【完結】 ─計算の果てに何があるか─   作:ロザミア

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どうも、ロザミアです。

ようやくのドライグの心境を聴く回です。
今回は、ドライグ視点


ドライグとフリージア

 

「では、君の感想を聞くとしようか、ドライグ。」

 

そう言って、俺の目の前に居る吸血鬼は静かに佇む。

どうやって入ってきたのかは奴の家族を除いて俺がよく知ってる。

 

『……そうだな、俺のあの娘への心境、虚言なく聞かせるとしよう。』

 

昔、相棒がまだ生まれるより前に俺はとある少女の力となった。

助力とかの意味ではなく、俺の力が、あの少女の力になった。

 

そう、女は『赤龍帝(誰よりも優しい女)』であった。

しかし、俺を宿しながら、俺の力を使わぬと。

闘いに生きるのは御免だと。

 

そう言って、日常を生きると決めた。

 

 

 

 

 

 

俺はある時、闘う事を放棄したこの女…フリージアに憤りを感じた。

 

ドラゴンは、力を見せつける存在であり、力無きものは龍とすら呼ばれない。

何より、白いのとの決着もつけようとしないなど、俺には考えられなかった。

 

そう言った自分勝手の感情に支配されていた俺はフリージアを自らの意思で戦わないならば、その意思を殺し、俺自らがその体で戦うと彼女の意思を飲み込んだ。

 

しかし、結果は惨敗。

しかも白いのに負けたのではなくフリージアの保護者のズェピアという吸血鬼に負けた。

おまけにフリージアが死ぬまで俺は表に出ることは出来なかった。

 

戦いを縛られ、傍観しか出来ない当時の俺は平穏なだけの生温い日常を延々と見ているだけだった。

 

フリージアがミスをする時は誰にも聞かれないのを良いことに大笑いしたし、ズェピアが家族と過ごすのを見て何がいいのか理解はできなかった。

 

更に言えば、何故最強の一角たる無限の龍神 オーフィスがこの吸血鬼の家族となって、仲良く団欒しているのかも分からなかった。

 

オーフィスとグレートレッドは俺達ドラゴンにとって畏怖する存在であり、越えたいと尊敬を抱く程の龍だった。

力こそが全ての龍社会で、この二体は別格だった。

 

その筈の一体が何故?

 

分からない、何故この龍神が吸血鬼に恋心すら抱いているのか。

 

……まあ、それはいい。

 

俺は彼等の日常を見ていく中で、何かが芽生え始めていた。

 

そして、ある時、いつものようにフリージア達の会話を聞いていた時だ。

 

「ねぇ、ズェピア。」

 

「何かな?」

 

「ドラゴンって何で戦いたがるの?」

 

「……ふむ。」

 

いつも通り、彼女が質問して、彼が答える時間。

ネロ・カオスという男が来てからはこの時間も増えた。

オーフィスの相手はよく彼がしてるからだ。

 

「ドラゴン、といってもオーフィスのように戦いに無関心なのもいる。

だが、そうだね、ほとんどのドラゴンは戦いを好むといってもいい。」

 

「うん、ドライグも戦いたがってたしね。」

 

「その結果君は操られていた訳だが。

まあいい。

何故戦いたがるのかという疑問については、こう答えるしかない。

それが龍の世界だと。」

 

「……龍の、世界。」

 

「うむ、基本的に、龍達の世界は弱肉強食。

強き者が生きて、弱き者が死ぬ世界だ。

強大な存在でも、全てと争わないなど不可能である以上、仕方の無い摂理だ。」

 

「戦って勝つことで、自分は生きて、周りにあいつは強いって思わせるって事?力を見せ付ければ大半は寄ってこないから?」

 

「その通り。

だからこそ、アルビオンとドライグの戦いはその弱肉強食に従った戦いというのもあるだろうし、単なる喧嘩というのもあるだろう。」

 

「……でも、二体は龍の中でも強すぎた。」

 

「強すぎる力は破滅を招く。

それが個人ならば尚更の事だ。

故に、彼らは聖書の神に封じられ、君の持つ『赤龍帝の籠手』のような神器となった。」

 

「……そう聞くと、何だか、可哀想。」

 

『……可哀想……だと……?』

 

俺は、迷惑だとか、ふざけるなだとか、そういった罵倒を言われるモノだと思っていた。

当然だろう、俺とて操られれば腸が煮え繰り返る程に腹立たしい筈だ。

それを基本的に俺よりも弱い存在である人間が思わない筈がない。

 

人外の世界で、人間はあまりにも弱い。

 

だというのに、俺を宿すこの女は怒りや恨みよりも先に出たのは哀れみだった。

 

「ほう?何故可哀想と?

君はあの龍に操られたというのに。

怒りは感じないのかね?」

 

「ううん、勿論、何で私が~とかふざけんな~とかはあるよ。

でも、それはドライグ達も同じなんじゃないかなって。

だって、ドライグ達からしたら、いつも通りの生活をしていたら、他人に邪魔された挙げ句いつものように満足に戦えもしない、ご飯も食べれないようになってしまったんだから。

…それは、可哀想だと思うよ。」

 

俺の事を、可哀想だと。

俺のこの感情を、自分の持つ感情と同じなのではと。

 

同じにするなと悪態をつく筈なのに、その時の俺は何故か。

 

『…人間は、分からん。』

 

悪態をつこうとも思えなかったのだ。

俺は、俺を哀れんでいながらも俺に怒りを持っている存在が、分からなかった。

 

「ハハハハ!そうかそうか。

君は、本当に心優しい人間だ。

…ドライグを、籠手から出してあげたいと思っているのかね?」

 

「それはない!

