フリージアが帰ってこない。
あの後、ドライグを宿した男…イッセーと連絡を取ったが。
『え、帰ってないんですか!?あの後、走って帰って……すんません!!』
『あ、待っ……』
勢いよく切られた。
もしかしなくとも、探しにいったのか。
闇雲に探しても無駄だというのに……
やはり、吸血鬼の生に疲れて何処かへ?
それとも、誰かに……?
とにかく、皆と連絡を取ろう。
『家には来てないわ。』
『……そう。』
最後のフリージアの友達の悪魔の家にも来てないそうだ。
……これは、どうしたことか?
ガチャリ、とまた勢いよく扉が開いた。
我はすぐに玄関にまで赴いた。
「ズェピア!」
「……居なかった。ネロはなんと?」
「カオスも獣を使って探してるけど…まだ。」
「そう、か……」
酷く、困惑している。
外はもう夜中だ。
こんな時間になってるのに帰ってこないのはおかしい。
やはり、ついていくべきだった。
「オーフィス、私はもう一度…」
「ズェピアさん!!」
「…!」
声を荒げ、誰かが入ってきた。
誰かと思えば、先程連絡を取ったイッセーだった。
肩で息をして、疲れながらも我とズェピアに話し掛けてくる。
「はぁ……はぁ…フリージアさんは……?」
「……まだ見つかっていない。」
「そんな……」
「…イッセー君、君がフリージアと話したときは何もなかったのだろう?」
「はい、多少話して、それで別れました…」
「……そうか。フリージアが帰ってこないで何処かへ去ったという点は無いとして、やはり……誘拐か?」
「そんな!なんで、フリージアさんが!」
「私とて知りたい!!」
「っ……!」
ズェピアが、怒りに任せた声を発する。
久し振りにそんな声を聞いた。
これは、本気で怒っている時だ。
だが、我はそんなズェピアの腕を掴む。
「落ち着いて、ズェピア。」
「だが、オーフィス…」
「こういう時だからこそ、でしょ?」
「……そうだな。」
「でも、そうなるとどうすれば?」
「…サーゼクスにも聞いてみよう。
オーフィスとリビングで待っていてくれ。」
「…はい。」
「ん、じゃあ、イッセー、来る。」
我はイッセーを連れてリビングへと入る。
座るように言って、お茶をいれる。
普通に、緑茶でいいだろう。
我も緑茶は好きだから。
「…フリージアさんに、一体何が……」
「分からない。
だけど、余りにも急すぎる。
誘拐とすると、誰がやったのか分からない。
フリージアを拐う利点なんて…ズェピアか、我、カオスを引き込む事くらい?」
「そんなやり方で、従うわけないんだろ?」
「当たり前。家族を裏切ることはしない。」
「頼もしいなぁ……」
「…でも、もし、フリージアを助けるのならイッセーがやるべき。」
「え?」
何で俺が?
そりゃ、俺だってそうしたいけど、俺よりもオーフィスやズェピアさん、ネロさんの方が強い。
普通に考えて、三人の内誰かがやるべきだ。
「約束したって、聞いた。」
「…それは、そうだけど。」
「無理を意地で通さないといけないときが、きっと来る。それに、我やズェピアやカオスがどうしても動けない時があるかもしれない。
その時は、お願いね。」
「…おう!任せてくれ!」
約束、したからな。
俺は弱いけど、やるだけやるさ。
・
・
・
『ズェピア、落ち着いて聞いてくれ。
……先程、僕へ君宛のメッセージが届いた。』
「何故君のところへ?」
『直接会わないといけないのより、送れる相手に送った方が危険がないからじゃないかな…。』
「……それもそうか。それで、内容は?」
『…赤龍帝の残滓を宿す少女は貰った。
返して欲しくば、城まで来い。』
…。
落ち着け、大丈夫、殺された訳じゃない。
問題はない、いつも通り、相手を殺して──
『─ただし、ズェピア・エルトナムとオーフィスが来れば殺して残滓を戴く。』
「─!!」
気付けば、俺は壁に拳を叩き付けていた。
死徒の全力に近い一撃が、壁を粉砕する。
……くそ、物に八つ当たりしても、意味はないのに。
このメッセージの主は、何を言っている。
娘を拐った挙げ句、俺とオーフィスが来れば殺すだと?
