【完結】 ─計算の果てに何があるか─   作:ロザミア

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『私の出来ること』

暗い空間、浮いているのか、落ちているのか何百年経っても未だに分からない空間で、私は『彼』と居た。

あの時保護?されて、私は『彼』とずっと二人でこの空間に居た。

 

そんな『彼』が、私に頼み事をしてきた。

 

『私の代わりに、あの現象を解決してきてくれないか。』

 

(何故?私が行かなくても、貴方が行けばすぐに終わるはずだ。)

 

『私が行けば、確実に世界は混沌と化すだろう。

それは避けたい。

だが、私はこの現象を解決したい。』

 

(……そこで、私の出番ということですね。

分かりました、非力な身ではありますが、やるだけやってみます。)

 

『……すまんな。』

 

それはどれに対しての謝罪なのか。

私を行かせることに対しての謝罪なのか。

私の未来を見据えた上での謝罪なのか。

それとも……

 

『では、頼む。

私も、最初だけは干渉して手助けしよう。

何度もやってはバレてしまう。』

 

(貴方は、世界のために私を送るのですね。)

 

『無論だ、あの現象を放置すれば世界があれに呑まれる。

そうすれば、何が起こるのか……。

それだけが怖くて、君を送る。』

 

(貴方でも、怖いものがあるのですね。)

 

『私とて生物の枠組みからは外れられぬ身。

どうして先の見えぬ暗闇を鼻から笑う事が出来ようか。』

 

そう言う彼は、言葉通りに目が不安そうだった。

私は自然と笑みが出た。

何時ぶりに笑ったのか、覚えてはいない。

思えば、私も性格というか言葉遣いもこの日々で知らぬ間に変わった。

 

……うん、私のためにも解決しようという決意は出来た。

どこまでいっても弱い私でも、あの世界なら多少は通じるかもしれない。

 

(では、行きますね。)

 

『ああ、どうかよい最期を。』

 

最期はもう味わったのに、変な気分だ。

また終わりを迎えるなんて。

 

そうして、私は暗い空間から、『あの人』のいる場所へと向かった。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「おはよう、シオンさん。」

 

「おはようございます、一誠。」

 

「今日は大忙しだな……一緒に頑張ろうぜ!」

 

「ええ。」

 

眠そうな様子を見せないシオンさん。

恐らく、あの後すぐに寝て俺よりも早くに起きたんだろう。

 

俺達は朝食を食べてすぐに家を出る。

何せ、今日は都合のいいことに学校は休み。

 

部長の家に向かいながら会話をする。

 

「結局、シオンさんの目的は俺達と同じでいいんだよな?」

 

「貴方の目的はズェピアを倒すことですが、私は違います。」

 

「えっ。」

 

「私の目的はズェピアを『止める』事です。」

 

「……どう違うんだ?」

 

「深く考えなくていい。

それよりも、着いたようですよ。

中々に大きな家だ。」

 

「……うーん、最近ゴタゴタしてて忘れてたけど部長は貴族だから、家もデカいよな。」

 

二人して、デカいと感想を述べる。

城とかじゃないが、周りの家より数段デカい。

 

「……それで、一誠。

一応のために聞いておきますが、貴方はどういった口実で家に入れてもらう気で?」

 

「一応考えちゃいる。

部長は部員には甘いんだ。

そこに付け入るようで心が苦しいが……俺が同級生から逃げてるってことにして入れてもらう。」

 

「なるほど、一部高校生ではありがちな虐めを使うと。

……なら、少し怪我しておいた方が信憑性も高くないでしょうか。」

 

「あー、それもそうか……」

 

「なんなら、今からやりますか?」

 

「ここでかよ、本末転倒だろ。」

 

俺達、抜けてるなぁ……。

あ、そうだ。

 

「シオンさん、何か尖ったもんってありますか?」

 

「小型のナイフなら……」

 

「あるんだ……貸してくれます?」

 

「どうぞ。」

 

すんなりと貸してくれたし。

まあ、ちょっと痛むが……

 

俺は、片腕にナイフをあてがい、それを振るう。

服ごと皮膚は切れて、そこから血が流れる。

 

「っ……よし、これでどうだ!」

 

