感想が曹操の吹っ切れに関することが多くて草生えました。
では、どうぞ。
ガキン、と金属がぶつかるような音が辺りに響く。
漢服を着た男、曹操は今までの戦いで一番昂った気分だった。
目の前の聖槍をマントを硬化でもさせているのかそれで弾き、黒い人を出し四方から攻撃を仕掛けてくる。
加減をしていると曹操は分かりきっていた。
だが不思議と嫌な気分にはならなかった。
「死角からの攻撃にまだ反応しきれていないな。
君的に丸太でも使って修行してみるといい。」
「っ、余裕そうだな!」
「余裕だとも。
私を誰だと思っているのかな?」
「それも、そうか!
ところで、どうして俺に指導するような真似をする?」
分からなかった。
戦いを始めてからずっと何か至らぬ点があれば指摘して改善案を出してくる目の前の吸血鬼が分からなかった。
いや、これは戦いと言えるのだろうか。
質問に答えるべく吸血鬼は一旦攻撃をやめる。
曹操も聖槍を構え直して息を整える。
「君が前に進もうとしている人間だからだよ、曹操。
私はそのような人間が好きでね。
停滞をするのはいつでも出来る。
前進することは停滞するよりもずっと困難だ。
だが、現に君は新たな答えを得ようと前進している。
故に、私はこうして教えている。」
「……人が好きなんだな、貴方は。」
「大好きだとも。
脆く、儚く、愚かで──
─故に、美しい。
人は今も前へと進んでいる。
停滞を選んだ人外と違い、我らよりも圧倒的に短い命の灯火を、終わる最後まで灯し続ける姿のなんと美しき事か。」
純粋に人を愛している。
この男が何故全面的に三勢力に組していないのかがほんの少しだけ分かった気がする。
「人と、生きたことがあるのか。」
「…それは君の答えと関係があるのかね?」
「分からない。けれど、知りたいんだ。」
「ハハハ、知りたいのならば教えるしかないな。
そうとも、その人間の終わりまで、共に生きてきた。
その生き様を見てきた。
その最期を見てきた。
とても、とても充実していた。
……私が、私で居れたのだよ、あの子との生活は。
いや、あの生活で私を確立できた、が正しいか。」
「……そうか。」
この吸血鬼と暮らしたなんてどんな人間なのかとても気になるところではあるが、そこまで聞くのは野暮だと曹操は判断した。
「…突然の質問すまない。
再開しよう。」
「おや、質問は以上かね?
よろしい。では、そうしよう。」
そうして、終わらせる気があるのかと問いたくなるような撃ち合いを再開する二人を、曹操の仲間である英雄派幹部達はただ見ていた。
「楽しそうね、あの二人。」
「そうだね、何だかマイナスの感情を感じない位には楽しそうだ。
曹操の財布ネタにキレていたとは思えないな。」
「やめないか!!」
あの財布事情への煽りが壺にはまったのか笑いを堪えるジークフリートにゲオルグは叱責する。
……いや、ゲオルグも堪えているのは誰が見ても明らかだった。
ジャンヌはそれを見て呆れ、視線を撃ち合っている二人に戻す。
ヘラクレスはジャンヌと同じく二人を見ながら疑問を仲間へと投げ掛ける。
「なあ、変な質問かもだけどよ。
俺達が今まで通りの方針で人外共を倒して、それでいいのか?」
「それはどういうことよ?」
「いやよぉ、俺達が仮にあの吸血鬼みたいな大物を倒せても、誰が称賛してくれんのかって、思ってな。」
「…誰かに讃えられてこそ、英雄か。
俺達は大きな間違いを起こしそうになったのか……。」
幹部全員は暗い顔になる。
当然だ、正解だと思っていたのが大きな間違いで、それが英雄ではなく外道に成り下がる可能性があったのだから。
「ぐぁっ!」
「終わりかね?」
「ぐっ……く、まだだ!」
腹に蹴りを入れられ吹き飛ばされても尚立ち上がる曹操に、ズェピアは歓喜していた。
これだ。これこそが人だと。
強大なモノを前にして尚挑み続ける。
それはずっと昔から続いてきた人間の軌跡。
段々と腐っていくだけの人外にはないもの。
「…何故禁手をしないのか、聞いても?」
その当然の質問に、曹操は
「今、それをしたら、俺は駄目なんだ。
ただの槍同然のコレでなきゃ、答えが見つからない!