「傲慢にも程があるだろう!!」
『落ち着いてくれ!』
「これが……落ち着けるか!」
『それでもだ!君の気持ちは分かるよ!
僕だってミリキャスを誘拐でもされたら気が狂う。
分かるからこそだ、落ち着いてくれ。
…ネロは行けるんだ、後何名かを編成した万全な態勢でいけばいい。』
「…くっ、しかし、私やオーフィスに来るなということは、それに近い実力を持つ敵の可能性も…」
『否めない。だからこそだ、ネロが倒されてしまった時を考えるんだ。』
「君は無理なのか?……まさか。」
映像越しでも、サーゼクスの苦虫を噛み締めるような表情は分かった。
そうか、お前もなのか。
ということは、魔王とそれに近い実力者も来てしまえば殺される。
だが、何故だ?
「何故、同胞が?」
『ネロは表立って動いたことはない。
だからだろうね……それに、ネロの存在を知らない可能性もある。獣ならば見たことはあるかもしれないが……ネロ・カオスという個は見たことはないのかも。』
そこは分からない、か。
……相手は万全の対策を練っているはずだ。
だが、一体相手は誰なんだ?
「相手が誰かは分からないのか?」
『…いや、律儀に名前を載せてたよ。
リゼヴィム・リヴァン・ルシファー、とね。』
「リゼヴィム……。しかも、ルシファー?」
『ああ……僕やアジュカ、君と同じ超越者の一人。
今まで何一つとして興味を示さなかった彼が何故赤龍帝に興味を示したのか……』
「……そちらに居るのだろう?リゼヴィムは。」
『まだね。いつ気が変わって動くか分からない。
フリージアがどんな状態なのかもね。』
「そうか。……また後で会おう。」
『ズェピア。…気を付けて。』
「……ああ。」
通信を切り、ようやく手の痛みに気づく。
握る力が強すぎて皮膚が剥がれ、肉が見えている。
まあ、それはいい。
これを伝えないと。
……リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。
お前は必ず、この世から記録もろとも消し去ってくれる。
よくも、うちの娘を己の欲望を叶えるための道具として利用してくれたな。
その魂、永劫に報われぬモノと思え。
アトラスの地獄が、お前を殺すだろう。
・
・
・
「リゼヴィム?ルシファー!?」
「ああ、彼はどうやら、私や私に近い実力者は邪魔らしい。
相当に姑息だ。無理矢理侵入しても…フリージアは殺されるだろう。」
「……何のために?」
「憶測ではあるが、今の赤龍帝が存在しているのに未だその因子を持っているからかもしれない。
その籠手を抜いたからだろう。
……だが、それならばより強い因子を持つ君を狙えばいいはずだ。」
「そうですよ、何で俺じゃなくてフリージアさんなんですか!あの人は、日常を生きるべき人なのに!」
「…その言葉はありがたいが、それは置いておこう。
そこだ、そこが分からない。
何故私やオーフィス、ネロを敵に回してまでフリージアに手を出したのか。合理的ではない。」
分からねぇ。
リゼヴィムって奴は何がしたいんだ?
だって、俺以外の赤龍帝はもういない。
因子があるからって……
『─待て、相棒!分かったぞ!』
「ほ、本当か!?」
ドライグの言葉に俺は既に出してある籠手に驚く。
ズェピアさんとオーフィスも籠手を見る。
「ドライグ、君に分かったということはそちらの方面か?」
『いや、此に関しては俺かアルビオンしか思い至らない可能性もある。だからこそ盲点だ。
そのリゼヴィムは思い付いてしまったのだろう。
二人目の赤龍帝の創造をな。』
「二人目の、って……可能なのかよ!」
『普通は出来ない。俺の力は所持者以外には残らないからな。
だが、フリージアは違う。
フリージアは生きながらにして別へ俺を流した。
貴様の技術を経由してな。
となると、リゼヴィムは虚言を吐いた。』
「虚言?」
「─待て、そうなると……」
ズェピアさんは答えに至ったみたいだけど、俺とオーフィスは分からない。
早く教えてくれ。
その虚言がとてつもなく怖い。
『既に何かされている可能性が極めて高い。』
「ッ!?」
「……!」
隣にいたオーフィスから膨大な魔力が溢れでる。
しかし、それも一瞬。
怒りでつい、といった感じだった。
「…しかし、相手は要求を呑めという。
奴にとっては、単なる興味でしかないのか?
