少し遅れてしまってすいません。
今回は主人公の視点がほとんどありません。
それでもいいって方はゲージ溜めしながら見てください。
椅子に座って彼を待つ。
彼がこの屋敷にいない間は我が守る事になっている。
自分で淹れた紅茶を飲むが、彼が淹れる程の味ではないので少し満足しない。
彼とこの屋敷で住むようになってもう数ヵ月が経過している。
その途中で、新しい住人─フリージアが来た。
赤龍帝であるが戦いを望まない彼女は彼についてくる事にしたという。
確かに、迫害されてしまっては行く宛もないだろうし彼なら断ることなく匿ってくれるだろう。
赤龍帝の力が欲しい輩は無数にいる。
勿論、我の無限の力を欲する輩も。
理不尽に見舞われて殺されてしまうかもしれない運命に彼女を、彼は放ってはおけなかったと我にだけ告白してくれた。
他の友人が彼の本音を知らない中、我だけが知っている。
何だかそれは優越感を感じて嬉しくなる。
彼は我の事を家族だといった。娘のようだとも。
けれど、我は───
「オーフィス?何だかボーッとしてるけど大丈夫?」
そう話し掛けるのは同じく向かい側で椅子に座って本を読んでいるフリージアだった。
フリージアとはよくこうして読書をしてるのだが、フリージアも我の知らない事を知っていてそれを聞くのは楽しい。
本の中だけじゃ分からないことを知れるのは、楽しい。
「ん、大丈夫。少し、考え事。」
「そう?ならいいんだけど、悩みとかなら相談してね?私にはそれぐらいしか出来ないから。」
「…ん。」
彼女は自分が弱いことを自覚している。
だから彼の仕事を手伝うなんて言わなくて家事をするだけだ。
無力感に打ちひしがれている訳ではないので心配はないと思う。
赤龍帝…ドライグに二度と操られないように神器に細工をしたというが、聖書の神が創った神器を弄るのは言うほど簡単ではない。
それほどまでに彼が錬金術師として優れている証拠だ。
だというのに彼は真理を探求するでもなく、何かの最奥を見るための実験などをするでもなくいつか始めるであろうグレートレッドの打倒のためにその才能を使っている。
他に何かしないのかと聞いてみれば、彼は決まってこう言うのだ。
『オーフィス、私は君のためにこの才能を振るうと決めている。
だから、他の事にはまるで見移りしないのだよ。
するとしても、終わってからじゃないかな?』
そう言うのだ。
不満はないのかと聞けば無いと言い、欲しいものはと聞けばもう手に入ってると言う。
よく分からない、けれど彼は家族と過ごしている時間を大切にしている。
それこそ、失われるのを恐れている位に。
彼が今の冥界に多少の憂いを抱いているのは何となく察している。
悪魔の駒というのが開発され、それぞれの貴族悪魔に配布されたのだという。
あらゆる種族を眷属にする駒。
恐ろしいものだ。
彼にも配られたらしいが、今のところ眷属は必要ないしこれからも必要ないと言っている。
下手な上下関係を生みたくない彼にとって駒は正に要らないものなのだろう。
ふと、気になった事がある。
全てが終わったら、彼はどうするのだろう。
もし何もすることがないのなら、我と居てほしい。
その方が、安心する。
前までは静寂を欲していたというのに、誰かを求めてしまうというのは矛盾している。
それほどまでに彼は我に影響を与えてくれたという事なのか、それとも単に我が何も知らなすぎたというだけなのか。
恐らく、両方なのだろう。
そして、フリージアにも共に居て欲しい。
ただ、三人で暮らせれば、我はいい。
でもグレートレッドは苛立つから倒す。
「……フリージア。」
「ん?どうかした?」
「フリージアは、寿命を克服出来たら、する?」
「どうしたの急に。」
「フリージア、人間だから…すぐ死んじゃうから。」
「…うん、そうだね。私がいないと、寂しい?」
「ん。ズェピアも、寂しい。」
彼女は困ったように人差し指で頬を掻く。
「そう言われると迷っちゃうんだけどね…
うん、でもごめん。私、人のまま生きて死にたいな。」
「どうしても?」
「うん、どうしても。
