【完結】 ─計算の果てに何があるか─   作:ロザミア

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最終章であり、序章は彼らの足音より始まりを迎えた。

楽しみで仕方ない。



ワラキアの夜

廊下を走る。

彼が居るであろう部屋へと急ぐ。

 

「サーゼクス、さっきから奴が何処にいるか分かってるかのようだが……?」

 

「何となくだけどね。

でも、合ってる筈だよ。」

 

「何となくなのか……。」

 

呆れながらもついてきてくれる友に内心感謝する。

 

……奥の扉が見えてきた。

扉の前に着き、アジュカとセラフォルーと僕は顔を見合わせて頷き、ゆっくりと扉を開ける。

 

そして、見えたのは──

 

 

 

「やあ、諸君。

この即席舞台によく来てくれたね。」

 

「館ごと吹き飛ばすかと思ったが、予想以上に律儀な奴等だ。」

 

「……。」

 

僕達を支えてくれていた、友だった。

ズェピアはいつものような笑みを張り付けて、ネロもまたいつものようにくつくつと笑う。

オーフィスと思わしき少女だけは、ズェピアにくっついて無表情でこちらを見つめている。

 

「……本当に、君なんだね。」

 

「そうだとも、サーゼクス。

いやはや、ようやく気付いてくれたか。」

 

僕は、拳を強く握る。

 

「…何故、旧悪魔達を?」

 

「使い古し、それももう使えない大道具をいつまでも舞台裏に置いておくのはどうかと思ってね。

よかったじゃないか、もう襲撃は起こらないよ。

疑問は解決したかね、アジュカ・ベルゼブブ。」

 

アジュカは舌打ちをして黙る。

 

「仲間って言うのは、嘘だったの?ズーちゃん。」

 

「その呼び名は固定なのかね?まあ、もうツッコミはないがね。

仲間であったとも。

だが、私には私の目的がある。

故に、裏切り、君達の前に居る。」

 

セラフォルーはその言葉を聞いて、俯いてしまった。

やはり、堪えているのだろう。

 

「君の目的……グレートレッドの打倒かい?」

 

「可愛い娘の頼みだ。

断れまいよ。」

 

「だが、君とネロ、オーフィスでグレートレッドを倒せるのかい?」

 

「倒せる。確実に(・・・)。」

 

「根拠があっての台詞だろうな、それは。」

 

「ハハハ、君よりも計算が得意な私にそれを言うのかね。

勝てる、ああ勝てるとも。

(アトラス)が造り上げた物は、最強であらねばならない。

それをただ証明するだけのこと。

私が造り出した、神滅具さえも越える力を持つ兵器を、奴にぶつけるだけだ。」

 

「神滅具を、越える……!?」

 

確かに、彼の日記や発言から地獄を生み出す兵器だとか神滅具に相当するものとは分かっていたが越えるというのは想定外だ。

それはつまり、この世界に存在する聖書の神が創った神器全てを上回っているということだ。

 

神さえ滅ぼす可能性を秘めた神器を越えるのならば、それはいったいどれ程の強さを秘めているのだろう。

 

「私は、ずっと悩んでいた。

例え、『黒い銃身(ブラックバレル)』が強力といえどかの龍の一撃に耐えられるのかと。

寧ろ、相対するだけでも死にかねない存在だ。

私の結論は、魂の強化だった。

魂が強くなればその外側である肉体も強くなる。

だから皆殺しにして、魂を喰らった。」

 

何処までも理性的に、何処までも狂ったように彼は告げる。

ただそれだけだと。

害虫駆除をした者が、その虫に対して申し訳無さのあまりに泣いてしまうことが無いように。

彼にとってもまた旧悪魔は害虫その物だった。

 

「だからといって、その行為が許される訳じゃない。」

 

「ハハハ、そうだろうとも!

許されはしない、そんな事は分かりきっている。

だが、それがどうかしたのかね?

私は、私達の目的のためにあらゆる物を利用する。

それは友である君達もまた同じだ。」

 

「……許せねぇ…」

 

僕達は一斉に怒りに身を震わせながら言葉を発したイッセー君を見る。

彼はいつの間にか、『赤龍帝の籠手』を出していて、握りしめた拳をズェピアへと向けていた。

 

「ただ、そんな目的の為だけに友達だった魔王様達を裏切って、旧悪魔の連中を食い物にするなんて、許せねぇ!」

 

それを聞いたズェピアは、歓喜するでもなく、妙に冷めた表情を浮かべていた。

 

「……まあ、言われる気はしていたがね。

逆に聞こうか、君は自分こそが正義と思ってるのか?」

 

「当たり前だろ!