ただ強いだけの力に頼っても、溺れるだけだと、今分かった!」
「……ふむ、なんだ、理解しているではないか。」
「何……?」
「力に溺れて生きるのは簡単だ。
何せ、それは逃げなのだから。
だが、君は今抗った。
ただの強い力から何か意味を持ち得る力へと変わる可能性へと繋げた。
その抗う心さえあれば、君は、君達は間違いはしない。」
「抗う、心……。
だ、だが、俺にはまだ答えが出ない。」
戸惑うような顔で、そう言う曹操にズェピアは優しい笑みを浮かべる。
「答えなどそうすぐに出るものではない。
その答えは君の生き様によって出るモノだ。
人は、我々とは違い酷く短い限りある命だ。
故にこそ、人は抗い、微かな幸福を口授し、次へ繋げていく。
間違いもあれば、正解もある。
君の生き様も同様だ、曹操。」
「俺の……生き様……。
……そうか、焦っても仕方がないと、貴方はそう言うんだな。」
「さて、君の言葉の捉え方に任せるとも。
だが、その捉えた意味を、仲間と共有し、今後の課題を決めるといい。
英雄を、諦めきれないのだろう?」
「……──」
曹操は、自分を信じ、自分についてきてくれた仲間を見る。
皆暗い顔だ。
間違いに気づき、これからどうすればいいのかと、分からないでいる顔だった。
目を閉じて、開く。
覚悟を決めたような瞳を、ズェピアは見た。
「─ああ、俺は、俺達は英雄になる。なりたいんだ。
けど、少しやり方を変えて、皆と話し合うとする。
……ありがとう、俺は危うく、屑に成り下がる所だった。」
「……いや、私も、いいものを見た。
君達が良き道を歩むことを期待しよう。」
聖槍を消し、仲間の方へと歩いていく曹操を、ズェピアは見送り、家族の下へ向かう。
ここからは、自分が関わる物語ではないと。
彼らが紡ぐ物語だと。
「……ズェピア、良かったの?」
「良かったとも。
久々に面白い人間に会えた。」
「…あの娘ではないがな。」
「それは承知してるとも。
だが、これでこちらには関わってはこまい。
……そろそろだ。」
「ようやく始めるのか。」
ネロの問いに、頷く事で返事をするズェピア。
ネロはそれにこれからが楽しみだと笑みを浮かべる。
しかし、オーフィスは暗くなる。
「どうかしたのかねオーフィス。」
「ズェピアは、辛くない?」
「全く。」
「何で?ズェピアは親友を裏切るのに、どうして辛くない?苦しくない?」
オーフィスの疑問に、何だか今さらだけど重要な質問だなと困ったように苦笑し、オーフィスの前へとしゃがんで頭を撫でる。
「家族だからだよ。
君が家族だから、他の誰かを裏切っても、辛さは感じない。
つくづくおかしな男だと自嘲してしまいそうなものだがね。コレばかりは変えられない。
家族に勝る宝はないのだよ、オーフィス。」
「……ん。」
「納得してくれたかな?」
「…ちょっとは。」
「そうかね。
では、行くとしよう。
……?同胞よ、どうしたのかね?」
立ち上がったズェピアの肩にネロの手が置かれる。
ネロはイイ笑顔でズェピアに死刑宣告をする。
「では、貴様の財布、尽くを使いきろう!」
「……あ、食べ放題がイイ。」
「キ、キキ……」
ズェピアは、血の涙を流した。
それは自分の財布が空になることに嘆いているのか、それともうっかりとチャンスを与えた自分に怒りを抱いているのかは分からない。
彼にしか分からない。
「キキキキキキ───」
「狂ったところで貴様が奢るのは変わらない。」
「じゃ、ズェピア、行く。」
「イヤダヤメテヨシテ行キタクナイィィィィィィ!」
両腕をガッシリと捕まれ、引き摺られていくズェピアは、今日一番の叫びをあげる。
逃れられる定め。
こんな風に若干コメディ感があるときは、隠れシリアス(隠れてない)があります。
英雄派の今後についてですが、それはこの話の最後にチラッと出るかもです