寿命を克服するっていうのは凄いことだって分かってる。ずっと皆と過ごせるのがどんなに素敵なのかも。
でも、私は人間だから。
いつか死んじゃうのは仕方無いことだし、受け入れるって決めたから。
だから、ごめんね。」
彼女は、少し申し訳なさそうに、しかし笑みを浮かべて答える。
何となく、分かってはいた。
彼女は変なところで自分を曲げない。
今回はそれが生き死にに関してだっただけ。
どちらであれ、答えが聞けてよかった。
その日が来るまでに、我とズェピアは楽しかったと思えるように過ごすだけ。
そう、それだけ。
「ん、フリージアが決めたなら、我は何も言わない。
きっと、ズェピアもそう言う。」
「あはは、ズェピアも悪魔にならないかって聞いてきたんだけどね。」
「……断った?」
「うん。」
そうか、どちらも断られてしまったということになる。
それは、完敗だ。
「じゃあ、フリージア、トランプ。」
「お、今日は何で遊ぶ?」
「ん、スピード。」
「うげ、スピードって一番オーフィスが強いヤツじゃん。」
「我の誘いを断った、仕返し。」
「…そっか、じゃあ、仕返し食らうしかないかな。」
「ん。」
「じゃ、トランプ出してくるね──」
フリージアはそう言って席を立ち、棚からトランプの束を取り出───
「っ!フリージア、隠れて!」
「へ?え、えぇ!」
─せなかった。
結界が干渉される時に、ズェピアだけでなく我にも知らせが来るようにしてもらっていた。
その知らせが来たということは、何者かが侵入してきたということ。
フリージアは咄嗟に言われて驚いてはいるもののすぐに身を隠せそうな場所へと隠れた。
気配を探る。
一体、誰が来たというのか……。
扉を開けて、気配を探りながら玄関の方へと歩く。
数は、15人。
意外と多い……。
隠れながら歩き、辿り着く。
玄関の扉は無造作に開けられており、そこからゾロゾロと悪魔達が入ってくる。
…靴も脱がないで、常識知らず。
「よし、侵入には成功したな。手当たり次第探すとしよう。
確か、女一人の確保だろ?」
「ああ、家主が居ねえなら楽勝楽勝。
すぐ終わらせようぜ。」
…こいつら、フリージアを狙ってる?
それとも、我?
「なあ、対象の女が別嬪ならよ…」
「おいおい、拐ってからにしろ。
味わうのはその後だろ。」
拳に力が入る。
屑だと分かった以上、生かす理由もない。
どうしてこうもただ生きて死にたい少女に邪魔が入るのだ。
奇襲してそのまま皆殺しといこう。
こういう輩は容赦しない方がいい。
消し飛ばす方がいいだろうか。
けれど、殴ったり蹴った方が早い気がする。
うん、打撃で消せばいいか。
そうと決まればさっさと行動に移そう。
悪魔達がこちらへと歩いて来る。
「…ッ!」
「な、貴様──」
曲がり角へと来る瞬間、一番近くの悪魔の腹へ拳を叩き込む。
悪魔は腹に大穴を開けて絶命した。
…消せなかった。
力の入れ方、相変わらず難しい。
「……床、汚れた。」
「しょ、少女…?貴様、何者だ!」
「何者は、こっちの台詞。でもいい、さっさと殺す。」
「こいつが、対象の……!?」
相手は悪魔で、家族を狙ってる。
それだけの情報で十分。
調べるとかはズェピアの領分。
「怯むな、相手は力があるだけの小娘─」
「煩い。」
近づいて、力を入れて蹴る。
今度は消せた。
この感覚、覚えた。
「ヒィ!?な、なんだこいつ、化け物だ!?」
悪魔達は力の差を理解したのか怯えてしまっている。
だったら来るなと言いたい。
「後、13人。」
「う、撃て、撃てェェェェ!!」
「死ね、小娘がぁぁぁ!」
「喧しい。」
魔力の塊を放ってくるが、同じく魔力を適当に槍の形にして投げる。
槍は悪魔達の魔力の塊を消してざっと8人くらい殺して向こうの壁を壊してしまった。
「あっ。……怒られる。」
「こ、こんな、あっさり……」
「ま、いいか。」
戦意を失ってしまった五人をさっさと殺して後で掃除しようと思いながらフリージアの元へ戻ろうと─
─したところで、また結界の知らせが届く。
「──!」
マズイと思い、フリージアの元まで急ぐ。
やられた、奴等は囮役。
本命はこっちだった…!