あんたが悪いのは皆分かってる!」

 

「ああ、私が悪いとも。

悪役は私だとも。

だが、それは『今回』に限った話だ。」

 

「……何が言いたいんだよ。」

 

「君達が、いつから害悪でないと思っていたのか、という事を言いたいんだよ、兵藤一誠君。」

 

「俺達が、害悪……?」

 

僕達魔王は…その言葉に何も言えなかった。

違うだなんて、言える訳無い。

今の悪魔社会の現状を知るがゆえに、何も言えないのだ。

 

「悪魔の駒、聖剣計画、神器の研究、危険の事前排除……他にもあるが、君達にとって聞き覚えがあるのはこれくらいだろう。

これ全てが、人間に対して人外共が勝手にしてきたことだ。

種の繁栄、神の為、神器が興味深い、世界の危険分子になりかねないから……勝手にも程がある。

自らの価値観、考えを押し付け、あまつさえそれに歯向かえばはぐれ悪魔のような理不尽が待っている。

それが正しいと、何故言えるのか?」

 

「それは……」

 

答えられずに、悔しげに顔を俯かせるイッセー君に、僕は申し訳無い気持ちで一杯だった。

そうだ、どう足掻いても僕らは人間にとって害ある生き物でしかない。

それこそが事実なんだ。

 

「答えられないのなら、それが君の限界だ。」

 

「ズェピア、貴方は自分のしてることが正しいと思ってるのかしら?」

 

「正しい。

でなければこのような行動に出るものか。

私が、私の意思を肯定できなくてどうする。」

 

リアスは、その答えを聞き、一瞬悲しそうに目を伏せたが、すぐに覚悟を決めた顔をして彼に向き合う。

 

「…そう……おじ様…今まで、ありがとうございました。」

 

「おや、敵の私にもその呼び名を使ってくれるのかね。」

 

「いいえ、『もう』使わないわ。」

 

「そうかね。

……もういいだろう、頃合いだ。

どのみち、こうして道を違えた以上は我々は敵だ。

ならば、戦って終わらせるしかあるまいよ。」

 

どこか楽しそうに、彼は笑う。

 

「話は終わりか。」

 

「申し訳無い、最後くらいはこうして話しておくのも悪くはないと思ってね。」

 

「それによって貴様の意思が揺るがなければ構わんがな。

では、さっさと始めるがいい。」

 

「…貴方には助けられてばかりだ。」

 

「貴様は私の主だ。

忘れたわけではあるまい。」

 

「それも、そうか。

うむ、始めるとしよう、夜を。

私達の夜、始点であり、終点を。」

 

突如、目映い光が辺りを包み始める。

いったい何がと思えば、後ろには何かの術式があった。

あれが作動したのだろう。

 

「一体、いつから……アジュカが気付きもしないだなんて!」

 

「君達に対する手段を、私が有していないとでも?

なに、何てことはないよサーゼクス。

感知されないようにしただけの事だ。」

 

「高レベルな事をしてると分かっていて何てことはないとは、相も変わらず苛立つ奴だ!」

 

「何を作動させたの、ズェピア・エルトナム!」

 

「─部長、体がっ!」

 

リアスの眷属の言葉を聞き、皆自分の体を見始める。

すると、体が透けてきているのが分かり、焦燥感に駆られる。

 

一刻も早く、あの術式を壊さねばと、魔力で強化した体で接近し、滅びの魔力を手から放つ──

 

 

「おっと、駄目じゃないか、舞台装置を壊そうとする等君らしくもない。

どのみち、もう逃げ場はない。

私達の世界は、これより広がっていくのだから!」

 

─放とうとして、彼が伸ばした透明な糸のような物が腕に刺さり、滅びの魔力が僕の意思に逆らって消える。

 

「ズェピア──!!」

 

「キヒ、キヒハ、ハハ、ハハハハ!!

ソウダ、ソノ顔ダ!