「周りに人がいなくてよかったですね。

それなら襲われたと信じてくれるでしょう。

本当に身内に甘いのならですが。」

 

「大丈夫だって、まあ見てな(笑)」

 

「一瞬で信用できなくなりました。」

 

「えぇ……。」

そんなノリで俺はインターホンを押す。

すると、声が聞こえてくる。

よし、演技、演技……

 

『どちら様でしょうか。』

 

「ひ、兵藤一誠です!」

 

『い、イッセー?ちょ、ちょっと待っててちょうだい!』

 

ブツッという音がしたので部長か家の人が来た瞬間の台詞を考えておこう。

どうしようか……

 

ガチャリ、という音と共に扉が開く。

 

「イッセー、家に何か用……!?どうしたの、その腕は!」

 

「ぶ、部長……助けてください!

知らない奴が俺を襲い掛かってきて……」

 

「……貴女が、助けてくれたの?」

 

「腕に切られた傷があり、酷く怯えた様子でしたので。

それより、傷の手当てをしましょう。」

 

「そ、そうね……。」

 

シオンさんも、ゴリ押してくれたからか部長は信じてくれたようで入れてくれた。

リビングで、座らされて少し待っててと言われたのでじっとすることに。

 

「……あー…すげぇ罪悪感だな。」

 

「そうですね、しかし、もうやったことです。

あまり引き摺らないように。」

 

「そう、だな。」

 

そうだ、こんなことで一々沈んでたらズェピア達との戦いで負けちまう!

 

「戻ってきた瞬間に、彼女を元に戻します。

騙しうちのようで私も心が痛みますが、必要経費だ。」

 

「……ずっと嘘を見るより、マシだと思う。」

 

「…ですね。」

 

心苦しいけど、やるしかない。

そんでもって、この悪夢を終わらせるんだ。

 

しばらくして、扉が開き、部長が入ってくる。

 

「イッセー、待たせてごめんなさ──」

 

「ふっ!」

 

シオンさんは即座に動き、俺にも刺した糸のような物を首筋へと刺す。

 

「っ!貴女、一体──ぁあっ!?」

 

「……申し訳ありません、こうする方が早いと思ったので。」

 

「ぅ、ぁぁ……!」

 

部長が、その場で頭を抑えて踞る。

 

「部長、大丈夫ですか!」

 

多分、俺と同じような状態なんだろう。

さっき演技してた身としては白々しい気もするが、あれは仕方無かったから……。

 

「い、イッセー……」

 

「部長、俺です!眷属のイッセーです!」

 

「…ええ、ごめんなさい、思い出したわ。」

 

部長は妙に冷静な様子で立ち上がる。

 

「部長…本当に大丈夫ですか?」

 

「大丈夫よ、私は…王なんだからずっと調子が悪いといけないわ。」

 

「あ、はい。」

 

「……そりゃあ確かに何かあるごとに驚いたり何だったりしてたけども、その反応は酷くない?」

 

「いや、いやいや……大丈夫です!

俺は部長を信じてます!」

 

「これが終わったらお仕置きね。」

 

「マジ震えてきやがった……怖いです。」

 

「……あの。」

 

『あっ。』

 

「……頑張ってくださいね、さようなら。」

 

「待ってくれ、待ってくれ!」

 

「私達が悪かったわ!だから行かないでちょうだい!」

 

二人でシオンさんに謝罪する。

 

やばい、部長との会話で忘れていた!

これは明らかに謝罪案件、土下座も惜しまない!

 

「いえ、いいんですよ?

私は別に。

私はもう居ないような存在ですし、ズェピアを止めるのも元々難しそうでしたし、楽ができるからいい。

どうぞ二人はこの家で良い雰囲気出しながら仲良くしてればいいじゃないですか。

私の事は、どうぞ、御構い無く!」

 

消えてる!目からハイライト消えてる!

仕事してないぞこれ!