部屋が遠く感じる。
─瞬間、強大な気配を感じた。
──────────────────────
部屋の外から大きな音と声がする。
オーフィスが戦ってるのだろうか。
隠れている私の代わりに…。
私は、役立たずだ。
でも、私が行ったところで邪魔になる。
自分の強さくらいは分かっているつもりだ。
きっとすぐに、倒して戻ってくるはず。
ズェピアも、危険を察知して帰ってくるはず。
私に出来るのは、邪魔にならないようにすることだけ。
赤龍帝の力なんて使っても、下級の悪魔にすら勝てはしないだろう。
戦おうなんて思えないから、倒そうなんて思えないから。
……音が止んだ。
「…終わった、かな?」
確認しようかと思い、隠れていた場所から出る。
オーフィスが負ける相手なんて早々居ないだろうし、勝ったと思うけど……。
私は扉を開けようとして─
─後ろから窓を破って入ってくる悪魔に対応出来なかった。
「っ!しまっ─あぐっ!?」
「ハハハ!どうだ?終わったと思ったろう?
残念でした、俺が本命でーす。」
後ろから腕を掴まれ、地面へ叩きつけられる。
そのまま魔法か何かで体の自由を奪われてしまう。
悪魔の男は悪戯が成功した子供のように笑って私の髪を乱暴に掴み、顔を上げさせる。
「おい、おいおいおい、中々上物じゃねぇの。
いいねぇ、いいねぇ。」
「っ、何よ、私を人質にでもするつもり?」
「大当たり!アンタを捕らえて、この屋敷の主様に嫌がらせをするって寸法よ。
身代金みたいな感じで何か貰おうかな~。」
「貴方、最低ね。か弱い乙女縛って、挙げ句そんな薄汚い真似をしようだなんて。」
「悪魔にそれは褒め言葉だねぇ。
ま、せいぜいキャンキャン吠えてなよ。」
男はこれから起こることを楽しむかのように喋る。
……ああ、私が弱いばっかりに。
また皆に迷惑をかけてしまう。
何で、私なんかがこうして彼の家族になってしまったのだろうかと、思ってしまう。
彼があの時断れば私は勝手に死んで終わりだったというのに。
今だって、戦う力があるのに経験を積まなかったばっかりに簡単に捕まってしまっている。
駄目だなぁ、私。
私じゃ、何も出来やしない。
単に足手纏いじゃない。
舌噛んで死のうとする勇気すらない、平凡以下の女。
だからこうやって、静かに生きたいという願いも叶わない。
願うことすら駄目なの?
(役立たずだなぁ、私。)
自然と、涙が出る。
こんなとき、ズェピアならどうするんだろう。
そもそも、ズェピアはこんな様にならないよね。
こうして捕まって、何もできない薄ノロだけど…
でも、私は生きたい。
利用されて殺されるなんて真っ平ごめんだ。
死ぬのなら、せめて、家族に看取られて死にたい。
でも、私に今何が出来るの?
神器を使っても、無駄な足掻きにしかならない。
倍加なんて、弱い私が何度倍加すればこの拘束を破れるのか。
……ああ、でも。
あの時も、私は捕まっていた。
ドライグに主導権を奪われ飲み込まれていた時、確かに
私は呼んだんだ。
来てくれるって、あの時は思ってて、すぐに来てくれた。
なら、もう一度呼んでも、すぐに飛んできてくれる。
「─助けて、ズェピア。」
「─ああ、すぐに助けよう。」
とても聞き覚えのある声がした。
ああ、来てくれた。
「おいでなすったか……っとぉ!?」
悪魔が入ってきた窓から黒い風が悪魔を飲み込まんと入ってくる。
悪魔は私を抱えて跳んで避ける。
風は家具を切り刻んでから、やがて止んだ。
部屋が荒れたせいか、はたまた風のせいか煙が出てきてしまいよく見えない。
「中々手荒く、そして遅い歓迎じゃねぇか主人さんよぉ。」
悪魔は冷や汗を垂らしながら笑みを浮かべ、先程まで悪魔がいた場所を見ている。
「─いやなに、家族に手を出されては一家の大黒柱たるもの激怒するのは仕方あるまい?」
煙から私のヒーローが出てくる。
自然と、涙が止まる。
「ズェピア!」
「ああ、私だとも。帰りが遅れてすまないね。
さて、狼藉者君、ごきげんよう。
君、いや君たちは何の目的があってこの屋敷へ来たのかね?」
「言うわけねぇだろ?」
「まあ、そうだろうとも。しかし、よくもまあ荒らしてくれたな。」
「へっ、さっきの攻撃でこの部屋はもっと荒れたなぁ。」
「そのようだね。……さて、賊はさっさと始末するに限るかな。」
「おっと、いいのかい?下手に動くとこの嬢ちゃんが死ぬぜ?