私達の家族を、奪うことが……!
度しがたいぞ……実にだ……。
……イッセー君。」
「は、はい!」
「本来ならば、私がいきたい。
だが、それでも行けない……私がいけば今度こそ結末は最悪へと変わる。
……だから──」
ズェピアさんは俺の名を呼び、俺の方を向く。
一体、何を言われるのか。
「─娘を、助けてくれ。」
「─!」
頭を下げての、頼みだった。
どうか、という程の懇願。
助けてくれと、俺よりも強い人からも言われる。
俺は、本当はこの人自身が向かいたいのだろうと理解している。
日々のこの人が、家族への愛を示しているから。
だからこそ、どうしようもなく、悔しいのだろう。
こうして頭を下げて頼んでる最中も、手から血が流れている。
気付けば、オーフィスも俺に頼んでいた。
俺が、超越者に近い者と戦って、助け出せるのか。
俺よりも強く、優しい人の思いを背負って……
─もし、私が危ない目に遭ったら、助けてくれる?
……そうだ、俺が、約束したんだ。
やらないと。
何より、助けないと伝えられない。
「はい、フリージアさんは俺が助けます!
約束したんです。何かあれば、助けるって。」
「……そうか、頼まれてくれるか。」
「ありがとう、イッセー。」
「それでは、イッセー君。
君にひとつ、渡しておこうと思っていた物がある。」
ズェピアさんは、そう言って、ついてきてくれとリビングを出る。
オーフィスを見ると、行ってやってくれと視線で伝えられた。
俺は何だろうと気になりつつ、ついていった。
─────────────────────
─音がする。
足音、だろうか。
コツ、コツと小気味いい音がする。
最初に感じたのは、音で。
次に感じたのは、足首に冷たい何かを付けられてる感覚だった。
目を開ける。
「……っ、ここは……?」
目の前に広がっているのは、石の壁。
鉄格子が見える。
これは、牢屋?
足首を見ると、足枷のようなものが嵌められていた。
「な、なんで……?」
それに、この牢屋、魔力を感じる……魔法が掛かっているの?
捕まっているのは確かだ。
私が、何をしたのかは分からないけれど。
そして、ようやく足音は自分の目の前までやって来た。
「いやぁ、美少女を牢屋に閉じ込める所業をやるはめになるなんて俺ちゃんったら中々にヤバイ奴じゃなぁい?気分どう?良くないよねぇ!ヘイヘイ、今の気持ちNDK?」
「……、えっと。」
目の前に来たのは、変なテンションのオジサンだった。
でも、この人、強い。
実力は……分からないけど、サーゼクスさんと並ぶかどうかかな。
変なテンションのオジサンは私の反応にえ~、と落胆するような仕草をする。
「一言目がそれとかもう駄目じゃんキャラ的に何処ここ!?位は言ってくんなきゃさぁ!
これじゃ面白くないよ~。
……まあ、いいか。自己紹介させてもらうけど~…
リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。
長いからリゼヴィムでもオッサンでも何でもいいけどオジサマが良いなぁ!」
「貴方が、私を捕まえたの?」
「無視かよぉ!そうだよぉ!」
もう付き合うだけ疲れる部類だと思って、発言の大半を無視する。
冷静に考える。
ルシファー、ってことは魔王……じゃないよね。
近しい人ってことかな?
「何で、私を?」
「ぶっちゃけちゃうと、面白そうだからってのが理由!ズェピア・エルトナムのご家族さんじゃん?んで元赤龍帝。こんなん利用しない手はないっしょ~。」
「利用って……私を?」
「そだよ。チミを利用して……てのは違うか。」
リゼヴィムはそう言いながら檻の中へと入ってくる。
私に近寄り、目の前で屈んでニヤニヤと見てくる。
正直、気持ち悪い。
本物の悪魔ってこういうのなの?