出たら今度は何されるか分からないし……

もしかしたら、食べられるかも知れないじゃん!」

 

『誰がお前のような人間を食うか。

……お前なんぞを食ったら──』

 

変な心配をして、それこそ本気で俺を拒絶していないこの女に俺は──

 

 

『─食ってしまえば、知れなくなるだろう。』

 

─確かに、謝罪と感謝をこの女に向けていたのだ。

 

すまなかったと、そして俺をそこまで真剣に哀れんでくれてありがとうと。

 

強い、怖いと恐れられてきた俺には、その哀れみは、暖かなモノだった。

心優しいからこそ、そう思えたのだろうから。

きっと、これから続く代では思いもしないと確信できるからこそ。

 

俺は、この女の最期までの人生を人知れず見ていこうと決意したのだ。

 

 

─────────────────────

 

 

それから、ずっと見てきた。

俺自身でも驚く程に穏やかな気分で見れたと思う。

 

だが、悪魔共がフリージアを襲った時はどうしてこの場に自分が出れないのかと憤りすら感じた。

そして、吸血鬼が助けたときは安堵した。

 

それほどまでにフリージアという存在に感情移入していたのだ、俺は。

 

そして、魂と繋がっている俺は恐らく吸血鬼よりも先に気付いた。

 

もう長くないのだと。

その時は、何だろうか。

俺でも分からない感情が渦巻いていた。

 

…悲しみ、なのかもしれない。

 

勝手に心を許して、勝手に人生を見守った振りをしてきて、勝手にこうして悲しんで。

これがきっと俺の罰なのだろう。

思えば、こうして声を届ける事が出来ず見ることしか出来ない事が最初から吸血鬼が俺に課した罰だったのだ。

 

最期の死に際に一言すら掛けてやれない。

最期の瞬間を、近くで(遠くで)見ることしか出来ない。

 

苦しかった。

龍たる俺が、人間にここまでの感情を抱くなど無かったからこそ、更に苦しかった。

 

初めての理解者だった女は、もう会うこともない。

怨念としてこの神器に残る事すらあり得ない。

幸福だったと感じていたのを知っているから。

誰よりも一生懸命に生きてきたと自信を持ってるとよく分かっているから。

故に、彼女はここには来ない。

 

もう、見守ることもないのだ。

 

俺は人知れず、神器の中で生まれて初めて涙を流した。

 

そして、更に決意した。

 

俺は、俺を宿してしまった者に、全てを委ねようと。

彼女を見守るしか出来なかった分、これからの者を助けてやろうと。

 

 

そうして俺は、彼女から離れていったのだ。

 

 

──────────────────────

 

 

『……お前は、俺をまだ恨んでいるか?』

 

「いいや。恨みなど、持ってはいない。」

 

『何故だ、お前は俺を恨む権利があるだろう。』

 

「……確かに、君が私の娘に手を出したのは許しがたい事だ。

だがね、私は君を恨みはしない。

恨めないのだよ。」

 

『恨めない、だと?』

 

そう言うズェピアは穏やかだった。

俺を恨むことはあり得ないと言っている。

それこそあり得ないだろう。

恨んでいたからこそ、こいつは俺を封じたのだから。

 

「これは彼女風に言ってしまえばロマンがあるというヤツなのだろうが……。

 

君が居なければ、私があの子と出会う事はあり得なかった。

これは、神ではなく、君が繋いだ縁なのだと、今なら確信して言える。」

 

『……お前は、賢そうに見えて馬鹿なのだな。』

 

「そうかもしれないな。

何せ娘のためならば何でもしようと思えてしまうほどだ。馬鹿なのだろう。

しかし、どうしようもないほどに誇らしい。

君だって、そうではないのか?

君は、見てきたのだろう。

彼女の道程を、そして、その最期を。」

 

『……ああ、あの娘は歴代最弱だ。

そして、歴代で最も心優しかった。

俺は、あの娘よりも綺麗な存在は知らん。

故に、あの娘を、フリージアを見守れた俺は誇らしい。

その最期を、見れたのだから。

最期まで純粋で、優しさを捨てなかった者を見て、どうして恨めようか。』

 

「…うむ、君の感想を聞けて安心した。

私は、去るとしよう。」

 

満足したような顔でズェピアは用事は済んだとこの空間から去ろうとする。

 

『もう行くのか。』

 

「いつまでもここに居たら、どうなるか分からないからね。

……そうだ、別に私の事を君から話してもいい。

変な罪の意識を持つ必要はもうあるまい。」

 

『……一つ聞かせろ。

お前は、何をしようとしている?』

 

俺は、一つ気掛かりだった。

相棒達が気付かないだけで、ズェピアは学園にも教師という形で居た。

それに、堕天使の件も、突如として存在を示し始めた。

 

ここ数十年以上、何も音沙汰も無かったというのに。

 

俺には、嵐の前の静けさのように、ズェピアが何かするのではという不安に近いモノを感じていた。

 

ズェピアは背を見せたまま立ち止まる。

 

「…何をしようとしている、か。

そうだな、いいだろう。

君には答えるとしよう。

それを今の相棒君に伝えるもよし、黙りを決め込むのもよしだ。」

 

『……。』

 

「私は──。」

 

その時、振り向いたズェピアは──

 

 

「──────。」

 

 

 

─見たことも無いほど歪んだ笑みを浮かべていた。

 

そして、答えた直後にこの空間から消えた。

 

「……お前は、何故そのような…?」

 

俺には、疑問だけが残った。

 

 




ドライグはこれからどうするのか。
それはもう少し先の出来事。

次回は続きではなく番外編を予定しています

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