いやなら、こっちの要求に従って─」
「その必要はないな。」
「……つまり、嬢ちゃんはどうでもいいってことか?」
悪魔はズェピアの反応がつまらないのかそう質問する。
ズェピアは何も答えず、ただいつものように目を閉じて静かに立っている。
「…ああそうかい、んじゃまぁ、嬢ちゃんは殺すとする─」
「君は、あれかね?一々喋らないと行動に移せないのかね?特撮かね?何れにせよ、展開もそうだがありきたりすぎて飽きが来るよ、君。」
「何を言って…ガフッ!?」
男が突然口から大量の血を吐き出しながら痛々しい声をあげる。
腹付近を見てみると真ん中を蟷螂の鎌のような形をした巨大な黒いナニカが貫いていた。
「な、ん…アギャ」
悪魔の後ろには同じように黒い大男が腹からそれを出していた。
大男は獰猛な笑みを浮かべて鎌で男を引き寄せる。
すると鎌が消えて今度はワニの顔が出て来て丸ごと食べてしまった。
大男は満足したかのように霧状になって消えた。
呆気ない終わりだと、驚愕より先に思う。
恐怖は無かった。
だってこれはズェピアがやったことだと私には分かる。
いつの間にか、私の拘束は解けていた。
ズェピアは私の方へ近付き、立たせてくれる。
「…ふぅ、無事かね?」
「え?う、うん……今の、ズェピアがやったんでしょ?」
「まあ、ちょっとした手品だよ。」
「そう、なんだ。」
「…どうかしたかね?」
「……うぅん、なんでもない。ごめんね、また私のせいで。」
「君のせいではない。周りの馬鹿どもが狙ったのは私のようであったし、君は利用されかけていただけだ。
君とオーフィスには謝らなければならない。
もう少し君達に気を配っていれば……すまなかった。」
「へ?あ、謝らないで!私が悪いんだから!」
ズェピアはそう言って頭を下げる。
私は謝られるとは思ってなかったので慌てて頭を上げさせる。
「いいや、保護者として私は君を守れていなかったのは事実だ。
自分の甘さが嫌になるくらいには悔しかった。
故に、自分への戒めとして私が悪いということにしてくれないか。」
ズェピアは極めて真剣な口調で私に言う。
「ズェピアがそこまで言うなら、いいけど…でも、私に力がなかったからこうなったのも事実だから……」
自分の弱さを嘆きたい。
そう思いながら顔を俯かせていると扉が突然開く。
「フリージア、無事!?」
オーフィスはいつもは見せないような焦った顔で私の安否を聞いてくる。
オーフィスも無事だったのが嬉しかった私は抱き付いた。
「オーフィス!よかった!無事だったんだ…!」
「ああ、ただいまオーフィス。私が賊を始末したから問題はない。」
「ズェピア…?じゃあ、さっきの気配は…」
「私ということになるな。」
オーフィスはそれを聞いて安堵の溜め息を吐く。
そして、私の事を抱き締める。
「フリージア、無事でよかった。」
「うん、ごめんね、私のせいで……」
「悪いのは、悪魔達。」
「…うん。」
それから私達は、荒れてしまった部屋を掃除した。
色々と壊れてしまい、しばらく私の部屋は使えなくなってしまったが、ズェピアが責任をもってすぐに買い揃えると言っていた。
…トランプ等の遊び道具も無くなっていた。
それとズェピアが何度もブツブツと何かを言っていて不気味だった。
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ああ、全く以て忌々しい。
どうしてくれようか、あの蝙蝠共。
どうせ他にもいるだろうし。
やはりアイツに聞くのが一番か。
あっさり終わらせていいのかと思いましたが、自分としては下手にシリアスは要らないかなと思い、さっさと終わらせました。
事実すぐに終わりますし。
次回はシスコン魔王と怒りの話し合いです