「その体の中の赤龍帝の因子を使って赤龍帝を増やそうと思ってさぁ!
だから、なってくんね?俺ちゃんの赤龍帝に♪」
「…えっ?」
赤龍帝に、なる?
また……私が?
それはつまり、戦えってこと。
赤龍帝としての力を解放して、戦えと言っている。
「い、嫌です!」
「おーハッキリ言うねぇ。
そういうの折るの好きなんだよねぇ。
でもほら、こういう時ってさぁ~──」
「─まあ、無理矢理よね!」
「っ──!……?」
リゼヴィムは、私に何か綺麗な石を見せる。
何だろうと思う前に、石は独りでに光輝き、私の中へと入り込む。
痛みはない、何かが変化したような感じは……
『殺せ。』
……え?
「あ、ぐぅ……!?」
「効いてきたねぇ。どう?気持ちいい?」
「気持ち、よくなんか……ァ"ァ"!!」
熱い、体が焼けるように熱い。
胸の奥がマグマに溶かされるような感覚だ。
胸を抑え、踞るが、痛みは治まらない。
痛い、痛い!
加えて、脳に何かが聞こえた。
殺せ……そう言っていた。
『殺せ、殺せ、殺せ。』
「いや、いやぁ!!ァ、ア…──」
冷たく、魂に触れるかのような声。
脳に響く声は、殺せとだけ命じてくる。
何を、とは思う暇もない。
必死に抗う。
魔法も使えない私じゃ、ただ意思で堪え忍ぶしかない。
リゼヴィムは、私の苦しむ様をただ見ている。
悪魔のように、嗤いながら。
『殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。』
「ぅ、アが、ハ───」
助けて、誰か、助けて。
怖い、怖いよ。
自分が、自分じゃなくなるような…そんな恐ろしい感覚がする。
内側で、何かが爆発しそうな程に熱い。
「助けてくれるはずの奴等が、君をまだ助けてない。
見捨てられたんじゃね?」
「そ、んな、訳……!」
「だって、そうじゃンよー。
今まで何度も助けてくれたズェピア・エルトナムも!
オーフィスも!誰も助けてくれねぇ!
お前が邪魔だったんだよ、内心!
ひ弱で、手を煩わせるだけのお前がさぁ!」
「やめ、て─」
『そうだ、嘘つきだ。』『嘘をつかれた。』
『虚言だった。』『痛い、辛い、怖い。』
『今も来ない。』『今まで来たのに。』
─任せてください、友達を助けるのは、友達の役目ですから!
そうだ、何で、来てくれない。
私を、助けてくれない。
約束、したのに。
「違うっ!!」
「違う?本当にぃ?チミぃ、じゃあ、約束してたとして、その約束をまだ破ってないって言える?
助けてくれないのに、苦しみ続けるのかぁ?」
『そうだ、楽になろう。』『痛みも、辛さも、苦しみも。』『全部消える。』『自分を守れるようになる。』
自分、を……?
『力だ。』『あの吸血鬼たちも力があったから。』
『好きに出来る。』『力を得よう。』『痛くない。』
『苦しくない。』『辛くない。』
『力、力があればもう、怖くない。』
怖く、ない……
震えることも、ない。
そっ、か……
頭に響く声は、胸にストンとパズルのピースがハマるように来た。
その瞬間、胸の痛みが消えた。
『認めろ。』『己の恨みを。』『人間じゃなくなった。』『人を捨てるはめになった。』『許せない。』
『殺せ。』
「ア、ァ──」
「肯定しろ、その全てを、そうすれば、強くなる。」
「強、さを……?」
ああ、強くなれば守られることも、利用されることも、無くなる。
怖くない日々を、過ごせる。
独りでもいい、笑える。
辛くない、痛くない。
そんなの相手が受けるべきだ。
私は、頭に響く声を───
「─アハ。」
─肯定した。
許されねぇリゼヴィム。
口調は少し違うかもですが、まあほら、悪魔なんてそんなもん。