焦燥スル顔、恐怖スル顔、泣キ叫ブ顔ガ私ヲヨリ楽シマセル!」

 

その血溜まりのような目を開き、狂ったように笑う彼に僕は絶句する。

次の瞬間には僕は腹を蹴られてリアス達の方へと戻される。

 

「ぐっう!?ズェピア、君は……!」

 

「大丈夫、サーゼクスちゃん!?

うっ……もう、体が……」

 

「万事休すとはこの事か……」

 

「貴方達……!!」

 

「くっそ……こんなところで、終わってたまるかよ……!」

 

体が、完全に消える瞬間──

 

 

「─さぁ、始まるよサーゼクス。

君の『理想』を、私に示したまえ。」

 

「──。」

 

 

そう言ったのが聞こえて、僕の意識は闇へ落ちた。

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

その異常は、世界の裏に住まう人外達に即座に伝わった。

 

北欧等各種神話にも当然、伝わっている。

 

「オーディン様、冥界を中心に結界が侵食しており、このままでは世界全体が包まれてしまうと……」

 

「……やりおったか、あの小僧め。

儂らも迎撃準備だけでもしておくかの。」

 

北欧の主神 オーディンは唸るような声をあげ、どこかを睨むような形相で、その場で黙り混んでしまった。

 

何が起こるのか、分かっていたのかどうか。

それは老いた主神のみが知る。

 

 

 

 

 

 

「─あ"ぁ?サーゼクス達があの結界に呑まれただぁ!?」

 

『うん、嘘じゃないよぉ。』

 

堕天使総督 アザゼルは通信の相手、ファルビウム・アスモデウスに怒鳴るような声をあげる。

全てを聞かされた彼は露骨に舌打ちをする。

 

「チッ、んで、俺に連絡してきたのは何でだ?」

 

『僕達と同じくらいぎとぎとに汚れた総督さんに無茶な仕事をしてほしくてねー。』

 

「喧嘩売ってるなら切るぞ。」

 

『まあまあ、話は聞いてよ。

君の育てたっていう白龍皇君をさ、呼び戻して欲しいんだよね。』

 

「呼び戻せたぁ……マジでムズい事頼みやがる。

何でヴァーリを呼ぶんだよ?」

 

『彼が居ないと結構キツいかもしれないからさ。

……ていう言葉は置いといて~まあ、一応の準備だよ~。』

 

「……分かった、やるだけやるが、後で聞かせろよな。切るぞ。」

 

『はいはーい。』

 

「……ハァ……ったく、ほんと世話かかるぜ。

……にしても、あいつも裏切るたぁな。」

 

通信を切り、己の側近に仕事を押し付けて飛んでいく総督に、側近はまたかと呆れながらも仕事に取り組むのであった。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

舞台は始まった。

タタリは広がっていく。

俺はようやく黒幕らしくやれる。

 

夜の街を見下ろし、笑みを浮かべる。

 

「……ズェピア、ここが、タタリ?」

 

「その通り、この世界こそが最後の舞台だ。

情報の書き換え、あり得ぬ残像、あり得た日々を再現するのがこの世界。

言うなれば、舞台を作り上げる術式だ。」

 

「貴様のいうその術式のほんの一部がこの世界なだけだろう。

貴様は、ここだからこそ強く在れるのだからな。」

 

こらそこ、言わないお約束。

余計な事を言うんじゃないよまったく。

 

……その通り、俺は今まで全力を出さなかったんじゃない。

出せなかった。

それこそが俺の枷であり、誓いでもあった。

 

……この世界で再現できぬものはあまりない。

 

だが、駄目だ。

■■を再現するのだけは俺が出来ない。

 

 

「さあ、まずは序章だ。

どうか思い出してくれたまえ。

君の日々で、偽物の日々を塗り潰したまえ。」

 

俺の敵は、お前しかいないんだからさ。

 

これくらいの試練は乗り越えてくれよ。

 

サーゼクス?

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

不透明な世界だ。

 

最初に来たとき、そう思った。

だが、これだとすぐに『異物』として排除されてしまうだろうと本能的に分かった。

 

変えなければ。

 

「──止めなくては。」

 

……キャラに引っ張られてしまうのは、仕方のない事か。




舞台は出来た。
さて、今更ながら面接だ。
役者に相応しいかどうかテストといこうじゃないか。

……しかし、この心に穴が空いたような感覚はなんだろうか?

分からない。

…本当に?

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