはさせない。
俺が守ると決めたじゃないか。
あの子は、俺の家族だ。オーフィスの家族だ。
だから、今は、考えなくていい。
「サーゼクス、話は終わりでいいかな?一刻も早く帰ってあの子の生活用品を揃えねばならないのだが。」
「……過保護にならない程度にしなよ?」
「過保護になる分には問題はない。」
「いや、それはどうなんだろう……。」
「ハハハ、まあ、君もいつか分かる。
では、然らばだ。」
俺は焦る気持ちを抑えて転移をする。
・
・
・
家にはすぐに着いた。
さっさと玄関の扉を開けて中に入る。
すると、今日に限ってオーフィスの出迎えがない。
楽しむような声も聞こえない。
まさか、とは思ったが、悪魔の駒はまだ開発中だ。
それに、攻め入られてるのなら俺にすぐに連絡が来るはず。
俺はフリージアの部屋に急ぎ足で向かった。
「……フリージア?居るかな──」
軽くノックしてから開ける。
すると
オーフィスと一緒に寝ているフリージアの姿があった。
とても、気持ち良さそうに寝ている。
俺は安堵の息を漏らす。
よかった、何もなかった。
あの話を聞いたとき、もしかしたらを考えてしまった。
怖かった。
招いたばかりとはいえ、新しい家族を早々に失うのは。
自分は弱いなと苦笑する。
どこまで人外の体を得ていようとそこは人間なのだと実感する。
「─私が守る。君の終わりまで。」
だが、既にこの身は死徒二十七祖。
そして、身勝手で助けた子がここにいる。
分かってる。
自由には責任が伴う。
俺の負うべき責任は、この子達を守ることだ。
親が守るのは当然だろう。
俺が親で、フリージア達が娘。
そういう家族構成でいい。
苦労を負うのは、俺一人でいい。
この子達は笑ってるべきだ。
片や孤独を永遠と過ごし、片や覚醒した力のせいで追放された身。
それに対して俺は?
俺は孤独を永遠と過ごしてないし、覚醒した力なんざない。
この力と姿は転生という反則で手に入れただけだ。
自分の望んだモノを手に入れてる俺は恵まれ過ぎている。
ならば、その恵みを、幸福を分けてもいい筈だ。
俺は笑みを浮かべながら部屋を後にしてプライベートルームへと向かう。
より力を得るために。
より高みを目指すために。
そして、よりあの子達を守る決意を強固にするために。
「……後は、服とかも買わねばな。」
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おっす俺ワラキー。
決意に満たされた日から数日は経った訳だが、報告がある。
フリージアとオーフィスが姉妹のようでとてもホッコリします。
何だそんなことかって思ったろう?
バッカお前ら、これは重要なことだ。
数日経った後もずっと円満にやれるかは分からないんだ。
だからこそ、少し様子を見てたんだが、全然心配要らなくて損しました。
現在はフリージアがオーフィスに本を読み聞かせてる。
俺の役目が奪われてる気が否めないけどそこはいいや。
寧ろ奪われていい。
微笑ましい光景だからね。
しかし、フリージアは知らない時もあるのでたまに聞きに来るのだが、勉学を教える父親とはきっとこんな気分に違いない。
ああ、もう幸せである。
「…フリージア、まだ数日しか過ごしていないが、聞かせてほしい。
ここに来て、今の生活はどうかな?」
聞きに来たフリージアに俺は尋ねる。
フリージアはキョトンとしてすぐに笑顔になり
「幸せよ。貴方とオーフィスが居てくれるからね。」
「……そうか、それはよかった。」
それを聞けて、俺はとても喜ばしく感じた。
笑顔で言われたのだ。嬉しくないわけがない。
「ところで、パパと呼んでくれたりは?」
「ごめん、無理。」