 

その後、必死の謝罪にシオンさんは次やったらもう知らないと拗ね気味に許してくれた。

可愛かった。

 

 

 

 

 

 

全てを話した後、部長は納得してくれたのか魔王様が来るまでこの家で待つことに。

父さんと母さんには友人の家で泊まり込みの勉強会と言っておいた。

 

俺は難しい話はよく分からんのでシオンさんと部長の会話を聞いている。

 

「結局、私には貴女が何者か分からないのだけれど。

このタタリの中でしか生きられない存在と考えればいいの?」

 

「そうであり、そうでないといったところですね。

私はズェピア・エルトナムを止めるために来た者であり、元からタタリの住民ではない。

そして、私のこの体は本来の私の体ではありません。」

 

え、じゃあシオンさんの体は借り物みたいなもんなのか。

幽霊か何かなのか……?

 

「実体を持てない存在なの?」

 

「そうなります。」

 

「なら、その体になった方法で元の姿になれば……」

 

「それはいけません。

それをすれば、私達は確実に詰みます。」

 

「それはどうして?」

 

「『私』は彼に対しての切り札になり得る。

それまで、この姿で居なければ、最悪な事態が訪れたときの対処が難しくなる。」

 

「最悪な、事態……?

それはタタリが世界を包み込むこと?」

 

「いいえ。

……すみませんが、言えません。

あまり、言いたくはない。」

 

「……そう。

なら、言いたくなったときに言ってくれればいいわ。

それに、貴女が味方なら心強いし。

よろしくね、シオン。」

 

「ええ、タタリの中だけでの協力ですが、よろしく頼みます、リアス。」

 

微笑んで握手をする二人に、俺はよかったと安堵した。

何せ、部長は最初警戒心MAXだったからな。

俺も説明したんだが、俺自体シオンさんをあまり知らないから疑いは深まるばかりで、シオンさん自身から説明してくれたのだ。

 

その後、シオンさんは紅茶を飲む。

 

「……紅茶。」

 

「紅茶がどうかしたのかしら?」

 

「……いえ、少し、思い出していただけです。」

 

「…それは、ズェピアとの思い出?」

 

「…。」

 

部長の問いに、黙りこむ。

多分、肯定なんだろう。

 

「私は弱いから、だから、今頑張らなきゃ。」

 

「…そう。」

 

「……。」

 

俺は、何も言えない。

彼女をよく知らないから。

何処か嘲笑するような彼女に、俺は弱くないなんて、言えなかった。

 

 

だって、その時のシオンさんは本当に自分の弱さを悔いるような顔をしていたから。

いつかの自分の無力にうちひしがれる俺に似ていたから。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

「……行くのかね?」

 

「いつ出るのかの判断を任せたのは貴様だ、タタリ。

どれ程に楽しめるかは知らんが、何、一度限りの生だ。

存分に楽しもうと思ってな。」

 

クツクツと、彼はいつものように笑う。

楽しそうに、本当に楽しそうに笑うのだ。

私も、それにつられて笑う。

 

「…もし私が死ねば、次は貴様だ。」

 

「元より、黒幕たる私が出なければ物語は終わりにならない。

ならば、華々しく舞台にあがるのが常識というものだ。」

 

お互い、承知の上だ。

思えば、彼にはずっと助けられてきた。

あの子を失ってからは、それを埋めるかのように接してくれた彼に、私とオーフィスは感謝しかない。

 

先程まで黙っていたオーフィスが、口を開く。

 

「カオス、勝つ?」

 

「無論。貴様を遺して死ねば何があるか分かった、ものではないからな。

だが、仮に私が死ねば……その時は頼む。」

 

「……ん、任せて。」

 

「ふ、良い返事だ。

……ではな。」

 

「ああ。

……良き舞台を、偉大なる先達者。」

 

「さて、私は喰らうだけの獣。

舞台は荒れに荒れるだろうよ。」

 

彼の体が、地面に溶ける。

……気配は、この周辺からは消えた。

 

「……ズェピア、心配?我は心配。」

 

「ハハハ、そうかね?

私は彼が負けるとは到底思えないよ。

私達は私達の舞台を、彼は彼の舞台を造り上げるだけの事。」

 

「……たまに、ズェピアの言葉は分からない。」

 

「全てが分かっては、監督として失格だからね。」

 

私は、私のやることをやろう。




彼は『混沌』だ。

だが、あの世界での『混沌』とは違う部分がある。

それは判明するまでのお楽しみ──

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